BtoB マーケティング インタビュー vol.1

横河電機株式会社 常務執行役員 兼 マーケティング本部長 阿部 剛士 氏

2018/08/09 (  木 )

BtoB マーケティング インタビュー vol.1

横河電機株式会社
常務執行役員 兼 マーケティング本部長阿部 剛士 氏

 

・BtoBにおいても顧客の購買行動は劇的に変化している

・R&D、新事業開発、M&Aもすべては
 マーケティングに必要なアセット

・マーケティングカンパニーを目指す

横河電機株式会社  常務執行役員 兼 マーケティング本部長
阿部 剛士 氏

海外売上比率が7割近くを占めるグローバル企業、横河電機株式会社。かつてない勢いで同社の変革を牽引する常務執行役員 兼 マーケティング本部長 阿部剛士氏に、これまでのキャリア、日本の製造業を取り巻くビジネス環境の変化、マーケティングアセットへの考え方などについて伺いました。

 


 

これまでのキャリアと横河電機への参画

 

阿部様には、昨年弊社で開催致しましたBtoBマーケティングフォーラム2017にて、講演をいただき、誠にありがとうございました。まずは、前回の講演では触れていなかった阿部様自身のこれまでのご経験について教えていただけますか?

 

阿部:1985年にインテルジャパン株式会社(現インテル株式会社)に新卒で入社し、はじめの10年間はフィールドエンジニア、つまり技術職でした。10年たったころ、インテルでは日本の採用キャンペーンの一環で、「インテル、入ってる?」が話題になりました。皆さんも一度は聞いたことがあるかと思います。その時、ブランディングって面白いなと思い、当時の社長に「マーケティングに行きたい」と直談判しました。すると、3か月間、アメリカの広報室で勉強してくるように命じられ、3か月後に日本に帰ってきたら、いきなり広報室長だったんです(笑)。

それは驚きますよね!

阿部:正直驚きました。普通の広報マンから始めるつもりでしたが、いきなり広報室長だったので。今考えても本当にすごい会社だったなと思います。そして10年間、セルサイドと言われるブランディングやマーケティング全般を担当した後、バイサイドである製造技術本部を統括することになり、その後10年間に渡って、バイサイド側でキャリアを積みました。当初からできれば製造業のセルサイドとバイサイドを共に経験したいと考えていましたが、実際に実現できたことは私にとって非常に良い経験になりました。

そしてご縁があって、弊社の西島(横河電機株式会社 代表取締役社長 西島剛志氏)と会う機会があり、西島の「会社を変えたい」という思いとマーケティングに力を入れていくという考えに共感して、入社することに決めました。

 

エクスポネンシャル(指数関数的)な変化にどう立ち向かうべきか?

 

西島社長の「会社を変えたい」というのは、御社を取り巻くビジネス環境の変化への強い危機感の表れであるかと思います。阿部様は、昨今の製造業を取り巻くビジネス環境の変化をどのように考えていらっしゃいますか?

 

阿部:産業革命の歴史から振りかえってみると、第1次産業革命が起こったのが18世紀後半、これは、手工業からの機械化へ変化した時代です。第2次産業革命は19世紀末で、電気・電力の時代に、第3次産業革命は20世紀末で、コンピューター・通信が普及し、世界がグローバル化しました。そして今、第4次産業革命に入ろうとしています。この第4次産業革命が過去3つの産業革命と大きく異なる点が一つあります。それは「時間」です。約約100年ごとに起きていたこれまでの産業革命とは、スピード感が全く違うのです。

変化という点でもそのスピードはますます加速しています。その中でも特に気を付けなければいけないのが、エクスポネンシャル(指数関数的)な変化です。エクスポネンシャルな変化は、最初は下のほうを這うので、誰も気づきません。ところがある日、突然浮上してきます。出てきたら最後です。一気に上に突き抜けて、そのときにはもう遅い。

製造業の分野ですと、例えば3Dプリンターや産業用ロボット、ドローン、バイオといった、さまざまなテクノロジーの処理スピードやコストパフォーマンスは日々飛躍的に向上するなど、重要なテクノロジーは、エクスポネンシャルに変化しています。

 

エクスポネンシャルな変化が起きている要因はどのようなものでしょうか。

 

阿部:一つは、世の中がデジタルエコノミーに移ってきたためでしょう。製品の情報を消費者自らが容易に収集できるようになり、部品もネットで買う時代になっていきます。驚かれるかもしれませんが、これは決してBtoCに限った話ではなく、BtoBにおいても今まさに起きていることです。 ある日、ある部品の調子がおかしいと気付き、担当者はその部品の型番を見てネットで検索します。すると、さまざまなメーカーのWebサイトが出てきます。Webサイトでそれぞれの仕様書を見て、比較検討をして購入ボタンをクリックすれば、購入完了です。もちろんこの購入プロセスの中には、人が介在する余地はありません。BtoBにおいても顧客の購買行動は劇的に変化しているのです。

 

 

この変化に企業として立ち向かうためには、モノづくりからコトづくりへの転換が求められているということでしょうか。

 

阿部:そうですね。ただ、よく言われるようなモノづくりからコトづくりだけではなく、顧客の問題解決・価値提供につながる「価値づくり」、そしてその先にある「顧客購買体験づくり」が求められていると思います。自社にとっての顧客に対して購買体験をどのように演出、創出するかがBtoB企業でもこれからは重要になってくるはずです。

だからこそ企業経営の中でマーケティングの存在意義は、ますます大きくなってくるでしょう。加えて、マーケティングも変わっていかなければいけません。マーケティングは末尾に「ing」がついている。これにはきっと意味があると私は思っています。フィリップ・コトラー先生が提唱してきたマーケティング1.0、2.0、3.0、そして4.0のように、マーケティングも時代や環境と共に変わっていく必要があるのではないでしょうか。

 

すべてはマーケティングに必要なアセット

 

マーケティングが時代や環境と共に変わっていく必要がある中で、阿部様は横河電機に参画されたのち、どのような取り組みから始められましたか。

 

阿部:まず、組織体制の構築から着手しました。現在、私が統括するマーケティング本部では、マーケット・インテリジェンス、マーケティング・オートメーション、コミュニケーションやブランディングといった従来のマーケティング機能に加え、中長期経営計画立案、R&D、新事業開発、工業デザイン、M&A(含むアライアンス)や最近新たに加わった渉外など計10もの主要機能を傘下に持っています。

 

 

特殊な組織体制ですね。どのように機能させているのでしょうか。

 

阿部:そうですね。我々も特殊な組織体制であると認識しております。特に横河電機のような歴史の長い日本企業でこのような組織体制を敷いている企業は、私もまだ聞いたことがありません。しかし、これらすべてマーケティングにとって必要なアセット(資産)であると私は考えています。現在、これらの機能を同じグループ内で有機的に連携させることで、さらなるビジネスの拡大と成長の加速化を進めています。まだまだこれからですが、将来、私は横河電機をマーケティングカンパニーにできればと考えています。

 

 

貴重なお話をありがとうございました。

2018年9月27日(木)開催予定のBtoBマーケティングフォーラム2018では、再び阿部様にご登壇いただき、横河電機のマーケティングのお取り組みや組織連携、日本の製造業がマーケティングを武器にした企業へ変革するために必要なこと等について、ご講演をいただきます。

 

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横河電機株式会社 常務執行役員 兼 マーケティング本部長
阿部 剛士 氏

1985年、インテルジャパン株式会社(現インテル株式会社)に入社、2005年、同社マーケティング本部長に就任、2007年、芝浦工業大学専門職大学院 技術経営/MOT卒業、2009年、同大学地域環境システム専攻博士課程修了、2011年、同社取締役副社長 兼 技術開発・製造技術本部長に就任、2016年、横河電機株式会社に入社、現在に至る。

インタビュアー:
ビジネス・フォーラム事務局 プロデューサー 兼 マーケティング戦略室 リーダー 
北村 将

これまでサービス系ベンチャー企業にて営業、日系IT企業にてイベントマーケティングスペシャリストとしてBtoBマーケティングに取り組む。2013年 ビジネス・フォーラム事務局に入社。BtoBマーケティングフォーラム企画考案・企画者。他、マーケティング・デジタル・IT・フィールドサービス系など幅広く企画を担当。