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CIO Forum 2017 開催レポート 2

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CIO Forum 2017-2

コスト削減のみから、顧客価値提供のIT施策を
「コトづくり」を起点としたイノベーション

パナソニック株式会社 全社 CTO室 ソフトウェア戦略担当 理事 梶本 一夫

 

 

 お客様に常に寄り添う「コト」を提供できる最短距離にいるパナソニック株式会社は、家電からはじまり、自動車、住宅、あらゆるB2Bに向けたパートナーとの協働を行い、お客様の「いいくらし」を拡げています。IoT、AI戦略の現状や、新たな価値を生み出すための戦略策定の秘訣を「パナソニックのIoT、AI戦略~コトづくり起点のイノベーション」と題し、梶本氏に講演いただきました。





すべての空間で24時間お客様に寄り添うポテンシャルのある会社

社内リソースのシフト

 

 梶本氏は、「住宅空間」、「非住宅空間」、「モビリティ」、「パーソナル」の4つの空間を示し、お客様は24時間この4つのいずれかの空間で過ごされていると説明します。パナソニックは、この4つの空間すべてにおいて常にお客様に寄り添えるポテンシャルを持っています。お客様に常に寄り添う「コト」をどうやってお客様に届けていくかを考え、2013年に市場への新たなアプローチ戦略を立案しました。それを受け、あらゆるB2Bパートナーとの協働を行い、従来通りのB2Cのビジネスに加え、住宅設備、アビオニクス、スタジアムソリューション、自動車やその他の機器の部品事業へ社内リソースをシフトしていきます。梶本氏は「ハードをIoTに闇雲に繋げてもビジネスになるか分からない。21世紀に残れる企業を目指し、現在の会社のポートフォリオ、ポジションと今後の技術進化を睨みながら、成長領域に技術開発投資をしていく」と言います。

 

 とくに、IoT、ロボディクス領域においては、「技術10年ビジョン」としてAIロボティクス家電、自動運転コミュータ、店舗接客ソリューション、次世代物流搬送などに既に取り組んでいます。例えば、AIロボティクス家電では、パナソニックと、セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ、大和ハウス工業の3社合弁の会社を設立し、洗濯、乾燥、アイロン、たたみ、収納までの全てを行う完全全自動の洗濯機を開発。自動運転コミュータでは、自動運転車両向けのミリ波レーダーを用いた高精度・広視野角化技術を発表しています。店舗接客ソリューションでは、ローソンと協働して、無人コンビニエンスストアの導入実験を行っています。次世代物流搬送では、自律搬送ロボットの新JIS安全認証規格を初取得し、空港やホテルでのサービス実証実験を開始しています。

 

 ほかにも、IoT技術によるスマート工場、IoTを用いて不具合による遅延を防ぐ航空機のアビオニクスなど、様々な分野に技術、製品を提供しています。パナソニックはIoTデバイスを作る会社なので、そのモチベーションは高く、今後も様々な分野に挑んでいきます。

 

コストよりも価値を
コトづくりファーストの戦略の重要性

 

  次に梶本氏は、日本の企業はIT、モバイル、IoT、AI、ビッグデータなどの波に乗り切れていないと指摘します。日本企業の非効率性の原因として、ソフトウェアの無理解を挙げ、欧米と日本とのソフトに対する認識の違いを説明しました。日本では、ソフトに対するKPIは「コスト」。マイナスをいかに小さくするかという単年度戦略で動きます。対して欧米のソフトに対するKPIは「価値づくり」。プラスをいかに大きくするかという長期戦略になります。日本はソフトウェアによるルール作り(エコシステム)をコアコンピタンスの1つととらえず、簡単に他国のエコシステムに飲み込まれてしまう状況といえます。

 

 梶本氏は、このような状況において、日本企業が飛躍するための処方箋として次の5つを挙げています。1つめに、コトづくりファースト、ソフトウェアセカンド、ハードウェアラストであること。ソフトウェアによる「コトづくり」とエコシステム作り起点の戦略を取れるかが重要です。2つめにオープンイノベーション。エコシステムづくりのために、損して得取れの社内プロセスを実行します。3つめに、ストック型ソフトウェア開発。エコシステムを強化するため、ソフトのノウハウ資産蓄積を継続することが必要です。4つめに、コーディング重視・運用重視。コーディング、テスト、データ分析を工数単価で評価していないか。PF戦略、課題対応で優秀なコーディング経験者を重用しているか。クラウドでは運用し、顧客対峙しながら新規機能開発をしているかが問題となります。5つめに現場へのエンパワーメント。旧来の価値観のトップマネージメントが居座っていないことが鍵となります。梶本氏は「内向きのコスト削減のみという視点から一歩踏み出し、CIO自らが外に出て顧客価値提供に向けたIT施策を行うべきだ」と強く勧めています。

パナソニック株式会社
全社CTO室 ソフトウェア戦略担当 理事
梶本 一夫


1986年3月京都大学大学院工学研究科情報工学専攻修了、同年松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)入社。中央研究所情報グループ配属となりOSのマルチメディア機能開発に従事。その後、ビデオ編集システム、音楽配信システム、デジタル放送送出設備開発に従事の後、2007年4月システムエンジニアリングセンター所長、家電ソフトプラットフォーム開発やソフトウェアプロセス研究、オープンソース利活用、クラウド技術開発推進等に従事。2014年10月現職となり、ソフトウェアの全社戦略策定・推進を担当。

 

 

組織変革、テクノロジーへの対応、未来展望
第一線で活躍するITリーダーが

「あるべき姿」を議論

 

 パネルディスカッションでは、ヤンマー株式会社の矢島氏、アサヒビール株式会社の松浦氏、大和ハウス工業株式会社の加藤氏、日本アイ・ビー・エム株式会社の三澤氏の4名のCIO、ITリーダーをパネリストに迎え、ジャーナリストの松岡氏がモデレーターとなり進行していきました。最初に各パネリストの自己紹介と共に自社の業務内容やIT戦略などを簡単に紹介していただき、ディスカッションに入っていきます。





事業部門、経営層とIT部門とのコミュニケーション術

 

 まずは「ITリーダー× 組織変革:組織をどう動かすか ~変革を浸透させるためのポイント」というテーマからスタート。モデレーターの松岡氏より「事業部門、経営層とのコミュニケーションをどうとっていくか?これをワンポイントで各人お願いします」と質問が飛びます。

 

 

松浦「通常の業務を行っていく中で、組織を横串で見て新しいことにチャレンジしていくことが重要になっていく。多くの場合、物流の人は物流の、営業の人は営業のデータしか見ておらず、これでは従来の延長にしか過ぎない。イノベーションのためには横串でコミュ二ケーションをとりながら、こういうデータはこういう風に自分の業務に活かせるのではないかという意識を持つ。横のネットワークが今後重要になってくると感じている」

 

 加藤「経営層はビジネスの成長を実現させるために経営判断をして、指導してリーダーシップを発揮している。ITはあくまでもそれを支えるツールである。事業部門がシステムオーナー、データーオーナー、予算オーナーであり、事業部門がやりたいことに対してIT部門で何ができるのか。それをIT部門が提案し、事業部門の成果が上がるように支援している」

 

矢島「経営者、事業部門、IT部門がお互いに理解し三位一体となり取り組むことが大切。経営者が何をし、現場が何をし、ITが何をするかを、明確にできるか。双方が納得しながら、それぞれ責任をもって役割を果たすことが必要だ」

 

ここで松岡氏からさらに質問が飛びます。
「事業部門、経営層とIT部門との関係は長らく論議されたテーマで、なかなかいい答えがありません。もう一歩踏み込んで、具体的にどうアクションをするか。経営者層、IT部門、業務部門がそれぞれどう動けばきっかけがつかめるでしょうか?」

 

矢島「業務プロセスのオーナーを明確に示し、情報オーナーを明確に示す。役員、社長クラスにそれぞれのオーナーは誰なのか決めてオーナリングをしてもらわなければ、IT部門側からは情報提供はしないというぐらいの姿勢が必要。各職種の部隊が何をどう共通化するのか、職種のトップが決める。IT部門ではない。各職種の中期計画で提示させている」

 

加藤「IT部門が要求に耐えられる体制をつくることが必要。構造改革として全体最適化とマルチタスク解消を目指した組織改革、プロジェクトマネジメントの改革、個人の能力アップを実施している。自らが会社の要望、経営の要望、事業戦略の要望に耐えられる体力作りをしなければならない」

 

松浦「既存の部署でいると既存の部署のミッションをやっていれば評価された。それだけでは将来大丈夫か。今の延長だけでいいのかという不安があった。色々な部署の色々なノウハウやデータを持ち寄りながら、外方向にもネットワークを向けている」

 

三澤「十数年前、IT部門と情報子会社との関係はどうすればいいか、という質問が多かった。自社にどうITを取り戻すか。ITがビジネスを支えるエンジンになってきている。そこでまず、クラウドによるスモールスタートが効果的だ」

 

先端テクノロジーに立ち向かうために、“人材確保”が鍵を握る

 

続いて、「ITリーダー× テクノロジー:デジタル・トランスフォーメーション時代のITマネジメント」のテーマに移ります。松岡氏より、先端テクノロジーを取り入れる上で、CIOはどう取り組んでいくべきか、という質問が投げかけられました。

 

矢島「ビジネスの利益を上げるためにどのようにIT部門が関わるかが、部門から見た課題。従来の技術のままの守りの世界では100を100返さないといけなかった。新しい技術での攻めは3割返せればすごい。しかし、今まで守りでやってきたものは急に攻めの世界では使えない。それに対して、毎年3~5%は各自新しいことをやってみろと投げかけた。そうすると、守りをやっていた者でも何人かはやるものが出てきた」

 

加藤「次のステージをどうしていくか、という世界に来ている。最新の技術を使えばどういう物ができるのか、と言う目で見なくてはいけない。状況を判断してうまく予算を確保し、新しいものにトライアルする。これはCIOレベルのトップでなければできない」

 

松浦「デジタルでの新規取組は費用対効果が問題になる。つまり、効果が分かっていたら誰でもやる。スモールスタートし、来る日のために小さくコツコツ成功を重ねていく。データやデジタルを使いながらいかにやるか、新しいモデルを考える必要がある」

 

ここまでの答えを受け、松岡氏からさらに質問が出ます。
「このテーマで一番悩むのは人材をどう確保するのかということだと思います。皆さんその点はどうされているのでしょうか?」

 

矢島「社内的な話では、色々トライさせて能力を見いだしています。外に向けてはいろいろな所で積極的に話すことで、ヤンマーがデジタルで先進的な取り組みをしているとアピールする。今では、なんでこの会社に?という人が、来るようになった。“ヤンマーが何かやろうとしているな”と感じてくれたのだろう」

 

加藤「IT部門の人材育成は企業が持っている人材育成に入らないところがある。企業の人材育成はジェネラリスト型で、マネジメント人材ばかり育てている。しかし、IT部門は高度なIT人材であり、スペシャリストを育てるやり方。セミナーなど、外部の経験をたくさんさせるようにしている」

 

松浦「人材の確保はデジタル部門で一番難しい問題。社内での育成が重要だが、社内はデジタルに強い人が少ない。社内で育てながらも、我々の事例を見て社外からも関心を持っていただければと考えている」

 

三澤「人材育成は苦労している。お客様の所に行った時に、“クラウドの時代だが人が育たない”と嘆かれることがある。そんな時は、“砂場みたいなところはありますか?”、“クラウドを自由に触れる環境を整えていますか?”と質問している。実際のところ、月額数万円分のBluemixの環境を確保するだけでWatsonやIoTなど最新テクノロジーに常に触れられる。触って経験する場をどう与えてあげるかが重要である」

 

さらなる発展を目指すITリーダーに求められるもの

 

最後に「ITリーダー× 未来展望:これからのCIO、ITリーダーはどうあるべきか」というテーマで、CIO・ITリーダーの資質に関わるディスカッションが行われました。

 

松岡「これまでの2つの議題はITの両輪。それを踏まえてCIO、ITリーダーはどうあるべきか。資質的な話を交えてお聞かせください」

 

加藤「一番は後進の育成。これから企業を成長させて存続させるためには、我々の後輩がいかに企業に貢献できるかが重要である。そして最新のテクノロジーがいかにビジネスにキャッチアップできて、ビジネスに活かせるかを見極める“目利き力”。自らが新しい物を知らないと判断できない。常に最新の物に触れ、自らの目線で部下にちゃんとアドバイスができる必要がある」

 

松浦「今後重要になってくるのは、新しい事にいかに挑戦し続けるか。そして、それをあきらめずにやり抜くか。前例はないが、だからこそやる、という精神で取り組みたい」

 

矢島「チャレンジャブルにやらなくてはいけない。すごいスピードで技術が進んでおり、時代の進みは速い。素直にどんどん学ぶことが大切である。次に重要なのは、コミュニケーション力。技術論などぶつけても若者に壁をつくられる。CIOの仕事は前に出ないことであり、ベストコーチ、ベストキャディー。社長をプレーヤーとして優勝させることが仕事だ」

 

三澤「IT部門トップに共通しているのは“知りたがりの教えたがり”であり、原理原則を知りたがる。知りたい、教えたい。そして、その原理原則とビジネスを掛け合わせて考えていく事が求められる」

 

今回のパネリストは、長い歴史をもつ企業におけるITリーダーの方々です。自社の伝統や歴史を重んじながらも、ビジネス環境の劇的な変化や先端テクノロジーの進化に対応すべく、日々新しいことへのチャレンジを絶えず続けています。これからのITリーダーがどのように企業変革やイノベーションを牽引していくかについて、多くのヒントが含まれたディスカッションとなりました。

 

 

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