2017/05/27 (  土 )

グローバル/グループ経営フォーラム2017 開催レポート

グローバル/グループ経営フォーラム2017 開催レポート

グローバル/グループ経営フォーラム2017
世界で戦う「マネジメントと組織」
スピーディーで質の高い意思決定
 如何に実現するか~

2017年5月24日(水)、東京・品川のTHE GRAND HALLにて『グローバル/グループ経営フォーラム2017』を開催しました(主催:株式会社ビジネス・フォーラム事務局)。5回目の開催となる本年は「世界で戦う“マネジメントと組織”」をメインテーマにプログラムを構成。複数の市場・製品・技術・地域などが複雑に絡み合う現代のグローバル経営において、経営層、およびグローバルマネジメント担当者には、よりスピーディーで質の高い意思決定が求められております。当日の各講演やパネルディスカッションの模様についてご紹介します。

特別講演Ⅰ:「ムラタグループの企業価値向上への取り組み」

創業以来大切にしている
理念と戦略に基づいた企業価値向上の取り組み

株式会社村田製作所 代表取締役副社長
藤田 能孝

 

 セラミック材料を中心に総合電子部品メーカーとして事業を展開する株式会社村田製作所は、ここ数年で業績を大きく伸ばし、連結での売上高は1兆円超。その売上高の90%以上は海外が占め、主力商品の大半が世界でシェア1位か2位という、グローバル市場で高い信頼を得ています。しかしながら、経営の重要機能は日本に置き、国内生産比率が70%と高い水準を維持。CS(顧客への価値提供)とES(従業員のやりがいと成長)を重視した経営風土を保ち、商品トレンドに素早く対応できる商品開発と設備投資を行っています。「ムラタグループの企業価値向上への取り組み」と題し、村田製作所の強さの鍵を握る、創業以来大切にしている理念と戦略と、それに基づいた企業価値向上の取り組みを藤田氏に講演いただきました。

 理念と戦略に基づいた企業価値向上の取り組み

 

 村田製作所は、ここ数年で売上を倍に伸ばす急成長をみせています。特にスマートフォンなどの通信分野での伸びが大きく、カーエレクトロニクス分野でも着実な売上成長を維持しています。地域別売り上げでは、80年代には5割程度を占めていた日本での売り上げが2016年の数字で7%程度。93%が海外売上となっています。また、汎用的な部品からカスタム的な部品に製品ポートフォリオを広げ、売上の85%はグローバル市場で1位か2位という、非常にシェアの高い商品を多く売っているのも特徴。事業から産み出した現金の多くを研究開発投資と設備投資、M&Aなど成長投資につぎ込み、市場のニーズに合った独自の製品を早いタイミングで投入できる体制を維持しています。

 

 「企業価値を高めるための企業運営には理念と戦略が重要である。ともすると戦略ばかりになるが、やはり企業の立ち位置。企業が何を大切にして、何を価値観として運営していくか。これが非常に当社にとっては大事だ。それをベースに色々な戦略を組み立てている。当然理念だけでは立ち行かないので戦略というものがいる」と藤田氏は述べられました。村田製作所では、企業理念として創業者である村田昭氏が1954年に制定した社是を今も大切に守り、理念を社員で共有し、戦略、中期計画の基盤として事業を展開しています。村田製作所の社是にはこうあります。「技術を練磨し、科学的管理を実践し、独自の製品を供給して文化の発展に貢献し、信用の蓄積につとめ、会社の発展と協力者の共栄をはかり、これをよろこび感謝する人びととともに運営する」。

 

 電子部品業界では、同じ物を作り続けていると同じ物を作る企業が現れ、価格競争により収益が悪化することになります。村田製作所は、社是を具体的な形で経営に落とし込み、研究開発投資と設備投資を積極的に行い、新製品を供給していくことで、常に革新を図り、グローバル市場での高いシェアを維持。CSとESの実践を通じて社会・文化の発展に貢献しています。

経営で大切にしている7つのこと

 

 続いて、藤田氏は戦略の基盤として経営で大切にしている7つのことを挙げています。

 

  • グローバルな販売ネットワークによる顧客層の厚み
  • 継続的な技術開発投資(材料、プロセス、設計、製造、ソフト)による新商品開発力
  • 強い工場に支えられた製造力
  • 連結経営の強化
  • 事業を支援する経営管理システム(オールムラタで統一)
  • ガバナンスを整備して権限委譲
  • スピード経営

 

 独立系の部品メーカーである村田製作所は、どこのお客様とも取引が可能であって、直接販売比率も85%と高い数字を維持。バランスよく研究開発投資を行い、コア・コンピタンスとなる商品により高いシェアが保たれ、お客様の情報がたくさん入ってくる好循環を作り上げています。また、経営資源のほとんどを国内に持ち、自社開発のITシステムで、強い経営基盤が作つくられました。

 

 さらに、2003年から進める組織風土改革では、CS とESとを社是と並ぶ最上位の価値観とし、経営トップと管理職のマネジメントスタイルも改革。ガバナンスを整備した大胆な権限委譲で、開発力と事業運営の強化を進めています。これにより、量産化までのスピード向上や新商品比率、生産性の向上が実現されただけでなく、「言われたことをやる会社から自ら行動してやる人が増えた」と藤田氏は述べられました。


株式会社村田製作所
代表取締役副社長
藤田 能孝


昭和50年3月 一橋大学商学部 卒業、昭和50年4月 当社入社、平成4年7月 ムラタ・エレクトロニクス・ノースアメリカ経理部長、平成7年12月 経理部長、平成10年6月 取締役 経理・財務グループ統括部長、平成15年6月 取締役 上席常務執行役員、平成17年6月 取締役 専務執行役員、平成20年6月 代表取締役 副社長(現在)、著書『「利益」が見えれば会社が見える』(2001年 日本経済新聞社)執筆

特別協賛セッション:「グローバル経営時代の戦略的オペレーティングモデル ~世界の優良企業モデルから考察する最適解~」

迅速に対応できる柔軟性を保持し、
グローバルな事業拡大や改革に貢献できる
組織モデル、GBS

Genpact Japan株式会社 バイスプレジデント 黄 衛新

 

 GEの間接業務を改革する部門として、GEのグローバルビジネス成長をサポートしてきた、Genpact。独立後もグローバル企業のパートナーとして、お客様の業務改革、各種業務のアウトソーシング、シェアードサービス最適化、GBS(グローバル・ビジネス・サービス)の導入・構築プロジェクトをサポートしてきました。グローバル経営と業務効率化の最適化を目指して、グローバル先進企業が実現しているGBSの特徴、またGBSの進化について黄氏にご講演いただきました。

 

GBS=グローバル・ビジネス・サービスとは

 

 グローバル化が進む現代の企業経営では、製品、サービスだけではなく、ビジネスの成長を支えているオペレーションの業務効率化が求められます。また、素早いグローバル経営体制の変革も求められています。このような状況に対し、従来のシェアードサービスやアウトソーシングだけではこの要求に応えることは困難と言えます。そこで登場したのが、生み出されたGBSというモデルです。

 

 黄氏は、GBSとは「ビジネス戦略や顧客ニーズに合わせてEnd to Endで変革された業務プロセスや、M&Aによる企業統合などに迅速に対応可能な柔軟性を保持し、グローバルな事業拡大や、改革に貢献できる組織モデルです」と述べられました。GBSは、グローバル経営を意識しながら、間接業務オペレーションのコストダウンだけでなく、ガバナンスの強化やグローバル業務サービスレベルの向上、事業展開のスピードアップへの貢献が出来るオペレーティングモデルなのです。日本では実際にGBSモデルを導入した事例はまだ少ないのですが、Genpactでは50以上の世界の優良企業でGBSプロジェクトのサポートを実施。独自のフレームワークに基づき、オペレーショナルエクセレンスと融合し、設計から実行まで、お客様が目指している最適なGBSの構築をサポートしています。

GBSの4つのレベル

 

 黄氏は「新しいニーズに応えるため、GBSも徐々に進化しつつあります。」と述べられ、GBSの各段階を4つに分けて説明されました。それが、「センター・オブ・ワーク」「センター・オブ・スケール」「センター・オブ・エクセレンス」「センター・オブ・デザイン」の4段階です。センター・オブ・ワークは、機能部門別の業務シェアードサービスセンター導入の段階。センター・オブ・スケールは、地域単位で複数の部署が連携し、End to End業務を対象とするGBSになります。センター・オブ・エクセレンスは、グローバル企業が現段階で目指しているGBSのモデル。会社の経営目標に合わせて業務を統括する、拡張性が高いGBSのプラットフォームです。最後がセンター・オブ・デザインで、これは次世代のGBSモデルと考えられています。デザインシンキング方式により、あらゆる効率的なテクノロジーを導入して各機能部門が協力。ビジネスの最大目標の達成を支え、常にビジネスインパクトの成果に貢献するエコシステムとなります。

 

 今までは経理、人事、購買業務がGBSのスコープとして考えられていました。しかし、センター・オブ・エクセレンス、センター・オブ・デザインの段階になると、横断的に業務をEnd to Endで改善、設計。これにより、カスタマーサービス、マーケティング、ビジネスサービス、営業などミドルあるいはフロント業務までスコープが拡張。さらにセンター・オブ・デザインの段階にまでなれば、生産、品質、販売、業務計画のコア業務までスコープが広がります。

 

最後に黄氏は「時代に合わせてグローバルのオペレーティングモデルも変化しています。単なるコスト削減だけではなく、GBSの付加価値を充分発揮するため、ビジネスの改革方向性に従って、伝統を破壊する覚悟を持って、常にベストインクラスを超える目標にチャレンジしていきましょう」と述べられて講演を締めくくりました。


Genpact Japan株式会社
バイスプレジデント
黄 衛新


2000年中国・大連でGE Capital Internal Service(Genpactの前身)に入社。オペレーション担当、プロジェクト・マネジメント担当トランジションマネージャーを経て、金融、化学業界の顧客向けに、BPOおよびBPRプロジェクトの企画、構築、実行に携わる。東京スター銀行、日本GE株式会社を経て、2005年Genpact Japan株式会社に入社。自動車、重工業など、グローバルに事業展開する大手製造業のビジネス・プロセス・マネジメントを数多く手掛ける。人事、財務経理、購買、SCMなどの専門領域のプロセス改革に加え、多機能、多地域にまたがる組織全体の効率化を支援。近年は、ロボティック・プロセス・オートメーションをはじめとするデジタル、自動化分野のプロジェクトにも携わる。

ショートセッション:「大きな失敗を避け、リターンを高める事業投資マネジメント~意思決定と、リターン実現までの継続的な管理のポイント~」

 

不確実な環境での事業投資の
業務プロセスの改善と効率化を支援する

インテグラート株式会社 代表取締役社長
小川 康

 

 事業投資は企業の成長を達成するために不可欠の業務です。しかし、事業投資はその重要性が認識されていながら、多くの人が関わることで意思決定が難しくなり、経験の蓄積も簡単にはできません。1993年の創業以来、不確実な事業環境での事業投資業務支援に一貫して取り組むインテグラート株式会社は、事業現場における実務の理解と、複雑な事業投資の業務プロセスの改善、効率化を、コンサルティングとソフトウエアで支援しています。小川氏には、事業投資業務の指針として役立つ、仮説指向計画法(DDP)のポイントを解説いただくと共に、投資リターン向上を目指す事業投資マネジメントシステムをご紹介いただきました。

  

不確実な事業の企画・管理の理論「仮説指向計画法(DDP)」

 

 小川氏は「今まで以上に持続的な成長、中長期の目標数値に関する説明責任が問われるようになっている。しかし、まず社内における情報共有ができていないと、経営陣、投資家、関係者への説明もできない。社内における適切な情報共有が基礎となり適切な情報開示が可能になる」と述べられました。例えば、意思決定までは多くの関係者で議論されるのに、実行後は現場任せで担当者や責任者の所在も曖昧。一時的に乗り切るための根拠のない数字を提示するようになり、忘れた頃に同じような失敗を繰り返す。事業投資の課題は、認識されているにもかかわらず、解決、改善されていないものが多い傾向にあります。

 

 このような、不確実な問題の多い事業投資の企画、管理の理論としてDDPが有効に働きます。DDPは、大きな失敗を防ぐリスクマネジメントを目的として、ペンシルバニア大学ウォートンスクール教授イアン・マクミランとコロンビアビジネススクール教授リタ・マグラスが、アメリカ企業にUSD 50 million以上の損失をもたらした失敗例の研究に基づいて開発されたものです。GE、メルク、デュポンなどの大手企業、コンサルティング会社イノサイト等がこれを採用しています。

 

 DDPでは、事業計画は仮説(成功に必要な条件)で構成されているとし、詳細な計画よりも、どのように考えたのかという仮説を明確にすることを重視しています。立てた仮説を継続的に確認し、外れていく仮説に対応して事業計画を柔軟に修正することが求められます。目標数値だけを合意していると、事業環境への変化に対応しにくくなるので、意思決定では数値だけでなく、必ず成功のために必要な条件(仮説)を合意することが大切です。「我々は、何に賭けているのか」という思考を組織的に共有し、仮説は外れてくるものという前提の元、「その仮説は、まだ生きているのか?」を問いかけ、継続的なプロセスを行うことが価値最大化の鍵となります。

 

事業投資マネジメントシステムとコンサルティングの概要

 

 続いて小川氏は、価値最大化を目的とした事業投資業務支援システムRadMapの製品シリーズを紹介されました。RadMapは大手企業を中心に、既に43社への導入実績があります。プロジェクト評価システムRadMap/projectは、事業やプロジェクトの個別バリュエーション、各事業・プロジェクトの価値の最大化を図ります。ポートフォリオ評価システムRadMap/portfolioは、複数事業や複数プロジェクトのバリュエーション、プロジェクトミックス、製品ミックス、戦略の組合せ等の最適化を行います。不確実な事業投資の仮説を明確にすると共に、定期的なアップデートを継続することによって評価の信頼性が向上。企画業務を支援する専用システムとして、記録を残し、以前の検討内容に基づく事業性とどこが違うかの比較や、他プロジェクト・過去プロジェクトとの比較を容易に行えます。さらに関係者との情報共有を促進する可視化機能も備え、長期間一貫した業務の継続性を支援していきます。

 

 小川氏は「従来のマネジメントの仕組みは、結果の管理に重点を置いていた。新しいマネジメントの仕組みは、常にゴールに注目する」と述べて、講演を締めくくりました。


インテグラート株式会社
代表取締役社長
小川 康


不確実性下のビジネスプランニング理論研究の第一人者、ペンシルバニア大学ウォートンスクールのイアン・マクミラン教授の研究センターに2年間勤務し、直接指導を受ける。R&D投資・新事業・設備投資・M&A等の不確実な事業投資に関し、製造業・製薬会社・電力・ガス・総合商社等に対するコンサルティング・研修・事業投資マネジメントシステム導入の実績を豊富に持つ。著書に『不確実性分析 実践講座』(ネクスプレス、共著)がある。

事例講演1:「KAITEKI価値の向上に取り組む、三菱ケミカルホールディングスのグローバル・グループ経営」

KAITEKI経営実践を通じての企業価値向上促進

株式会社三菱ケミカルホールディングス 取締役執行役専務 経営戦略部門長
吉村 修七

 

 

 三菱ケミカルホールディングス(MCHC)グループは、三菱グループの化学やヘルスケア分野の企業が集まる共同持ち株会社として2005年に設立されました。2017年4月にはグループ内の三菱化学、三菱樹脂、三菱レイヨンの3社を統合して三菱ケミカルが発足。新たな体制の元、機能商品、素材、ヘルスケア分野の事業を通じて、高成長、高収益型の企業グループをめざしています。持株会社体制におけるグローバル・グループ経営の仕組みや、コーポレートブランドである「THE KAITEKI COMPANY」について、吉村氏にご講演いただきました。

  各地域内の事業成長、収益向上を支援するリージョナルヘッドクォーター

 

 三菱ケミカルホールディングスグループは、機能商品、ヘルスケア、素材の3つの事業分野において、グループの総合力を活かした機動的な経営によって企業価値を向上させるため、グループ経営管理機能と個別事業経営機能を分離した持株会社体制を選択することで設立されました。3つの事業分野を通じて高成長、高収益型の企業グループをめざすため、三菱ケミカルホールディングスグループでは2016年度から2020年度にわたる5年間の新しい指針 として中期経営計画「APTSIS 20」を策定。経営のグローバル化という視点において、成長、効率性、基盤強化のそれぞれの項目で、海外事業の収益性強化、グローバルマネジメントの深化などを計画しています。特に、成長加速のための重点施策として、グローバル市場へのアクセス・マーケティング力の強化が行われています。

 

 三菱ケミカルホールディングスグループの海外売上高比率は現状44%に留まっています。これを2020年度には50%とするべく、世界4極に各地域内の事業成長・収益向上を支援する拠点「リージョナルヘッドクォーター(RHQ)を設置。マーケティングの機能をしっかりとRHQに持たせ、事業部門横断的マーケティング活動を推進しています。また、“自動車航空機(モビリティ)”“パッケージング・ラベル・フィルム” “IT・エレクトロニクスディスプレイ” “環境・エネルギー” “メディカル・フード・バイオ”の5つの市場/分野にフォーカスし、関連する事業部門が協奏しながら、最も有効な成長ドライバーを軸にして、成長を加速させています。吉村氏は「これまで事業部の最前線の人間は、当然のことながらヨーロッパ、アジアなど海外に出ていく。しかしやることがバラバラ。新しいことをするのにどのお客様と組んでいくのか。あるいは新しいテーマを創造する時にどこの事業部にいくのか。研究開発をやっていく上で研究者と直接対話すること。既存のビジネスの最前線にいる者にはまだまだこれらに対しての危機感が少ない。新生三菱ケミカルではリージョナルヘッドクォーターを設けてそのような機能を充実させる」と述べられました。

 

「KAITEKI」実現による持続可能な社会

 

  三菱ケミカルホールディングスグループでは、企業価値の判断基準として「THE KAITEKI COMPANY」というコーポレートブランドを掲げています。「KAITEKI」とは、グループ全体でめざす「時を越え、世代を超え、人と社会、そして地球の心地よさが続く状態」を指します。THE KAITEKI COMPANYを実現するための判断基準として、Sustainability、Health、Comfortの3つが掲げられ、経営資源の有効活用のため、判断基準を満たさない企業活動は行わないとしています。「企業活動の考え方としては、資本の効率化、イノベーションの創出、サステナビリティの向上の3軸および時間軸を加えて企業価値を把握する四次元経営を目指す。サステナビリティ、ヘルス、コンフォート、かつ事業領域を設けて3軸による企業価値の把握と四次元経営を目指す。グローバル経営の根幹において、新しくメンバーになった方々に、うちの会社は何をやっていて、どういうことをやっていきたいのかを示す。THE KAITEKI COMPANYは企業価値を高める上で非常に重要な提言になっている」と吉村氏は述べられました。


株式会社三菱ケミカルホールディングス
取締役執行役専務 経営戦略部門長
吉村 修七


1979年三菱化成工業入社。三菱化学坂出事業所長、四日市事業所長、炭素本部長、電池本部長、マーケティング室長、経営戦略部門長に従事。2008年執行役員、2013年取締役常務執行役員。2016年三菱ケミカルホールディングス執行役常務。2017年4月から現職。

特別講演2:「変革に挑戦し続ける100年企業~リーダーに求められる姿勢と行動~」

失敗を恐れず「変革へ挑戦」し続ける企業風土

ブラザー工業株式会社 代表取締役社長 小池 利和

 

 ミシンの修理から始まり100年以上の歴史を持つブラザー工業株式会社。常に新しいことに挑戦し続け、プリンターや複合機、電子文具といったプリンティング・アンド・ソリューション事業、産業機器などのマシナリー事業、家庭用ミシンなどのパーソナル・アンド・ホーム事業、通信カラオケのネットワーク・アンド・コンテンツ事業、産業用プリンティング機器のドミノ事業など、現在は幅広い事業分野でグローバルに展開。ビジネス環境が目まぐるしく変化するなか、素早く変化に対応し、変革へ挑戦し続ける企業風土をもって、第3の波の実現に向けた変革と事業ポートフォリオの強化を進めています。ブラザーの経営戦略や、失敗に寛容で変革に挑戦し続ける企業風土を作るための経営哲学などについて、小池氏にご講演いただきました。

 

経営基盤と事業ポートフォリオの強化

 

 ブラザー工業株式会社は、40以上の国と地域に生産拠点や販売・サービス拠点を設け、製品の90%近くを海外で生産しています。従業員の約70%は工場の従業員を中心に海外の人員で、売り上げの80%以上も海外からのものです。ミシンの製造から始まり、その技術を応用して60年代にタイプライターを開発。さらに70年代にはメカとエレクトロニクスを組み合わせ、タイプライターやミシンなどの電子化を進めるとともに、高速ドットプリンターを開発。80年代後半以降はプリンター、ファクス、複合機などの情報通信機器ビジネスが急成長して売り上げを大きく伸ばします。その中で、基幹業務システムの導入や生産の海外移転など経営基盤を整えて、事業の急拡大に対応してきました。小池氏は、23年半にわたる米国駐在の経験から、家族的で風通しがよく、新しいことへの挑戦を後押しし、失敗に寛容な企業風土を構築。当事者意識を持って、自らチャレンジし、諦めない、挑戦・変革マインドの醸成に取り組んでいます。「失敗しても悪いことではない。失敗の経験は人生の肥やし」と小池氏は述べられます。

 

 変革を続けるブラザーでは、市場の更なる拡大が見込める新興国を中心に、2000年代後半以降に新たな販売拠点を設立。生産面においても能力の増強、最適な生産コスト、リスクヘッジを目的にアジアにおいて複数の生産拠点を事業ごとに持ちました。2015年には新規注力領域として産業用プリンティング事業を手掛ける英国のドミノ社を1900億円で買収。未来永劫の繁栄に向けて、変革や成長領域に挑戦し続ける複合事業企業を目指しています。小池氏は「市場の先の見込めない事業と、まだ頑張れば伸びる事業が見えてきた。将来成長は見込めないが堅実な需要がある収益力強化事業と、成長領域事業とを分けて、更なる成長が期待できるものにリソースをシフトする。利益を着実に出しながら事業ポートフォリオを強化していく」と述べられました。

 

成功の確率を上げる努力を続ける

 

  「ビジネスは人と人とのつながり」と述べられる小池氏は、従業員とのコミュニケーションを非常に密にとられています。定期的な従業員に向けたメッセージの発信や、Face to Faceでの交流ということで、従業員と語る会を世界の各拠点で実施。より高いレベルを目指してチャレンジする人材を育成するために、30代、40代の次世代リーダーを対象とした社長直轄の若手人材育成プログラムも実施しています。

 

小池氏は最後に「ビジネスは運。運を引き寄せるには成功の確率を上げる努力を続ける。企業のトップである以上、24時間365日、ビジネスのことやグループのリスクなどを考え、成功の確率を高める努力をする。グループ4万人の重さも考える」と述べられました。努力に裏打ちされた運と、失敗を恐れず変革に挑戦し続ける精神がブラザーを支えています。

 


ブラザー工業株式会社
代表取締役社長
小池 利和


1955年、愛知県生まれ。79年、早稲田大学政治経済学部卒業、ブラザー工業株式会社入社。81年、アメリカに渡り、プリンターの販売に注力。2000年、44歳で現地法人の社長に就任し、米州ビジネスの拡大に成功。05年、23年半の米国勤務から帰国。07年、ブラザー工業代表取締役社長に就任、現在に至る。

事例講演2:「日本板硝子におけるグローバル経営とそれをサポートする人事の仕組み ~人と組織のグローバル化とリーダーシップ~」

大型M&Aを契機とするグローバル化と
日本企業がグローバル化を実現していく上での課題

日本板硝子株式会社 執行役員 グループファンクション部門 人事部 アジア統括部長
兼 グローバル人事特命プロジェクト担当部長 梯 慶太

 

 日本板硝子株式会社は2006年、売上・従業員数とも約2倍の規模を持つ英国上場企業ピルキントン社を買収。従来多くの日本企業が海外拠点を少しずつ増やしていった進化型のグローバル化とは異なり、大型M&Aを契機に短期間でグローバル化を果たしました。統合後は社員のおよそ8割が海外の人員となり、その結果従来の日本人社員、日本の労働慣行だけを意識とした人事の仕組みは機能しません。このためグローバルに機能し、効率的に仕事のできる執行組織を新たに創設し、それに応じて人事機能・仕組みの変革が迫られました。急激なグローバル化に対応するために、日本板硝子がどのような方法をとり、どのような考え方で進めていったのか。小が大を飲む買収を契機とした、人と組織のグローバル化と、それを実現していく上での課題などについて梯氏にご講演いただきました。

買収側・被買収側にこだわらずベストプラクティスを採用

 

  日本板硝子はピルキントン社買収により、グローバルシェアは15%と世界トップクラス、グループ全体で28カ国に主要な製造拠点を持ち、130カ国以上でその製品を販売、約3万人の従業員をかかえる一大グローバル企業となりました。売り上げも約8割が海外から。そのため、早急にグローバル企業にふさわしい執行組織の創設や、ガバナンスの整備が求められました。しかし、買収当時の日本板硝子にはグローバル人材やグローバル化のノウハウは十分蓄積されていませんでした。

 

そこで日本板硝子では、既にグローバル企業としてオペレーションする人材・仕組みを備えていたピルキントン社の手法を学び、合理的な場合には素直にそれを採用することとしました。買収側だからと言う理由で買収側の仕組みを押しつけるのでは無く、国籍・出身にこだわらない適材適所で人材を登用していきました。梯氏は「当時の英国人CEOはグローバル体制でオペレーションしていないのは日本だけであったため、日本にグル―バルな仕組みを導入しようと決断。この手法をとれば一夜にしてグローバル企業になるが、突然外国人上司の部下になった日本人社員は大変苦労することになった」と述べられました。日本発の経営理念や優れた技術を徐々に世界の拠点へ広げていく従来型のグローバル化とは異なり、既にグローバル化した組織に飛び込み取り込んでいく革命的なグローバル化は、劇的に改革が進む代わりに相応の痛みが生じます。それでも当時の経営陣はM&Aを日本の組織、人材をグローバル化する絶好のチャンスと考えました。

 

日本人だけではできない企業のグローバル化

 

  梯氏は「革命型のグローバル化は必ずしもすべての日本企業にはフィットしない。とはいえ、日本の企業が真にグローバル化で成功するためには日本人だけでその仕組みを設計することはできないし、日本流を押し付けると上手く行かないだろう。いかに外国人を巻き込みながら、外国人も納得できる組織・仕組みを築いていくか。これがグローバル化で最も大切なことだ。」と述べられました。多くの日本日本人社員は未だ日本でメンバーシップ型雇用を求める傾向にありますが、キャリア志向の強い日本以外の国では、働き方に対する考え方から違います。「外国人の立場になってみると、どういう企業に魅力を感じるか。日本のメンバーシップ型雇用システムは外国人にフェアか? 魅力があるのか? エンゲージメントが高まる仕組みか? 外国人のキャリアプランに合致するか? 外国人が“フェア”で“働きたい”と思う仕組みとはどういうものなのか? これらについて自ら問いかける必要がある」と梯氏は述べられます。日本板硝子では、2016年にグローバルで統一したマネージメントグレード、報酬ポリシーを日本でも導入したことで人事の仕組みの統合をほぼ完了。さらにタレントマネージメントをグローバルで首尾一貫した形で進める一方、日本人日本文化特有のグローバル化への課題を解決する取り組みも継続して行っています。

 


日本板硝子株式会社
執行役員 グループファンクション部門
人事部 アジア統括部長
兼 グローバル人事特命プロジェクト担当部長
梯 慶太


1985年4月、日本板硝子入社。88年4月、本社人事部労政グループへ異動。1999年6月、NSG ホールディングUSA社(米国)へ出向。2002年4月、同社社長に就任。2004年頃より、ピルキントン買収プロジェクトに参画。2006年6月、ピルキントン社買収と同時に設立された統合推進本部(英国)を兼務。2007年4月、日本へ帰国、コーポレート人事部で日本の統合作業をサポートするとともに、HRダイレクター(東南アジア)を兼務。2008年8月、グループHR リソースディベロプメント&トレーニング ダイレクター。2011年9月、執行役員 BP事業部門 バイスプレジデント HR。2012年2月より人事部アジア統括部長。2013年9月よりグループ人材開発・報酬部長を兼務。2008年の委員会等設置会社移行から報酬・指名委員会事務局・2013年から同事務局長。2017年4月から現職。

パネルディスカッション:「グローバル/グループ経営の最適解 ~組織ガバナンスにおける日本企業の課題とこれから」

オーガニックなグローバル化と
革命的なグローバル化の組織ガバナンス

 

 パネルディスカッションは、YKK株式会社執行役員財務・経理部長の宮村久夫氏と、先に講演を行った日本板硝子株式会社の梯氏、Genpact Japan株式会社の杉浦氏の3名をパネリストに迎え、早稲田大学ビジネススクール教授の平野氏がモデレーターとなり進行していきました。

 

会社として何を実現するのか、何を大切にするのか、理念の共有が大切ではないか

 

  最初にグローバル化、グローバル経営の近年の状況について、平野氏より意見が述べられました。「当初はインターナショナル組織ということで、日本中心にローカルへ進出して販売会社を作ったり、工場を作ったりという第一段階があった。おそらく今、多くの企業があるのは第二段階。マルチナショナルということで、世界の主要マーケットにプレゼンスを作って、なるべくそこに権限を与え、経営をさせていくマルチナショナル経営。

 

その次に、マトリックスといったものやトランスナショナルというものが流行したが、なかなかマネジメントがうまくいっていない」と述べられました。加えて平野氏は「いろいろな数字で管理するとか、効率で管理するとかもあるが、今、もっと大切なことは、会社として何を実現するのか、この会社では何を大切にすればいいのか、それらを共有していく理念みたいなものではないかという議論もある」とも述べられました。これを受け、ディスカッションに入っていきます。

起業精神、コアバリューの浸透によるオーガニックなグローバル化。

 

まずは平野氏からYKK株式会社の宮村氏へ、YKKのグローバル化や広い意味でのガバナンスはどのようになっているのか、質問が飛びます。YKK株式会社は1934年に創業。金属や樹脂ファスナーを製造するファスニング事業。住宅用窓、サッシを製造するAP事業。ファスナーや建材加工用の機械などを扱う工機事業。この3つの事業を柱に、世界71カ国111社のグループ会社を持ち、7000億円以上の売り上げがあり、国内外合わせて4万5000人近い従業員が働くグローバル企業です。YKKのグローバル化とガバナンスについて宮村氏はこう述べます。

 

  宮村「YKKは創業期から海外進出をしていた。昭和40年代の当時はガバナンスといっても、そういう時代ではなく、また海外と連絡するのも容易ではなかった。国際電話は掛けられる状況ではなく、手紙か、少し経つとテレックス、ファックスがやっとの状況だった。その様な状況では意志の疎通はそう簡単ではない。現地の状況は現地が一番良く分かっている。いちいち本社に確認を取る手段も時間もないのだから、信じて任せるということが必要であった。YKKには社内の文化・風土として「信じて任せる」「一点も曇りなき信用」というものがあります。中央集権はせず、個社一社一社を大切にしているのです。

 

  宮村「基本的な考え方や思想・理念を教え込んで海外に行ってもらう。そうすれば必ず直面する課題に対して同じ判断をするはず。しかし、成功するとは限らない。失敗しても成功せよ、信じて任せる。おれが責任持つからとやらせる。YKKのガバナンスの根本は、こういう企業精神や理念、コアバリューというものが浸透し、理解されることでできている」

 

オーガニックなグローバル化と革命的なグローバル化の共通点、相違点

 

続いて平野氏から梯氏に質問が飛びます。「オーガニックにグローバル化していったYKKさんと、買収によりグローバル化を加速させた日本板硝子さん。どちらも製造業ということでは同じでも、全くパスが違う。今の話を聞いて共通点と異なる点は?」

 

「YKKさんには数十年単位で現地に関わる社員がいる。それを育成しているからできるのだろう。当社にはそういう人材が育っていなかったことがベースにある。ガバナンスに関しては、ピルキントンがイギリスの上場企業だったので、そのレベルは私たちの持っているガバナンス以上で、特に報酬については相当完成されていた。彼らから見ると、日本のガバナンスは遅れているし、考え方がかなり違う。任せきりという考え方はなく、グローバルでポリシーを持ち、標準作業書を持ち、それが遵守されているかをミニマムコントロールする仕組みで、監査チームが訪れてチェックし、しかもその上に監査委員会があるという形になっている。例えばメーカーなら、製造拠点は2カ所ぐらいだが販売拠点が世界中にある企業と、私たちのように地産地消で、オペレーションは30カ国ぐらいある企業とでは、グローバル企業といっても求められるものが異なると思う。YKKさんとの比較でいうと、オーガニックできたのかM&Aできたのか。この違いがあるのでは」

 

宮村氏と梯氏の話を受けて、平野氏から杉浦氏へコメントが求められました。

 

杉浦「日本の企業に特に多いのは、マトリックス経営ということで、横串で刺してガバナンスをきかせるということが増えてきているが、そこのガバナンスがとりづらい。そういった意味ではYKKさんは日本から進出し、日本板硝子さんはピルキントンの買収によりグローバル化し、全く違う手法だが、それぞれうまくいっている。事業部や国を越えてガバナンスを図る。グローバル大手企業に比べ、日本の多くの企業が不得手なところだ」

ローカルとセントラルの関係性の作り方の違い

 

  続いて平野氏から梯氏にローカルとセントラルの関係性について質問が飛びます。「YKKさんの場合は、徹底的に事業はローカルで考えてローカルにもっていき、それをサポートする思想。日本板硝子さんは、どうやってローカルとセントラルの関係性をつくっているのか」

 

「よく言われることだが、本社とローカルはパラドックスだと思う。白黒つけるようなものではなく、その割合は事業の性格や、市場のニーズに応じて作るものだと思う。建築用ガラスの分野では、元々ガラスは大きくて割れやすいため輸出が難しく、地産地消がある。顧客も各地の独自の文化慣習に根付いているので、今後も地産地消であり、マーケティングも地域ごとに違うという性格がある。一方、自動車用ガラスは、顧客が既にグローバル化し、グローバルな動きをしているので、建築用ガラスとは相当違うことになると思われる。マトリックスの話では、日本の企業には横串が増えているというが、特に横串が増えたのは人事。それはグローバルに通じる専門性がないからだ。しかし、長期安定雇用の国とキャリア志向の国の人事では、マネジメントの仕組みは違う。専門性があって、かつ違う部署の人も動かすようなリーダーシップスキルが求められるが、日本はそれが苦手。マトリックスは日本にはなじまないのではないか」

 

これを受けて平野氏は杉浦氏に「業種、業態によってグローバル化のありよう、組織の分権と集約の度合いは違うと思うがどうか」と、コメントを求めました。

 

  杉浦「業態、サービス、商品によって大きく違うが、プロセスが付加価値を生むかということが一番の起点になっている。付加価値を生むのであれば、ローカルでやればいい。付加価値を生まないQCTを求められるプロジェクトであれば、より安く標準化し、ローコストカントリーでデリバリーをするというような、統合、集約をするべきではないかと思う」

 

グローバル化における現在の目標、課題、組織のテーマ

 

続いて平野氏からグローバル化における現在の目標、課題、組織のテーマなどにつき質問が飛びます。まずは宮村氏に「グローバル化にとっての大きな目標や、グローバル組織のテーマはどうなっているか」と尋ねます。

 

宮村「目標は、基本的にはやはりどれだけの事業規模にしていくのか。YKKはものすごいシェアといわれるが、現在、年間に世界で消費されるジッパーは400億本と推定しているが、そのうちの20%しか販売していない。金額ではシェアは40%ぐらいとなるが、そういう意味でまだまだ成長できる。課題は販売量をいかに伸ばすか。どういう地域で、どうマーケティングをして、どういう所でお客様をつかまえるのか。それを供給できるだけの生産体制はあるのかが課題だ」

 

平野氏はさらに「グローバルな面での会計や人事は? それぞれの地域で締めて利益が決まり、それをグローバルで吸い上げてグローバルで再配分するのか、稼いだものはそれぞれローカルでやりなさいということか。また、将来ローカルで人材が育ったら、各地域の人材に任せるのか」と尋ねます。

 

宮村「YKKには『成果3分配』という考え方がある。それに準じて1/3は現地法人に、1/3はその地域に、残りの1/3はグループに還元する。人事に関してもグローバル人事制度に基づき、グループ全体に役割に基づく成果主義を適用している。現在、北中米のトップは現地の方で、YKKイズムを共有できれば性別・宗教・国籍・人種は関係ない」

 

続いて平野氏が梯氏に質問します。「ピルキントンを買収してグローバル化を一気に加速させ、目下の課題は?」

 

「比較的伝統的な建築用や自動車用ガラスで新しい事業を始めたり、新しい商品を出すことには、まだ積極的ではない。事業によって市場の声が、地域であったりグローバルであったりで違う。その中で付加価値を上げることに全体で取り組む。これについては本社機能で音頭をとり、マトリックスを使ってやっているのが現状。集権化か分権化かということでは、コストは少ないほうがいいので、集権化がいいのではないか。一方、顧客の声を反映するという意味では、分権化がいいのではないか。また、事業のなかでも、儲かっている間は地域に残すのもいいが、私どもは財務基盤が強固ではないので、キッシュマネジメントは集権化せざるをえない。緊急性のある件や、地域に任せているとなかなか進まない件に、いかに中央が関与していくか。そういうところも集権化と分権化の切り口だ」

 経営者は価値観の伝道者。企業理念の重要性を訴え続ける

 

  最後に平野氏は、杉浦氏に締めくくりの言葉を依頼しました。

 

杉浦「今回はマネジメントと組織という話だった。日本のお客様もM&Aによって、ますます巨大な組織になり、かつコスト削減をしている。デジタルパワーを取り入れ、co-operationとlow-cost operationに相互にレバレッジをきかせるようなことを、今まさにやろうとしている。日本の企業がこれらをいかに取り入れていくかがこれから重要になる」

 

 そして平野氏は、「今たいへん重要になっているのは、組織のソフトサイドの話。どういう人間を育てていくのか、幹部に上げていくのか。会社はどういう人を大切にしているのかをアピールすること。そして、大切にしている理念をもっと言い続ける。経営者は価値観の伝道者であり、それを共有した次の幹部もしっかりと伝えていく。グローバル化ではそれが国籍を越えて伝えられることが大切。グローバル化においてガバナンスやコンプライアンスをどうするのかというと、細かい、技術的な話に走りがちだが、実は、人が望ましい行動をし、望ましい判断をしていることが重要」と、パネルディスカッションを締めくくりました。

 

異なるグローバル化の過程を経た事例の比較から、グローバル化にあたってのガバナンスの構築のしかたは企業によって違うこと、その一方で、どの企業でも共通に大切なことは何かが見えるパネルディスカッションとなりました。