2018/07/04 (  水 )

New Business Creation Forum 2018 3rd

開催日:2018年 3月 20日(火)

New Business Creation Forum 2018 3rd

New Business Creation Forum 2018 3rd
イノベーション闘争時代の新事業創出
戦略的“つながり”“組織”のあり方から問う、その真価

開催日:2018年 3月 20日(火)
主催:株式会社ビジネス・フォーラム事務局

2018年3月20日、東京・赤坂インターシティ コンファレンスにて『New Business Creation Forum 2018 3rd』を開催しました。シリーズ3回目となる今回は、社内外の”つながり方”と”組織“の観点から、戦略的な新事業創出のあり方を考察していくものです。業種やライバルなどの垣根を越え、自前から連携への動きが加速する時代。今や形式的な連携活動も一巡し、その先の結果が問われています。ほぼ全ての日本企業があらゆる戦術を駆使し生き残りを掛けた新事業創出に挑む “闘争状態”の現在、いかに地に足のついた戦略的活動から、実際の成功へと導くか。この日に行われた講演やパネルディスカッション、そしてテーマにちなんで行われた参加者同士の様々な交流の模様を紹介します。

特別ゲスト講演1【変革する組織の新事業戦略】

パナソニックにおける「大改革」
~ イノベーションを“量産”し続ける組織へ ~

パナソニック株式会社 ビジネスイノベーション本部長 コーポレートイノベーション担当
パナソニック ノースアメリカ株式会社 副社長
馬場 渉

創業100年を迎えるパナソニックは、2017年4月より、「タテパナ」から「ヨコパナ」への大規模な組織改革とともに、IoT・AI技術を柱とした新事業創出や、外部企業との積極的な連携強化を進めるなど、まさに常識破壊の「大改革」を進めている。シリコンバレーに活動拠点を置き、パナソニック全社のイノベーションを牽引するビジネスイノベーション本部長の馬場氏が、イノベーションを生み出し続けるための仕組みと組織づくりについて語った。

タテパナで最適化された組織や風土をヨコパナで通す、
クロスバリューイノベーション

パナソニックは、創業100周年の今年、世界一の奪還を目指しています。これは、競争に勝つか負けるかということではありません。この20年の日米逆転の流れを非常に感じる中で、創業者・松下幸之助の考え方を実現するためには、とにかく世界一を目指さなくては駄目だと、入社後に覚悟したからです。

私がパナソニックに入って一番驚いたことは、競合の話を多くすることです。常に誰かと比べて自分を表現している。これではいけないと思いました。1位であることは、自分に責任がかかってきます。もちろん2位、3位の会社も同様です。そのように既に自立している会社はたくさんありますが、この会社はまず世界一を奪還しないと、創業者が考えてきたことに目が向かないだろうと思いました。つまり、競争に勝ちたいのではなく、そもそもパナソニックが生まれてきた形を取り戻すために、世界一にならなければいけないということです。

まず社内で「世界一を奪還するぞ」と話して、その方向性を議論しました。その結論が「タテパナ」から「ヨコパナ」だったということです。まず、タテパナは従来の形です。当社の場合は、テレビ事業部、ビデオ事業部のように製品ごとで区分した縦割りの事業部があります。これはモノを作るための全体のプロセスを最適化しようとすると、その括り方が一番適していたからだと思います。そして、これからはヨコパナです。世界一奪還の条件は、縦をより良くするために頑張るのではなく、横を通すということです。つまり、タテパナで最適化された組織や風土をヨコパナで通す、「クロスバリューイノベーション」です。戦略的な内製化を進めて、まずパナソニックが変わることを目指しています。外から見ると、多岐に亘る技術、業界向けソリューション、個人向けサービスなどさまざまなものを持っているのに、中に入ってみると、ほとんど縦割りで前進しないということは、どの会社にもよくあることだと思います。しかしまずそれらを横に通すことで、一枚岩となり、どこからアクセスしようがオールパナソニックになる、ということを我々は目指します。

スローでリスクを取らない従来型のプロセスではなく、スタートアップよりスピーディーでシンプルなプロセスという組織能力を持てば、外の企業やオープンイノベーションのパートナー企業にも魅力的に見せることができます。これが非常に大切で、当たり前のことだと思います。オープンイノベーションを成功させるためにも、まず自分たちが魅力的でなければなりません。

役職を捨てて役割を見つけるようになった、
スピード重視のプロトタイピング

事業部のヨコパナ化は、社内カンパニーで進めています。まず、パナソニックβという組織をシリコンバレーに作りました。この新しい空間では、全く新しい人の交わり方や仕事のプロセスにより、事業部のヨコパナ化に加え、職能のヨコパナ化も進めています。主に30歳前後の若い世代が90日間ここに来て、同様のプロジェクトに取り組むのです。さまざまな職種、職能の者たちが、事業部の所属を越えて一つの会社のように働く場とプロセスを提供しています。

パナソニックβで実現しようとしていることは、過剰な完璧主義からの脱却です。完璧にやるよりもすぐにやってしまうほうが、より完璧に近づきます。要するに、過剰なパーフェクション文化から、不完全を寛容する多試行の文化に変えているというわけです。形や仕組み先行の場合、有効性がどうかと言われる問題があるので、まずはやってしまい、パナソニックでも全く違うやり方でできるのだということを見せます。

「90日でできないことは2年かけてもできない」という表現がシリコンバレーではよく使われますが、90日というのは、一つの仕事を行うスピード感のパッケージとしてちょうどいいのです。30日でもなく60日でもなく180日でもなく、90日なのです。パナソニックβでは、全てのカンパニーからさまざまな職種の人が来て実際にモノを作りますが、ここではとにかく頭を動かす前に手を動かし、フェイルファースト(fail first)で、人間が触ったり見たりして感じられるモノをどんどん作っています。この方法で実際に出てくるモノの数も増え、スピードも従来の5倍から10倍ぐらい早まっています。

また、社員からも「これまで上司ファースト、関連部署ファーストだったが、ユーザーファーストになった」、「所属部門ごとの商品やサービスに限定された狭い思考回路から解放された」「最速で物事を進めるためのプロセスを考えるようになった」「職能や部門を超えたコラボであるヨコパナは、事前調整が大変だと思っていたが、ここではどんどん行える」という声をもらっています。そしてこれは結構大切なことなのですが、「役職を捨てて役割を見つけるようになった」という声もありました。要するに、「何々事業部でエンジニアをやっています」と言っても実際は意味を持ちません。自分が何者かを自問自答しながら、そのチームの中で貢献できる領域を見つけるようになったようで、これは非常に大きな成果だと思っています。

昔は、考えて仕様を説明して承認されてから作ったものが、ここでは、「まずは作ってみる」、「とにかく作って考える」ということを行っています。我々のような堅い大企業で、かつ今まで社内で横の繋がりもなかったような会社でも、さまざまな部署から人が集まって、きちんとしたコミットメントのもとで行えば、こういったことも3カ月くらいでできあがるのだと思っていただけばいいと思います。

我々のHomeXプロジェクトの取り組みも然りですが、とにかく作って考えることから始め、まずはモノを見て、走りながらそれをモデル化、汎用化し、抽象化していきました。その抽象化されたヨコパナの仕組みが、パナソニックβというわけです。但し、これが傍から見て「シリコンバレーで何か楽しそうにやっているらしいよ」というだけでは、会社全体は変わりません。イノベーションを量産化するために、これを全社に適用してバックするということを、今後もこのようなプロセスを通して進めていきます。


パナソニック株式会社
ビジネスイノベーション本部長 コーポレートイノベーション担当
パナソニック ノースアメリカ株式会社 副社長
馬場 渉


2017年4⽉パナソニック株式会社⼊社。ビジネスイノベーション本部副本部⻑コーポレートイノベーション担当として全社イノベーション推進を担う。2018年4月よりビジネスイノベーション本部本部長に就任。⽶シリコンバレーに拠点を置き、パナソニックノースアメリカ株式会社副社⻑を兼務。パナソニック⼊社前はSAP本社カスタマーエクスペリエンス担当バイスプレジデントとしてシリコンバレー・パロアルトに籍を置き、外部の⼤規模組織に対しデザインシンキングと最新テクノロジーによりイノベーション⽂化と実⾏能⼒を経営戦略として取り込むハンズオン型アドバイザリーに従事。公益社団法⼈⽇本プロサッカーリーグ(Jリーグ)特任理事。

特別協賛講演【新事業創出のための俯瞰解析】

俯瞰解析による未来予測×新事業戦略
~ 技術、市場、社会を分野横断的につなぐには? ~

VALUENEX株式会社 代表取締役CEO
中村 達生

 あらゆる情報が横断的につながる今、必要な情報をいかに適切につなぎ読み解くかが、異業種間の激しい競争を勝ち抜く鍵となる。自社のポジションを知り、次のビジネスチャンスとなる空白領域や適切なアライアンス先を発掘することは、まさに戦略的な事業創出を可能とするが― その未来予測は果たして可能か。代表取締役CEOの中村氏が、情報の俯瞰解析手法を紹介しながら、その実現に向けたポイントを語った。

高精度の俯瞰解析で、情報の関係性や重要度を正確にビジュアルで表現する

VALUENEX株式会社は、シリコンバレー、ヨーロッパ、そして日本に拠点を置きグローバルに活動しています。我々は、ビッグデータ解析によるPredictive Analysis(未来予測)をお客様へご提供しています。特許・知的財産をはじめとする大量のデータを可視化するのですが、これはあくまでスタートポイントであり、可視化した俯瞰図から顧客の課題解決に資する知見を得ることに重きを置いています。次に我々のツールで可視化した俯瞰図について説明します。新聞や論文など様々な文献情報1つ1つのデータをそれぞれ1つの「点」で表します。点と点の間の距離は類似性を表し、個々のデータがどれくらい近いか相対的な関係を視覚的にみることができます。類似するデータ同士の点は密集し、情報が異なるものは隔てるように配置します。各点の関係をいかに正確に表現するかということに注力しています。

我々は独自のアルゴリズムを用いて、数千から数万の各点を6000万次元という非常に高精細な精度で可視化します。ビッグデータ解析をする際は、これくらいの精度がないと正確な結果が出ません。過去に似たような解析を経験された方も多いかと思いますが、結果から知見を得られなかったことは多いのではないでしょうか。その要因の多くは精度が出ていないからです。我々は、高い精度を出すことで、結果をどう表現したらいいかということを粛々と行ってきました。

人間は、何か情報を理解するとき、テキストに落とし込んでから理解することが多いですが、これは逐次処理しかできません。一方、「見ること」はその逆で、パッと見て全体像が感覚的にわかりますが、やはり理解するためには一度テキストに変換しなければなりません。であれば、それらを組み合わせて、「テキストを見ること」ができるようにすれば、素早く全体像を掴むことができ、しかも内容が理解できます。これが情報を1枚の絵にまとめる“可視化”という考え方です。

では、このような俯瞰解析手法を用いて何ができるかについて簡単にご紹介します。人のネットワークを解析することで、誰が重要人物かわかります。またこれを応用して、魅力的なスタートアップを発掘したい場合には、世界中のスタートアップのデータベースを解析して、狙うべきスタートアップを探し出すことも可能にします。

未来の製品やサービスは、長い視点で俯瞰して組み立てていく

我々は、お客様が未来の製品やサービスとしてどういうものを作ったらいいかということを、エビデンスに基づいて組み立てていくお手伝いをしています。お客様から頂くお題としては、「2030年までに何を作ったらいいのか?」十数年後にゴールを置く課題が非常に多いです。でも我々はまず、「その先の2050年まで見るべきではないですか?」とお答えしています。その上で、一旦割り戻して2030年を見ましょうと提案します。そうすると必ず、「その時私は会社にいないから」「そこまで求められてはいないから」という応えが返ってきます。しかし、今我々に必要なのは、長い視点で物事を考え、そして今何をするのか、ということだと思っています。

では、実際はどのようにやっていくのか。まずは現実をきちんと見ることです。足元にある既存技術をしっかりと見るのです。大企業の場合はこれが「穴ぼこ」だらけなので、その穴にチャンスがないかということをまず探ります。次に、事業を3つに分けて考えていきます。1つめが先進事業、2つめが創造事業、3つめが未来事業です。先進事業は、ある意味、既存事業の応用事業です。今取り組んでいる事業をそのまま少し横展開をした時、どういう事業ができるかということです。続いて創造事業は、現在自分たちが持っている製品の技術、あるいは製品を作るための技術を利用して新たな事業を興すということです。

最後に、未来事業とは、今使っている製品の技術や方法論は一切使わず、会社としてチャレンジしがいのあるテーマのことを言います。つまりそこにマイルストーンを置いて向かっていくことで、2030年頃に副次効果が出る可能性があるという事業のことです。こういったテーマは実はあらゆるジャンルで存在していて、それを作れるか作れないかがとても重要だと思っています。例えば自分たちが今取り組んでいる事業があり、それを支えている重要なテクノロジーがあるとします。しかし、さらにもう一段掘り下げてみると要素技術が存在していて、その要素技術は全く異なる分野の事業でも使われていることがあります。そうすると、一見サービスレベルで見ると大きなギャップがあったり、全く関係ないと思ったりするような事業にも手が届くかもしれません。そして、これを俯瞰図で見るとより明確になります。「自分たちのやっているのはここだ」、「そこには地下水脈があって共通項の技術が根を張っている」、「もしかすると自分たちはこっちの領域まで手が届くかもしれない」、ということに気づきます。もちろん戦略は必要なので、自分たちで研究開発をして進むのか、アライアンスを組んでそこへ行くのか、それは戦略や考え方次第ですが、少なくとも自分たちの対象領域が広がるのです。このような考え方・手法は、新事業戦略を考えるのに役立つと思います。


VALUENEX株式会社
代表取締役CEO
中村 達生


埼玉県出身。1991年、早稲田大学大学院理工学研究科機械工学分野を修了後、三菱総合研究所に入社。コンサルティングに従事。可視化アルゴリズムや俯瞰解析ソフトウェアを開発し、知財調査・ビッグデータ・予測分析分野にてソリューションを展開。1994年から1998年まで東京大学工学部助手として勤務。三菱総研に復職後、2005年に工学博士を取得。2006年に膨大な情報を解析的に取り扱うことの必要性と意義を訴えてVALUENEX株式会社を設立、代表取締役CEOに就任(現任)。2014年2月米国カリフォルニア州メンロパークに現地法人を設立、CEOに就任(現任)。1年のうち約半分を海外にて活動。現在、早稲田大学理工学術院非常勤講師も務める。

特別対談セッション【大手企業×スタートアップの戦略的連携】

三井化学 × rimOnO の連携が起こすイノベーション
~ 戦略的連携を実現する、仕組みづくり ~

三井化学株式会社 常務執行役員 研究開発本部長
福田 伸
×      
株式会社rimOnO 代表取締役社長(元経済産業省 官僚)
伊藤 慎介

日本初の布製超小型モビリティの開発に取り組む、2014年設立のベンチャー企業、rimOnO。積極的なオープンイノベーション活動を進め、研究開発部門の改革に取り組む、大手素材メーカーの三井化学。両社は、2015年3月から共同のプロジェクトを行っている。大手企業とベンチャー企業の連携においては、世の中の成功事例も少ない中、上手く機能させる仕組みとそのポイントとはいかなるものか。三井化学 研究開発本部長の福田氏と、rimOnO 代表取締役の伊藤氏による対談で、それぞれの視点から、率直な意見と互いへの本音が語られた。

出会い、そして、熱量が一致して共同プロジェクトがスタート

福田:研究開発や新規事業については、「顧客起点のイノベーション」と「ソリューション力の強化」という2つを行おうとしています。rimOnOさんとの取り組みも、この2点の推進という視点から入っています。従来は、素材を提供して使って頂くだけでした。20世紀は新素材の時代で、用途はあまり考えなくても新しいものを作ればよかったのです。しかし今は、材料を作っていればいいという時代ではなくなってきています。ソリューション力を高めて材料の使い方まで提案する、そういう取り組みをしたいと考えています。そして、その実現にはコミュニケーションが必要です。従来であれば、営業担当が物性表を持っていって、「こんな素材があります」と見せればだいたい終わりでした。営業担当も研究担当も、お客様とのコミュニケーションが少なかったのです。しかし今回のような取り組みは、大企業だけではやりづらいのです。オープンイノベーションの形で、いろいろな外の力、ベンチャーの力を借りてやることになります。rimOnOさんに出会って、ではどうやろうかと共同で始めさせていただいたのも、このような背景からです。

伊藤:私は経済産業省に15年勤務して、自動車、IT、航空機など、様々な産業分野を担当してきました。そして、役所の立場からオープンイノベーションを推進してきた経験があります。今は電気自動車のベンチャー企業を経営していますが、経産省で最初に電気自動車に取り組むことになったときは、まだ自動車にリチウムイオン電池が採用されるかどうかという初期の段階でした。良い電池ができないと、電気自動車も燃料電池車もハイブリッド車も性能向上できないということで、開発目標を制定し国家プロジェクトを立ち上げました。騒音も排ガスも出ない電気自動車で、ライフスタイルを変えるような街づくりをもっと提案できたら、という思いがありました。

しかし、政府主導でオープンイノベーションを進めていくと、結果として数多くの会社が参加したとしても、皆さんが同じ熱量で参加しているかというとそうでもない。他社が参加しているからうちも手を挙げなくては、みたいな会社もあります。結果として予算の消化のために何となくプロジェクトを続けている形になっていって、そもそも仕掛けた私も人事異動になってしまう。このままではうまくいかないとの考えから、自らがリスクを取ってプレイヤーとして取り組むべきと思い辞職して起業したのが経緯です。

弊社が起業したのは2014年の9月ですが、プロジェクトに協力していただいている全社とも、起業した9月以降に出会っています。三井化学さんとの出会いは2015年3月です。当時、東京都が運営する神田のインキュベーション施設にオフィスがあり、雑居ビルにある古びた会議室に巨大企業である三井化学の研究者の方が自ら足を運んでくださりました。そのことだけでも驚くべきことですが、研究所からたくさんの材料サンプルを持ち込んでいただき、「こういう材料が新しいクルマに使えませんか」と提案してくださったところからスタートしています。

双方が全く新しいモノづくりにチャレンジできる、
Win-Winの関係性

伊藤:どうして三井化学さんは、我々と共同プロジェクトをやってくださったのでしょうか?

福田:先ほど申し上げたとおり、まず、素材メーカーとして素材を売っているだけでいいのだろうかという思いがあったからです。当面はいいけれど、モノを作って実際に使ってもらえるような形にすることをしないといけない、このままではいけない、と考えました。そうすると、一緒にそれをやっていただけるパートナーが必要になってきます。その時偶然rimOnOさんを知って、「まずは行ってみようじゃないか、話を聞こう」、そして「どうせ行くならいろいろなものを持っていこう」となったわけです。これはよく言われる話ですが、研究所から外に出ると何をしていいかわからない、どんな素材をどんな所に使っていいかわからない、ということがあります。もっと、どのように使えばどういうメリットがあるか、という「考えるモノづくり」をしようと。そういうマインドを育てることを、rimOnOさんにお手伝いいただいている。我々にとってこのプロジェクトはそういう位置づけなのです。

伊藤:うちのデザイナーやエンジニアは、自動車業界で使用実績のある材料や部材を使って新しい自動車や自動車部品を作るという経験はありましたが、材料そのものからチャレンジできる機会はなかったようです。rimOnOからすると、材料のレベルから挑戦できるということ自体が面白いことでした。三井化学さんの研究者の方々とのミーティングの場に行くと、「これはこういう風に使えませんか」、「これをここに使うのはどうですか」みたいなご提案が沢山あり、会議が非常にクリエイティブであり、「次の展示会までに試作品を作ってみませんか」など具体的な出口を目指すものになっていて、非常に面白かったです。作りたての試作品を宅配便で送ると壊れてしまうリスクがあるとのことで、わざわざ研究所の方が事務所に自ら持参していただいたこともありました。そこまでやってくださるという、「熱意」や「スピード感」に非常に感銘を受けました。そういう意味で三井化学さんは社内がすごくベンチャー的なのかなと感じました。

福田:他の大手企業の中にも、そういうマインドを持っている方は結構いらっしゃると思います。ただ、どうしても大きなマネージメントの中で仕事をすると、それをやることは難しいということがあるかもしれません。やはり1つは、「このままじゃいけない」ということと、もう1つは、それを「許容していく文化」。この2点がないと、どうしてもできないのかなと思います。当然、大きな会社は大きなマネージメントで動きますから、大きな製品に取り組む場合と、こういった取り組みの部分のマネージメントをどう分けるか。マネージメントの問題も多分にあるなと思っています。

互いが化学反応を起こし、そして連鎖反応へ
イノベーションの鍵は、「やりたい人に、いかに火をつけるか」

伊藤:三井化学さんと話をしていると、「それなら別の部署が開発している材料を使えないか聞いてみます」とか、「あのブースに展示されている材料で今度試作品をつくってみませんか」とか、自ら提案して頂くことが数多くあり、どんどん新しいことに挑戦しやすい文化が整っていて非常に羨ましいなと思います。スーパーマンが1人いて、その人が全部やる、みたいなイノベーションもあるのでしょうが、そのやり方だとスーパーマンがいなくなったら全て終わってしまう。もちろん三井化学さんにもスーパーマンがいっぱいいらっしゃると思うのですが、「スーパーマンじゃなくてもやれる」みたいな文化もあるように感じています。実はそういう文化こそ日本の大手企業が学ぶべきではないかと思うのですけれども、実際にはどのようにして文化を形成されているのでしょうか?

福田:非常に褒めていただいているのですが、社内的には実際かなり縦割りで、それが課題になっています。意外と研究所の中でも隣でやっていることを知りません。どうやって新しいことをやるかというと、残念ながら100%行き渡るのは難しいところがあります。そうすると、平等文化ではなく、「できる人、やりたい人を集めて、その人たちにいかに火をつけるか」。それに尽きるかなと思います。そういう意味で、rimOnOには着火剤になっていただいています。やりたい人は、いったん火がつくと、別に言われなくてもコミュニケーションをとるようになります。「人材的なもの」と、「いかに火をつけるか」。そういう活動が、一つのキーになっているのかなと思います。

伊藤:化学反応は励起状態(エネルギーが高い状態)にならなければ起きない。基底状態(エネルギーが低い状態)の人にオープンイノベーションをやれと言っても何も起きないと思います。やはり「励起している状態をどう作り出すか」ということがすごく大事だと思います。そして、励起された人たちが繋がっていくと、どんどん連鎖反応が起きていくのではないかと思います。研究者の方々が直接お客さんと触れ合う機会ができることによって、その方自身の中でも化学反応が起きているのではないでしょうか。BtoBの会社であってもBtoCの会社であっても、最終的には自分自身が消費者で、家族も友人もみんな消費者なので、消費者目線をちゃんと持てること自体がすごく大事であるような気がします。

福田:ある意味、自分の固定観念を捨てて、世の中を広く見てみる。それにより、お客様が困っていることをどうやったら解決できるのかというのを真剣に考える。そういうことなのだと思います。


三井化学株式会社
常務執行役員 研究開発本部長
福田 伸


1986年北海道大学工学研究科原子工学博士課程修了後、同研究科にて助手として勤務。その後、日産自動車株式会社宇宙航空事業部勤務を経て、1992年三井化学株式会社(当時三井東圧化学)に入社。マテリアルサイエンス研究所GL、複合技術開発部長、新材料研究センター長を歴任。2012年より新規事業創出を担当する環境・エネルギー事業推進室長、次世代事業開発室長を経て、2017年より常務執行役員・研究開発本部長。


株式会社rimOnO
代表取締役社長 (元経済産業省 官僚)
伊藤 慎介


1999年に通商産業省(現 経済産業省)に入省。自動車課では次世代自動車用蓄電池の技術開発プロジェクト設立、情報経済課ではスマートハウス、日本版スマートグリッドの国家プロジェクト設立、航空機武器宇宙産業課では国産ジェット機の国家プロジェクトに従事するなどの経験を経て、2014年7月に経済産業省を退官。同年9月に株式会社rimOnOを設立。2016年5月に布製ボディの超小型電気自動車”rimOnO Prototype 01”を発表。現在もオープンイノベーション型で開発を進めている。

特別ゲスト講演2【新事業を生む組織体制】

横河電機における戦略的イノベーション活動と組織体制づくり

横河電機株式会社 常務執行役員 兼 マーケティング本部長
阿部 剛士

計測、制御、情報をコアとしてグローバルに展開し、創業100年を超える伝統を持つ横河電機。同社では、グループ全体における中長期の経営戦略立案を担う「マーケティング本部」を設けており、R&D、オープンイノベーション、M&A、特許・知的財産など、イノベーション創出に必要なアセットを全方位的に網羅している。同部の統括を担う阿部氏が、ビジネス環境の変遷とともに、イノベーションを支える戦略的取り組みについて語った。

これまでとは全く違うスピードで変化する世界にどう対峙するか

まず、産業革命の歴史から振り返りたいと思いますが、第1次産業革命が起こったのが18世紀後半です。これは、手工業からの機械化へ変化した時代です。第2次産業革命は19世紀末で、電気・電力の時代です。第3次産業革命は20世紀末で、コンピューター・通信が普及し、世界がグローバル化しました。そして今、我々は第4次産業革命に突入しようとしています。ところで、過去3つの産業革命と第4次産業革命で大きく違う点は何でしょうか。それは、時間です。約1世紀間隔で起きていた産業革命とは、スピード感が全く異なります。

2015年にインターネットにぶら下がっていたデバイスは約150億台でした。2006年にはまだ約20億台だったそうですが、その後の約10年で7.5倍になったのです。そして、2020年には約750億台がぶら下がると言われています。また2006年にはインターネット人口は約10億人と言われていましたが、今は地球人口の半分ぐらいが“ネチズン(network citizen)”です。それに伴い、ビジネスも変化してきました。1950年から’70年はプロダクトレビュー、つまり物が重宝された時代なので、良いモノを作れば売れました。’70年から’90年はカスタマーオリエンテーションの時代です。’90年から2010年はブランドの時代で、ブランディングに力を入れました。そして2010年から現在は、モノからコトへ、バリュークリエイションの時代です。では、次はどうなるかと言うと、“コ・クリエイション”です。「自分一人では何もできないので、一緒にやりましょう」というのが、これからのビジネスの一つの形になると考えられます。

コ・イノベーションのための三位一体の組織づくり

こういった状況で我々は何をしているかということですが、まず独自の組織体制を敷いています。私が統括する「マーケティング本部」は、普通のマーケティングの部署とは少し異なります。具体的には、次期・中長期の事業計画立案、今まで取り組んだことのない全く新しい事業をつくるための「新事業開発」、R&D、イノベーションセンター、マーケティング・コミュニケーション、ブランディング、M&A、アライアンス、特許室、標準化、工業デザインなどをすべて配下に置いています。特に新事業開発とR&Dは、車の両輪のように動くことが期待されています。実は全て必要なアセットで、同じグループ内に無いとなかなか上手くいきません。これら全てを上手く同期させ、それぞれ同時並行して走れるような仕組みにしています。現在はこの仕組みをいかに高速で回すかということに注力しています。

続いて、イノベーションを走らせるための組織づくりです。企画するフェーズと開発するフェーズは大きく2つ、上流側と下流側に分かれます。従来は開発フェーズで発明・創出されていましたが、今はそれを企画フェーズで行わなくてはなりません。そのためには POC(Proof Of Concept)を行う必要があります。R&Dや工業デザインのチームが我々の部署にいるというのもこのためで、当然ここでもアジャイル型で開発を進めています。

今後は“コ・イノベーション”、“コラボレーション”をしていく必要があるので、お客様、パートナー、あるいはサプライヤーといった人たちと一緒に働くことが増えていきます。実際に我々でも、企業やアカデミアなどさまざまな分野の協業相手が増えてきました。こういった状況では、企画、開発、知財が三位一体となり、知財の視点でリスクヘッジをする必要があります。POCで、お客様にコンセプトを開示する前に特許出願を行えるというメリットがある。要するに、権利範囲の広い特許創出ができる可能性があるというわけです。やはり同じグループの中でこれらが行えているということは、アジャイル開発を推進する上でも非常に大きな強みになっています。

とにかく、”A VUCA World”のごとくこれからますます世の中は変わり予測が困難です。今年2018年はちょうど明治維新から150年目ですが、この150年の変化が社会に与えた影響と同じくらいの規模の変化が、次の15年で起こるでしょう。それらは一次関数(リニア)的に変化するのではなく、指数関数的に変化します。そして、BtoB市場も決して例外ではありません。今後はお客様の購買行動も劇的に変化します。それに対応するためには、組織としてデータ活用の必要性があります。

私は、「マーケティングエブリシング」と考えています。企業の中でマーケティングの存在意義がますます大きくなってくるでしょう。あらゆるコトをマーケティングすることになります。そして、いかに経営陣に意思決定に必要な情報を定量的に渡すことができるか、将来、顧客の購買経験と価値創出にどのようにつながるかどうかを指し示すことになります。まさにマーケティングの腕の見せ所ではないかと思っています。

あとは、内と外のリソースを再定義して、「何をやって、何をやらないか」ということをはっきりさせることが必要です。日本の企業は何をやるかを考えるのは得意ですが、「何をやらないか、何を捨てるか」を判断、整理することは苦手です。ただしこれをしないと、わけのわからないものがどんどん溜まっていきます。ですから、「自分が何を作って、何を買うか、そして何を捨てるか」、”Make or Buy”をきちんと決めていくことが大事です。これは、トップに限らず全ての人がやらなくてはいけないことだと思っています。


横河電機株式会社
常務執行役員 兼 マーケティング本部長
阿部 剛士


1985年、インテルジャパン株式会社(現インテル株式会社)に入社、2005年、同社マーケティング本部長に就任、2007年、芝浦工業大学専門職大学院 技術経営/MOT卒業、2009年、同大学地域環境システム専攻博士課程修了、インテル・アーキテクチャ技術本部長などを歴任後2011年取締役副社長 兼 技術開発・製造技術本部長に就任、2016年3月、横河電機株式会社に入社、マーケティング本部を統括、2018年3月に常務・執行役員、現在に至る。

協賛講演【新事業創出実践のための人材・組織戦略】

新事業創出を牽引できる人材、新事業が創出される組織文化
~ 人材開発・組織開発からみた事業創出のポイント ~

株式会社インヴィニオ 代表取締役
土井 哲

日本の大手企業では、既存事業を変革する資質を持つ人材の不足に悩む声が多い。そのような集団で、事業を立ち上げ成功させるには、資質ある人材の発掘と意図的な組織文化の醸成が不可欠となる。そこで、事業創造に向く資質とは何か、そのような人材をどのように発掘するか、そして事業創造向きの組織文化に変えることは可能か。代表取締役の土井氏が、人材開発・組織開発における実例を交え、その成功に向けたキーポイントを示した。

事業創造のために真剣に考えるべきは、採用、抜擢

今、大企業・上場企業を取り巻く資本市場の環境がとても変わってきていると感じています。つまり、旧来型の二酸化炭素を排出するような企業からは資金が引き揚げられ、新しいテクノロジーで地球環境を改善するような会社に対して投資をしていこうという流れになっています。そうした中で、日本企業にもさまざまな投資家から非常に強い要請があります。このような傾向は、日本企業にとっては良い機会だと思います。外圧を利用して社内を変えることは、日本人が得意とする所だからです。それを脅威ではなくビジネスチャンスと捉えて、新しい事業を立ち上げたり、技術開発を立ち上げたりすることができる機会だと思っています。

こうした流れがある中で、大きな組織で働く人の8割は安定志向だと言われています。つまり変化や成長よりも、維持や安定を望む人が圧倒的に多いということです。これでは新しい変化を起こそうとしても大半が潰されることになります。私は、80年代半ばくらいで既にイノベーションが止まっていると感じています。その時代に作られたイノベーションで現在も食べているということです。実際に、イノベーションの成功体験がほとんど無い人たちが、役員を占めています。45歳以上の人の思考特性、行動特性を変えるのは極めて難しいことです。そしてアイデアを出せと言っても「アイデア指向性」という動機が強くない人は、いくら言っても出てきません。「変化が激しくなっているから世の中に関心を持て」と言われますが、20年間やってきた結果、好奇心の開発はほぼ不可能と確信しています。動機や性格特性は簡単には変わりません。ですから、まず「採用」、「抜擢」を真剣に考えなくてはなりません。

そして最近強く感じるのは、大企業の方々の稼ぐことに対する関心が非常に薄いことです。上場企業は、株主から利益成長を求められているということを意識していないのです。これは根本的な問題です。事実、新しい事業を生み出し、新たな収益源を作った経験のある部長・課長層は極めて少数です。新卒採用時に伝えられるのは、福利厚生や働き方改革への取り組みであり、給与の源泉が利益であることは意識されていません。分業化が進んでいるので、自分の仕事が利益とどう関係しているのかがわからないということもあるでしょう。

また自分が失敗しても会社は潰れない、誰かがカバーしてくれる、という甘えもあります。自分の会社の利益について考えないので、当然お客様の会社の利益も考えません。(BtoBビジネスにおいて)顧客価値と聞いた時に彼らがイメージするのは、顧客企業の「担当者」が考える価値です。これを顧客企業の「経営層」が考えているかどうかは考えません。顧客価値を考える場合は、顧客企業の売上拡大につながるか、コスト削減につながるかということに限定してみてはどうでしょうか。

人を科学すること、利益意識を植え付けることが重要

皆様に申し上げたいのは、「人を科学しませんか」ということです。もし皆様の会社にイノベーションや事業開発に向いたハイパフォーマンスの人がいれば、その人の性格や動機特性を調べます。そして会社の中にどのくらいそれに近い人がいるかを調べる。その人たちを中心に、イノベーションなり事業開発プロジェクトなりをやっていくということが大切です。残念ながらそのような人がいないのであれば、「機会を与えて誰かにやらせてみる」ということを推進していく必要があると思います。

自社以外の会社がどうやって利益を上げているかを知る。まずそういうところから始めて、革新的な技術を出さなくても新しい事業モデルが作れそうではないか、と発想を広げるのも1つのやり方です。重要なのは、お客様の価値です。私たちは「マーケットダイブ」と呼んでいるのですが、まずは直接ターゲットとする顧客に会いに行くのです。そこで新製品や新サービスの提案をするという体験をしてもらいます。これまで付き合ってきたお客様ではなく、これから伸びそうなお客様、または顧客になりそうな会社で、グローバルベースで伸びそうなところはどこなのかを考えます。このような会社をいくつか挙げ、そこに無理やりにでも会いに行ってもらうということをしています。そこではアポイントメントを取るお手伝いもしています。このやり方は、無理やり成功体験を作ってマインドを変えるという方法なのです。

さらに申し上げたいのは、「利益意識を植え付けること」が非常に重要だということです。まずは、皆で普段からこのことについて会話をすることが重要です。それからお客様が上場企業である場合は、法人が顧客だと定義します。つまり、お客様は「担当者」ではなく「会社」だと思うことです。会社のリーダーである経営者が利益成長を求めているということを前提に、それにどう貢献できるかという視点で考える必要があると思います。これから伸びる会社とお付き合いをすると、さまざまなニーズが出てくるでしょう。そういった企業と付き合っていくべきだと考えます。

事業開発とかイノベーションは、残念ながら誰にでもできるわけではありません。従って、「そういう資質を持った人材を厳選すること」、「そういう人を探し出す努力」が大切だと思います。組織文化を一度可視化してみると、自分たちの会社はこうだったのかということが見えてきます。そのために、まずは問題点を把握することが重要だと思います。そこから組織文化を変え、人材をみつけ、新事業創出へとつなげていくのです。


株式会社インヴィニオ
代表取締役
土井 哲


東京大学卒業後、東京銀行に入行。MITスローン経営大学院にてMSを取得。マッキンゼーを経て、ベンチャー企業の経営者を支援するコンサルティング会社を設立。97年にインヴィニオを立ち上げ、リーダー育成・組織文化変革を通じて組織能力を高めるパフォーマンスディベロップメント事業を展開。大企業の新規事業開発プロジェクトに関わる。

特別パネルディスカッション【新事業戦略と組織の未来】

日本企業における
イノベーションの“妙薬“はあるか!?

パネリスト:
Yamaha Motor Ventures & Laboratory Silicon Valley Inc.
CEO and Managing Director(ヤマハ発動機株式会社) 西城 洋志
Honda R&D Innovations, Inc. CEO 株式会社本田技術研究所 執行役員  杉本 直樹
株式会社ジャパンディスプレイ 執行役員 CSO 兼 CMO 伊藤 嘉明
VALUENEX株式会社 代表取締役CEO  中村 達生
モデレーター:
一橋大学イノベーション研究センター特任教授
法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授  米倉 誠一郎

今や国内大手企業の殆どが新事業創出の必要性を認識し、その実現に向け試行錯誤を続けている戦闘状態の中、実際の事業、人、組織、そしてその先の未来創造につなげるための戦略とは――果たしてそこに“妙薬”は存在するのか。フォーラムの最後には、CVCの視点から、ヤマハ発動機 西城氏、オープンイノベーションラボの視点から、ホンダ 杉本氏、プロ経営者の視点から、ジャパンディスプレイ 伊藤氏、VALUENEX 中村氏の4名がパネリストとして登壇。一橋大学イノベーション研究センター特任教授 米倉氏のモデレートのもと、命題に対する白熱な議論が交わされた。

イノベーション創出に向けたそれぞれの取り組み

西城:ヤマハ発動機は、実は20年も前から新事業開発をやっています。目的は、マリン、モーターサイクルに続く第三の柱を作るということでした。しかし今なお2つの事業に対しての依存性が高く、結果が出ていないことが引き続きの課題でした。それは概ねシーズベースで、非常にオーガニックに、自前主義で行ってきた結果です。それなら、今までの方法にとらわれない、守りではなく攻めの新事業開発をやろうということでYamaha Motor Ventures & Laboratory Silicon Valley Inc.というCV(Corporate Venture)ユニットを作りました。現在は成長戦略にタイアップしながら、事業開発とベンチャー投資の2つをやっています。

杉本:ホンダがシリコンバレーにオフィスを作ったのは2000年です。そこから、2011年にシリコンバレーでプロトタイプぐらいまではできる体制を作ろうとHonda Silicon Valley Labに変え、2017年にはそのチームが母体になり今のHonda R&D Innovations, Inc.という会社になっています。我々は、ベンチャーが必要としているリソース、知見を提供し、彼らベンチャーと一緒に新しい価値を作っていこうという形で活動を行っています。その新たな価値は、お互いがフェアなパートナーとして共有していきます。ベンチャーが、その成果を使って新しい事業を立ち上げ、他の自動車メーカーにその技術を売り込んでいただいても構いません。当然ながら中身を理解していますので、我々はそれをいち早く商品化できます。そのタイムアドバンテージを、我々の優位性としています。

伊藤:ジャパンディスプレイは、簡単に言えば部品屋です。正直、元々のビジネス領域は狭いです。そこで、ここから脱却するために、これからはソリューションをどんどん作っていかなければならないと考えています。ディスプレイは、もはや全てのアクティビティへのインタラクティブな入り口でしかないと思います。そう置き換えた瞬間に、単なるディスプレイの部品屋から、エントランス(出入り口)を供給できるソリューション企業になれます。そういったテクノロジーを我々は確かに持っていますので、これらを使ってイメージを変えていく。今は、そんな第二の創業を目指しています。

シリコンバレーに行くことの意味、「人を育てる」ということ

米倉:シリコンバレーに出た日本企業には、新しいターゲットを狙うことや、シーズ段階のオープンイノベーションを行う動きは見られますが、私のイメージとして“新規事業”は多くは出てきていない気がします。「シリコンバレーに行けばなんとかなるのではないか」と思われていても、そうはならないという気がしています。実際、そのあたりはどのような状況になっているのでしょうか?

西城:目的次第だと思います。例えば、新しいアイデアに触れたいという目的であれば、その目的に応じた手段があると思います。私は、シリコンバレーに求めているのは新事業開発だと言っています。新しい事業を作り出すのはもちろんですが、事業を作るのは人ですし、技術を作るのも人です。我々がシリコンバレーでやることの一番の狙いは「人の活性化」、「人の再生」です。

日本のエンジニアは優秀だと私は思っています。しかし残念なことに、その技術を発揮する、実行する機会を失っています。その機会を作り出せば、日本のエンジニア、技術者、ビジネスマンは再生できると信じています。シリコンバレーのエコシステムを活用してそういう機会をどれだけ作り出し、どれだけの人が本当に成長して活性化するか、ということが私の狙いなので、その点ではシリコンバレーという場所は非常に使いやすいと思っています。

杉本:シリコンバレーは、やはり世界で一番ベンチャー投資が行われていて、世界で見ても稀なエコシステムが回っています。シリコンバレー以外でも世界中にそういう大きなエコシステムは出てきていますが、その中でもシリコンバレーは群を抜いています。ポイントは「何をしに行くか」です。そこに行けば何かネタが転がっていて、それを持ってきて本体に当てはめれば新規事業は一丁上がり、というように、簡単に新規事業が立ち上がるなら誰も苦労しません。新しい事業を起こすのはそんなに甘いことではないと思っています。我々もシリコンバレーでイノベーション活動をしていますが、どちらかというと、今の事業をガラッとひっくり返すイノベーションを提案したいというところが出発点です。

米倉:希望としてはそうですが、多くは希望自体が曖昧だから、大きな効果を生んでいないのではと感じています。シリコンバレーは凄いところです。それは150%間違いありません。でもそこに行けばなんとかなるということはないですよね。

杉本:やはり、「変わる」ということが大事です。自分が変わるということですよね。そういうコミットメント無しに、どう変えたいのかというビジョンもなく、行けば何かおいしい話があって、それを買ってくればいいという話ではないのです。そういうことをやろうとしているのでしたら、それは無駄金です。

西城:新規事業がものになるまで、10年はかかるわけです。その辛い時期も一緒にパートナーとして頑張っていかなければなりません。とはいえ、そこから学んで、自分たちも強くなるのだと思っていないと駄目だと思います。“おいしいとこ取り”しよう、とよく聞きますが、おいしいところなどありません。

米倉:そこで、「人を育てる」。そういう使い方はあるかもしれないですね。

伊藤:やはり、イノベーションの鍵は人だと思います。「中にいる人をどうするか」ということです。過去に2回も却下されている同じようなアイデアがあって、今それを私が拾って形を変えたり、いろいろやっています。そういうことをドライブする人間がマネジメント層にいるかどうかが重要だと思います。

日本の企業体が総じて弱いのは、変革に対する耐性がない点です。海外にイノベーションセンターを置くのは、外圧を利用するという目的もあると思います。どうやって外圧を味方にするかということが重要なのです。社内だけではどうしても言うことを聞きません。日本は外からのプレッシャーに弱いので、それがあったほうが回ります。それをプラスにするのです。

米倉:「違うチャンネルにつないでやればポテンシャルはある」というのが、皆さんの一致するところですね。しかし、それが“パワー”に変わるのはすごく難しいと思いますが、素晴らしいエンジニアや素晴らしいミドルマネージャーたちをパワーに変える方法についてはどのように考えていますか?

中村:技術と人は不可分だなと、よく感じます。我々は技術と人の両方を俯瞰解析からみて、エビデンスを持ってお客様と議論いたします。エンジニア、ミドルマネージャーたちをパワーに変えるにも、ある一点をみて述べたり、過去の経験など定性的な内容で議論するのではなく、俯瞰した結果をマクロからミクロまで俯瞰図に可視化すると、チーム、人それぞれのポテンシャルが定量的に見えてきます。これを実践するようにしています。

やるかやらないか、そして、失敗から何を学ぶか

米倉:日本企業の問題として、失敗事例をきちんと蓄積していないことがあります。なかったことにしようとするのです。やるぞと華々しく始めたが、「結果がどうだったか」を蓄積しないと、組織にとって知識になりません。組織の知識にするためには、「失敗してもいい」と口で言うだけではなく、ちゃんと書き留めておく。ナレッジバンクに入れておく。それが大切なことです。安易な失敗をしないようにするための、実にいいプラクティスになるという気がします。

西城:失敗から学ぶということは、私は最重要だと思っています。せっかくお金と時間を使って失敗したのだったら、そこから学ぶということですね。シリコンバレーでは雨後のたけのこのようにベンチャーが出てきて、そのうちの99%は失敗します。そしてシリコンバレーのコミュニティ全体で、その失敗を徹底的に解析します。「なんであいつらはダメだったのか」と。日本では、失敗したら次はそれをやらないだけで、失敗の解析をしません。しかし、シリコンバレーでは違うのです。屍の上を越えていく。ここに真髄があると思います。こういうエコシステムを、ヤマハの中に埋め込みたいと思っています。

杉本:「過去に何をやって、そこから何を学んだのか」が引き継がれることは大事ですね。人が代わると、学んだこともその人について行ってしまい、組織には残っていないということが多いですよね。そういう意味では、逃げずにシリコンバレーにずっといて、やはり「何を学ぶか」ということなのです。どう自分が変わるか。これを私たちは率先してやっていきたいと思っています。

伊藤:私は今回のお題に答えるとしたら、妙薬は「やるかやらないか」しかないと思っています。できるかできないかというのは存在しないと思っていて、やるかやらないかでやっています。人からもらった気付きは72時間しか続かないと言われていますから、気付きを72時間以内に消化して昇華をさせないと、次が無いと思っていますね。

中村:実は私も2006年に起業してすぐシリコンバレーに行ったのです。そして2014年にまた行きました。イノベーションという言葉は自分の中であまり意識したことはなく、人にもイノベーションという言葉はあまり使わないようにしていますが、継続することが、そのうち自分なりのイノベーションにつながるのではと思っています。

米倉:日本企業の現在の問題点は、低い利益率の割に内部留保型で、長期的な投資をしないことです。そういった点から考えると、日本企業のイノベーションの妙薬はあるのかというと、無いとなる。しかし実は、有るのかもしれません。まず、きちんと利益を上げるために何ができるのかを考えます。「やるかやらないか」でやってみて、そして失敗をしたら、ナレッジとして会社の中に蓄積する。決して、失敗したことを責めるのではありません。このような回転が始まれば、日本企業は価値のある企業体になっていくと思います。会社の中で失敗をした人を褒めて、それをナレッジとして蓄積して、また新たなチャレンジへ向かわせる。ぜひリーダーの皆様には、そのような人になってほしいと思います。


Yamaha Motor Ventures & Laboratory Silicon Valley Inc.
CEO and Managing Director
(ヤマハ発動機株式会社)
西城 洋志


九州大学工学部卒業後、ヤマハ発動機株式会社に入社。約20年に亘り表面実装技術とロボット事業においてソフトウェア開発、ソリューション開発および新事業開発に従事。2014年5月よりYamaha Motor Corporation, USA のNew Venture Business Developmentの部長となり、その時期にシリコンバレーのエコシステムを活用した新事業開発の企画・戦略立案を行う。2015年7月にYamaha Motor Ventures & Laboratory Silicon Valley Inc.設立し、ベンチャー企業への投資を含めた新事業開発活動を行っている。


Honda R&D Innovations, Inc.
CEO
株式会社本田技術研究所 執行役員
杉本 直樹


リクルートにて人事採用、営業担当などを経て、インターネットメディアの立ち上げに参画。1994年にUC Berkeley留学し、在学中に立ち上げたオンラインコミュニティを社内ベンチャー化。リクルート退職後は、シリコンバレーにてベンチャー投資コンサルタント等の後、2005年にホンダのCVCに参加。2011年にCVCをオープンイノベーションラボに改編し、コラボレーションを通じた新商品・新事業提案を推進。2017年、Honda R&D Innovations, Inc.を設立しCEO(兼 本田技術研究所 執行役員)に就任。シリコンバレー在住23年。東京大学工学部卒業。UC Berkeley MBA修了。


株式会社ジャパンディスプレイ
執行役員 CSO 兼 CMO
伊藤 嘉明


日本コカ・コーラ、デル、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント(SPE)、ハイアール グループなどのグローバル企業にて、経営陣としてブランド認知度の向上、業績回復、シェア拡大、売り上げ新記録樹立等、事業再生を手がける。 2016年にはX-TANKコンサルティング株式会社を設立し、現在も代表取締役社長を務め、また2017年よりジャパンディスプレイに参画し、CSO兼CMOとして経営再建に携わる。


一橋大学イノベーション研究センター特任教授
法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授
米倉 誠一郎


イノベーションを中心とした経営戦略と組織の史的研究が専門。『一橋ビジネスレビュー』編集委員長、およびアカデミーヒルズの日本元気塾塾長でもある。ハーバード大学歴史学博士号取得(Ph.D.)。2012年よりプレトリア大学日本研究センター所長・顧問を兼任。著書は、『オープン・イノベーションのマネジメント』(有斐閣)、『創発的破壊 未来をつくるイノベーション』(ミシマ社)、『2枚目の名刺』(講談社+α新書)、『経営革命の構造』(岩波新書)の他、近著に『イノベーターたちの日本史:近代日本の創造的対応』(東洋経済新報社)がある。

参加者の声

・特別ゲスト講演Ⅰ> パナソニック 馬場 渉 氏
✓ タテの強さに自組織も悩んでいるので、ヨコパナの具体的取り組み、
  次の100年に向けたアーキテクチャの構築が大変参考になった。

・特別協賛講演> VALUENEX 中村 達生 氏
✓ 30年先(長期予測)からバックして新商品を考えることが大切だと感じた。
  情報の可視化から戦略を見いだす手法に興味が湧いた。

・特別対談セッション> 三井化学 福田 伸 氏 × rimOnO 伊藤 慎介 氏
✓ 両者の素朴なディスカッションや提言が面白く、大企業とベンチャーの協業の様子がリアルに実感できた。
  新事業に至る情熱、それぞれに人が集まる背景など、非常に興味深く参考になった。

・特別ゲスト講演Ⅱ> 横河電機 阿部 剛士 氏
✓ 企業におけるマーケティングのあり方が明快に理解できた。
  知財担当を交えたイノベーション推進も参考になった。

・協賛講演> インヴィニオ 土井 哲 氏
✓ 人はまず選抜するということ。迷っていましたが、そこは冷徹になれということかと思いました。
  人材育成の重要性、痛い所を突かれました。

・特別パネルディスカッション>
✓ 本質課題が共有出来てよかった。最前線で、本気でやっている人達の本音の声を直に聞けた事が、
  非常に価値が高かったと感じた。それぞれの方々の視点も違い、大変勉強になった。
✓ ミドルマネジメントとしての必要な動きを、いろいろ学ばせていただきました。
  72H以内に消化してしまいたいと思います。

・フォーラム全体を通して
✓ 具体的な取り組み内容を聞けて有意義であった。
  スピード、顧客価値、作って見せるなど共通のキーワードを見ることができた。
✓ 講演者が言いたいことをかなりホンネで語ってくれたのが良かった。
  「スピード、手を動かす、やってみる」、当たり前のことを再考させられた。
✓ 参加者同士のネットワーキングの仕組みが大変充実しており、有り難かったです。
  多くの企業様が共通の課題をお持ちであることを知る機会でした。

当日の様子

<ネットワーキングランチ>

<マッチングボード>

参加者の属性

<参加者の属性>

 

企画者からの御礼

この度は「New Business Creation Forum 2018 3rd イノベーション闘争時代の新事業創出 ~戦略的“つながり”と“組織”のあり方から問う、その真価~」 に多数ご来場を賜り、誠にありがとうございました。

当日ご来場いただきました皆様には、議論へのご参加のみならず、参加者同士での課題共有や実際のオープンイノベーションの場としても、終日に渡り積極的なご協力をいただきましたことで、大変熱気溢れる一日となりました。 不確実性と変化の時代、「新事業創出」という最優先の経営課題に、妙薬はあるか。当日の講演や皆様同士の交流の中で、皆様の課題解決へ向けたヒントを少しでもお持ち帰りいただき、その挑戦の一助となれば幸いです。

ビジネス・フォーラム事務局では、今後も皆様の課題解決のヒントとなるようフォーラムを企画してまいります。 企画・テーマ等にご希望・ご意見がございましたら、ぜひこちらまでお寄せ下さいませ。

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改めまして、この度、本フォーラムにお力添えをいただきましたご講演者の皆様、ご協賛社の皆様、そしてご参加いただいた皆様に、この場を借りて心より御礼を申し上げます。誠にありがとうございました。

株式会社ビジネス・フォーラム事務局
プロデューサー 高田 紗生