CDO Interview vol.9

日揮株式会社 執行役員 CDO 花田 琢也 氏

2018/10/02 (  火 )

CDO Interview vol.9

・人事担当であり、CDOでもある立場から組織を変えていく

・企業の変革は IT と人事部門がリードする時代

・デジタルを通して会社を見通し、マインドセットを変えていく

 

 

日揮株式会社 執行役員 CDO
花田 琢也 氏

 各種プラントのEPC事業(Engineering=設計、Procurement=調達、Construction=建設)を行う日揮株式会社は、2018年4月、複数部門に存在したIT部門を統合し、データインテリジェンス本部を設置。2030年の日揮のあるべき姿を想定し、そこからバックキャストしてAI 、IoT などを踏まえた日揮のIT戦略を「グランドプラン」として策定すると共に、デジタライゼーションを通した業務変革を社員一丸となって推し進めています。人財・組織開発部長であり、データインテリジェンス本部長でもある、CDOの花田氏への神岡太郎教授によるインタビューです。

 

まず、花田様がCDOになられた経緯をお聞かせください。

花田:日揮に入社して、初めはオイル&ガスのプラントの仕事に携わっていました。その後、オイル&ガス分野だけでは企業としてのサステナビリティに大いなる課題を感じて、適応できる分野を広げていこうと、ビジネス開発の部門に移り、自動車会社にも出向しました。その後、NTTコムウェアとのジョイントベンチャーで、製薬会社等のライフサイエンス系研究者向けのB to Bの調達サイトを運営する「トライアンフ21」を立ち上げ、初代社長に就任しました。その後、海外エンジニアリング子会社の立ち上げに関わり、JGCアルジェリアの社長に就任しました。2012年に日本に戻り、オイル&ガス統括本部プロジェクト部長に就任、国際プロジェクトを任されることに。事業開発本部長になったのが2016年です。2017年7月、経営トップから人財育成に取り組んでもらいたいと要請を受け、当社で初めてのエンジニア出身の人事部長(人財・組織開発部長)に就任しました。2018年1月には、人財だけではなく、立ち遅れているITも会社としてなんとかしなくてはいけないということで、4月に社内のIT部門を統合したデータインテリジェンス本部長、併せてCDOに就任しています。

実は、データインテリジェンス本部の設置には伏線があります。2017年秋、当社の経営トップが海外のお客様を訪問した際、「日揮はIoT 、AI、デジタライゼーションに取り組んでいるか? この領域を進化させて現在の半分の人間で現在の倍のスピードでプロジェクトを遂行できないと、あと10年経ったらダイナソー(恐竜)になる、即ちマーケットから追い出されるぞ」とアドバイスをいただいたのです。当社は製造業のようなマーケットイン的な業種ではなく、プロダクトアウト的な業種です。また当社のようなエンジニアリング会社に限らず、多くの会社で「何かやらないといけない」が、なかなか実際には一歩が踏み出せない。ところがその時に、黒船なるものが来襲して変わらざるを得なくなることが良くあります。そういったお客様の声をチャンスとして受け止めて、変革しようとしています。

 

CDOとして、会社をどのように変えていこうとしていますか?

 

花田:データのトランスペアレンシーと言いますか、これだけデータが見える化されてくると、5年、10年先には、お客様が我々のデータを見るようになってきます。完全にお客様と同じデータを見て、さあ右に進むか左に進むかということを同じレベルで判断する時代がやってきます。少なくともメジャーオイルに代表される海外のお客様から、早々に、そういった要求が来ると思います。その時、本当の我々のバリューが果たして何なのかを、しっかりと見える化しておかないといけません。

これまではどちらかというと、「鉱山があって、その中に金やダイヤモンドがいっぱい詰まっています。これを掘り出してカットすればいいので、とりあえずそのまわりの土も含めてダイヤモンドを1キロ分買ってください」。という傾向が強かったと言えます。しかしこれからは、本当に宝の部分、バリューをしっかりとビジネス化して、そこでしっかりと我々が対価を得る。このような形に変えていかないといけない。そうなると、今までの業務をそのままシステム化したのでは、また鉱山、山自体を作るようなことになります。他の産業にも通じることですが、今こそ企業の変革は IT と人事部門がリードする時代だと思いますから、業務の棚卸しをして、しっかりと見える化していくことが私のミッションだと思っています。

いくらデジタルと言っても、人が変わらなければ、会社は変わらないと思うのですが、どのようにお考えですか?

 

花田:私が人事部門長になってから、ソーシャルスタイルをマトリックスにしたものを用いて、一人ひとりをしっかりと掴んでいく取り組みをしています。エンジニアリング会社のさまざまな業務に対しての適正を見るのです。ソーシャルスタイルのマトリックスは、横軸に思考の開放度が高いか低いか、縦軸に感情の開放度が高いか低いかを置いて、各人がどの位置にあるのかをプロットします。低いからといって悪いわけではありません。例えば思考の開放度も感情の開放度が低い人は研究者に向いていたり、両方ともオープンな人はセールスに向いていたり。このようなソーシャルスタイルの中で、実際に当社の中でのいろいろな業務の特性を踏まえて、どのような部門や業務に適しているかを分析します。

 

ソーシャルスタイルのマトリクス

例えば1000人いたら1000人を同じように育てることは絶対にできないので、その特性、適正といったパーソナリティを一人ひとりしっかり掴んで、本人に「ここを目指したい」という目標があれば、キャリアパスとして何か施さないといけない。勘と経験と度胸だけで人事制度を回す時代ではないとの考えで取り組んでいます。人と人とがしっかりと把握し合って目標の共有化を図って人財を育成していく。ここはITの高度な技術を駆使したとしても、やはり難しいと感じます。

人には自燃型つまり自分で燃える人、可燃型の人、不燃型の人、そして消火型までいると思っています。不燃型をどうやって可燃型にしていくか。さらに可燃型の人をどうやって自燃型にしていくかというところが一番重要で、ここはやはりマインドセットになります。人事部門長的なアダプティブな要素が、CDOには重要だと思っています。

 

どのようにマインドセット、意識改革を進めていくのでしょうか?

 

花田:変えていくためには、リーダーシップが絶対に必要です。2度の社長職経験を通じて感じていることですが、リーダシップにもいろいろなタイプがあります。ビジネスの黎明期には、コマンディングリーダーシップが必要だと思います。朝令暮改も結構、間違えてもいいから、とにかく前へ進む。そして、程よく成長期になってきたら、各々の機能の調和を上手に演じるオーケストレーティングリーダーシップです。最終的に安定期になったら、それぞれの主役がバリューを発揮しやすいような環境を造れるサーバントリーダーシップだと思います。

そういった意味では、当社におけるデジタル系は他業種と比較して遅れているとの見方もあるので、コマンディングとオーケストレーションのちょうど間ぐらいと言えます。今後、みんなのマインドセットがしっかりとできるようになってくると、本当の意味でのサーバントリーダーシップが発揮できます。当社におけるITの世界は、事業部門に代表されるユーザ部門が主役でIT部門はやはり脇役、いわば神経系統です。デジタルトランスフォーメーションに代表される改革の中で、IT部門はサーバントリーダーシップを目指していきたいというのが、今、私の望むことですね。

 

後編では、日揮のIT戦略となるグランドプラン、CDOのあるべき姿、求められる資質などについてお聞きします。後編はこちら。

【企画・編集責任者】
ビジネスフォーラム事務局 プロデューサー 進士 淳一