CVC Interview vol.3 後編

Yamaha Motor Ventures & Laboratory Silicon Valley Inc. 西城 洋志 氏

2018/06/21 (  木 )

CVC Interview vol.3 後編

ポートフォリオ的に物事を捉える

お金を積むのではなく、それ以上の魅力を出す

ベストプラクティスは探すな、創れ

Yamaha Motor Ventures & Laboratory
Silicon Valley Inc.
CEO and Managing Director
(ヤマハ発動機株式会社)
西城 洋志 氏

ヤマハ発動機株式会社がシリコンバレーに新たに設立した、新事業開発、ベンチャー企業への出資検討、新たなビジネスモデルの開発などを行う新会社、Yamaha Motor Ventures & Laboratory Silicon Valley Inc. のCEO兼Managing Director、西城洋志氏へのインタビューの後編です。これまでの感触やスタッフ採用、CVCを考えている方へのメッセージを、樋原准教授が聞きました。

BD(ビジネス・ディベロップメント)とCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の機能を並行してやってらっしゃいますが、が今までやってきた感触はどうでしょうか?

樋原: BD(ビジネス・ディベロップメント)とCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の機能を並行してやってらっしゃいますが、が今までやってきた感触はどうでしょうか?

西城:私たちは出資、投資が目的ではなく、あくまでも新しい事業の開発、事業機会獲得のためにお金を使いますので、BD とCVC を絡ませたのは正解だったと思います。ただ、BDとCVCとでは必要なタレントもとるべき行動も違うので、バランス感覚が難しいところです。日本企業は、1件ごとの投資でフィナンシャル・リターンとストラテジック・リターンの両方を見ようとしますが、ポートフォリオ的に物事を見ることが重要と思います。特に日本の仕事の仕方には、ポートフォリオという概念があまりないと思います。

CVCと言うと、「失敗している」とか「成功している」とかの議論が見られます。しかし、外の人からではそれは分からないはずです。目的がそもそも千差万別で全く違うので、1つの指標では測れません。コーポレートベンチャリングでベストプラクティスをなかなか言えないのは、明確な目的とリターンの1対1の関係がないからだと思います。私は失敗や成功という言葉で語ると本質を見失うと思います。敢えて言うとしても、成功というのは、もっと後になってから分かることです。

ヤマハ発動機はモーターサイクルの会社、エンジンの会社でやってきました。でも、シリコンバレーに行って「ヤマハ発動機は非連続的なところを探しています」と言ってみると、結構、当社としてもやりたいと思えることがあった。それを発見できたということと、なおかつ、実行可能な手段でやろうと思えばやれそうだということが分かった。これだけでも十分な価値があったとこれまで3年間やってみて思っています。それもあって、2030年までの長期ビジョンとしてこの方向に行こうという議論も進んでいます。自分たちでも、「ここまでしかできない」とちょっと諦めたことに対して、「できるかもしれない」と思えるようになったという微差の発見が、大きな価値かなと思っています。

本社との連携や役割分担はどのようになっていますか?

山本:本社との連携や役割分担はどのようになっていますか?

西城:シリコンバレーチームは案件のソーシングとインキュベーションの役割をしています。案件がある程度形になってきたら、日本のチームも参加して専任チームが作られ、グロース・ステージに入ります。タネを生み出すところと、出てきた芽を育てる部分を分けていて、私たちはタネを作り出すところを担当しているわけです。そこから後になると、コア技術や量産が必要になってくるので、日本に任せるという、時系列的な役割分担をしています。早く動いて不確実なものに手を突っ込むところはシリコンバレーが得意なのでこちらで。ある程度ソーシングされたら日本側です。インキュベーション・ステージとグロース・ステージでは、必要なものが全く変わってくるので、そこを分担しています。

目的は事業開発なので、出資した後に彼らから学んで、私たちなりに仮説を立てていきます。事業開発のうち、マーケットがUSであったり、USで行ったほうが速いものは、一度日本に任せた後にもう一度USに持ってくることもあります。USで全部やってしまうと糸の切れた凧になりかねないので、1回きちんと日本側に任せる。それが大事だと思っています。

樋原:それはおっしゃる通り重要な視点ですね。スタッフ全員を現地で雇っているということですが、リクルーティングはどのようにされたのでしょうか? 日本の大企業が困るところだと思いますが。

西城:シリコンバレーのそれなりにタレント・キャリアのある人だったら、職には困りません。真に実力のある人が求めているものは、非常にエキサイティングな成長機会だと私は思っています。私は彼らをリクルーティングする時に、「俺はダイナソー・ダンシングがしたいんだ。恐竜を踊らせるんだ」と言いました。巨象も踊ると言いますが、「ヤマハ発動機はそんなレベルじゃない、恐竜なんだ。恐竜をダンスさせるぞ」と言ったんです。そこに私のビジョンとして、「ヤマハ発動機は63年前に楽器のヤマハからスピンオフした会社、楽器から発動機に大きくジャンプした会社だ。60年経った今こそ第3のヤマハを作る時だ」。そして、日本企業のいいところはこういうところで、シリコンバレーから学ぶべきこととしてこういうところがあるので、それをやりたい。そのためには君たちの力が必要だという話をしました。

そうしたら彼らも、「日本企業も本当はポテンシャルがあるのにできていなかった」と言うんです。私が採用した1人は、日本企業で何回も働いて、「二度と日本企業では働かない」と決めていたそうです。日本企業は優秀なのに、リスクを取ろうとしないし、新しいことはやらないからです。そこで、なぜ当社を受けたのかを聞いたら、本気で3つめのヤマハを作るみたいな大きなビジョンを持って、やれそうもないのにやろうとしているやつがいる。それは自分の時間を使う価値のあるミッション、プロジェクトであると感じたと言ってくれました。ですから、お金を積むのもいいと思いますが、それ以上の魅力を出す。これをやり遂げたらすごく楽しい、嬉しいという、機会の提供が大切だと思います。その結果、現在リードパートナー2名(ジョージ、アミッシュ)を含む5名がメンバーになっています。

スタートアップへの投資や新規事業開発では、日本の判断を待っていられないという場合もあると思うのですが、その部分の独立性についてはどうでしょうか?

樋原:スタートアップへの投資や新規事業開発では、日本の判断を待っていられないという場合もあると思うのですが、その部分の独立性についてはどうでしょうか?

西城:ローカルで権限を持たないと駄目だと多くの方から言われたので、私もそうかなと思っていました。しかし、前に申し上げたように、経営陣が「世界を知らずに判断していた。彼らから学ばなければいけないんだ」と言ってくれたので、案件はすべて経営会議を通しています。そこは当社のユニークなところです。最初の2つの案件は、10日間でOKが出ました。経営会議を通しているのに、10日で決まったのです。経営陣が根性を見せてくれて、「俺たちは速く判断できるぞ。お前たちが速い判断を必要とするなら、俺たちは速く判断してやるぞ」というのを見せてくれたんです。その時、必ずしもローカルで権限を持たなくてもいいと思いました。経営陣が学びたいと言ってくれたことを嬉しく思ったので、私は喜んで提案します。そうすることで、経営陣がもっと世の中を詳しく知ってくれて、分からないことを分かるようになってくれる。その方が私たちの目的にかなうので、現時点ではローカルでの出資意志決定権限は持っていません。

シリコンバレー以外のグローバル市場をどう捉えていらっしゃいますか。今後の展望も含めて教えてください。

山本:シリコンバレー以外のグローバル市場をどう捉えていらっしゃいますか。今後の展望も含めて教えてください。

西城:端的に言うと、シリコンバレーは完全にオーバー・バリュエーションの状態です。ファイナンシャル・リターンとストラテジック・リターンの両方をメインテーマにすると、かなりファイナンシャル・リターンがきつくなってきています。そんな状況なので、通常のVCが手控え始めている。シリコンバレーの案件が少し弱っている傾向にあります。

一方で、各地域で特色を持ったベンチャー・エコシステムができ始めています。ですから、ある目的をもって別の地域に行くことは考えています。テルアビブはテック・ソーシングに非常に向いている場所です。それが目的であればテルアビブもいいでしょう。もう少し軽いビジネスだったらシンガポールです。私たちが見てみたいのはオーストラリアとニュージーランドです。農業用オートメーションをテーマにした時に、南半球と北半球の両方に拠点を持っていると、1年に2回トライができることが大きなメリットです。

樋原:オーバー・バリュエーションはそうかもしれませんね。しかし、CVCがストラテジック・リターンを重視する場合、VCほどはセンシティブにならなくてもいいかもしれません。最後にこれからCVCを考えている方にメッセージをお願いします。

西城:シリコンバレーから見た時、日本のベンチャーは、‟日本を”とか、‟日本で”とか、日本を見すぎていると感じます。もう1つは、チームがほぼ日本人だけで構成されている。そうすると、多様性とかグローバルという視点で見た時に、少し線が細い感じがします。自分とは同質じゃない、異質があることを担保した多様なチーム構成が重要だと思います。よく分からないことをやっているのですから。

それから、ベストプラクティスは探さない。自分で創る。それを念頭に置くほうがいいと思います。いろいろな人がやっているからそれに倣うのではなく、そこから考えて自社なりの戦略、プラクティスを作ると考えたほうがいいと思います。

樋原:貴重なお話をありがとうございました。

樋原先生が講師を務める「樋原塾」の開催が決定いたしました。


 

Yamaha Motor Ventures & Laboratory
Silicon Valley Inc. CEO and Managing Director
(ヤマハ発動機株式会社) 西城 洋志氏

九州大学工学部卒業後、ヤマハ発動機株式会社に入社。約20年に渡り表面実装技術とロボット事業においてソフトウェア開発、ソリューション開発および新事業開発に従事。2014年5月よりYamaha Motor Corporation, USA のNew Venture Business Developmentの部長となり、その時期にシリコンバレーのエコシステムを活用した新事業開発の企画・戦略立案を行う。2015年7月にYamaha Motor Ventures & Laboratory Silicon Valley Inc.設立し、ベンチャー企業への投資を含めた新事業開発活動を行っている。

インタビューアー:
樋原 伸彦 氏

1988年東京大学教養学部教養学科(国際関係論)卒業、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。世界銀行コンサルタント、通商産業省通商産業研究所(現・経済産業省経済産業研究所)客員研究員、米コロンビア大学ビジネススクール日本経済経営研究所助手、カナダ・サスカチュワン大学ビジネススクール助教授、立命館大学経営学部准教授を経て、2011年から現職。米コロンビア大学大学院でPh.D.(経済学)を取得。専門はファイナンスとイノベーション、特にベンチャーキャピタル、コーポレート・ベンチャー・キャピタル、エコシステムなど。

担当:
ビジネス・フォーラム事務局 プロデューサー 山本 沙紀

立命館大学にてベンチャーファイナンスを専攻。サービス系ベンチャー企業を経て2013年ビジネス・フォーラム事務局に入社。New Business Creation Forum企画考案・企画者。他、人事系・製造業など幅広く企画を担当。