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CDO Interview vol.8

 



・時代のデジタル変革に先駆けるため、自ら変化を仕掛ける

・CDOは、日本の産業が世界をリードする鍵となる

 

富士フイルムホールディングス株式会社 執行役員 CDO
依田 章 氏

富士フイルム株式会社では、高度なICT化に対応した情報基盤技術の強化と応用拡大を図るため、情報科学の最先端技術やソフトウエアの基盤技術の研究開発を行うインフォマティクス研究所を2016年4月に設立。2016年10月には、ICT戦略推進室を設け、全社を挙げて横断的なデジタル変革に取り組んでいます。その旗振り役となる、CDOの依田氏への神岡太郎教授によるインタビューです。

 



まず、依田様がCDOになられた経緯をお聞かせください。

 

依田:私がCDOになったのは2017年10月です。 デジタル化で写真フィルムの需要が減少し、経営改革を行ってきた当社としては、経営トップを含め、情報化社会の進展に対して強い関心があります。そのことからも、会社の本業に対するインパクトも含めて、将来をしっかり見ていかなければならないと考えています。

 

 富士フイルムでは、インフォマティクス研究所を設立した2016年4月より情報化社会の進展に備えて何をすべきかを考えた結果「研究部門だけではなく全社を挙げてデジタル変革に取り組まないといけない」と認識し、当社にもCDOを設置しデジタル変革を推進する事になりました。 その際に、インフォマティクス研究所長でもあった私が 最初のCDOを担う事になりました。

 

 

御社はテクノロジーをベースにさまざまな製品を開発されてきましたが、組織や技術も含め、変革を加速させるのはCDOの仕事とお考えでしょうか?

 

依田:その通りです。時代の流れ、新しい技術、あるいはインフラなどの変化、それらに応じて当然のことながら企業も変わっていきます。大事なことは、“その変革のスピードよりも企業が少なからず先行し、自分たちが仕掛ける側になっていること”です。世の中の変革のほうが先に行ってしまって、後からどうしようかとなると、やはり苦しいと思います。情報化社会の進展の中で自社の組織・技術の変革のスピードを速める事はCDOの大事な仕事の一つと思っています。当社は写真撮影がフィルムからデジタルに変わるときも「いずれフィルムに代わって固体撮像素子(イメージセンサ)で写真が撮れる時代になる」との予測のもと、デジタルカメラの開発を進め1988年に発表しました。2000年から2010年にかけてフィルム需要が急速に減少し、写真撮影がデジタルに置き換わりましたが、それより10年以上前に、当社としては仕掛けることができていました。

テクノロジーを利用したビジネスやサービスを作る以外に、会社全体を変えていくことがCDOの大きな仕事と思いますが、その点についてはどうお考えでしょうか?

 

依田:会社全体の仕事のプロセスや製品・サービスの提供の仕方などを情報技術を活用して変えていくことこそ、CDOがやらなければならないことです。CDOが先頭に立って、方向性を示してリードしていくことが必要です。そして、CDOの提言やプランニングに基づいて、経営トップを始め全社員の協力のもとに変革を起こさないと駄目だと思います。「これからデジタルが来ますよ」という議論をことあるごとにしていると、次第に理解は深まっていきます。ただ、そうは言っても、今日の 事業 責任を背負っている責任者などは、変革のためにすぐにやり方を変えるといっても、今日のビジネスが最優先ですし、なかなか変わることはできない。それを会社としてどうやって変えていくかは、知恵の出しどころです。いくつか小さな成功例を、現業とは違うところで作っておいて、その成功例を見ながらじわじわとシフトしていくという方法は、考え方としてあると思います。



依田様ご自身、CDOはこうあるべき、こうありたいと思うことはありますか?

 

依田: CDOとして変化を仕掛ける領域をいろいろと考えています。例えば製造業として、工場でしっかりと“もの”を作ってお客様に提供していくために、工場の中でいかに品質よく安定して生産していくのか。コストを下げていくのか。これまでそういうところに製造業の競争力がありました。しかし、よく言われる話ですが、これからの情報化社会では、そのモデルは変わってくるでしょう。自動車も、あるいは電気製品もそうだと思いますが、その中のかなりの部分はソフトウエアで動いています。それがみんなネットワークで接続されて、製品がお客様に合わせてカスタマイズされてくる。お客様が使えば使うほど情報を吸い上げて、さらにカスタマイズされる。そういう製品になっていくでしょう。そうすると、「競争力の源泉っていったい何ですか?」という話になってきます。デジタルカメラのディスプレイなど、代表的なユーザーを想定した設計をしてきましたが、今後はきっとそうではなくなります。例えばお客様の使い方に合わせたソフトウエアに自動的に更新され、UIが少しずつ変わっていくという製品になっていくかもしれない。そうすると製品の競争力そのものが変わってきます。

 

会社の中のファンクションもそれに適した変わり方をしないといけない。品質検査のプロとか、あるいは事前にマーケティングをして製品仕様を考える人たちは、使う人の手元の製品からあがってくる情報を解析して、いかに個々のユーザーに最適化させるかを考える人に変わっていくはずです。次の世界のビジネスモデルと、会社の構造のデザインというものを、日本企業らしいものづくりを活かしながら、きちんとやっていかなければなりません。それが新しい製造業としてのスタイルを確立することになるのではないでしょうか。そういうビジネスモデルを世界に先駆けて作って、日本が優位になるというようなことができればすごいですよね。CDOはそのキーパーソンになると思います。製造業に限らず、CDOが中心となって変革を仕掛けていくことで、日本の産業が世界をリードすることに貢献できれば素晴らしいと思っています。

 

後編では、富士フイルムのデジタル変革を進める組織体系、デジタル部門に求められる人材像、CDOのチームとして進める具体的なサービスなどについて、お聞きします。後編はこちら