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BtoBマーケティングフォーラム 2017 開催レポート

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BtoBマーケティングフォーラム 2017 開催レポート

講演5:「BtoBマーケティングトップの役割と新たな連携施策」

 

NECにおけるマーケティング戦略と実践

日本電気株式会社 執行役員 兼 CMO 榎本 亮

 

 

 

 100年以上の歴史を持つ日本でも有数の企業の一つであるNECは2013年にBtoB、BtoG(Government)へ事業をフォーカスし、社会価値創造型企業への転換を行いました。BtoB、BtoG(Government)へ事業をフォーカスする中で、同社はマーケティングの重要性を早くから認識し、他社に先駆けた戦略的なマーケティング施策への取り組み、CMO職の設置、さらには最適な組織体制の構築などに取り組んできました。BtoBマーケティングの特性や目的、アカウント・ベースド・マーケティング(ABM)の実践事例、マーケティング&セールスの組織体制などについて、同社のCMOとして全社のマーケティング活動を統括する榎本氏にご講演いただきました。

BtoBマーケティングの目的

 

 BtoB事業では、顧客企業内の様々なステークホルダーの把握、幅広いパートナリング、多様なビジネスモデルなど、BtoC事業とは異なるマーケティングが必要となります。榎本氏は「BtoB事業では、お客様が期待している真の価値を提供するために、幅広いパートナリングをはじめとした様々な要素が必要になる。BtoB事業では、BtoC事業以上にマーケティングが重要になっている」と述べられます。

 

 また、以前とは顧客も変化してきています。例えば、顧客が得られる情報は、営業で提供できる情報量よりも圧倒的に多くなりました。従来型の営業中心の顧客とのコミュニケーションだけでは通用しなくなっています。そのため、顧客のデマンドそのものをつくりだしていく取り組みを行うことで、潜在的なニーズ、ウォンツを顕在化させる、より上流からマーケティングを始める必要があります。また、その顧客に絞り込んでアカウント・ベースド・マーケティングを行う必要があるのです。「顧客は法人格としては一人ですが、その中に非常に複雑なステークホルダーを抱えています。その中で、真のニーズが何で、真のキーパーソンが誰であるといったことが絞りこまれないとBtoBのビジネスはうまくいきません。」と榎本氏は述べられます。

 

 続けて榎本氏は「常日頃からお客様との信頼関係を構築し、それを維持すること。NECというブランドに対しての期待を常に高いレベルに保つことがBtoBマーケティングの目的」と述べられます。これを実現するために、NECでは、顧客に対して一貫性のあるメッセージを発信しながら、顧客との接点をしっかりと活用することで、顧客が何にどう反応しているかを把握しようとしています。さらに顧客と価値観を共有、共創する取り組みを進めています。

CMOの役割はマーケティングで自社を変革すること

 

 

 榎本氏は、マーケティングの実践において「お客様の本質的課題を把握すること。事業に対する徹底的な好奇心を持ち、営業マンとマーケターがお客様になりきらないと、本質的な課題は把握できない」と述べられます。顧客の本質的な課題を把握し、それに対し新たな価値を創造、提案することで、顧客の事業を通じた社会課題が解決されます。「ソーシャルバリューを上げればエコノミックバリューも上がる。そこまでいかないとBtoBマーケティングをやりきったと言えない。お客様の真のパートナーになったとは言えない」と榎本氏は強調します。

 

 BtoBマーケティングは、デジタルマーケティング、アカウント・ベースド・マーケティングだけでは効果的に行えません。経営やマネジメント、組織や人の意識などの変革もなければ、BtoBマーケティングは実現できません。榎本氏は「CMOの役割はマーケティングで自社を変革すること。お客様の課題にどう対応するのか、NECは本気なのかと自社に問いかける。社員が行動する時にその態度でいいのか、社員に向かって問いかけ、それらの結果として自社を変革するのがCMO」と述べられます。加えて営業とマーケティングのあり方をこのように述べられます。「営業とマーケティングを分ける必要はない。同じ成果に向かって一緒に歩む。プロセスとして時系列的に並んでいるが、全く同じ役割を担うものであると考えている。プラットフォームをIT上でも共通化して、コミュニケーションがスムーズにできるようにしていきたい」

 

 最後に榎本氏は「お客様に導入していただいた後もお付き合いしていただく。売り込むだけがデジタルマーケティングではない。いろいろな観点からお客様が今どう思っていらっしゃるかを把握し、また次の話につなげていくという、ノンストップのマーケティングのループをつくる。これをしっかり回すのが本当のマーケティングだと思っている」と、BtoBマーケティングへの思いを述べられ、講演を終えました。

日本電気株式会社
執行役員 兼 CMO (チーフマーケティングオフィサー)

榎本 亮


1995年から2002年までArthur Andersen(後のBearing point)においてマーケティング戦略・営業改革等を推進するコンサルティング部門のパートナー。Bearing point 合流後はCommunications領域のマネージングディレクターとして2008年まで従事。2009年から2014年までIBMの通信業界担当理事。2014年Salesforce.comで通信業界担当執⾏役員に就任。2015年からNECの執⾏役員となり、コーポレートマーケティング本部を担当。2017年4月にNECの全社マーケティング活動を統括するCMOに就任、現在に至る。

パネルディスカッション マーケティングと営業の連携を徹底討論!

 

実践企業によるマーケティング&セールスの課題共有と組織間連携の進め方

 

アンリツ株式会社 計測事業グループ グローバルオペレーションセンター
マーケティングコミュニケーションチーム 課長  駒井 寛


大成建設株式会社 営業推進本部 企画推進部 次長 上田 茂数


ルネサス エレクトロニクス株式会社 ブロードベースドソリューション事業本部
WEBデマンドクリエーション部 部長 関口 昭如


【モデレーター】 株式会社マルケト マーケティング本部長 バイスプレジデント

  小関 貴志

 

 

 パネルディスカッションでは、アンリツ株式会社の駒井寛氏、大成建設株株式会社の上田茂数氏、ルネサスエレクトロニクス株式会社の関口昭如氏をパネリストに迎え、株式会社マルケトの小関貴志氏がモデレーターとなり、マーケティングと営業の連携に関して議論を展開しました。

 アンリツ株式会社の駒井氏は、研究所から事業戦略室を経て、2000年にマーケティングコミュニケーションチームへ異動。セールスツールの作成やプロモーションを通じ、マーケティングに取り組まれています。大成建設株式会社の上田氏は、属人的な営業の色合いが強い総合建設業において、10年ほど前にマーケティング部門を立ち上げました。その後、営業の最前線に異動し、そこでもマーケティングの取り組みを実行しました。現在は再びマーケティング部門に戻り、さまざまな企画を形にする推進役を担っておられます。ルネサスエレクトロニクス株式会社の関口氏は、ウェブデマンドクリエーションを担当。半導体業界でも進む、お客様との接し方の変化に対応すべく、高度なデジタルマーケティングを推進しています。

足並みがそろわないマーケティング部門と営業部門

 

 

 モデレーターの小関氏はまず、「なぜマーケティングと営業は足並みがそろわないのか?」というテーマから議論へ導入しました。会場の参加者に挙手でアンケートをとったところ、「マーケティングと営業があまりうまくいっていない」という方が多い傾向にありました。これを踏まえて小関氏はパネリストに各社での経験や意見を尋ねました。

 

 

 上田:「私は営業側とマーケティング側の両方を経験したので、両方の立場からお話しします。建設業の場合、セールスのリードタイムが非常に長く、また個人的なレベルでは、得意先をたくさん持っていて案件が多い人と、新規が多く案件の少ない人がいます。マーケティング側としては極力案件の少ない人を応援する意味でリードを渡していきたいが、やはり社内組織的にはマーケティングから営業にリードを渡す仕組みを創る必要があります。またお互いの理解には“共感”、“同苦”、“連帯”という3つのキーワードがあり、マーケティングが営業の最前線で活動する人達の気持ちに寄り添い、共に活動するという心を持つことが重要です。そして日々コミュニケーションを取ることも大切です。時にはマーケティング担当者が営業担当者と一緒にお客様にお会いさせて頂き、その中で市場観を掴む。また営業の経験はなくても営業の気持ちが分かる。そういうマーケターを育てなければならないと思います。営業が上げる数字は会社の生死に関わるので、非常に重いミッションを背負っています。私としてはやはりマーケティングから営業に寄り添うのが良いと思います。」

 

 

 駒井:「早い時期にマーケティングオートメーションツールを導入しました。リードの確度を高めようとしたのですが、なかなかうまく動かせなかった時期があります。ちょうどその時期、国内のセールスが落ち込んできて、営業本部長から、休眠顧客を掘り起こし、受注に結び付けろという指示がありました。そこから営業サイドも重い腰を上げて、マーケティングオートメーションツールを活用しようとなり、マーケティングサイドと営業サイドで一緒にやっていこうとなりました。チームを立ち上げて、いろいろな部門を巻き込んでやった結果、ある程度営業サイドの要求を組み込んだプロモーションが、国内ではうまくできてきたと思います」

 

 

 関口:「マーケティングと営業はロール&レスポンシビリティが違うので、完全に一心同体というところまでは行っていないかもしれません。取り組み始めた当初は、営業の期待値と我々マーケティングの期待値は大きく違っていました。今は以前よりもだいぶ近寄ってきたと感じます。お互いを理解するには、やはり時間がかかりました。それから、営業と我々ではKPIが違うこともあります。そこを完全に合わせるのは難しいと思いますが、同じ認識、ベクトルにしていくのは大切なことだと思います。また、デジタルマーケティングは科学的なアプローチで、データに基づいて関係部門と会話し、施策をうつ。する。かたや営業は人と人とのコミュニケーションも重要です。この両面が必要だと思います。

マーケティングと営業をつなぐための取り組み

 

次に小関氏は、マーケティングと営業で足並みが揃っていないという方が多い中、具体的にどうやって両者をつないでいくのか、尋ねました。

 

 関口:「営業案件を我々マーケティングの次の工程である営業がどう受け取ってくれたかを考えます。後の工程の人は、ある意味我々のお客様のようなものです。我々の仕事をいかに評価してもらえるかが大切だと思って、デジタルから生まれた営業案件をKPIに変えました。後工程の人に評価してもらい、目標を共有することが大切です。営業は売上の金額など、いろいろな要素があり、我々は案件の件数で測っているので、簡単ではありませんが、営業と目標を共有して進めるというアプローチにしたことは、効果があったと思います」

 

ここで小関氏は、「マーケティングと営業をつなぐにあたり、上層部の方の理解を得ることは重要なテーマではないか」と上田氏に質問します。

 

 上田:「上層部の理解は結果しかありませんに尽きると思います。数字が上がってきていると上層部は理解してくれて、予算も配慮してつけてくれます。具体的な評価指標数字は何かといいますと、リターンオブマーケットインベストメント。ROMI(Return On Marketing Investment)の評価が一番の理解なのかなと思いますが最も分かりやすいと思います」

 

 駒井:「ROMIの話が出ましたが、我々としても、さまざまな施策が売り上げにどこまで結びついたか、どこまで貢献したのか、その効果を見たいというのは以前からありました。広告の効果、プロモーションの効果を見たいという部分では、マーケティングオートメーションを入れたことは一番良かった。いろいろな部署を横断してプロジェクトを立ち上げ、ワーキンググループを作って取り組んだことで、皆が同じ方向を向いていくことはできたかと思っています」

営業とつながる、成果につながる、マーケティング部門のあり方

 

 

 次に、各社のマーケティング部門の成果にはどのようなものがあり、それはどのように評価されるのか、小関氏がパネリストに質問します。

 

 駒井:「コンバージョンと、新規市場における認知度の上昇です。本当は、どの程度受注まで結びついたかということも我々の成果としてカウントしていいのではないかと思っています。これだけの受注に結び付きましたと胸を張って言えるような形にしたいという理想はあるが、なかなかそれは実現できない。試行錯誤を繰り返しています」

 

 関口:「やはり、主要な成果の指標としては、デジタルマーケティングコミュニケーションから案件が生まれること。もう一つ注力しなくてはいけないのが、デジタル上で製品選択や開発を早く終わらせたいというお客様の重要なニーズで、これにどこまで貢献しているのか。これはもしかしたら満足度調査かもしれないし、もう少し違う世界かもしれない。この両面をトラックしなくてはいけないと思っています」

 

 上田:「マーケティング部門の成果は、1年間の短期で考える場合は、営業が受け入れてくれた見込み客、見込み案件の数です。リードは営業の受け入れられないと意味がありません。中長期である3年、5年、10年の期間単位で見る場合にはROMIだと思います」

 

最後に小関氏は各パネリストに、フォーラム参加者に伝えたいメッセージ、今後の課題や展望を尋ねました。

  関口:「我々はまだヒヨコですが、自分たちが思い描いた絵に近づいてきています。ただまだまだ、どちらかというとデマンドファネルの左から右に一方通行でいく活動が多く、期間限定のプロモーション活動が多い。その中で、お客様のニーズを見つけるタイミングが合わないことがある。デマンドファネルの右から左への活動も加速していきたいですね。ツールベンダーともいろいろとテクノロジーという点で相談しないといけない。今、興味がないという人に興味を持ってもらう、そういう活動をやっていきたいと思っています」

 

 駒井:「日々改善が必要です。まだやり残していることはスコアリングです。製品がいろいろあってそれぞれ設定を変えていかないといけない。1つ1つつくり、それを横に展開することがうまく進んでいません。あと、コンテンツを準備するのが難しいと感じています。ファネルのステージごとにお客様が必要とする情報が違うので、それに合わせて何段階もつくることが大切です。私の部門にとっての課題だと思っています」

 

 上田:「先程もABM(Account Based Marketing)の話が出ましたが、私もこれを意識していきたいです。また、最近は日本国内でも自然災害が多いのですが、業務・事業継続や災害対策において建設業の果たす役割は大きく、また地方創生への取り組みもあります。事業特性上、建設業は社会インフラづくりが大きなミッションです。これらをマーケティング活動の中でも市場に訴求し、ミッション性のあるマーケティングに取り組んでいきたいと思っています」

 

マーケティング部門と営業部門が協力する体制を、どのようにつくり、結果を出していくのか。各社の経験、取り組み、今後の課題や展望が見えるパネルディスカッションとなりました。

今年も開催!「BtoBマーケティングフォーラム2018」登録受付中!