コスト削減のみから、顧客価値提供のIT施策を
「コトづくり」を起点としたイノベーション
パナソニック株式会社 全社 CTO室 ソフトウェア戦略担当 理事 梶本 一夫 氏

お客様に常に寄り添う「コト」を提供できる最短距離にいるパナソニック株式会社は、家電からはじまり、自動車、住宅、あらゆるB2Bに向けたパートナーとの協働を行い、お客様の「いいくらし」を拡げています。IoT、AI戦略の現状や、新たな価値を生み出すための戦略策定の秘訣を「パナソニックのIoT、AI戦略~コトづくり起点のイノベーション」と題し、梶本氏に講演いただきました。
すべての空間で24時間お客様に寄り添うポテンシャルのある会社
社内リソースのシフト

梶本氏は、「住宅空間」、「非住宅空間」、「モビリティ」、「パーソナル」の4つの空間を示し、お客様は24時間この4つのいずれかの空間で過ごされていると説明します。パナソニックは、この4つの空間すべてにおいて常にお客様に寄り添えるポテンシャルを持っています。お客様に常に寄り添う「コト」をどうやってお客様に届けていくかを考え、2013年に市場への新たなアプローチ戦略を立案しました。それを受け、あらゆるB2Bパートナーとの協働を行い、従来通りのB2Cのビジネスに加え、住宅設備、アビオニクス、スタジアムソリューション、自動車やその他の機器の部品事業へ社内リソースをシフトしていきます。梶本氏は「ハードをIoTに闇雲に繋げてもビジネスになるか分からない。21世紀に残れる企業を目指し、現在の会社のポートフォリオ、ポジションと今後の技術進化を睨みながら、成長領域に技術開発投資をしていく」と言います。
とくに、IoT、ロボディクス領域においては、「技術10年ビジョン」としてAIロボティクス家電、自動運転コミュータ、店舗接客ソリューション、次世代物流搬送などに既に取り組んでいます。例えば、AIロボティクス家電では、パナソニックと、セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ、大和ハウス工業の3社合弁の会社を設立し、洗濯、乾燥、アイロン、たたみ、収納までの全てを行う完全全自動の洗濯機を開発。自動運転コミュータでは、自動運転車両向けのミリ波レーダーを用いた高精度・広視野角化技術を発表しています。店舗接客ソリューションでは、ローソンと協働して、無人コンビニエンスストアの導入実験を行っています。次世代物流搬送では、自律搬送ロボットの新JIS安全認証規格を初取得し、空港やホテルでのサービス実証実験を開始しています。
ほかにも、IoT技術によるスマート工場、IoTを用いて不具合による遅延を防ぐ航空機のアビオニクスなど、様々な分野に技術、製品を提供しています。パナソニックはIoTデバイスを作る会社なので、そのモチベーションは高く、今後も様々な分野に挑んでいきます。
コストよりも価値を
コトづくりファーストの戦略の重要性

次に梶本氏は、日本の企業はIT、モバイル、IoT、AI、ビッグデータなどの波に乗り切れていないと指摘します。日本企業の非効率性の原因として、ソフトウェアの無理解を挙げ、欧米と日本とのソフトに対する認識の違いを説明しました。日本では、ソフトに対するKPIは「コスト」。マイナスをいかに小さくするかという単年度戦略で動きます。対して欧米のソフトに対するKPIは「価値づくり」。プラスをいかに大きくするかという長期戦略になります。日本はソフトウェアによるルール作り(エコシステム)をコアコンピタンスの1つととらえず、簡単に他国のエコシステムに飲み込まれてしまう状況といえます。
梶本氏は、このような状況において、日本企業が飛躍するための処方箋として次の5つを挙げています。1つめに、コトづくりファースト、ソフトウェアセカンド、ハードウェアラストであること。ソフトウェアによる「コトづくり」とエコシステム作り起点の戦略を取れるかが重要です。2つめにオープンイノベーション。エコシステムづくりのために、損して得取れの社内プロセスを実行します。3つめに、ストック型ソフトウェア開発。エコシステムを強化するため、ソフトのノウハウ資産蓄積を継続することが必要です。4つめに、コーディング重視・運用重視。コーディング、テスト、データ分析を工数単価で評価していないか。PF戦略、課題対応で優秀なコーディング経験者を重用しているか。クラウドでは運用し、顧客対峙しながら新規機能開発をしているかが問題となります。5つめに現場へのエンパワーメント。旧来の価値観のトップマネージメントが居座っていないことが鍵となります。梶本氏は「内向きのコスト削減のみという視点から一歩踏み出し、CIO自らが外に出て顧客価値提供に向けたIT施策を行うべきだ」と強く勧めています。