MENU

New Business Creation Forum 2018 3rd 開催レポート

HOME > レポート・特集記事 > New Business Creation Forum 2018 3rd 開催レポート 2/2

New Business Creation Forum 2018 3rd 開催レポート 2/2

特別ゲスト講演2【新事業を生む組織体制】

 

横河電機における戦略的イノベーション活動と
 組織体制づくり


横河電機株式会社 常務執行役員 兼 マーケティング本部長  阿部 剛士

 

 

 

 計測、制御、情報をコアとしてグローバルに展開し、創業100年を超える伝統を持つ横河電機。同社では、グループ全体における中長期の経営戦略立案を担う「マーケティング本部」を設けており、R&D、オープンイノベーション、M&A、特許・知的財産など、イノベーション創出に必要なアセットを全方位的に網羅している。同部の統括を担う阿部氏が、ビジネス環境の変遷とともに、イノベーションを支える戦略的取り組みについて語った。

 

これまでとは全く違うスピードで変化する世界にどう対峙するか

 

 

 まず、産業革命の歴史から振り返りたいと思いますが、第1次産業革命が起こったのが18世紀後半です。これは、手工業からの機械化へ変化した時代です。第2次産業革命は19世紀末で、電気・電力の時代です。第3次産業革命は20世紀末で、コンピューター・通信が普及し、世界がグローバル化しました。そして今、我々は第4次産業革命に突入しようとしています。ところで、過去3つの産業革命と第4次産業革命で大きく違う点は何でしょうか。それは、時間です。約1世紀間隔で起きていた産業革命とは、スピード感が全く異なります。

 

 2015年にインターネットにぶら下がっていたデバイスは約150億台でした。2006年にはまだ約20億台だったそうですが、その後の約10年で7.5倍になったのです。そして、2020年には約750億台がぶら下がると言われています。また2006年にはインターネット人口は約10億人と言われていましたが、今は地球人口の半分ぐらいが“ネチズン(network citizen)”です。それに伴い、ビジネスも変化してきました。1950年から’70年はプロダクトレビュー、つまり物が重宝された時代なので、良いモノを作れば売れました。’70年から’90年はカスタマーオリエンテーションの時代です。’90年から2010年はブランドの時代で、ブランディングに力を入れました。そして2010年から現在は、モノからコトへ、バリュークリエイションの時代です。では、次はどうなるかと言うと、“コ・クリエイション”です。「自分一人では何もできないので、一緒にやりましょう」というのが、これからのビジネスの一つの形になると考えられます。

コ・イノベーションのための三位一体の組織づくり

 

 

 

 こういった状況で我々は何をしているかということですが、まず独自の組織体制を敷いています。私が統括する「マーケティング本部」は、普通のマーケティングの部署とは少し異なります。具体的には、次期・中長期の事業計画立案、今まで取り組んだことのない全く新しい事業をつくるための「新事業開発」、R&D、イノベーションセンター、マーケティング・コミュニケーション、ブランディング、M&A、アライアンス、特許室、標準化、工業デザインなどをすべて配下に置いています。特に新事業開発とR&Dは、車の両輪のように動くことが期待されています。実は全て必要なアセットで、同じグループ内に無いとなかなか上手くいきません。これら全てを上手く同期させ、それぞれ同時並行して走れるような仕組みにしています。現在はこの仕組みをいかに高速で回すかということに注力しています。

 

 続いて、イノベーションを走らせるための組織づくりです。企画するフェーズと開発するフェーズは大きく2つ、上流側と下流側に分かれます。従来は開発フェーズで発明・創出されていましたが、今はそれを企画フェーズで行わなくてはなりません。そのためには POC(Proof Of Concept)を行う必要があります。R&Dや工業デザインのチームが我々の部署にいるというのもこのためで、当然ここでもアジャイル型で開発を進めています。

 

今後は“コ・イノベーション”、“コラボレーション”をしていく必要があるので、お客様、パートナー、あるいはサプライヤーといった人たちと一緒に働くことが増えていきます。実際に我々でも、企業やアカデミアなどさまざまな分野の協業相手が増えてきました。こういった状況では、企画、開発、知財が三位一体となり、知財の視点でリスクヘッジをする必要があります。POCで、お客様にコンセプトを開示する前に特許出願を行えるというメリットがある。要するに、権利範囲の広い特許創出ができる可能性があるというわけです。やはり同じグループの中でこれらが行えているということは、アジャイル開発を推進する上でも非常に大きな強みになっています。

 

 とにかく、”A VUCA World”のごとくこれからますます世の中は変わり予測が困難です。今年2018年はちょうど明治維新から150年目ですが、この150年の変化が社会に与えた影響と同じくらいの規模の変化が、次の15年で起こるでしょう。それらは一次関数(リニア)的に変化するのではなく、指数関数的に変化します。そして、BtoB市場も決して例外ではありません。今後はお客様の購買行動も劇的に変化します。それに対応するためには、組織としてデータ活用の必要性があります。

 

私は、「マーケティングエブリシング」と考えています。企業の中でマーケティングの存在意義がますます大きくなってくるでしょう。あらゆるコトをマーケティングすることになります。そして、いかに経営陣に意思決定に必要な情報を定量的に渡すことができるか、将来、顧客の購買経験と価値創出にどのようにつながるかどうかを指し示すことになります。まさにマーケティングの腕の見せ所ではないかと思っています。

 

 あとは、内と外のリソースを再定義して、「何をやって、何をやらないか」ということをはっきりさせることが必要です。日本の企業は何をやるかを考えるのは得意ですが、「何をやらないか、何を捨てるか」を判断、整理することは苦手です。ただしこれをしないと、わけのわからないものがどんどん溜まっていきます。ですから、「自分が何を作って、何を買うか、そして何を捨てるか」、”Make or Buy”をきちんと決めていくことが大事です。これは、トップに限らず全ての人がやらなくてはいけないことだと思っています。

 

横河電機株式会社
常務執行役員 兼 マーケティング本部長

阿部 剛士


1985年、インテルジャパン株式会社(現インテル株式会社)に入社、2005年、同社マーケティング本部長に就任、2007年、芝浦工業大学専門職大学院 技術経営/MOT卒業、2009年、同大学地域環境システム専攻博士課程修了、インテル・アーキテクチャ技術本部長などを歴任後2011年取締役副社長 兼 技術開発・製造技術本部長に就任、2016年3月、横河電機株式会社に入社、マーケティング本部を統括、2018年3月に常務・執行役員、現在に至る。

協賛講演【新事業創出実践のための人材・組織戦略】

 

新事業創出を牽引できる人材、
新事業が創出される組織文化

~ 人材開発・組織開発からみた事業創出のポイント ~

株式会社インヴィニオ 代表取締役  土井 哲

 

 

 

 日本の大手企業では、既存事業を変革する資質を持つ人材の不足に悩む声が多い。そのような集団で、事業を立ち上げ成功させるには、資質ある人材の発掘と意図的な組織文化の醸成が不可欠となる。そこで、事業創造に向く資質とは何か、そのような人材をどのように発掘するか、そして事業創造向きの組織文化に変えることは可能か。代表取締役の土井氏が、人材開発・組織開発における実例を交え、その成功に向けたキーポイントを示した。

 

事業創造のために真剣に考えるべきは、採用、抜擢

 

 

 

 今、大企業・上場企業を取り巻く資本市場の環境がとても変わってきていると感じています。つまり、旧来型の二酸化炭素を排出するような企業からは資金が引き揚げられ、新しいテクノロジーで地球環境を改善するような会社に対して投資をしていこうという流れになっています。そうした中で、日本企業にもさまざまな投資家から非常に強い要請があります。このような傾向は、日本企業にとっては良い機会だと思います。外圧を利用して社内を変えることは、日本人が得意とする所だからです。それを脅威ではなくビジネスチャンスと捉えて、新しい事業を立ち上げたり、技術開発を立ち上げたりすることができる機会だと思っています。

 

 こうした流れがある中で、大きな組織で働く人の8割は安定志向だと言われています。つまり変化や成長よりも、維持や安定を望む人が圧倒的に多いということです。これでは新しい変化を起こそうとしても大半が潰されることになります。私は、80年代半ばくらいで既にイノベーションが止まっていると感じています。その時代に作られたイノベーションで現在も食べているということです。実際に、イノベーションの成功体験がほとんど無い人たちが、役員を占めています。45歳以上の人の思考特性、行動特性を変えるのは極めて難しいことです。そしてアイデアを出せと言っても「アイデア指向性」という動機が強くない人は、いくら言っても出てきません。「変化が激しくなっているから世の中に関心を持て」と言われますが、20年間やってきた結果、好奇心の開発はほぼ不可能と確信しています。動機や性格特性は簡単には変わりません。ですから、まず「採用」、「抜擢」を真剣に考えなくてはなりません。

 

 そして最近強く感じるのは、大企業の方々の稼ぐことに対する関心が非常に薄いことです。上場企業は、株主から利益成長を求められているということを意識していないのです。これは根本的な問題です。事実、新しい事業を生み出し、新たな収益源を作った経験のある部長・課長層は極めて少数です。新卒採用時に伝えられるのは、福利厚生や働き方改革への取り組みであり、給与の源泉が利益であることは意識されていません。分業化が進んでいるので、自分の仕事が利益とどう関係しているのかがわからないということもあるでしょう。

 

また自分が失敗しても会社は潰れない、誰かがカバーしてくれる、という甘えもあります。自分の会社の利益について考えないので、当然お客様の会社の利益も考えません。(BtoBビジネスにおいて)顧客価値と聞いた時に彼らがイメージするのは、顧客企業の「担当者」が考える価値です。これを顧客企業の「経営層」が考えているかどうかは考えません。顧客価値を考える場合は、顧客企業の売上拡大につながるか、コスト削減につながるかということに限定してみてはどうでしょうか。

人を科学すること、利益意識を植え付けることが重要

 

 

 

 皆様に申し上げたいのは、「人を科学しませんか」ということです。もし皆様の会社にイノベーションや事業開発に向いたハイパフォーマンスの人がいれば、その人の性格や動機特性を調べます。そして会社の中にどのくらいそれに近い人がいるかを調べる。その人たちを中心に、イノベーションなり事業開発プロジェクトなりをやっていくということが大切です。残念ながらそのような人がいないのであれば、「機会を与えて誰かにやらせてみる」ということを推進していく必要があると思います。

 

自社以外の会社がどうやって利益を上げているかを知る。まずそういうところから始めて、革新的な技術を出さなくても新しい事業モデルが作れそうではないか、と発想を広げるのも1つのやり方です。重要なのは、お客様の価値です。私たちは「マーケットダイブ」と呼んでいるのですが、まずは直接ターゲットとする顧客に会いに行くのです。そこで新製品や新サービスの提案をするという体験をしてもらいます。これまで付き合ってきたお客様ではなく、これから伸びそうなお客様、または顧客になりそうな会社で、グローバルベースで伸びそうなところはどこなのかを考えます。このような会社をいくつか挙げ、そこに無理やりにでも会いに行ってもらうということをしています。そこではアポイントメントを取るお手伝いもしています。このやり方は、無理やり成功体験を作ってマインドを変えるという方法なのです。

 

 さらに申し上げたいのは、「利益意識を植え付けること」が非常に重要だということです。まずは、皆で普段からこのことについて会話をすることが重要です。それからお客様が上場企業である場合は、法人が顧客だと定義します。つまり、お客様は「担当者」ではなく「会社」だと思うことです。会社のリーダーである経営者が利益成長を求めているということを前提に、それにどう貢献できるかという視点で考える必要があると思います。これから伸びる会社とお付き合いをすると、さまざまなニーズが出てくるでしょう。そういった企業と付き合っていくべきだと考えます。

 

事業開発とかイノベーションは、残念ながら誰にでもできるわけではありません。従って、「そういう資質を持った人材を厳選すること」、「そういう人を探し出す努力」が大切だと思います。組織文化を一度可視化してみると、自分たちの会社はこうだったのかということが見えてきます。そのために、まずは問題点を把握することが重要だと思います。そこから組織文化を変え、人材をみつけ、新事業創出へとつなげていくのです。

株式会社インヴィニオ
代表取締役

土井 哲


東京大学卒業後、東京銀行に入行。MITスローン経営大学院にてMSを取得。マッキンゼーを経て、ベンチャー企業の経営者を支援するコンサルティング会社を設立。97年にインヴィニオを立ち上げ、リーダー育成・組織文化変革を通じて組織能力を高めるパフォーマンスディベロップメント事業を展開。大企業の新規事業開発プロジェクトに関わる。

特別パネルディスカッション【新事業戦略と組織の未来】

 

日本企業における
 イノベーションの“妙薬“はあるか!?


パネリスト:
Yamaha Motor Ventures & Laboratory Silicon Valley Inc.
CEO and Managing Director(ヤマハ発動機株式会社) 西城 洋志
Honda R&D Innovations, Inc. CEO 株式会社本田技術研究所 執行役員  杉本 直樹
株式会社ジャパンディスプレイ 執行役員 CSO 兼 CMO 伊藤 嘉明
VALUENEX株式会社 代表取締役CEO  中村 達生
モデレーター:
一橋大学イノベーション研究センター特任教授
法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授  米倉 誠一郎

 

 

 今や国内大手企業の殆どが新事業創出の必要性を認識し、その実現に向け試行錯誤を続けている戦闘状態の中、実際の事業、人、組織、そしてその先の未来創造につなげるための戦略とは――果たしてそこに“妙薬”は存在するのか。フォーラムの最後には、CVCの視点から、ヤマハ発動機 西城氏、オープンイノベーションラボの視点から、ホンダ 杉本氏、プロ経営者の視点から、ジャパンディスプレイ 伊藤氏、VALUENEX 中村氏の4名がパネリストとして登壇。一橋大学イノベーション研究センター特任教授 米倉氏のモデレートのもと、命題に対する白熱な議論が交わされた。

イノベーション創出に向けたそれぞれの取り組み

 

 

 

西城:ヤマハ発動機は、実は20年も前から新事業開発をやっています。目的は、マリン、モーターサイクルに続く第三の柱を作るということでした。しかし今なお2つの事業に対しての依存性が高く、結果が出ていないことが引き続きの課題でした。それは概ねシーズベースで、非常にオーガニックに、自前主義で行ってきた結果です。それなら、今までの方法にとらわれない、守りではなく攻めの新事業開発をやろうということでYamaha Motor Ventures & Laboratory Silicon Valley Inc.というCV(Corporate Venture)ユニットを作りました。現在は成長戦略にタイアップしながら、事業開発とベンチャー投資の2つをやっています。

 

杉本:ホンダがシリコンバレーにオフィスを作ったのは2000年です。そこから、2011年にシリコンバレーでプロトタイプぐらいまではできる体制を作ろうとHonda Silicon Valley Labに変え、2017年にはそのチームが母体になり今のHonda R&D Innovations, Inc.という会社になっています。我々は、ベンチャーが必要としているリソース、知見を提供し、彼らベンチャーと一緒に新しい価値を作っていこうという形で活動を行っています。その新たな価値は、お互いがフェアなパートナーとして共有していきます。ベンチャーが、その成果を使って新しい事業を立ち上げ、他の自動車メーカーにその技術を売り込んでいただいても構いません。当然ながら中身を理解していますので、我々はそれをいち早く商品化できます。そのタイムアドバンテージを、我々の優位性としています。

 

伊藤:ジャパンディスプレイは、簡単に言えば部品屋です。正直、元々のビジネス領域は狭いです。そこで、ここから脱却するために、これからはソリューションをどんどん作っていかなければならないと考えています。ディスプレイは、もはや全てのアクティビティへのインタラクティブな入り口でしかないと思います。そう置き換えた瞬間に、単なるディスプレイの部品屋から、エントランス(出入り口)を供給できるソリューション企業になれます。そういったテクノロジーを我々は確かに持っていますので、これらを使ってイメージを変えていく。今は、そんな第二の創業を目指しています。

シリコンバレーに行くことの意味、「人を育てる」ということ

 

 

 

米倉:シリコンバレーに出た日本企業には、新しいターゲットを狙うことや、シーズ段階のオープンイノベーションを行う動きは見られますが、私のイメージとして“新規事業”は多くは出てきていない気がします。「シリコンバレーに行けばなんとかなるのではないか」と思われていても、そうはならないという気がしています。実際、そのあたりはどのような状況になっているのでしょうか?

 

西城:目的次第だと思います。例えば、新しいアイデアに触れたいという目的であれば、その目的に応じた手段があると思います。私は、シリコンバレーに求めているのは新事業開発だと言っています。新しい事業を作り出すのはもちろんですが、事業を作るのは人ですし、技術を作るのも人です。我々がシリコンバレーでやることの一番の狙いは「人の活性化」、「人の再生」です。

 

日本のエンジニアは優秀だと私は思っています。しかし残念なことに、その技術を発揮する、実行する機会を失っています。その機会を作り出せば、日本のエンジニア、技術者、ビジネスマンは再生できると信じています。シリコンバレーのエコシステムを活用してそういう機会をどれだけ作り出し、どれだけの人が本当に成長して活性化するか、ということが私の狙いなので、その点ではシリコンバレーという場所は非常に使いやすいと思っています。

 

 

杉本:シリコンバレーは、やはり世界で一番ベンチャー投資が行われていて、世界で見ても稀なエコシステムが回っています。シリコンバレー以外でも世界中にそういう大きなエコシステムは出てきていますが、その中でもシリコンバレーは群を抜いています。ポイントは「何をしに行くか」です。そこに行けば何かネタが転がっていて、それを持ってきて本体に当てはめれば新規事業は一丁上がり、というように、簡単に新規事業が立ち上がるなら誰も苦労しません。新しい事業を起こすのはそんなに甘いことではないと思っています。我々もシリコンバレーでイノベーション活動をしていますが、どちらかというと、今の事業をガラッとひっくり返すイノベーションを提案したいというところが出発点です。

 

 

米倉:希望としてはそうですが、多くは希望自体が曖昧だから、大きな効果を生んでいないのではと感じています。シリコンバレーは凄いところです。それは150%間違いありません。でもそこに行けばなんとかなるということはないですよね。

 

杉本:やはり、「変わる」ということが大事です。自分が変わるということですよね。そういうコミットメント無しに、どう変えたいのかというビジョンもなく、行けば何かおいしい話があって、それを買ってくればいいという話ではないのです。そういうことをやろうとしているのでしたら、それは無駄金です。

 

西城:新規事業がものになるまで、10年はかかるわけです。その辛い時期も一緒にパートナーとして頑張っていかなければなりません。とはいえ、そこから学んで、自分たちも強くなるのだと思っていないと駄目だと思います。“おいしいとこ取り”しよう、とよく聞きますが、おいしいところなどありません。

 

米倉:そこで、「人を育てる」。そういう使い方はあるかもしれないですね。

 

 

伊藤:やはり、イノベーションの鍵は人だと思います。「中にいる人をどうするか」ということです。過去に2回も却下されている同じようなアイデアがあって、今それを私が拾って形を変えたり、いろいろやっています。そういうことをドライブする人間がマネジメント層にいるかどうかが重要だと思います。

 

日本の企業体が総じて弱いのは、変革に対する耐性がない点です。海外にイノベーションセンターを置くのは、外圧を利用するという目的もあると思います。どうやって外圧を味方にするかということが重要なのです。社内だけではどうしても言うことを聞きません。日本は外からのプレッシャーに弱いので、それがあったほうが回ります。それをプラスにするのです。

 

米倉:「違うチャンネルにつないでやればポテンシャルはある」というのが、皆さんの一致するところですね。しかし、それが“パワー”に変わるのはすごく難しいと思いますが、素晴らしいエンジニアや素晴らしいミドルマネージャーたちをパワーに変える方法についてはどのように考えていますか?

 

中村:技術と人は不可分だなと、よく感じます。我々は技術と人の両方を俯瞰解析からみて、エビデンスを持ってお客様と議論いたします。エンジニア、ミドルマネージャーたちをパワーに変えるにも、ある一点をみて述べたり、過去の経験など定性的な内容で議論するのではなく、俯瞰した結果をマクロからミクロまで俯瞰図に可視化すると、チーム、人それぞれのポテンシャルが定量的に見えてきます。これを実践するようにしています。

やるかやらないか、そして、失敗から何を学ぶか

 

 

 

米倉:日本企業の問題として、失敗事例をきちんと蓄積していないことがあります。なかったことにしようとするのです。やるぞと華々しく始めたが、「結果がどうだったか」を蓄積しないと、組織にとって知識になりません。組織の知識にするためには、「失敗してもいい」と口で言うだけではなく、ちゃんと書き留めておく。ナレッジバンクに入れておく。それが大切なことです。安易な失敗をしないようにするための、実にいいプラクティスになるという気がします。

 

西城:失敗から学ぶということは、私は最重要だと思っています。せっかくお金と時間を使って失敗したのだったら、そこから学ぶということですね。シリコンバレーでは雨後のたけのこのようにベンチャーが出てきて、そのうちの99%は失敗します。そしてシリコンバレーのコミュニティ全体で、その失敗を徹底的に解析します。「なんであいつらはダメだったのか」と。日本では、失敗したら次はそれをやらないだけで、失敗の解析をしません。しかし、シリコンバレーでは違うのです。屍の上を越えていく。ここに真髄があると思います。こういうエコシステムを、ヤマハの中に埋め込みたいと思っています。

 

杉本:「過去に何をやって、そこから何を学んだのか」が引き継がれることは大事ですね。人が代わると、学んだこともその人について行ってしまい、組織には残っていないということが多いですよね。そういう意味では、逃げずにシリコンバレーにずっといて、やはり「何を学ぶか」ということなのです。どう自分が変わるか。これを私たちは率先してやっていきたいと思っています。

 

伊藤:私は今回のお題に答えるとしたら、妙薬は「やるかやらないか」しかないと思っています。できるかできないかというのは存在しないと思っていて、やるかやらないかでやっています。人からもらった気付きは72時間しか続かないと言われていますから、気付きを72時間以内に消化して昇華をさせないと、次が無いと思っていますね。

 

中村:実は私も2006年に起業してすぐシリコンバレーに行ったのです。そして2014年にまた行きました。イノベーションという言葉は自分の中であまり意識したことはなく、人にもイノベーションという言葉はあまり使わないようにしていますが、継続することが、そのうち自分なりのイノベーションにつながるのではと思っています。

 

米倉:日本企業の現在の問題点は、低い利益率の割に内部留保型で、長期的な投資をしないことです。そういった点から考えると、日本企業のイノベーションの妙薬はあるのかというと、無いとなる。しかし実は、有るのかもしれません。まず、きちんと利益を上げるために何ができるのかを考えます。「やるかやらないか」でやってみて、そして失敗をしたら、ナレッジとして会社の中に蓄積する。決して、失敗したことを責めるのではありません。このような回転が始まれば、日本企業は価値のある企業体になっていくと思います。会社の中で失敗をした人を褒めて、それをナレッジとして蓄積して、また新たなチャレンジへ向かわせる。ぜひリーダーの皆様には、そのような人になってほしいと思います。

Yamaha Motor Ventures & Laboratory Silicon Valley Inc.
CEO and Managing Director
(ヤマハ発動機株式会社)

西城 洋志


九州大学工学部卒業後、ヤマハ発動機株式会社に入社。約20年に亘り表面実装技術とロボット事業においてソフトウェア開発、ソリューション開発および新事業開発に従事。2014年5月よりYamaha Motor Corporation, USA のNew Venture Business Developmentの部長となり、その時期にシリコンバレーのエコシステムを活用した新事業開発の企画・戦略立案を行う。2015年7月にYamaha Motor Ventures & Laboratory Silicon Valley Inc.設立し、ベンチャー企業への投資を含めた新事業開発活動を行っている。

Honda R&D Innovations, Inc.
CEO
株式会社本田技術研究所 執行役員

杉本 直樹


リクルートにて人事採用、営業担当などを経て、インターネットメディアの立ち上げに参画。1994年にUC Berkeley留学し、在学中に立ち上げたオンラインコミュニティを社内ベンチャー化。リクルート退職後は、シリコンバレーにてベンチャー投資コンサルタント等の後、2005年にホンダのCVCに参加。2011年にCVCをオープンイノベーションラボに改編し、コラボレーションを通じた新商品・新事業提案を推進。2017年、Honda R&D Innovations, Inc.を設立しCEO(兼 本田技術研究所 執行役員)に就任。シリコンバレー在住23年。東京大学工学部卒業。UC Berkeley MBA修了。

株式会社ジャパンディスプレイ
執行役員 CSO 兼 CMO
伊藤 嘉明

日本コカ・コーラ、デル、ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント(SPE)、ハイアール グループなどのグローバル企業にて、経営陣としてブランド認知度の向上、業績回復、シェア拡大、売り上げ新記録樹立等、事業再生を手がける。 2016年にはX-TANKコンサルティング株式会社を設立し、現在も代表取締役社長を務め、また2017年よりジャパンディスプレイに参画し、CSO兼CMOとして経営再建に携わる。

一橋大学イノベーション研究センター特任教授
法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授
米倉 誠一郎

イノベーションを中心とした経営戦略と組織の史的研究が専門。『一橋ビジネスレビュー』編集委員長、およびアカデミーヒルズの日本元気塾塾長でもある。ハーバード大学歴史学博士号取得(Ph.D.)。2012年よりプレトリア大学日本研究センター所長・顧問を兼任。著書は、『オープン・イノベーションのマネジメント』(有斐閣)、『創発的破壊 未来をつくるイノベーション』(ミシマ社)、『2枚目の名刺』(講談社+α新書)、『経営革命の構造』(岩波新書)の他、近著に『イノベーターたちの日本史:近代日本の創造的対応』(東洋経済新報社)がある。

参加者の声 

 

特別ゲスト講演Ⅰ> パナソニック 馬場 渉 氏

✓ タテの強さに自組織も悩んでいるので、ヨコパナの具体的取り組み、

      次の100年に向けたアーキテクチャの構築が大変参考になった。

 

特別協賛講演> VALUENEX 中村 達生 氏

✓ 30年先(長期予測)からバックして新商品を考えることが大切だと感じた。

      情報の可視化から戦略を見いだす手法に興味が湧いた。

 

特別対談セッション> 三井化学 福田 伸 氏 × rimOnO 伊藤 慎介 氏

✓ 両者の素朴なディスカッションや提言が面白く、大企業とベンチャーの協業の様子がリアルに実感できた。

      新事業に至る情熱、それぞれに人が集まる背景など、非常に興味深く参考になった。

 

特別ゲスト講演Ⅱ> 横河電機 阿部 剛士 氏

✓ 企業におけるマーケティングのあり方が明快に理解できた。

  知財担当を交えたイノベーション推進も参考になった。

 

協賛講演> インヴィニオ 土井 哲 氏

✓ 人はまず選抜するということ。迷っていましたが、そこは冷徹になれということかと思いました。

      人材育成の重要性、痛い所を突かれました。

 

特別パネルディスカッション>

✓ 本質課題が共有出来てよかった。最前線で、本気でやっている人達の本音の声を直に聞けた事が、

      非常に価値が高かったと感じた。それぞれの方々の視点も違い、大変勉強になった。

✓ ミドルマネジメントとしての必要な動きを、いろいろ学ばせていただきました。

      72H以内に消化してしまいたいと思います。

 

フォーラム全体を通して

✓ 具体的な取り組み内容を聞けて有意義であった。

      スピード、顧客価値、作って見せるなど共通のキーワードを見ることができた。

✓ 講演者が言いたいことをかなりホンネで語ってくれたのが良かった。

    「スピード、手を動かす、やってみる」、当たり前のことを再考させられた。

✓ 参加者同士のネットワーキングの仕組みが大変充実しており、有り難かったです。

      多くの企業様が共通の課題をお持ちであることを知る機会でした。

当日の様子


<ネットワーキングランチ>

 

<マッチングボード>

参加者の属性


企画者からの御礼

 

 この度は「New Business Creation Forum 2018 3rd イノベーション闘争時代の新事業創出 ~戦略的“つながり”と“組織”のあり方から問う、その真価~」 に多数ご来場を賜り、誠にありがとうございました。

当日ご来場いただきました皆様には、議論へのご参加のみならず、参加者同士での課題共有や実際のオープンイノベーションの場としても、終日に渡り積極的なご協力をいただきましたことで、大変熱気溢れる一日となりました。
不確実性と変化の時代、「新事業創出」という最優先の経営課題に、妙薬はあるか。当日の講演や皆様同士の交流の中で、皆様の課題解決へ向けたヒントを少しでもお持ち帰りいただき、その挑戦の一助となれば幸いです。

 ビジネス・フォーラム事務局では、今後も皆様の課題解決のヒントとなるようフォーラムを企画してまいります。 企画・テーマ等にご希望・ご意見がございましたら、ぜひこちらまでお寄せ下さいませ。

最新のセミナーはこちらからご確認ください。

 

 改めまして、この度、本フォーラムにお力添えをいただきましたご講演者の皆様、ご協賛社の皆様、そしてご参加いただいた皆様に、この場を借りて心より御礼を申し上げます。誠にありがとうございました。

 

 

株式会社ビジネス・フォーラム事務局
プロデューサー 高田 紗生