EY Finance Summit 2026
未来を創るファイナンスを考える ~Future of Finance~
― 戦略的CFOが導く、経営変革の新時代
企業の持続的な成長と価値創造を支える「ファイナンス機能」は、いま大きな転換期を迎えています。経営環境の不確実性が一段と高まるなかで、CFOや経理財務部門、経営企画部門、そして監査役に求められる役割は、従来のバランスシート管理やガバナンス業務にとどまらず、経営の意思決定をリードし、変革を推進する戦略的パートナーへと進化することが求められています。
一方で、現場では課題も山積しています。グローバル経営の複雑化により、経営管理や資本配分の高度化、データ活用分析、人材、迅速な経営情報の可視化の難しさなど、構造的な制約が多くの企業を悩ませています。さらに、AIや自動化技術の進展に伴い、財務業務の効率化とガバナンスの両立、人材のリスキリングや新たなスキル体系の構築、また、資本市場からの「資本効率」や「企業価値向上」に対する要求が一段と高まりつつあります。
こうした背景のもと開催された「EY Finance Summit 2026」では、「戦略的CFOが導く経営変革の新時代」をテーマに、企業価値創造を支えるファイナンス部門の進化について多面的な議論が行われました。
企業の成長とレジリエンスを支える“攻めのファイナンス”をいかに実現するか。
本レポートでは、当日の講演・ディスカッションの内容をもとに、その様子をご紹介します。


オープニング
EY Asia Eastマネージング・パートナー
EY Japan チェアパーソン 兼 CEO
貴田 守亮 氏
「ポリクライシス(複合危機)」という言葉が象徴するように、現代の経営環境は複雑さを増しており、地政学リスクやAIの進化など企業が直面する課題は山積しています。
本セッションでは、EY Japanの貴田氏が登壇し、激動の時代においてCFO(最高財務責任者)が果たすべき「役割」と、日本企業が世界で発揮すべき「ポテンシャル」について解説しました。
複合的危機がもたらす経営課題

現代の企業は、単一の課題ではなく、複数の危機が複雑に絡み合うポリクライシスに直面しています。
ダボス会議から見えた世界の潮流
貴田氏は冒頭、カナダの首相がダボス会議で提案した「中堅国同士の国家主導でのリスク管理」の動きに言及しました。
インフレや地政学リスクが企業の持続可能性に直接的な影響を及ぼす中、すでに世界規模で機動的な対応が始まっています。
相反する要請に応える「経営の翻訳者」
激動の環境下において、日本のCFOは「短期的な業績重視」と「長期的な価値創造への投資」という、相反する要素のバランスをステークホルダーに理解してもらう難易度が一層高まっています。
アクティビストと対峙しつつ株主還元を実現し、同時に海外子会社を含めた連結レベルでのガバナンス強化を両立させなければならないからです。これらを乗り越える成功の鍵は、複雑な経営課題の本質を、明確な財務戦略へと落とし込む「翻訳者」としての能力に他なりません。
AI投資とグローバル連携における真価
激変する環境を乗り越えるためには、テクノロジーの活用とグローバルな視点でのパートナーシップが欠かせません。
戦略的資産としてのAI活用
企業におけるAI投資のROI判断も、現在の重要なアジェンダとなっています。
AI投資は単なる効率化ツールではありません。同じアウトカム、あるいは新たな価値を創造するためにも、業務プロセスを根から変える「戦略的資産」と位置付けるべきだと指摘しました。
その為にはCIO(最高情報責任者)に任せるのではなく、CFO自らが主導して経営戦略と内部統制を変革させていくことこそが、持続的な成長を実現するための解決策となります。
日本企業への期待
さらに貴田氏は、EYドイツの責任者から「エネルギーやサプライチェーンを軸に、日本とのさらなる関係強化を模索している」との相談を受けた事例を紹介。世界が日本そして日系企業との新たな連携を求めている現状を示しました。
日本経済の再浮上に向け、バーティカルな強みを持つ日本の産業力をグローバルな文脈で再定義し、マルチステークホルダーを見据えながら国と会社を牽引していくことが求められています。
まとめ:CFOによる企業価値創造
講演の締めくくりに、貴田氏は「経営の翻訳者」として変革に挑むCFOへの期待を込めてメッセージを送りました。
ポリクライシス時代において、未来を切り拓くためには、CFO自らがリーダーシップを発揮し、ステークホルダーとの納得感あるナラティブを築くことが不可欠です。
キーノートスピーチ
市場再編時代のCFOの役割:資本コストを意識した経営とリスク管理
日本取引所自主規制法人
常任理事(上場管理担当)
長谷川 高顕 氏

日経平均株価が史上最高値を更新し、プライム市場における外国人投資家の保有比率が30%を超えるなど、市場環境は劇的に変化しました。
かつて日本企業を規律付けていた、メインバンクを中心とするデットガバナンスの影響力は相対的に低下し、代わって株主や投資家との建設的な対話を重視する「エクイティガバナンス」への移行が不可逆的な潮流となっています。
この市場再編時代において、企業はいかにして持続的な成長を実現すべきなのでしょうか。
本セッションでは、日本取引所自主規制法人の長谷川 高顕 氏が登壇し、東京証券取引所が要請する「資本コストや株価を意識した経営」の本質と、足元で高まる「リスクへの防衛策」について解説しました。
CFOが果たすべき「攻めのガバナンス」と「守りのガバナンス」という2つの観点から、企業価値を最大化するための解決策をひもといていきます。
「形式的な開示」からの脱却と、真の「攻めのガバナンス」
東京証券取引所が、上場会社の企業価値向上のために資本コストや株価を意識した経営の推進・対話促進の要請を行って以来、多くの企業が対応を進めてきました。
現状分析から計画策定、そして実行というサイクルの中で、足元ではプライム市場の約9割の企業が何らかの開示を行っています。
しかし長谷川氏は、こうした現状に対して投資家から厳しい視線が向けられていると指摘します。その背景には、開示そのものが目的化し、企業価値向上に向けた抜本的な経営判断が十分に伴っていないのではないかという懸念があるといいます。
成功の鍵は「事業ポートフォリオの抜本的見直し」
投資家が真に求めているのは、形式的な対応やスローガンのような成長戦略ではありません。
経営資源を最適に配分し、資本効率を最大化するための具体的なアクションです。
長谷川氏は、企業価値向上の重要な鍵の1つは、不採算事業からの撤退や成長領域への資源配分といった「事業ポートフォリオの抜本的見直し」にあると明言しました。
実際、資本コストを意識したノンコア事業の売却や、M&Aによる戦略的アライアンスを模索する企業は増加傾向にあります。
また近年では、PBRが1倍を上回る企業であっても、事業のポテンシャルを十分に引き出せていないとして、アクティビストから提案を受けるケースが広がっています。
投資家との対話を深める「非財務情報の開示」
さらに長谷川氏は、「サステナビリティ領域の開示」と「親子上場のあり方への対応」が、今後の重要なアジェンダになると指摘しました。
特に、気候変動などの環境リスクや、サプライチェーン上の人権リスクへの対応については、投資家からの要求が年々高まっています。
また、日本企業に多い親子上場の形態についても、少数株主保護の観点から、その意義を投資家目線でロジカルに説明することが不可欠です。
こうした課題に対し、投資家の期待を正確に把握した上で、それを上回る成長ストーリーを描くことが、グローバル市場で競争優位を確立するために重要であると長谷川氏は述べました。
足元をすくわれないための「守りのガバナンス」再構築
「攻め」の経営を加速させる一方で、企業を取り巻くリスク環境も大きく変化しています。
増加する「会計不正」と「サイバーリスク」
近年、会計不正や粉飾決算が相次ぎ、その波はガバナンス体制が整っているはずのプライム市場の上場企業にも及んでおり、第三者委員会を設置する事案が増加しています。
また、ランサムウェアによるサイバー攻撃も多発しており、決算データの喪失による有価証券報告書の提出延期など、事業存続を揺るがす深刻な事態も発生しています。
長年築き上げたブランドや社会的信用は、たった一度の不祥事で瞬時に毀損し、企業価値を大きく損なう結果を招きかねません。見えない脅威に対して常にアンテナを張り、組織全体でリスク感度を高めておくことが急務となっています。
内部統制強化に向けた実務指針
長谷川氏は、日本取引所自主規制法人が公表した「不祥事予防・対応のプリンシプル」や、本年発行された「内部統制強化・不祥事予防に向けたハンドブック」にも触れました。
これらは、不祥事の未然防止や発生時の対応、さらには再発防止策の事例などを整理した資料であり、企業が内部統制の強化を検討する上で参考となるものです。
自社の取り組みを見直す際の一助として活用してほしいと呼びかけました。
まとめ:経営の「ナビゲーター」としてのCFO
最後に長谷川氏は、これからのCFOに求められる役割の重要性を改めて強調しました。
資本コストを意識し、抜本的な事業再編を牽引する「攻めのガバナンス」と、複雑化する不祥事やサイバーリスクを検知し、組織をコントロールする「守りのガバナンス」。
これら相反する機能を高度なレベルで統合し、経営判断の羅針盤となることができるのは、企業全体の情報を数値として把握しているCFOをおいて他にありません。
CFOが財務の専門家という枠を超え、ファイナンス思考に基づき経営戦略の中枢でリーダーシップを発揮していくこと。その変革への意志と行動が、市場再編という激動の時代を乗り越え、日本企業の企業価値向上に向けた重要な鍵になるといえるでしょう。
鼎談
日本取引所自主規制法人 常任理事(上場管理担当) 長谷川 高顕 氏
EY Japan マネージング・パートナー/アシュアランス
EY新日本有限責任監査法人 理事長 松村 洋季 氏
EY Japan マネージング・パートナー/コンサルティング
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 代表取締役 吉川 聡 氏

不確実性が常態化する現代の経営環境において、CFOの役割は、従来の単なる数字の管理者から大きく変容しています。
キーノートスピーチの論点を引き継ぐ本セッションでは、日本取引所自主規制法人の長谷川 高顕 氏に加え、EY Japanの松村 洋季 氏と吉川 聡 氏が登壇し、市場再編時代におけるCFOの真の役割について活発な議論が交わされました。
VUCA時代に求められる「集団経営」とCFOの役割

地政学リスクや気候変動、急速なテクノロジーの進化など、企業を取り巻く環境は予測困難なVUCAの時代へと突入しています。
予測不可能な時代における「経営の質」の転換
吉川氏は冒頭、多くの経営トップとの対話を通じて見えてきた経営環境の劇的な変化に言及しました。
かつては精緻な中長期計画を立て、それを計画通りに実行する「予測して当てる経営」が主流でした。しかし、前提条件が次々と崩れる現代の環境下においては、当初の計画に固執するよりも「計画修正の早さ」や「完璧主義よりスピード」が重視されるようになっています。
こうした経営の難易度上昇に伴い、もはやCEO単独のカリスマ性のみで意思決定を下すことは困難です。複雑化する経営課題に対応するためには、CEOを支え、CFOをはじめとするCXOチームが強固に連携してかじ取りを行う「集団経営」へのシフトが不可避の潮流といえるでしょう。
次世代CFOに求められる「3つの進化」
この集団経営において、中心的な軸となるべき存在がCFOに他なりません。
全事業や全投資、全リスク、そして全ステークホルダーを横断的に俯瞰できる唯一の役員として、CFOへの期待はかつてなく高まっています。
吉川氏は、次世代CFOが備えるべき要件として、「可視化するCFO」「意思決定を加速させるCFO」「資本市場と経営をつなぐCFO」という3つの進化を提示しました。
複雑化する事業構造のブラックボックスを残さず、数字によって経営を可視化すること。
そして、リスクを恐れて投資を止めるブレーキ役ではなく、成長に向けた「ハンドルとナビ」を握る存在になることが求められていると述べました。
「社内アクティビスト」としての機能
CFOの役割が際限なく広がる中、企業価値を最大化するためには「攻め」と「守り」の両輪を高い次元で統合しなければなりません。

攻めと守りを両立させるバランス感覚
長谷川氏は、CFOが果たすべき責任範囲が急速に拡大している事実に言及しました。
事業ポートフォリオの最適化やM&A戦略といった「攻めのガバナンス」を牽引する一方で、サイバー攻撃や企業不祥事のリスクが高まる現代においては、内部統制をはじめとする「守りのガバナンス」の再構築も急務となっています。
また、サステナビリティ領域の開示やデジタル技術の活用など、従来は管轄外とされがちだった新たなアジェンダに対しても、CFOがリーダーシップを発揮することが求められています。
こうした多岐にわたる課題に対し、攻守のバランスを保ちながら経営のかじ取りを担うことが、持続的な成長に向けて重要になると指摘しました。
トップや事業部門に切り込む「社内アクティビスト」

松村氏は、監査法人のトップとしての視点から、CFOが「社内アクティビスト」として機能することの重要性を説きます。
ある歴史ある企業の事例では、外部から招聘されたCFOが、既存の事業や資産のあり方に自ら厳しい問いを投げかけ、抜本的な改革を推進しているケースが紹介されました。
外部のアクティビスト(いわゆる物言う株主)から厳しい指摘を受ける前に、CFO自身が社内の“聖域”に切り込み、論理的かつ冷静な判断を下せる体制を平時から整えておくこと。
こうした社内対話の積み重ねが、資本市場からの信頼を高め、予期せぬリスクから企業を守る上で重要になると松村氏は指摘しました。
まとめ:未来のファイナンス
最後に松村氏は、EY Japanとして、今後も横断的な経営課題に対して幅広いプロフェッショナルが寄り添いながら、未来のファイナンスについて意味のある対話を深めていきたいと述べ、鼎談は幕を閉じました。
A-1【経営戦略・価値創造】
企業価値向上のための経営管理高度化
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
EY-Parthenon トランザクション・アンド・コーポレートファイナンス副リーダー パートナー
鈴木 紘 氏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
EY-Parthenon ストラテジー・アンド・エグゼキューション ストラテジー ディレクター
笹岡 武史 氏
日本企業がいま直面しているのは、株主や投資家からの厳しい視線と、持続的な企業価値向上への強いプレッシャーです。
本セッションでは、EYストラテジー・アンド・コンサルティングの鈴木 紘 氏と笹岡 武史 氏が登壇し、市場再編時代に求められる「攻めのガバナンス」をテーマに、経営管理をいかに高度化していくべきかについて解説しました。
企業が資本コストを正確に意識し、事業ポートフォリオの最適化を図るためには何が必要なのでしょうか。
市場の視点と「攻めのガバナンス」の実践

上場企業が資本市場からどのように評価されているかを客観的に把握することは、企業価値向上の第一歩となります。
多様化するアクティビストの標的と要求
笹岡氏は冒頭、日本企業に対するアクティビストの動向について言及しました。近年、そのターゲットはPBR1倍未満の企業にとどまらず、PBR1倍以上の企業へも広がっているのが実態です。
グローバルアクティビストの参入や既存プレイヤーのベテラン化を背景に、彼らは対象企業が持つポテンシャルが十分に引き出されていないと判断すれば、容赦なく介入してきます。
また、提案内容も単なる株主還元から、非公開化の提案や抜本的な「事業ポートフォリオの再編」へと高度化しており、企業側にはより一層の警戒が求められます。
こうした外部からの厳しい視線に対し、企業は受け身になるのではなく、自らの事業価値をロジカルに説明する姿勢を持たなければなりません。
機関投資家との対話とキャッシュアロケーション
さらに、中長期的な成長を重視する国内外の機関投資家からも、日本企業に対する要求は厳しさを増しています。
彼らが特に重視しているのが、ROE(自己資本利益率)の改善と、それに直結する事業ポートフォリオの抜本的な見直しです。
また、手元に蓄積された現金をどのように成長投資や株主還元に振り向けるかという「キャッシュアロケーションの最適化」も、投資家が注視する重要なポイントとなっています。
自社の経営状況を客観的な指標で可視化し、投資家と納得感のある対話を平時から重ねていくことが、市場からの信頼を高める上で重要になると指摘しました。
企業価値を最大化する「資本コスト経営」の実践

アクティビストからの標的を回避し、企業価値を持続的に向上させるためには、内部の経営管理プロセスを抜本的に変革しなければなりません。
ROICを活用した事業ごとの価値算定
鈴木氏は、企業価値向上の出発点として「自社の価値を正確に把握すること」の重要性を説きました。
連結の事業計画だけで全体を評価するのではなく、事業ごとに価値を算出し、それらを足し合わせる「サム・オブ・ザ・パーツ(Sum of the Parts)」のアプローチが有効です。
この際、各事業が創出するリターンを評価する指標として、WACC(加重平均資本コスト)とROIC(投下資本利益率)の比較が欠かせません。
ROICは事業ごとに細分化して管理できるため、事業ごとの目標として現場のKPIへと落とし込みやすいという利点を持っています。
見落とされがちな「非事業用資産」の適正化
鈴木氏はまた、企業価値評価において非事業用資産が見過ごされがちな点にも言及しました。
貸借対照表上に多額の余剰キャッシュや遊休資産が存在する場合、資本効率は大きく低下するため、投資家の視点では、これらは「活用されていない資産」として評価される可能性があります。
よって企業には、「必要な手元資金の定義」「余剰資金の再配分」など、キャッシュアロケーションの見直しが求められます。
まとめ:財務と事業をつなぐ経営管理
企業価値向上に向けて、財務部門と事業部門が「同じ目線・同じ言語」で議論を交わしていくことの重要性が改めて示されました。
CFOや経営企画部門は、単なる数値の取りまとめ役にとどまらず、全社的な経営管理の高度化を推進するリーダーとしての役割が期待されています。
資本コストという客観的な基準をもとに資源配分を見直し、投資家に対して透明性のある説明を行うこと。それが企業価値向上の重要な要素になるといえるでしょう。
A-2【経営戦略・価値創造】
サステナビリティ経営戦略とIR戦略
青山学院大学名誉教授 東京都立大学特任教授 経済学博士 北川 哲雄 氏
EY Climate Change and Sustainability Services シニアマネージャー 廣島 梨香 氏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
EY-Parthenon トランザクション・アンド・コーポレートファイナンス バリュエーション/モデリング アソシエートパートナー
三森 亮平 氏
EY税理士法人 タックス・テクノロジー・アンド・トランスフォーメーションリーダー 上田 理恵子 氏
EY Climate Change and Sustainability Services, Asia East & Japan Regional Leader 牛島 慶一 氏
サステナビリティ情報の開示義務化が進む現代において、企業はこれを単なる規制対応で終わらせるのではなく、持続的な企業価値向上へと連動させることが求められています。
本セッションでは、有識者とEYのプロフェッショナルが登壇し、「無形資産の可視化」や「データサイエンスを用いた価値算定」など、サステナビリティを競争優位へと昇華させるためのIR戦略について多角的な視点から解説しました。
「見えない価値」の可視化とデータサイエンスの活用
日米の企業価値構造を比較すると、米国では無形資産が企業価値の約9割を占める一方、日本企業は依然として3割程度にとどまっているのが実態です。
インパクト加重会計による価値の顕在化
廣島氏は、企業価値を正しく評価するためには、財務会計上の数値だけでなく、人的資本や環境・社会に与えるポジティブな影響といった「社会インパクト」を可視化することの重要性を指摘しました。
現状、多くの企業ではESGへの取り組みが局所的な対応にとどまり、全社的な企業価値向上へと十分に結び付いていないといいます。
こうした課題を乗り越えるためには、優先すべきESG項目を特定し、見えない価値を貨幣換算して財務と統合する「インパクト加重会計」などの手法を取り入れていくことが重要になると強調しました。
次世代エクイティストーリーを支える2つのモデル
三森氏は、社会課題の解決と企業の利益成長が必ずしも相反するものではないことを、投資家に理解してもらうための分析フレームワークを紹介しました。
具体的には、市場の評価要素を整理する「PBRモデル」と、社会的インパクトをキャッシュフローに換算する「ロジックモデル×DCF法」の併用です。
この2つのアプローチを組み合わせることで、現在の市場評価と中長期の価値創造のロジックを結び付けたエクイティストーリーを構築することが可能になります。
また、非財務データを単なる開示情報として扱うのではなく、管理会計や経営管理の仕組みに取り込み、意思決定に活用していく重要性についても言及しました。
透明性確保と事業戦略に直結する「税務開示」
サステナビリティの文脈において、近年とりわけ注目を集めているテーマの1つが「税の透明性」です。ここでは、「国際的な税務規制の変化」と「マルチステークホルダーへの対応」という2つのテーマについて掘り下げていきます。
パブリックCbCR時代における説明責任
上田氏は、BEPS2.0に代表される国際課税ルールの変革により、多国籍企業の税務戦略が大きな転換点を迎えている事実に警鐘を鳴らしました。
これまで税務当局にのみ提出されていた「国別報告書(CbCR)」は、今後パブリックに開示される流れが進んでいます。
その結果、各国の売上規模や資産に対して、どこでどれだけの税金を納めているのかが可視化されるため、企業はその背景にある事業戦略をより論理的に説明することが求められるようになります。
マルチステークホルダーに向けた価値の提示
税務はもはや、単なるコンプライアンス対応やコスト管理の領域にとどまりません。
政府の優遇税制を活用した投資など、企業が税を通じて社会にどのように貢献しているのかを示す「トータル・タックス・コントリビューション」の視点が重要性を増しています。
税務部門が事業部門と連携し、経営判断にも関与していくことで、グローバル企業としての信頼性を高める戦略的税務ガバナンスの構築が求められています。
投資家との対話を深めるファクトリッチな情報開示
セッションの後半では、長年バイサイドのアナリストとしてリサーチに携わってきた北川氏を交え、投資家が企業に求めるディスクロージャーのあり方について議論が交わされました。
情報の非対称性を解消するプロアクティブな姿勢
北川氏は、比較可能性の低い表面的なサステナビリティ開示に対して、投資家は必ずしも高い評価を与えていないと指摘しました。
機関投資家にとって重要なのは、無形資産がどのように売上や利益に結び付くのかを示す「ファクトリッチな情報」です。
企業は規制対応として情報を開示するだけでなく、自社のリスクやポジションを客観的に分析し、その結果を経営陣と共有する仕組みを整える必要があります。
本質的な対話から生まれる競争優位
投資家が求めているのは、完成度の高いレポートそのものではなく、自社の課題やリスクを正確に認識し、それに対する対応方針を説明できる経営の姿勢です。
情報の非対称性を解消し、投資家と同じ視点で経営課題を議論していくこと。
こうした継続的な対話を通じてこそ、企業価値の理解が深まり、資本市場との信頼関係が構築されていきます。
まとめ:ESG時代に求められるCFOのリーダーシップ
最後に牛島氏は、ESGやサステナビリティはすでに企業経営のニューノーマルになりつつあると述べました。
欧米ではこうした流れに逆風が吹いているとメディアでも取り上げられる中、日本は着実に計画を進めており、先進国の中でも相対的に一歩先を行く状況にあるといいます。
今後はCFOがリーダーシップを発揮し、積極的に実践を進めていくことが世界的にも期待されていると強調し、本セッションを締めくくりました。
A-3【経営戦略・価値創造】
グローバルサプライチェーンを巡る新たな経営判断
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 サプライチェーン&オペレーションズ リーダー 高見 幸宏 氏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 EY-Parthenon パートナー 小林 暢子 氏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 サプライチェーン&オペレーションズ パートナー 志田 光洋 氏
EY税理士法人 インダイレクトタックスリーダー/パートナー 大平 洋一 氏
EY新日本有限責任監査法人 CCaSS事業部 プリンシパル 名越 正貴 氏
EY新日本有限責任監査法人 Forensics事業部 プリンシパル 石橋 佐和子 氏
ウクライナを巡る国際情勢の変化を受け、世界経済は大きな転換点を迎えています。
企業を取り巻く地政学リスクは、かつてないほど高まっています。
本セッションでは、EYの戦略コンサルタント、税務、監査など各分野のプロフェッショナルが登壇し、市場再編時代におけるサプライチェーン戦略について議論しました。
複雑化するリスク環境の中で、CFOはどのように経営判断を行うべきなのでしょうか。
世界経済圏の再編成とサプライチェーンの再構築

企業のグローバル展開において、従来のようにコスト最適化のみを追求するサプライチェーン戦略は転換点を迎えています。
経済ブロック化がもたらす事業環境の変化
冒頭、ウクライナを巡る国際情勢などの変化を踏まえ、世界経済圏が再編されつつある「大きな潮流」について説明しました。
これまでグローバルサプライチェーンは効率性を最優先に構築されてきました。しかし国家間の対立や分断が深まる中で、その前提は大きく変化しています。企業は従来の延長線上ではなく、より戦略的な視点でサプライチェーンを見直す必要があります。
自社の事業ネットワークがどの経済圏に属し、どのような影響を受けるのかを客観的に分析した上で、次の一手を検討することが重要になります。
レジリエンスを高める戦略的なリスク回避

不確実性の高い時代に求められるのは、有事でも事業継続が可能なレジリエンスを備えたサプライチェーンです。
特定の地域やサプライヤーへの過度な依存から脱却し、調達網の多様化や、同盟国・友好国への拠点移転(フレンドショアリング)などを推進していくことが重要になります。
また、自社の供給網に潜むリスクをデータによって可視化し、有事に備えた機動的な対応策を平時から整えておくことも求められています。
多様化するリスクとガバナンス

サプライチェーンを巡るリスクは地政学にとどまらず、人権や環境問題、さらには税務やコンプライアンスなど多岐にわたります。こうした複雑なリスクへの対応とCFOの役割について議論が行われました。
人権・環境・贈収賄リスクへの対応
近年、グローバル市場において企業に求められる責任は急速に拡大しており、自社のみならず取引先も含めたサプライチェーン全体でのリスク管理が必須となっています。
自社だけでなく、取引先を含めたサプライチェーン全体において、「強制労働」「人権侵害」「環境問題」「贈収賄」といったリスクを管理することが必要です。
投資家や社会からの監視が強まる中、企業にはこれらのリスクを早期に把握し、迅速に対応する体制が求められています。
専門部署に依存しない一貫したリスク管理
これら多岐にわたる課題に対し、人権問題は調達部、法令遵守は法務部といったように、専門部署へ単独で任せきりにする組織体制では限界があります。
CFOが部門間の壁を越えて全体を取りまとめ、全社的なリスク管理を推進していくことの重要性が提言されました。
財務的なインパクトと非財務の事象を統合的に評価し、経営陣や投資家に向けて「一貫したストーリー」として語っていくことが、複雑化するリスク環境に対応する上で重要な視点になります。
通商・関税管理機能の強化の重要性
通商・関税の分野においても、国際秩序の転換が進行していることを私たちは目の当たりにしています。
企業は、透明性や法の支配がもはや貿易の指針とはならない「ポストWTO時代」という未踏の領域に足を踏み入れています。これは、①貿易を行う過程で世界各地において通商関税問題がより多く発生すること、②貿易に伴うコストおよびリスクが必然的に増加することを意味します。
その結果、企業は国際貿易を継続する中で、コスト削減と利益防衛を実現し続けるために、この新しい環境へ適応する方法を見い出さなければなりません。具体的には、今後起こり得る関税・非関税障壁の発生に対して、事前に各関係部署と連携の上、複数のプランを準備した上で速やかに適切なプランを実行していく通商戦略的な機能が重要になります。
まとめ:CFOが担うサプライチェーン戦略
最後に高見氏は、CFOの役割が税務や財務にとどまらず、企業全体のリスクとリターンを統合的に管理する領域へと広がっている点を強調しました。
複雑化するリスク要因を把握し、専門部署と連携しながらサプライチェーンガバナンスを構築するとともに、調査機能、シナリオプランニング、計数シミュレーションなどを備えたサステナブルな組織づくりが重要になると述べ、講演を締めくくりました。
B-1【デジタル・テクノロジー・データ】
FP&Aの機能強化で実現する真のデータドリブン経営:財務×非財務のデータ連携で描く価値創出
EY Climate Change and Sustainability Services, Asia East & Japan Regional Leader 牛島 慶一 氏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ビジネスコンサルティング・ファイナンス アソシエートパートナー
廣田 政孝 氏
EY新日本有限責任監査法人 FAAS事業部 シニアマネージャー 古川 吉克 氏
VUCAと呼ばれる変化の激しい時代において、企業は従来の「経験・勘・過去の経験」に頼るアプローチから脱却し、客観的なファクトに基づく意思決定へとかじを切ることが求められています。
本セッションでは、EYのプロフェッショナル3名が登壇し、市場再編時代を勝ち抜くための「データドリブン経営」のあり方について解説しました。
経験と勘からの脱却と「FP&A」の役割再定義
データドリブン経営を実現するためには、単なるITツールの導入にとどまらず、組織全体の意思決定プロセスを根本から見直す必要があります。

FP&Aを起点としたデータドリブン経営
廣田氏は、データドリブン経営の実現に向けて、FP&A機能の高度化が重要であると指摘します。従来の予算中心の管理から一歩進み、市況や外部要因を踏まえた見通し分析や予測を行い、事業部門と連携しながら施策の検討・実行を進めていくことが重要です。
さらに、企業価値向上に向けては、財務情報に加え、ESGやサステナビリティなどの非財務情報を経営に統合して活用することも不可欠です。これらのデータを統合的に管理することで、より精度の高い経営判断につながると説明しました。
FP&Aの役割転換
FP&Aは「正しい数字を作る組織」ではなく、「正しい意思決定を支援する組織」として進化することが求められます。経営会議で問われる論点をあらかじめ定義し、データ分析を通じて迅速に答えを提示できる体制を整えることが、データドリブン経営の実践につながるとまとめられました。
財務と非財務の統合がもたらす企業価値の創出

企業価値を正確に測定し、投資家と対話していくためには、従来の財務情報だけでは不十分です。
ESGや現場KPIを経営判断に連動させる
牛島氏および古川氏を交えたトークセッションでは、ESGを含むサステナビリティ関連情報や事業部門の現場KPIといった「非財務データ」の扱い方に焦点が当てられました。
これからの経営管理においては、CO2排出量や人的資本に関する指標などを財務データと統合し、将来の経営環境の予見性を高めて全社的な経営目標へと連動させることが不可欠です。
ただし、こうしたデータ統合には「部門間の壁」や「役割分担の曖昧さ」といった課題も存在します。そのため、ファイナンス部門が中心となり、全社的なデータ基盤の構築を推進することが求められます。
データドリブン経営の実践
古川氏は、EYが支援している企業の事例を挙げながら、データドリブン経営の実践について説明しました。紹介されたのは、経理部門が主体となり、スモールスタートで取り組みを進めたケースです。
過去の経験や熟練者の暗黙知をデータとして可視化し、組織全体で再現可能な形へと落とし込んでいくこと。その目指す方向性がぶれなければ、データドリブン経営の実現につながると述べました。
まとめ:データを軸に意思決定を変革する
本セッションでは、企業を取り巻く不確実性が高まる中、経験や勘に依存した意思決定から脱却し、データに基づく経営へと転換していく重要性が強調されました。
その中心を担うのがFP&A機能です。従来の予算管理にとどまらず、財務データとESGなどの非財務データを統合し、経営判断を支える分析基盤として進化していくことが求められます。
データを共通言語として意思決定を高度化していくことが、不確実な時代において企業価値を高める鍵になるといえるでしょう。
B-2【デジタル・テクノロジー・データ】
CFOの視点で考えるテクノロジーリスクと企業防衛
日本アイ・ビー・エム株式会社 テクノロジー事業本部Apptio事業部 カスタマーサクセス本部長 TBMエバンジェリスト
浅川 真弘 氏
EY Japan Forensics フォレンジック・テクノロジーリーダー/サイバー・アシュアランスリーダー
EY新日本有限責任監査法人 プリンシパル 杉山 一郎 氏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 リスク・コンサルティング パートナー 川勝 健司 氏
EY新日本有限責任監査法人 Technology Risk事業部 プリンシパル 竹中 淳一 氏
現代のビジネスにおいて、テクノロジーは企業の競争力を左右する最重要資産となっています。
しかしその一方で、システム障害やサイバー攻撃といった脅威は、決算発表の遅延や株価の下落に直結する重大な経営リスクへと変貌を遂げました。
本セッションでは、テクノロジーとリスク管理の最前線に立つ専門家たちが登壇し、企業防衛のあり方について解説しました。
もはやIT部門だけに任せておくことはできないテクノロジーリスクに対し、CFOはどのように立ち向かうべきなのでしょうか。
テクノロジーリスクの顕在化と「有事のガバナンス」

テクノロジーの進化に伴い、企業が抱えるリスクはより複雑かつ深刻なものとなっています。
経営直結型の脅威となるサイバーリスク
テクノロジーリスクはもはやCIOやCISOだけの課題ではありません。
ランサムウェアなどのサイバー攻撃や大規模システム障害が発生した場合、事業停止や財務データの喪失、有価証券報告書の提出延期など、企業存続に影響する事態へと発展する可能性があります。
そのため、これまでIT部門の課題とされてきた領域にもCFOが関与し、経営レベルでリスク管理を行うことが求められています。
迅速な意思決定を支える平時からの備え

インシデント発生時には、影響範囲の特定や事業復旧の判断を迅速に行う必要があります。
しかし、事態発生後に情報収集を開始するようでは、適切な経営判断を下すことは困難です。
そのため、平時から自社のシステム環境やデータの所在を把握し、インシデント対応プロセスを整理しておくことが重要です。
ブラックボックス化するIT投資と「TBM」の提唱
リスクから企業を守る「守り」のガバナンスと同時に、IT投資の効果を最大化する「攻め」の視点も欠かせません。

財務・IT・ビジネス視点を統合するアプローチ
IT投資を適切に管理するためには、財務・ビジネス・IT部門の一層の連携が重要です。しかし企業規模が拡大するにつれて、多くの組織で「IT投資のブラックボックス化」という課題が生じています
IBMの浅川氏は、この課題を解消する枠組みとしてTBM(Technology Business Management)の手法を紹介しました。TBMは、ビジネス・財務・IT部門が連携し、意思決定を行うための共通言語を整備するとともに、ビジネス価値を最大化するためのインサイトを導き出すアプローチです。
テクノロジーにかかるコストを経営や事業の文脈で捉え直し、財務・IT・ビジネスの3つの視点を統合することで、経営陣が納得感を持ってIT投資について議論できる基盤が形成されると説明しました。
コストから「事業価値を生む投資」への転換
IT投資は従来のコストセンターとしての位置付けから、事業価値を生み出す戦略的投資へと捉え直す必要があります。
コストと効果を可視化し、客観的なデータに基づいて投資の継続や見直しを判断できる仕組みを整えることが重要です。
AIなどの技術を活用し、分析結果を具体的なアクションへと結び付けていくことで、IT投資の最適化が進みます。
まとめ:CFOが担うテクノロジーガバナンス
テクノロジーが企業価値を左右する重要な経営資産であることが強調されました。
有事の際にはCFOが中心となり、財務報告への影響を見据えた迅速かつ合理的な判断と説明責任を果たすことが求められます。
同時に、IT投資を単なる「コスト」ではなく、事業価値創出のための経営判断として捉える視点も重要です。
こうした守りと攻めを統合し、テクノロジーを経営戦略へと結び付けていくことが、企業防衛と成長の両立につながるとまとめられました。
B-3【デジタル・テクノロジー・データ】
AI全盛時代における“アクセルとブレーキ”の再設計
東京海上ホールディングス株式会社 専務執行役員 グループデジタル戦略総括 AIガバナンス協会代表理事 生田目 雅史 氏
EY Japan 監査サービス クライアント・アンド・インダストリー・リーダー
EY新日本有限責任監査法人 常務理事 パートナー 矢部 直哉 氏
EY Japan アシュアランスデジタルリーダー EY新日本有限責任監査法人 デジタル戦略部 パートナー 加藤 信彦 氏
AI技術が急速な進化を遂げる中、AIは単なる業務効率化のツールから、企業の価値創造や経営戦略に直結する重要な資産へと変貌しています。
本セッションでは、東京海上ホールディングスの生田目 雅史 氏とEYのプロフェッショナルが登壇し、AI全盛時代における「アクセル(活用)」と「ブレーキ(ガバナンス)」の再設計について解説しました。

矢部氏は、EYが2025年12月に実施した「責任あるAI」の調査結果をもとに「多くの経営層が“AIのリスクにどうコントロール(統制)を打つべきか”を十分に把握できていない」点を紹介しました。こうした問題意識を受け、CFOはどのようにリスクを管理し、AI投資を企業価値の向上へとつなげていくべきかというテーマで議論が展開されました。
顧客起点への転換とAI活用の現在地
AIの進化は、企業内部の業務プロセスだけでなく、顧客の購買行動や社会の仕組みそのものを根本から変えようとしています。
「AIエージェント」の台頭とゲームチェンジ

近年、AIは単にコンテンツを生成する段階から、目標達成に向けて自律的に行動する「AIエージェント」へと進化を遂げています。
生田目氏は、商品の購入などの場面で顧客側のAIエージェントが自動で比較・選択を行う時代が到来している事実に言及しました。
従来の「企業がITを活用して顧客にサービスを提供する」という発想から、「顧客のAIエージェントに自社のサービスを選ばれるようにする」という、顧客起点のパラダイムシフトが起きています。
こうした変化に適応し、ジェネレーティブAIを前提としたサービス設計や業務の最適化を進めていくことが、今後の競争力を左右すると説明しました。
AI活用の広がり
さらに生田目氏は、保険業界におけるAI活用の事例も紹介しました。非構造データの構造化による引き受け情報の精度向上や保険金の不正請求検知など、業務の中核領域でAI活用が進んでいます。
また、AI活用は事業領域にとどまらず、人事・法務・経理といったコーポレート業務にも広がっています。グローバル金融機関では、これらの領域でAIが大きな価値を生み出している事例も紹介されました。
CFOをはじめとする経営陣は、組織全体に影響を与える重点領域を見極め、優先順位を定めながらAI活用を全社的な変革へとつなげていくことが求められています。
有事を見据えたガバナンスとリスク統制
AIの活用を推進する一方で、不確実なリスクをコントロールし、ステークホルダーへの説明責任を果たす「ブレーキ」の設計も不可欠です。
各国の規制動向と境界線の明確化
矢部氏は、AI規制に関して、欧州はハードロー中心、米国は判例を通じてルール形成を進めているのに対し、日本はガイドラインなどのソフトローを中心とした対応が主流となっていることを説明しました。
一方で、AIによる著作権侵害や、顧客の心理操作につながりかねない高度な対話など、リスクの境界領域はいまだ曖昧なままです。
そのため企業は、法規制を待つのではなく、自社におけるAI活用の範囲とリスクの境界を主体的に設計することが求められます。

財務報告における人とAIの協調
加藤氏は、財務報告プロセスにAIを利用する際の統制の重要性について説明しました。
例えば、「生成AIによる経費処理」「AIエージェントによる開示レビュー」など、用途や技術特性によって必要な統制レベルは異なります。
そのためHuman in the Loop(最終判断は必ず人が実施)、Human on the Loop(必要に応じて人が介入)といった仕組みを取り入れ、判断プロセスのログを残すことが重要になります。
こうした仕組みにより、AIと人が協働しながら財務報告の信頼性を確保することが可能になりますが、EYではAIリスクに対する統制を実装する前に、全世界共通のAIアシュアランスフレームワーク(財務報告プロセスに利用されるAIを評価するためのEY内部のガイドライン)を企業とEYとの間で事前協議を行うことを推奨しています。
まとめ:AI時代のCFOの役割
セッションの締めくくりとして、生田目氏は自身が代表理事を務めるAIガバナンス協会の取り組みを紹介するとともに、ガバナンスとは単にリスクを防ぐ仕組みではなく、企業の戦略とAI活用が整合しているかを確認するプロセスであると整理しました。
さらに加藤氏は、CFOにはAIのリスクレベルを適切に評価し、必要な統制を組み込んだサステナブルなプロセスを設計することで、“ブレーキを意識せずにアクセルを踏める状態”を実現していく役割が求められると強調しました。
C-1【人・組織・リスク・税務】
CFO観点の平時のリスク・ガバナンスとAIを活用した不正リスクモニタリング
EY Japan Forensic & Integrity Services Leader EY新日本有限責任監査法人 常務理事 パートナー 荒張 健 氏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 リスク・コンサルティングリーダー パートナー 小山 裕介 氏
EY新日本有限責任監査法人 Forensics事業部/西日本Forensics プリンシパル 西原 則晶 氏
「ポリクライシス(複合危機)」と呼ばれる現代において、企業を取り巻くリスクはかつてなく複雑化しています。
本セッションでは、EYのプロフェッショナル3名が登壇し、「平時のリスク・ガバナンス」と「AIを活用した不正リスクモニタリング」のあり方について解説しました。
旧来のコンプライアンスを中心としたリスク管理から脱却し、予測困難な不確実性にどう立ち向かうべきなのでしょうか。
予測不可能な時代における「全社的リスク管理」への進化
企業が直面するリスク要因は、社内のオペレーションにとどまらず、グローバルな外部環境へと急速に拡大しています。

経営戦略と連動したリスクマネジメントの再定義
小山氏は、地政学リスクの高まりや気候変動、人口減少など、向こう数十年の単位でうごめく「リスクドライバー(地殻変動レベルの変化)」に言及しました。
従来のリスクマネジメントは、法令遵守やマニュアルによるチェックといった内部オペレーション中心の対応が主流でした。しかし、それだけでは想定外の事象への対応は難しくなっています。
今後はリスクを単なるネガティブ要因として捉えるのではなく、経営戦略や価値創造と連動した全社的リスク管理(ERM)として捉え、外部環境の変化を早期に察知できるレジリエンスの高い組織を構築していくことが重要だと指摘しました。
CFOが牽引する定量的なリスク評価
こうした全社的リスク管理を機能させるためには、組織体制の見直しも不可欠です。
従来は法務やコンプライアンス部門がリスク管理委員会を主導するケースが多く見られましたが、小山氏はCFOが中心的な役割を担う必要性を強調しました。
多様なリスクが顕在化した際、それがPLやBSにどの程度影響するのかを定量的に評価し、経営判断へと結び付ける役割を担えるのがCFOだからです。定性的なリスクをデータとして可視化し、意思決定につなげていくことが重要になります。
不正リスクの可視化とAIを活用したモニタリング
リスク・ガバナンスを強化する上で、見落とされがちでありながら企業存続を揺るがす深刻な脅威となるのが「会計不正」です。

会計不正に対するプロアクティブな対応
荒張氏は、企業における不祥事事案が増加傾向にある現状に警鐘を鳴らしました。多くの企業では、不正リスクへの対応がコンプライアンス部門や内部監査部門に委ねられ、全社的な責任体制が十分に整備されていないケースも見られます。
しかし、会計不正が発生した場合、財務的な損失だけでなく資本市場からの信頼も大きく損なわれます。そのため、CFOが主導し、グループ全体で不正リスクの評価とモニタリングを行う体制を構築する重要性が高まっていると指摘しました。
生成AIがもたらすモニタリングの進化

とはいえ、広範なグループ企業からデータを収集し、網羅的な分析を行うには膨大な手間と専門知識が求められます。
そこで西原氏は、生成AIを活用したデータ分析の可能性について紹介しました。
生成AIを活用することで、経費摘要欄のフリーテキスト分析や多言語データの処理、異常値の検知といった作業を効率的に行うことが可能になります。
さらにAIが統計的な根拠に基づき分析結果を自然言語で説明することで、分析結果の理解も容易になります。
まとめ:人とAIが協働するガバナンス体制
リスクが複雑化する中、リスクマネジメント部門だけで対応する体制には限界があり、ファイナンス部門が連携しながら重要リスクへの対応に関与していくことが重要とされます。
またCFOは、会計不正を含む不正リスクへの説明責任を担う立場として、部門横断での対応を主導するとともに、データ分析やAIを活用したモニタリング体制の整備を進めていくことが求められます。
C-2【人・組織・リスク・税務】
少子化時代に強い経理組織へ
- 生成AIが開くプロセス革新と体制最適化
EY新日本有限責任監査法人 FAAS事業部 アソシエートパートナー 南 教雄 氏
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ファイナンス ディレクター 鹿子 雄介 氏
労働人口の減少が進む日本において、企業の経理組織は大きな転換期を迎えています。
本セッションでは、EYのプロフェッショナル2名が登壇し、生成AIを活用した経理プロセス改革と組織のあり方について解説しました。
人口減少時代における「少人数でも強い経理部門」の実現に向けたヒントが提示されました。
生成AI導入を阻む壁と「三位一体」のアプローチ
多くの企業が生成AIの可能性に期待を寄せながらも、実際の経理業務への本格的な導入には足踏みしているのが現状です。

AI導入における課題
鹿子氏は、経理部門で生成AIの導入が進まない背景には、いくつかの壁が存在すると指摘しました。
AIの進化スピードが速すぎることによるツールの陳腐化リスクや、どの部門が責任を持って推進するのかといったガバナンスの不明確さ、AI資産の管理方針や開発方針が定まらず局所的な利用にとどまっている点などが挙げられます。
さらに現場では、「AIに仕事が奪われるのではないか」といった心理的な不安や、どこから手を付ければよいか分からないといった戸惑いも存在しており、これら複数の壁がAI活用の本格展開を阻んでいると説明しました。
ツール・人材・組織を統合する解決策
これら複雑な課題に対し、単に高機能なAIツールを導入するだけでは解決には至りません。
ここで提示された成功の鍵は、「ツールの具備」「人材の育成」「組織の構築」という3つの要素を同時に進める「三位一体のアプローチ」です。
安全なデータ環境や社内ガイドライン(ツール)を整備した上で、それを正しく使いこなすためのリテラシー教育(人材)を行い、AIと人が協働するための新しい業務フロー(組織)をデザインすること。
これら全体を俯瞰したチェンジマネジメントを推し進めることが、AI導入を阻む壁を乗り越え、強い経理組織を実現するための重要なプロセスになると説明されました。
経理業務にAIを組み込むには

AIが定型業務を担うようになる中で、経理担当者の役割も変化しています。
後半のトークセッションでは新しいキャリアモデル、AIとの協働について議論が行われました。
AI活用に伴うリスクと内部統制
AIの活用は大きな業務革新をもたらす一方で、新たなリスクやガバナンス課題も伴います。特に生成AIでは、誤った出力が人の気づかないまま利用されるリスクへの対応が重要になります。
そのため、AIの導入段階から設計・データ・アルゴリズムなどの観点でリスクを検証するとともに、運用段階では人による確認や継続的なモニタリングを組み合わせ、内部統制を確保していく必要があると説明されました。
AI活用を定着させる組織設計
AI活用を持続的な業務改善につなげるためには、開発・人材育成・ガバナンスを一体で進める組織設計が重要になります。
具体的には、推進組織と各部門が連携しながら標準プロセスや役割分担を明確にし、AIを業務プロセスの中に組み込んでいくことが求められます。また、経理部門が業務設計を主導し、IT・セキュリティ部門が基盤や統制を担うことで、業務改善のスピードとガバナンスの両立が可能になると示されました。
まとめ:AIによる付加価値業務へのシフト
「AIに仕事が奪われる」という世間的な悲観論に対し、南氏は否定の姿勢を示しました。
むしろ、社内問い合わせ対応や定型的な集計作業といった時間のかかる業務をAIに任せることで、経理部門はより高度な分析や経営への提言といった「付加価値の高い業務」に集中できるようになると主張しました。
最後に南氏は今後の展望として、AIを活用しながら経理部門の役割を高度化していく組織づくりを支援していきたいと述べ、セッションを締めくくりました。
C-3【人・組織・リスク・税務】
競争優位を握るCFOの選択:グローバル税務・関税ガバナンス×デジタルトランスフォーメーション
EY税理士法人 グローバル・コンプライアンス・アンド・レポーティングリーダー パートナー 進谷 敏一 氏
EY税理士法人 タックス・テクノロジー・アンド・トランスフォーメーション パートナー 山口 君弥 氏
EY税理士法人 インダイレクトタックス パートナー 原岡 由美 氏
EY Japan株式会社 クライアント・アンド・インダストリー ディレクター 葉 映秀 氏
BEPS2.0(新たな国際課税ルール)の導入や地政学リスクの高まりなど、グローバルビジネスを取り巻く環境が絶え間なく変化する中、税務や関税におけるガバナンスはコンプライアンス対応を超えて、重要な経営アジェンダへと変貌を遂げています。
本セッションでは、EYの税務プロフェッショナルが、不確実性が常態化するこの時代における税務機能のあり方について多角的な視点から解説しました。
経営アジェンダとしての「関税ガバナンス」の再定義
グローバルに事業を展開する企業にとって、各国の税制や関税政策の変動は、利益を直接的に圧迫する重大なリスク要因となります。

「支払うコスト」から「管理・削減するコスト」へ
原岡氏は冒頭、関税に対する日米企業の意識の違いについて言及しました。
多くの日本企業が関税を単なる「支払うべきコスト」と捉え、物流や法務などの部門で実務的に処理しているのが実態です。
これに対し、欧米企業は関税を「管理・削減すべきコスト」として捉え、グローバルな専門組織を設けて戦略的な対応を行っています。
こうした意識の差は、保護主義的な関税政策が導入された際の、サプライチェーンの再構築や現地生産への投資判断のスピードに顕著に表れます。
ビジネスと連動した戦略的機能の構築

また進谷氏は、関税のインパクトが拡大するにつれて、その管理機能が事業部門からCFOをはじめとする経理財務部門へとシフトしている現状を指摘しました。
関税は直接税や間接税とも密接に絡み合い、最終的な財務諸表に与える影響が極めて大きい領域です。
そのため、関税管理をコンプライアンスの枠内にとどめるのではなく、調達や生産、国際税務といった各部門とシームレスに連動させる必要があります。
AI導入を阻む壁と「攻めの税務組織」への進化
税務機能を高度化し、ビジネスに貢献する組織へと変革するためには、テクノロジーの積極的な活用が不可欠です。
AIによる税務業務プロセスの効率化

山口氏は、税務業務におけるAI活用の可能性として、海外拠点の言語の壁を越えた情報抽出や、異常値の自動検知などを挙げました。
しかし多くの企業では、税務業務が多数のExcelファイルに依存し、業務がブラックボックス化しているケースも少なくありません。
進谷氏も強調するように、プロセスが属人化し、標準化されていない状態のままでは、AIを効果的に組み込むことは不可能です。
AIを効果的に活用するためには、まず業務プロセスの整理やデータの標準化、情報の可視化を進める必要があります。
コソーシングを駆使した「攻め」の機能への転換

さらに、限られたリソースの中で税務機能を最大化するためには、組織のあり方そのものを再定義しなければなりません。
従来のような税務申告や調査対応といった「守り」のルーティン業務に時間の大半を割くのではなく、事業ポートフォリオの最適化やM&A戦略の策定など、ビジネスに貢献する「攻め」の業務へと重心を移すことが求められています。
そのためには、自社だけで完結させることにこだわらず、AIや専門的な知見を持つ外部パートナーとの「コソーシング(協働)」を活用することも重要です。テクノロジーと外部リソースを組み合わせ、より付加価値の高い業務へ人員をシフトさせていくことが、変化の激しい時代における税務機能の強化につながると示されました。
まとめ:経営戦略と一体化する税務ガバナンス

セッションの最後には、EY税理士法人 統括代表社員の蝦名氏が登壇し、今後の税務ガバナンスのあり方について述べました。
税務ガバナンスは単なるコンプライアンス対応にとどまらず、経営戦略と密接に結び付くテーマになっています。実際に企業との対話の中でも、税務・関税の判断が経営の意思決定のスピードやグローバル展開、サプライチェーンの最適化に直結し、企業価値の向上につながるという認識が広がっていると説明しました。
最後に、EYとしてクライアントの経営課題に真摯に向き合い、経営目線のアドバイスを通じて企業の変革を支援していく姿勢を示し、セッションを締めくくりました。
登壇者の所属・役職は開催日(2026年2月16日)時点の情報です。