CDO Interview vol.1

日本ロレアル株式会社 長瀬 次英 氏

2018/06/13 (  水 )

CDO Interview vol.1

近い将来CDOを無くすためにもエデュケーションを重視
デジタル変革においてテスト・アンド・ラーンの文化が重要
CDOに必要な素質はアナログなネットワーキング力

日本ロレアル株式会社
チーフデジタルオフィサー(CDO)
デジタル統括責任者(デジタルカントリーマネージャー)
長瀬 次英 氏

世界の化粧品業界をリーダーするロレアルグループの日本法人「日本ロレアル株式会社」は、「すべての人生に、美しく生きる力を。世界を日本へ。日本を世界へ。」を企業理念として、国内外へさまざまなプロダクトを発信しています。日本ロレアル株式会社のCDOである長瀬氏は、Facebookでブランドビジネスディベロップメント/クライアントパートナー、Instagramの日本事業責任者などを勤め、「日本で最初のCDO」と言われています。今回は、神岡太郎教授による長瀬氏へのインタビューです。

まずは、これまでのキャリア、現在の役割についてお聞かせください。

長瀬:大学を卒業して最初に勤めたのはKDD(現KDDI)で、ワイヤレスビジネスに所属していました。そこからはジェイ・ウォルター・トンプソンという外資系広告代理店、次に外資系消費財のUnilever Japan、外資系ヘルス&ビューティーメーカーのNuSkin、そしてFacebookに呼ばれてキャリアを進めていくのですけれども、Facebookでも新しいビジネスの新規立ち上げや拡大を担い、Instagramにおいては事業の立ち上げも実行しました。振り返ってみると、マーケティングというバックボーンを通じてデジタルに接してきたということがキャリアの強みであり、今に活きています。今も常にマーケティングという観点をベースにして、デジタルないしビジネスをやっている点は変わりません。

現在の役割ですが、そういったバックグランドを活かして、「デジタル」とつくものは全てCDOの責任下と考えています。それこそデジタルのタレントのハイヤリング、デジタルの人材を探してくること、工場の人のオペレーションをもAI化する等となると私の業務範囲内に入ると考えています。
その中で一番重要なのはエデュケーション、教育だと思っています。特に弊社の場合、これまでは製品力、マーケティング力で商品を売ってきたと思います。しかし、今はデジタル社会であるからこその顧客中心主義というところがあって、お客様の声を常に瞬時に拾い続け、それに対応してマーケティングしていき、デジタルというツールを使って皆の考え方や行動を変えていく。ここが今デジタルで一番重要なところで、CDOに一番大きな責任があると考えております。

具体的な教育のプログラムには、どのようなものがあるのでしょうか?

長瀬:経営層から、現場までを対象に、いろいろな形でやっています。プログラムを1年間通じて組んでいますし、Eラーニングのコンテンツもすでに何百もあります。外部から講師を呼んで講演をしてもらうこともあります。リバース・メンタリングも実施しています。先日は若い女優さんで、インフルエンサーでもあり、ファッションモデルでもあるという方に来ていただき、社長と私とざっくばらんにデジタル回りの話をするというものがありました。このように、教育というものを結構幅広く捉えています。 そのようにして、教育を徹底して行うことで、デジタルというものが特別ではなくなることを早く目指したい。デジタルが当たり前の世界になったらCDOは無くなるでしょう。そうなると、CDOを無くすことが重要であって、そのためにも教育をやり続ける。そういうマインドセットが日本のマーケットにはすごく重要だと考えています。

「CDOを無くすことが最大の目的で、CDOは永遠ではない」というのは大変いいメッセージだと思います。それでは、CDOとして何を重視していますか?

長瀬:弊社の特徴でもあり、強みでもあるのですが、テスト・アンド・ラーンの意識がすごく重要だと考えています。これが無いと物事が進まないのがデジタルの特徴です。テスト:アンド・ラーンをするには、失敗しても許すというカルチャーが重要である事を上層部マネジメントが理解する必要がありますし、予算の使い方をはじめ、その考え方を踏まえた上で様々なモノの見方を変えなくてはいけません。テスト・アンド・ラーンをする環境になれば、よりデジタルは促進し質が良くなっていくことは明確です。なので、現場の人たちもいろいろなものに怖がらずトライしてみて、ツールを使ってみて、ソーシャルに発信してみて、そこからどんどん良くしていくというマインドセット。これをすごく重視しています。

CDOとしてどのような能力、人材が求められるか。
CDOとしてどういう人間であるべきかについて、どのようにお考えかをお聞かせください。

長瀬:CDOにとって一番重要だと思うことはネットワーキング力だと思います。今のビジネス環境一昔前よりも一人では何もできない世界になっている。いろいろな人たちをハックしハックされながら、お互いにWin-Winのビジネス関係を作っていかなければなりません。現に自分よりデジタルに詳しい人はいっぱいいます。例えば、私はAIについて、ある程度わかるし、語ることはできます。しかし、それを導入しろという時に、本当に詳しい人とは差が出てくるでしょう。それでも私はいつも「できる」といいます。なぜなら、AIに詳しい知り合いがいて、その人を連れてくることができるからです。私が「知っているか知らないか」ではなく、「人を連れてこられるかこられないか」、意外とデジタルの力ではないところ「人間力」がポイントだと思っています。いざという時にその人の力を借りられるかです。人間力がベースにあって、そこから生まれるネットワーキング力が重要だと思っています。 そして、一連のビジネスの流れを見てその本質を理解していないとそれをデジタルに置き換える事が出来ません。私はそれを過去のビジネスキャリアを通じて見て人脈も築いてきました。そこが私の強みであると考えます。細かい所までビジネスのプロセスをひと通り知っていて、そこへ今ある「デジタル」がどう使えるかを考える。会社が変わるにはビジネスの根本を知っていることが必要で、そのビジネス全体の中で、細かい所に対してのデジタルのインパクトを考えられるかどうか。それが変革をもたらすCDOの役割であると考えます。

参考になるお話をありがとうございました。

インタビューアーからのコメント

(長瀬CDOが今回のインタビューで最も強調されたことは、教育でした。CDOと言うと、まずはデジタルトランスフォメーションを担うリーダーとよく言われます。しかし、CDOが一人、掛け声をかけても、それは実現しません。それに対応して組織や社員の能力が求められます。長瀬CDOは、組織としてのデジタルケイパビリティをいかに高めるのかということに、CDOとして意識されているのだと強く感じました。CDOとして必要な能力として、ネットワーキング力を持ち出されたのも、自らデジタルの時代にどのように生きて行くべきかという見本を、社員に提示されているのかもしれませんね。

一橋大学商学研究科 教授 / CDO Club Japan顧問
神岡太郎

【企画・編集責任者】
ビジネスフォーラム事務局 プロデューサー 進士 淳一