CDO Interview vol.2

CDO Club Japan 加茂 純 氏

2018/06/13 (  水 )

CDO Interview vol.2

日本でのCDOの活動を支援するCDO Club Japanが発足
企業とCDOのマッチングサービスなども計画
来年1月にはCDO Summitを開催

CDO Club Japan
代表&創立者 加茂 純 氏

デジタルトランスフォーメーションの旗振り役となるCDO。企業だけではなく、政府や自治体などにおいても、その人材の必要性が注目されています。そんな中、CDOを支援する世界初の経営者コミュニティCDO Clubの日本における窓口CDO Club Japanが、2017年5月に発足しました。アジア圏で初となるCDO Clubの発足に尽力された代表&創立者の加茂純氏に、同会の顧問でもある神岡太郎教授がその経緯や今後の方向性などを聞きました。

CDO Club Japanを立ち上げたいきさつを教えてください。

加茂:昨年、神岡先生とお会いした時に、欧米ではCDOがトレンドになっていて、デジタルトランスフォーメーションによってCDOの役割が非常に重要になっているというお話を伺ったのがきっかけです。日本でも早急にCDOの必要性が増してくると感じ、いろいろと情報を集めたり、CDO Club CEOのDavid Mathison氏を説得するなどして、1年くらいかけてCDO Club Japanを設立させました。

日本でのCDO Club設立に関して、Mathison氏はどのような反応だったのですか。

加茂:Mathison氏には今年の1月くらいから相談していました。その時の反応ですが、日本では時期尚早だと言われました。実はMathison氏は日本のことをよく知っていて、日本の経営者がデジタルを正当に評価するようになるには、まだ時間がかかると見ていました。したがって、アジアで最初にCDO Clubを立ち上げるのはシンガポールだと考えていたのです。そのため、ニューヨークまで行って直接Mathison氏を説得しました。

加茂さんとは2007-2008年頃に、CMO(Chief Marketing Officer)の活動を支援する紹介する本を出版しました。今回はCDOの活動を支援するわけですが、CMOの時と比べて手応えは違いますか。

加茂:CMOに関する本を出版する時は、当初はあまり手応えを感じませんでした。結果的に、CMOという言葉が普及するには10年くらいかかりました。それに対してCDOは、まだ数えるくらいですが、すでに日本でも導入している企業があります。また、CDO Club Japanで開いた勉強会では、複数の大企業の役員の方からCDOにふさわしい方を推薦していただいたり、すぐにCDOを導入したいというお話も伺っています。このように、企業のトップはCDOに対して大きな関心を持っているようです。

先日、「CDOフォーラム2017」が開催されましたが、実は今の日本でCDOというキーワードで人を集めるのは難しいのではと心配していました。しかし、実際には大勢の人が集まり、会場でもいろいろな方からCDOへの関心やご意見を伺うことができましたが、加茂さんの感想を聞かせてください。

加茂:日本で初めて開催するCDOイベントとしては、非常に質の高い内容になりました。各所でも話題にもなっていて、非常にレスポンスがいいと思っています。このフォーラムのために来日したMathison氏もここまで人が集まるとは思っていなかったようで、今後は日本とのコミュニケーションを増やしていきたいと言っていました。

一方で、CDOは一時的なブームで終わってしまうのではないかと言っている人もいるのですが、それについてはどう思いますか。

加茂:私はブームでもいいと思います。ブームになっている状態というのは、ある一定数のCDOが存在している状態であり、もうそれ以上必要がなくなった時にブームが終わります。したがって、その頃にはCDOの必要性について、みなさんに理解していただけているのです。ブームで終わるかもしれないという意見は、CDOにとって非常に前向きなことであると捉えています。

欧米ではCDOからCEOになる人も多いですね。デジタルが分からないと会社の経営ができないという顕著な例だと思いますが、いかがでしょうか。

加茂:デジタルの情報をいろいろと集めていると、世界が見えてきます。そういったことから、CDOからCEOになる方が多いのだと思います。また、欧米では株主や投資家も、経営者に対してデジタルへの対応を聞きたがります。その時に、CEOがデジタルの将来展望を語れないと、経営者失格だと思われるかもしれません。一方、CDOからCEOを目指すには、コミュニケーション能力やリーダーシップについても社内外に対して能力を示さないといけません。アメリカのCDO Clubでは、そういったことをCDOにアドバイスするコンサルティング・サービスも行っています。

欧米では、政府や自治体でも積極的にCDOを取り入れています。また、Chief Digital Officerの他にも、データを扱うChief Data Officerという2種類のCDOが置かれていることも珍しくないようですが、日本の政府、自治体ではまだCDOに対する関心は薄いようですね。そのあたりはどう捉えていますでしょうか。

加茂:「CDOフォーラム」では特別ゲストとして、参議院議員の林芳正先生(インタビュー当時:文部科学大臣)にもご講演をいただきました。その中で林先生も、明確な国の姿を国民に理解してもらうため、政府も早急に的確なデータを集め、分析する専門家を増やす必要があるとおっしゃっていました。そのためには、まず企業の中でCDOとなる人材を育て、そういった人材を国や自治体が引っ張ってくるべきでしょう。

今後、CDO Club Japanはどのように運営されていくのですか。

加茂:まずは法人化を目指しています。そして、アメリカのCDO Clubと同じように、さまざまなサービスを提供していくつもりです。たとえば、各企業や自治体に対してCDOに関する調査を行いその結果を公表したり、定期的な勉強会やCDOを目指すための有料講習会などの開催、さらにはCDOのデータベースを作り、CDOを必要とする企業とCDOになりたい人をマッチングさせるサービスなどが考えられます。

来年1月には、アジアで初めてとなるCDO Summitの東京での開催が決定しましたが、今回のCDOフォーラムとは位置づけがちがうのですか。

加茂:CDOフォーラムは、CDO Club Japanが協力しCEOや役員の方を対象として開催しました。それに対してCDO Summitは、CDO Club Japanが主催しもっと具体的に、CDOが実際にデジタルトランスフォーメーションを進めるにはどうすればいいのかといった手法や、海外の成功事例などを紹介するイベントです。そのために必要なツールやサービスを提供する周辺企業にも声をかけ、大規模なイベントにする予定です。

インタビューアーからのコメント

今回、CDO Club Japanを立ち上げた加茂氏の考えをお聞きしました。まだ出だしで、手探りのところもあるようですが、これを日本でCDOの活動を支援するための本格的に組織に発展させていきたいという意気込みです。個人的なことですが、加茂氏とは1996年、インタネットブラウザの原型となるMosaicが開発された頃、その開発の中心となったイリノイ大学コンピューターサイエンス学部で知り合って以来の長い縁です。加茂氏と私とでは、物事へのアプローチの仕方や考え方は必ずしも一致しているわけではないのですが、このCDOの重要性については意見が一致しています。私は2012年頃からCDOに関心を持ち始めて、加茂氏とは全くその点で交流がなかったのが、昨年2016年に雑談の中で、お互いに同じことに関心を持っていることに驚きました。2人とも日本がこのCDOについてあまり注視されていないことは大きな問題だと考えています。今回のインタビューで加茂氏が、「CDOはブームでもいい」というのは少し強調した言い方ですが、私も同意見です。議論している時間があれば、とにかくトライしてみるのがいいということです。今後のデジタルのあり方が変化すれば、CDOが次の何かに変わったり、消滅したりすることもあるかもしれません。ただ今日の多くの組織にとって、今のデジタルの波に対応できる体質にならなければ未来はなく、それを乗り切るために、CDOという名前であろうがなかろうが、デジタルを組織でリードする司令塔が必要だと思っています。CDO Club Japanとそれをリードする加茂氏の活躍を期待しています。

一橋大学商学研究科 教授 / CDO Club Japan顧問
神岡太郎

【企画・編集責任者】
ビジネスフォーラム事務局 プロデューサー 進士 淳一