
本講演のトップバッターを努めたのは、一橋大学大学院国際企業戦略研究科、教授の楠木建氏。「競争戦略とイノベーション」を専門とし、数多くのビジネスパーソンや企業経営者から熱い支持を受けています。今回は、経営者との対話により楠木氏が導き出した「ビジネスにおけるスキルとセンス」、「好き・嫌い」についてご講演いただきました。
わかりやすい実例とユーモアを交えながら、ロジカルに展開される内容には、たくさんの参加者がメモをとり、熱心に聞き入る様子が伺えました。
まず大前提として、ビジネスは科学とは違います。商売事や伝えることのような、人が強く関わる領域には法則がありません。「こうやったらうまくいく」というような飛び道具は、幸か不幸か無いのです。ある時、日本を代表する実業家の方が「お客様の目線で考えること」が商売の要だと私におっしゃいました。これほど当たり前のことは無いように思えますが、これ以上のことはありません。伝えることも同じように、聞いている人の目線で考えることが大切です。「言われてみれば当たり前」のことをやるしかないのです。
ビジネスの場では「スキル」と「センス」という、相反する2つの物事が議題に挙げられます。ビジネスマンは、技量の多寡が見えやすいスキルにばかり傾倒しがちですが、センスにおいてはどうでしょうか。センスは努力と結果の因果が測れません。ゆえに経営センスとは、「向いている人がやればいい」としか言いようのないものでもあります。「スキル」と「センス」の違いは「担当者」と「経営者」の違いにも例えることができます。 担当者であればスキルがものを言うわけですが、商売全体をまるごと動かし、成果を出す経営者にはセンスが重要になるのです。

これは物事を伝える場合でも同じです。伝え方のスキルはもちろん必要ですが、そもそも何を伝えたいのか、伝える内容はセンスによります。スキル以前に、何を伝えたいかの本質は、自分の内側にある本当にやりたいこと「ドライブ・動因」がにぎっています。 「インセンティブ・誘因」は自分の外側にあるものですが、これがあればスキルはおのずと上がります。しかし、「ドライブ」がなければ人の気持ちを動かすことはできません。
自分の内から湧いてくる「好き」をドライブにする。「好きこそものの上手なれ」と言いますが、これは努力を娯楽に変える最強の理論です。好きなことを続けていれば、やがて上達し、センスになる。ですから、私はあえて「良し悪しよりも好き嫌い」という言葉をよく使います。だから、私は「好きにしてください」と言うのです。

「シンプルかつストレートにお話のエッセンスがまとめられていて、
まさに”伝わる”講演でした」
「著作も拝読しているが、内容がさらに磨かれており、非常にわかりやす
かった」