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CMO Forum 2016 マーケティングで変革する、企業経営 ~顧客価値を創造し、競争力を高めるCMO機能~

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CMO Forum 2016 マーケティングで変革する、企業経営

 

 

2016年5月12日、東京・青山ダイヤモンドホール・サファイアルームで『CMO Forum 2016』を開催しました(主催:株式会社ビジネス・フォーラム事務局)。3回目となる今回は「顧客への価値創造・提供」がテーマです。ITを活用したデジタルマーケティングが広がりを見せるなか、CMO(Chief Marketing Officer:最高マーケティング責任者)などは、いかにして新たな付加価値を生み出し、企業競争力の向上につなげたのでしょうか。この日の講演やパネルディスカッションの模様を紹介します。

  •  > Guest Speech 1

    キリン株式会社
    取締役常務執行役員 CMO CSV本部長
    兼 キリンホールディングス株式会社
    常務執行役員
    橋本 誠一

  •  > Keynote Speech

    株式会社博報堂
    生活者データマネジメント
    プラットフォーム局長

    エグゼクティブマーケティングディレクター
    安藤 元博

     

  •  > Guest Speech 2

    株式会社あきんどスシロー
    取締役執行役員 マーケティング本部長

    森井 理博

     

     

  •  > Guest Speech 3

    株式会社三越伊勢丹ホールディングス
    代表取締役社長執行役員
    大西 洋

     

     

  •  > Guest Speech 4

    株式会社東急ハンズ
    執行役員 オムニチャネル推進部長
    ハンズラボ株式会社 代表取締役社長

    長谷川 秀樹

     

 
  •  > Panel Discussion

     

    【モデレーター】

    一橋大学 商学研究科
    神岡 太郎

     

     

    【パネリスト1】

    ソニーフィナンシャルホールディングス株式会社

    髙木 文隆

     

     

    【パネリスト2】
    株式会社コーセー
    北川 一也 

     

     

    【パネリスト3】

    株式会社博報堂
    安藤 元博 

     

     

お客様主語のマーケティングの実践をめざす

マーケティング・エクセレントカンパニーをめざし、徹底的にお客様の視点に立ち続ける

 

 キリンは、顧客主語のマーケティングを実践することで、真のマーケティング・エクセレントカンパニーになることを目標に掲げる。2014年にはCMOを新設しマーケティングの組織能力の強化を図った。具体的な取り組みなどについて常務執行役員の橋本誠一氏が語った。

 

「Quality With Surprise」を実践し、お客様の経験を豊かにする

 

 キリングループは、大きく「国内の酒類・飲料の事業」「海外の酒類・飲料の事業」「医療・バイオケミカル」という3つの事業セクターから構成されています。持ち株会社としてキリンホールディングスがあり、キリンはその下に置かれています。酒類(キリンビール、メルシャン)や飲料(キリンビバレッジ)の事業会社を統括し、サポートするのが我々の役割です。中でもCSV本部は「ブランドを基軸とした経営」の推進をミッションに掲げ、企業ブランドや事業間の資源配分の視点から、グループのマーケティングの最適化に取り組んできました。


 CSV本部にCMOを新設したのは2014年のことです。国内の総合飲料事業のマーケティング方針の策定と、マーケティング組織能力の強化が主なミッションです。これまでのキリン主語のマーケティングを変え、お客様主語のマーケティングを実践するマーケティング・エクセレントカンパニーを目指しています。


 具体的な取り組みとしては、4つあります。まず「Quality With Surprise」というキリンならではの価値創造のキーワードを策定し、その浸透を図っています。2015年、醸造設備を併設した『スプリングバレーブルワリー東京』を代官山にオープンしました。ここでしか飲めないオリジナルのクラフトビールに、ハーブなどを入れてさらにカスタマイズできる設備などもあり、キリンのビールづくりへのこだわりを込めています。海外のクラフトビールメーカーもたびたび視察に訪れ、「キリンはビール好きなメーカーだ」と共感してくれます。経験にフォーカスするほど、モノづくりのオーセンティシティが大切になります。作り手の思いがお客様の経験をさらに豊かなものにするのです。キリンは「いいモノを通じて、いいコトをつくる」これが「Quality With Surprise」に込めたメッセージです。

 

キリン株式会社
取締役常務執行役員 CMO CSV本部長 兼
キリンホールディングス株式会社
常務執行役員

橋本 誠一

1978年 キリンビール株式会社入社。営業、マーケティングなどに従事した後、2009年 キリンビール株式会社 執行役員企画部長。2012年 キリンホールディングス 常務取締役。2013年 キリン株式会社設立と同時に常務取締役CSV本部長。2014年よりCMOを兼務、2015年よりキリンホールディングス 常務執行役員を兼務、現在に至る。

デジタルマーケティングを梃(てこ)に、キリンのマーケティングを変える

 

 2つ目にお客様起点のマーケティングのフレームワークを刷新しました。どういうお客様がどんなシーンで何を飲むか。そこにはどんな心理的・機能的ニーズがあるか。それに基づいて市場をもう一度捉え直し、お客様を起点にブランド構築しようという考え方です。

 

 3つ目はデジタルマーケティングです。CMO新設と同時に私の直下にデジタルマーケティング部を設置しました。マス広告中心のコミュニケーションを変えていくことはもちろんですが、デジタルメディアを通じたお客様との双方向のコミュニケーションの実践を通じてマーケッターの意識を変え、キリンのマーケティング全体をお客様主語に変革することを目指しています。シェアされるコンテンツの制作、ブランドの世界観に入り込む経験の提供、自社ECでの価値共創などに取り組んでいます。

 

 4つ目がCSV(Creating Shared Value)です。キリンは社会的な価値を、お客様の価値として実現するCSVを経営戦略の中心に位置づけ、中でも「健康の増進」「人や社会のつながり強化」「環境」をCSVの重点テーマとして、独自の価値を創造しようとしており、最近発売を開始した『47都道府県の一番搾り』も、地元の人たちが誇りに思い、みんなで応援しようという盛り上がりを生み出すことをめざしています。

 お客様主語のマーケティングを実践するためには、社員一人ひとりが徹底してお客様の立場に立ち続けることが必要です。企業文化そのものをつくることと言っても過言ではありません。究極的にはそれがCMOの役割といえるのではないでしょうか。

 

CMO機能と“生活者データ・ドリブン”マーケティング

「生活者」視点のデータマネジメントでマーケティングの課題を解決

 

 デジタル化の進展により、マーケティングに活用できるデータの多様性が広がっている。数多のデータを一元管理し、広告・販促・販売活動を横断的に行えるDMP(データマネジメントプラットフォーム)に注目が集まるなか、株式会社博報堂の安藤元博氏は顧客を「生活者」として捉えることを重視した「生活者DMP」の重要性を指摘する。

 

デジタルメディアの活用で継続的なマーケティングに取り組む

 

 昨今、デジタルメディアの影響力は極めて大きくなりつつあります。博報堂DYメディアパートナーズが2015年に行った調査で、4マスメディア(テレビ、新聞、雑誌、ラジオ)と、パソコンやスマートフォンなどのデジタルメディアの接触時間を年代別に比較したところ、20代ではデジタルメディアへの接触時間のほうが多い結果となりました。30代では4マスメディアとデジタルメディアの比率が半々、40代や50代は4マスメディアの比率が上回っていました。

 

 年代別によく活用するメディアに差があるということは、各世代にとっての「世の中」というものも一様ではないということです。こうした動きに対応すべくマーケティング業務に従事する方々も、テレビCMに代表されるようなマスメディアを使った「一方向」で「一時的・断続的」な情報伝達のみならず、デジタルメディアを活用して「双方向」で「可変的な伝え方」ができる、「継続的」なマーケティングを行おうとしています。

 

 デジタル化は情報伝達に限った話ではありません。デジタル化の本質は「事象のデータ化」、つまり世の中のすべてがデータ化していくことにあります。個人のオンライン上の行動履歴を追ったライフログデータ、購買履歴の積み重ねであるID-POSデータ、位置情報データなどもそうです。従来から活用されている「サンプル・集計」データのみならず、こうした個々人の生活に寄り添った「個・全量・即時」なデータは「生活者データ」として捉え、活用していくべきでしょう。

 

株式会社博報堂
生活者データマネジメント
プラットフォーム局長  
エグゼクティブ
マーケティングディレクター

安藤 元博

1988年博報堂入社。以来、主にマーケティングセクションに在籍し、数多くの企業の事業/商品開発、キャンペーン開発、グローバルブランディングに従事。ACC(グランプリ)、Asian Marketing Effectiveness(Best integrated Marketing Campaign)他受賞多数。ACCマーケティングエフェクティブネス/カンヌライオンズ国際クリエイティビティフェスティバル等の審査員を歴任。東京大学大学院学際情報府修士課程修了。著書『マーケティング立国ニッポンへ―デジタル時代、再生のカギはCMO機能』(共著)。博報堂DYメディアパートナーズ・データドリブンメディアマーケテイングセンター長を兼任。

「生活者DMP」を活用して顧客育成と市場創造を両立させる

 

 デジタル化で企業と顧客との接点が変わるなかでは、企業のマーケティング活動にも変化が求められます。例えば企業のプロモーション活動では、これまでは宣伝部や事業部、営業部がそれぞれの裁量によってバラバラに広告、販促、販売を行っていました。従来のやり方は効率的ではあるものの顧客の反応が見えない。顧客の多様な生活シーンに効果的なプロモーションが行えているかわかりませんでした。

 

 マーケティングが抱える課題を解決するための基盤として注目を集めるのがDMPです。企業は「自社DMP」を構築することで顧客に関するさまざまなデータを一元管理・分析できます。蓄積したデータは組織を越えて共有できるため、自社内で行われている広告、販促、販売の動きの全体像を把握すると同時に、ヘビーユーザーから見込み客まで興味・関心の度合いに応じてプロモーション活動を最適化させることができます。

 

 しかし、自社DMPには多くの課題もあります。既存顧客を対象としているため、新たにコミュニケーションすべきターゲットのイメージをつかみにくい。また、市場全体を見渡すのが難しいため、新規市場の発見やトレンドを捉えるのにも不向きです。マーケティング、あるいはCMOの本来的なミッションである市場創造を達成させるために、博報堂では現在「生活者DMP」の活用を提案しています。

 

 「生活者DMP」では顧客を消費者ではなく「生活者」として捉えて、自社との関わりに関するデータだけでなく生活にまつわるデータを包括的に活用します。自社DMPの得意とする「育てる」「見極める」に、生活者DMPの顧客を「見つける」「連れてくる」機能を付加させることで、効率化と市場創造を両立させることができます。

 

 生活者DMPを活用したマーケティングの最終的な目標は、開発、調達、製造、物流、販売、サービスといった一連のバリューチェーンの進化です。そのためにはマーケティングの現場はもとより、マネジメント層を巻き込んだアクションが不可欠であり、CMOにはそうした行動のリードが求められます。

 

原点回帰×サイエンス×マーケティング
 ビッグデータの活用をサイエンスだけにゆだねるのではなく、人間力で生かす!

マーケティングサイエンスと職人の技を掛け合わせて品質を落とさない経営の効率化を実現

 

 「うまいすしを、腹一杯。うまいすしで、心も一杯。」という企業理念のもと、顧客満足を追求し続ける『あきんどスシロー』は、創業以来31年間増収を続ける。同社の“味”に対するこだわりと、それを支える「ビッグデータマネジメント」に迫る。

 

労力やコストをかけて味のクオリティを守る

 

 当社は、最先端のマーケティングサイエンスと人の手が介在する仕事を掛け合わせる企業戦略をとっています。情報科学を駆使したマーケティングのほかに、「人の仕事」にこだわるのは、当社が“うまい”という食における喜びを提供する職人が握る「すし屋」を原点とした企業だからです。 一見して、効率性重視のビジネスと思われがちな回転ずしチェーンですが、当社の味に対するこだわりは非常に強い。セントラルキッチンを持たずに店内調理に力を入れており、すしネタの切りつけやサイドメニューの揚げ物も、注文が入ってから調理をはじめるなど、おいしさを追求するための手間は惜しみません。一店舗に社員を約3名も配置するなど、味のクオリティを保つための体制も整えられています。

 

 かなりの労力やコストをかけているため、食材の原価率は約50%と大手外食チェーンのなかでも高い水準にあり、一皿の廃棄が収益を大きく圧迫してしまいます。そこで当社は、品質は落とさず別のところで効率化を図るため、ビッグデータの活用に着手したのです。

株式会社あきんどスシロー
取締役執行役員 マーケティング本部長
森井 理博

 

1989年、大阪大学経済学部経営学科卒業後、株式会社電通入社。マーケティング局で戦略プランニング、営業統括局でCS放送局の立ち上げ並びに中国プロジェクト(在任中に「アジアビジネススクール」修了)を担当後、世界最大の外資FMCGクライアントの担当営業局次長。2014年11月、株式会社あきんどスシロー入社、執行役員 マーケティング本部長。2015年10月より現職。

ビックデータの活用で廃棄率の低下に取り組む

 

 2002年頃から、ビックデータの活用によって廃棄率を低下させる取り組みがはじまりました。

 

 お皿の裏にICチップを埋め込み、レーンを流れるネタの品種や数を管理する「回転すし総合管理システム」を導入したり、インターホンによる注文から顧客の喫食状況を分析し、レーンに流れるネタの最適化に取り組むなど、数々の試行錯誤を行いました。そして2006年に店舗の入り口に導入した案内台がようやく成果をあげます。案内台は、来客者情報と喫食データを結びつけることで分析の精度をあげ、廃棄率の低下に大きく貢献しました。

 しかし、今度は店内が常に混雑しているため、顧客が離れていくという問題を抱えることになります。店内の混雑を解消するため、2015年2月に発券予約システムを独自で開発し、4月には「スシローアプリ」としてリリース。待ち時間のコントロール権を顧客に託すことで、回転率の上昇を実現しました。

 

「スシローアプリ」導入でマーケティングの精度を上げる

 

 店内の混雑解消に大きく貢献した「スシローアプリ」には3つの重要な役割があります。「来店促進:予約・発券」「コンテンツマーケティング:WEBへの取り込み」「バックキャストマーケティング:お客様ごとのカスタマイズ」です。

 

 会員登録制のスシローアプリで予約や発券をした顧客が来店することで、顧客情報と喫食時の注文データが結びつき、「どういった顧客が、どの媒体を通じて、どんな動機で来店し、何を食べたか」というまとまったデータが同時に得られるようになりました。これまで別々に分析していた行動データと購買(喫食)データが結節したことで、マーケティングの精度を上げることができました。それが「バックキャストマーケティング」です。

 

 過去の来店時に収集した顧客属性データと注文データをもとに、その顧客がどのような趣向を持ち、どのような動機や情報ルートを通って来店したかを分析することで、顧客ごとに適切な販促アプローチが行えます。例えば、一皿180円や280円といった高単価の商品を好む人には、同じ価格帯の新商品を案内するなど、顧客の過去の注文データに応じて自動的に販促用コンテンツが配信される仕組みを導入しています。

 

 当社では、こうした情報科学を生かしたマーケティングを行っていますが、食に対する顧客の本音はなかなか数字やデータから見えません。ビックデータマネジメントをどう活かしていくかは、今後も考え続けていくテーマです。

 

三越伊勢丹の新たな価値創造

新業態へ進出し絶対的価値の追求で百貨店を再生

 

 百貨店をはじめとする既存の小売業態の売り上げは減少が続いている。三越伊勢丹ホールディングスは、SPA(製造小売業)型のモノづくりへのシフトや業務提携による百貨店以外の事業への進出などに取り組み、新たな価値の創出で百貨店の再生を図る。

 

付加価値の高い商品を提供婦人靴製造販売は10億円事業に

 

 日本のGDP(国内総生産)の約6割は個人消費で、その約半分が小売業売上で占められており、この消費総額の規模はリーマン・ショック以前からほとんど変わっていません。消費者が商品を購入するチャネルの多様化にともないeコマース(電子商取引)市場が拡大する一方、百貨店をはじめとする既存の小売業態では、軒並み売り上げが縮小しています。既存のビジネスモデルを続けてきた百貨店は、ニーズをつくり出す能力が乏しく、顧客の急速な変化に対応できないという構造的な課題を抱えています。百貨店の復活には、抜本的な改革による新たな価値の創出が不可欠です。

 

 お客様にとっての価値には「相対的価値」と「絶対的価値」があります。我々はほかと比較できない絶対的価値を追求するため、さまざまなイノベーションに取り組んでいます。その1つがSPA型モノづくりです。4年前、婦人靴からスタートしました。婦人靴はサイズや素材、型がさまざまあり、比較的データが管理しやすい商品です。日々の販売で蓄積された情報やカード会員のデータをもとに外部へ靴の木型のアウトプットを依頼し、当社の社員がデザインや色の選択を行うことで、これまでよりも低価格で付加価値の高い商品が提供できるようになりました。今や海外の百貨店やセレクトショップへの卸売を行い、現在では10億円を超える事業規模に成長しています。

株式会社三越伊勢丹ホールディングス

代表取締役社長執行役員

大西 洋

1979年伊勢丹に入社。以来紳士部門を歩み、2003年新宿本店のメンズ館立ち上げ時には、担当部長として陣頭指揮を執る。お客さまの新たな購買スタイルに応じた店づくりのため、ブランド共通の環境にする等、お取組先と難しい交渉もあったが、バイヤー・セールスマネージャーとともに汗をかき、やり遂げた。その後、伊勢丹立川店長、三越MD統括部長を歴任し、2009年に伊勢丹社長執行役員、2012年には三越伊勢丹ホールディングス社長執行役員に就任。“人を大切にする経営”をポリシーとし、従業員への適正な評価をはじめ、人事制度改革に着手、現場感覚を最も尊重し、一つひとつ取組みを進めている。

試行錯誤で新たな市場をつくるマネジメントに必要な情熱や使命感

 

 三越伊勢丹では、百貨店以外の事業の拡大にも取り組んでいます。将来的にこの比率を高めたいと考えており、新たに立ち上げたブライダル事業では、ホテルの運営企画を行う『Plan・Do・See(プランドゥシー)』と新会社を設立し、婚約から結婚式までをトータルで提案していきます。さらに、飲食店運営の『TRANSIT GENERAL OFFICE(トランジット ジェネラル オフィス』とも業務提携し、店舗開発時に重要となるコンテンツの充実も図っていきます。

 

 当社は、お客様の潜在的なニーズを販売員が読み解く「店頭マーケティング」や、一番売れる価格帯を知る「プライスライン分析」などさまざまな手法でマーケティングを実施しています。新宿本館をリニューアルした際には、商品を陳列するスペースを意図的に10%程度減らし、百貨店にとって一番良い場所であるエスカレーター周辺を情報発信の場としました。お客様にとって価値ある環境づくりを目指した結果、売り上げと来店者数、他のフロアへの買い回りもリニューアル前を上回りました。新たな取り組みが少しずつ成果となって表れています。

 

 2016年4月には情報戦略本部を立ち上げました。Tポイントの運営会社である『CCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)』と会社を設立し、両社が持つお客様のライフスタイル情報を互いに活用することで、これまで来店したことのないお客様の新規来店につなげたり、将来的に顧客情報をベースにしながらこれまでにないご提案ができると考えています。新しいマーケットをつくることは非常に難しいことですが、試行錯誤を繰り返すしか方法はありません。マネジメントとして、情熱や使命感、意思決定やコミットメントが大事になると感じています。

東急ハンズの挑戦と新たな価値創造
 ~ ITとマーケティングの視点から ~

テクノロジーの最先端に踏み込むリアルとネットを統合したビジネスモデル

 

 東急ハンズは、2014年にオムニチャネルへと会社全体が舵を切った。ITの側面から、多方面のシステムの統一や自社開発などで経費の大幅な削減を実現している。より顧客目線に近づくために、業務用端末の代わりに消費者と同じツールを導入したその実態に迫る。

 

オムニチャネルを成功させる人は3つの要素を備える

 

 東急ハンズは、2014年にITコマース部をオムニチャネル推進部に名称変更し、会社全体がオムニチャネルの方向に舵を切りました。オムニチャネルにはさまざまな定義があります。私たちは「テクノロジーを活用してお客様の接点を最大化させる」と捉えています。オムニチャネルを成功させる人には、「売り上げを動かすためプロモーションが打てる」「インターネットのテクノロジーがわかる」「社内の業務システムがわかる」の3つの要素が備わっています。なかなか全ての要素を持っている人はいないので、当社はチームで対応しています。

 

 当社のオムニチャネル推進部は情報システム部から始まりました。普通、情報システム部といえば販売管理費のみ責任を持つことが多いですが、売上責任を同時に負うことで販売促進の側面も持つことに繋がりました。

 

 東急ハンズのオムニチャネルは、「お取り置き」「承り」「ひとめぼれ」の大きく3つです。「承り」は、取り扱いのない商品でも取り寄せて、来店または自宅までお届けするサービス。「ひとめぼれ」は、気に入った商品があればスマートフォンでスキャンできる機能です。バーコードで商品データを読み取り、写真も撮れます。あとから買おうと思った時にすぐに購入でき、自宅に配送するサービスです。

株式会社東急ハンズ
執行役員 オムニチャネル推進部長
ハンズラボ株式会社 代表取締役社長

長谷川 秀樹

1994年、アクセンチュア株式会社に入社後、国内外の小売業の業務改革、コスト削減、マーケティング支援などに従事。 2008年、株式会社東急ハンズに入社後、情報システム部門、物流部門、通販事業の責任者として改革を実施。デジタルマーケティング領域では、ツイッター、フェイスブック、コレカモネットなどソーシャルメディアを推進。その後、オムニチャネル推進の責任者となり、東急ハンズアプリでは、次世代のお買い物体験への変革を推進している。2011年、同社、執行役員に昇進。2013年、ハンズラボ株式会社を立ち上げ、代表取締役社長に就任。(東急ハンズの執行役員と兼任)。

他社委託から自社開発への移行で年10%の経費削減

 

 2009年頃、当社の通販事業はわずかながらも赤字になってしまったため、5つの改善策を打ち出しました。1つ目は「コストを減らすこと」で、専用倉庫を廃止しました。2つ目は「二重業務の廃止」。バラバラだった通販と実店舗の商品の紹介データを揃えました。3つ目は「ネットと店舗の統合」。顧客データベースや執行ルールを全て統合して一本化しました。4つ目は「通販の商品数の拡大化」。インターネット上の商品数を、1万点から10万点に増やしました。5つ目は「システムの自社開発」。他社に委託すると、システム構築料金や保守料金などで年間6000万円かかりますが、自社開発することでシステムの経費を年に約10%削減することができました。

 

 業務用の機器を撤廃することにも注力してきました。一般の消費者向けに販売されている機器は、大量生産のため部品が安価で、さらに機能性も耐久性も非常に優れています。当社では、店員が使用する端末を、業務用のものからiPadにすべて入れ替えました。法人向けの端末は1台当たり10数万円なのに対し、消費者向けのiPad touchであればだいたい2万数千円で導入できます。また、お客様が持つ端末と同じものを販売員が持つことで、同じアプリが使え、情報共有も容易になり、接客の効率も上がりました。

 

果敢に挑戦するアメリカの大企業

 

 アメリカの小売業でおなじみの大手では、バーコードスキャンという機能が各社のアプリに組み込まれています。これは、商品在庫を開示しているということです。そのほかの特徴としては、ドラックストアのアプリにはシャンプーや石鹸の補充機能がついていたり、近隣の競売店よりも低価格かどうかをバーコードスキャンでリサーチしたりと、アメリカでは大企業でも新しいことに果敢に挑戦する風土があります。保守的な面が多い日本ではありますが、私たちも果敢に新しい試みに挑戦していきたいと思います。

 

経営変⾰をいかにして導くか!!
  ~これからのマーケティング戦略と価値創造を考える~

企業戦略とマーケティング戦略は一体
第三者データやSNSをビジネスに活用

 

 欧米企業のCEOにはマーケティング経験者が多いなど、ビジネスの世界ではマーケティング最高責任者=CMOが注目を集めている。企業内組織でどのように位置付けられるのか、そしてどのような可能性と課題があるか。顧客価値創造のための「マーケティング×デジタル」戦略推進に向けて登壇者4人が議論を展開した。

マーケティングを起点に経営戦略を立てる

 

神岡 私がCMOに興味を持ち始めたのは2004年頃です。サービスも製品もすぐコモディティー化する一方、多くの会社では社内で各部署がバラバラにマーケティングをしていました。「顧客価値」を創造しながらビジネスを展開していくためには、組織全体を俯瞰(ふかん)してマーケティング戦略を練ったり、修正したり、新しい仕組みを導入したりする人が必要です。その役割を担うCMOが存在するというのは、今では自然な組織形態と思っています。

 

北川 当社は化粧品メーカーとして、コンセプトやターゲットが異なった30くらいのブランドを持っています。そのほとんどが、取引契約上、直販は行っていないため、顧客購買データの入手が困難です。マーケティング戦略も経営者が率先して関わっているので、当社ではオーナー社長がCMOなのかもしれません。どうサポートしたりオペレーションしたりすればCMOが決断しやすいのか、会社組織論としても関心があります。

 

神岡 印象としてはCMOの仕事は増えており、今いるメンバーのリソースで対応するのは難しい場面もあるでしょう。プライオリティーを決めることが重要ではないでしょうか。


髙木 顧客価値創造や企業文化という観点では、ソニー創業者の一人の盛田昭夫さんが1989年に「3つのクリエイティビティー」という話をしています。(1)発明・発見・技術革新、(2)プロダクトプランニングとプロダクション、そして(3)マーケティングです。3つ目のマーケティング・クリエイティビティーの好例がベータマックスです。当時は地上波を録画して見る習慣がありませんでした。しかし、当時のソニーのマーケティング部門はタイムシフトというコンセプトを打ち出します。忙しいお父さんは平日テレビが見られない、録画して週末に見ようと新しいライフスタイルを提案し、販売にこぎつけたのです。1990年代までは、製品やサービスを起点にビジネスを展開していく(1)→(2)→(3)の流れでやっていけました。しかし、マーケティングのパワーが一層求められる現在では、(3)→(2)→(1)という順番で経営戦略を立てたり、企業文化を変えたりしなければならないと考えます。

 

神岡 いまの企業にとっては顧客価値の創造が最も重要なマターなので、CEOがマーケティングに関わらないわけにはいきません。企業戦略とマーケティング戦略は一体であるともいえます。実際、欧米企業のCEOにはマーケティング経験者がとても多いのです。

 

北川 当社の場合、マーケティング部門とトップの関係はかなり近く、よどみのないタイミングで次のジャッジに入れるくらいの緊密感があります。逆に、マーケティングを司るCEOが考えていることを社内にブレークダウンしてどう伝えるかという役割も重要と思います。

【モデレーター】

一橋大学 商学研究科 教授

工学博士

神岡 太郎

CMO やDigital Transformationに関心をもつ。国際CIO学会会長、政府情報システム改革検討委員会委員(総務省)、高度ICT利活用人材育成推進会議座長(総務省)、トレーサビリティ・サービス推進協議会座長(国土交通省)を歴任。『マーケティング立国ニッポンへ』(日経BP社)他に論文多数。

 

【パネリスト1】

ソニーフィナンシャルホールディングス
株式会社
経営企画部 シニアマネージャー
前 ソニー銀行株式会社 営業統括部長

髙木 文隆

1993年八千代銀行入行、インターネットバンキングの立ち上げに参画。 2003年ソニー銀行入社マーケティング戦略経営戦略の企画を担当。2013年からマーケティング部門の責任者として、個人の金融行動に新たな価値を提供することを目的に「デザイン思考×マーケティング・アナリティクス」を活用した取り組みを導入。2016年4月より現職。

 

【パネリスト2】

株式会社コーセー
執行役員 宣伝部長

北川 一也

1987年第一生命保険相互会社(当時)に入社、広報部広告宣伝課にて媒体発注から制作、イベントまで幅広く携わる。1991年、マーケティングとコミュニケーションを主業とする会社を設立し、事業開発からプロモーション分野までを数多く手掛ける。2010年株式会社コーセーに入社、宣伝部部長。2013年執行役員 宣伝部長。

 

【パネリスト3】

株式会社博報堂
生活者データマネジメント
プラットフォーム局長
エグゼクティブマーケティングディレクター

安藤 元博

デジタル社会では、どこかに消費者の痕跡が残っている

 

神岡 現代社会ではビジネスとデジタルの融合が進んでいます。顧客価値創造のためのマーケティングとデジタルの関係は、どのように捉え、それを実現していくべきでしょうか。

 

安藤 デジタル化が進み、情報流通が変わっている現代社会では、消費者が商品やサービスを探した痕跡はどこかに残っていることが多いのではないでしょうか。従来は、デジタル機器を使いこなす高感度ユーザーと低感度ユーザーがはっきり分かれていました。しかし、これだけスマホが普及すると、低感度ユーザーと思われた人が何かの拍子にポンと画面をタップし、パッと表示された結果お気に入りの商品を見つけ、その流れで購入するというパターンも十分あり得ます。

 世の中には、SNS、位置情報、メディア接触、他社製品の購買履歴などのそれぞれの自社サービスからみた第三者データ、当社では「生活者DMP」と呼ぶデータが多数存在しています。デジタルとマーケティングの議論では、まず自社のデータをしっかり構築するということも有効ですが、外部の生活者DMPを使いながら組み立てたり、自社DMPと連携させたりするという進め方もそれと同じくらい重要だと考えます。  マーケティングでは、何らかのルートで顧客像と購買背景をつかむ作業が欠かせません。デジタル上で顧客の動きを捉えてみようと、本気で取り組む企業が多く現れてほしいと思います。

 

左脳派と右脳派の真剣勝負に突破口がある

 

髙木  ソニー銀行はネット金融機関なので、購買や顧客属性などのデータは持っています。しかし、属性と購買の間には嗜好性などが介在するので、銀行のトランザク ションデータをいくら解析しても顧客分類まではたどりつきません。今後はCMOを中心に第三者データやSNSも活用して、儲かるお客様を企業戦略に随時当てはめていく活動が大事と考えます。

 

北川 WEBマーケティングなどのデジタルを活用すると、数字は膨大に集まるがそこから先が見えないという話を聞きます。ブランドに対する投資でも、プロセスの中にKPIやKGIを持ち込みすぎると、かえってブランドがつくれないジレンマに陥ります。対して、営業の現場ではマーケッターの肌感覚がポイントを握るケースがとても多く見られます。データと肌感覚の融合やそのさじ加減を振るうのも、CMOの大きな役割ではないでしょうか。

 

安藤 顧客価値創造を目指した社内変革には、データ解析などの左脳派と営業現場の肌感覚に代表される右脳派が真剣勝負して、「やっぱりそうなんだ」と両者が心底からひとつになれる突破口を迎えられるかがカギです。CMOは変革のリーダーとして、その動きをけん引してほしいと思います。