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Executive CX Conference 2017 開催レポート

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Executive CX Conference 2017 -3/3

パネルディスカッション【最高の顧客体験を提供する組織への変革】

 

顧客体験価値の最大化を狙う
「マネジメントと組織」はどうあるべきか?

 

 

<パネリスト>松田 貴夫 氏(アクサ生命保険株式会社 取締役 専務執行役 兼 チーフマーケティングオフィサー)

木村 奈津子 氏(KDDI株式会社 コンシューマエクスペリエンス推進部長)

佐々木 丈也 氏(三井住友カード株式会社 統合マーケティング部 部長)
木村 真琴 氏(合同会社 西友 マーケティング本部)
<モデレーター>小野 譲司 氏(青山学院大学 経営学部 教授)


※ご登壇者のご所属、お役職は2017年11月時点のものです。

 

 

 

組織への浸透がカスタマー・エクスペリエンスの課題に

 企業にとって、カスタマー・エクスペリエンスの向上が急務になっている。既存の組織の中に、カスタマー・エクスペリエンスを専門とする部署を設ける企業も増えつつある。今後、組織の中でカスタマー・エクスペリエンスをどうマネジメントするべきか。マーケティング、サービス・マネジメントを専門とする青山学院大学経営学部教授の小野譲司氏をモデレーターとし、先進的な取り組みを行う企業の4人のパネリストが意見を交わした。

  

 

カスタマー・エクスペリエンスを専門とする部署の役割とは

 

小野: 最近はお客様と企業とがマルチチャネルで接するようになり、企業として一貫性を持った顧客体験をお客様に提供したいという課題認識が深まっています。一方、カスタマー・エクスペリエンスの向上にデジタルをどう活用すればいいのかという検討も進んでいます。そういった状況に置かれた、カスタマー・エクスペリエンスについての課題に真正面から取り組んでいる専門部署として、どのような役割を担っているかお話をいただけますか。

 

松田: 経営者として考えなければいけないことは、ヒト・モノ・カネをどれだけ投入できるかだと思います。そこでは、売り上げやコスト削減に関する数字は簡単に出すことができるのですが、カスタマー・エクスペリエンスはそうではありません。そもそも、新しい取り組みを始めるには、コントロールタワーになる部門が必要になります。私たちの部署は直接カスタマー・エクスペリエンスの業務に取り組むのではなく、見張り番として各部門がカスタマー・エクスペリエンスをしっかり実行をしているかどうかをモニターしています。

 

佐々木: 私が所属しているのは全社的なコミュニケーションを統括する部門として、「顧客とどのようにコミュニケーションを行うか」についての方針・戦略を策定する部署です。精神論で終わらないように、デジタルマーケティング施策を実現するためのインフラ構築、マーケティングツールの活用、データマネジメントプラットフォームの整備を行う役割も担っております。そして収益を確保していくためには、カード会員様や加盟店様に対してどういうカスタマー・エクスペリエンスを提供すればよいのかを考えます。

 

木村(KDDI): 弊社はお客様とさまざまなチャネルで接していますが、代表的なものがauショップです。店頭での印象はお客様にとって大変重要です。私の部署ができた際にまず取り組んだのは、全国のauショップでどのようにカスタマー・エクスペリエンスを向上させるのかということです。とはいえ、なかなか各ショップのスタッフにまで浸透させるのは難しく、根付いていきません。結局、肝になるのはショップを運営している社長の方針なのです。

  

 

カスタマー・エクスペリエンスを業績の評価に入れるには

 

小野: カスタマー・エクスペリエンスを組織へ浸透させるには、業績の評価に組み込んでいくやり方もあると思います。とはいえ、それは簡単ではありません。

 

木村(KDDI): カスタマー・エクスペリエンスに対する指標を持つことが大切だと思っています。そのためには、カスタマー・エクスペリエンスを社内で共通言語化する努力も必要ではないでしょうか。「カスタマー・エクスペリエンスをやる」という言葉が標語になるくらいモニュメントとして盛り上げないと難しいでしょう。「営業施策や経営施策として新料金プランを導入しました」ではなく、「お客様の体験を向上するための料金プラン変更です」と、みんながきちんと言えるようになることが大事かなと思っています。

 

佐々木: 弊社の場合、CX向上させる取組を単純に評価に入れるのは、各事業部の反発があると思われるので、CXがもたらす効果を定量化し、社内に発信しています。お客様との関係性を計測する指標であるNPSとも3年前から追いかけており、NPSのポイント変化と収益の相関を見ています。その結果を経営・社内に報告をして、カスタマー・エクスペリエンス的な取り組みが最終的に利益に結び付くということを一生懸命伝えています。

 

木村(西友): 弊社では、お客様に近いところにいる店舗運営本部が主流なのですが、カスタマー・エクスペリエンスの効果をはかるのは私たちマーケティング本部です。顧客体験の向上に関しては、全社横断プロジェクトが対応します。そういう組織でプロジェクトを進めていかないと、店舗の力だけでは無理なのです。今我々が目指しているのは「エブリデイ・ローコスト」なので、お客様に過剰なコストがかけられないことを理解してもらうため、どうやって本社が店舗をサポートすればよいかを考えています。

 

 

カスタマー・エクスペリエンスにデジタルをどう取り込むか

 

小野: オーディエンスのみなさんには事前のアンケートで、カスタマー・エクスペリエンスにおいて優先して取り組みたいことは何ですかという質問を事前にお聞きしました。そのアンケート結果を見ると、1番多いのが組織や全社に考え方や戦略を浸透させること。2番目が組織間の連携や横のコミュニケーションを促進すること。そして3番目が、デジタルを活用することとなっています。このデジタルをどうカスタマー・エクスペリエンスに活用するかについて聞かせてください。

 

佐々木: 世の中の変化は、まさにスマホファーストになっています。お客様が我々のWebページを閲覧する際に利用するのは、2年前はパソコンが7割でスマホが3割くらいだったのですが、最近は全く逆転しています。お客様はデジタルの接点を望んでいるので、そこのカスタマー・エクスペリエンスをいかに上げるかというところに力を入れています。

 

木村(西友): スーパーマーケットにおけるデジタルの活用については非常に難しく、ウォルマートなどのアメリカ企業の方が進んでいます。彼らはまず実行してから結果を見て、だめならすぐに撤退します。アメリカではECの脅威だけでなく、競合がどんどん倒れていく中で生き残っていくという意識が強いことと、マーケットリーダーとしての模範を見せるというところに相当強い意識があると思います。そこが西友とは違うので、参考にしたり、日本でもできないかと検討したりすることはよくやっています。

 

松田: アクサ生命の商品を買っていただいても、次にアクサ生命の担当者に会うのは30年後に自分が死んだ時かなと思っている人も多いと思います。そこで、たとえば、ある日アクサ生命からパジャマが届きます。じつはそのパジャマにはセンサーが埋め込まれていて、寝ている間の発汗量や心拍数、心電図などを計測します。そして朝になったら、ベッドサイドに置いてあるスマホが、昨日は睡眠の質が悪かったので日頃の運動量を増やしましょうなどとアドバイスをしてくれる。そういった取り組みが考えられます。

 

木村(KDDI): 弊社は、コアの通信事業を中心に、Eコマース、電気、保険、また最近は、auホームという家庭内のIoTへの取り組みも始めています。デジタルに関して今難しいと感じているのは、データベースのカスタマイズに関する課題です。各事業部やセクターがデータベースを持っているのですが、そこをどうつないで一貫性のあるサービスや顧客経験を提供するのかを考えています。「データはあるのだけれど…」というところで苦慮しています。

 

 

 

 

小野: 最後に、今日参加されているみなさんにメッセージなどがあればお願いします。

 

木村(西友): じつは、弊社ではカスタマー・エクスペリエンスという言葉は浸透していません。とはいえ、お客様に関わる文脈であればみんなが話を聞きます。今後いろいろと施策を考えていく際にも、全員でやろうという雰囲気になっています。そんなことから、カスタマー・エクスペリエンスの専門部署を作るという体制にはならない会社です。基本的には店舗ごとに大きな権限があるので、そこをどう「見える化」してマネジメントしていくかが、本社の役割ではないかと思っています。

 

佐々木: カスタマー・エクスペリエンスについては、大上段に振りかぶらなくても小さいことからスタートすれば良いと思います。我々の中でも、定量的に効果が出ているところとそうではないところがあるのですが、一歩ずつ地道に積み上げて取り組んで行くことが大事だと思います。それと、経営陣にカスタマー・エクスペリエンスの重要性を理解してもらう為に、小さなことでも経営にインプットして効果を理解してもらうことが重要だと思っています。

 

木村(KDDI): コンシューマエクスペリエンス推進部というかっこいい名前ですが、実際にやっていることを見ると、みんな社内を駆けずり回っています。汗をかいているところを社内に見せることも、我々の重要性を認識してもらう方法の1つかなと思っています。それと、なぜ我々はカスタマー・エクスペリエンスを向上させようとしているのかを、部内で定期的に確認するようにしています。私は「みながハッピーになることだから」と言っています。会社もパートナーもお客様もハッピーになることを、私たちがやっているんだということです。

 

松田: 保険会社は以前からブランド投資を長年行ってきています。今の保険会社は、ブランド投資一辺倒だったのを少しずつカスタマー・エクスペリエンスの投資にシフトさせています。私たちはブランドとカスタマー・エクスペリエンスをバランシングさせながら投資を行うようにしています。カスタマー・エクスペリエンスはやはり長期的な投資だと思います。すぐに結果には結びつかないけれど、長期的に考えたらすべて経営の結果に反映します。システム開発のように、ある程度の予算をそこに割かない企業は多分選ばれなくなると思っています。

 

小野: 今日のディスカッションでは触れませんでしたが、お客様の経験を別の角度から見ると、人間はときに非合理的で、感情を伴っている生き物であり、そうした規則立ててとらえるのが難しい生身の人間を相手にするのがカスタマー・エクスペリエンスであり、だからこそ、企業がエクスペリエンスをマネジメントできるかどうかは難しい課題です。本日のお話では、各社それぞれの立場で取り組みをされていました。しかし、手当たり次第に経験ということで追求し始めると泥沼にはまり、つかみどころのないままに終わってしまいかねません。また、よくあるように、5年後には「カスタマー・エクスペリエンス」というビジネス用語がそれほど言われなくなっているかもしれません。しかしながら、言葉は変わるかもしれませんが、今日、皆さんと議論した課題の本質は、変わらぬまま対処し続けなくてはならないと思います。各社各様で一つの答えを出すことは難しいのですが、結局のところ、自分たちに何ができて、何をやりたいのかを明確にしていくことが重要といえるのではないでしょうか。

 

 

アクサ生命保険株式会社
取締役 専務執行役
兼 チーフマーケティングオフィサー

松田 貴夫


名古屋大学工学部 卒業。1991年三井生命保険相互会社入社。数理部、商品開発部、マーケティング部門を経て、2001年アメリカンファミリー生命保険会社に入社。マーケティング戦略企画部長、商品開発部長、商品本部長などの要職を歴任。2008年9月、アクサ生命保険株式会社に入社。執行役員チーフマーケティングオフィサー、常務執行役員 チーフマーケティングオフィサーを経て、2010年6月より現職。日本アクチュアリー会正会員。

KDDI株式会社
コンシューマエクスペリエンス推進部長
木村 奈津子

West Virginia州立大学卒業後、ホテルコンシェルジェとしてCentury Hyatt Tokyo(現Hyatt Regency Tokyo)に勤務。派遣社員として携帯販売店舗巡回ラウンダーを経て、2000年 KDDI入社。auショップスタッフ教育、スキル向上施策を担当。2005年KDDI DESIGNING STUDIO(原宿)館長。2010年 直営auショップ1号店au NAGOYA店長。2013年カスタマーサービス企画部長を経て、2017年4月から現部門。

三井住友カード株式会社
統合マーケティング部 部長

佐々木 丈也


1991年に三井住友カードに入社。法人営業、個人営業や商品企画等に携わり、2013年よりネットビジネス事業部長。2017年改組により統合マーケティング部長。

合同会社 西友
マーケティング本部
木村 真琴

P&G、ソニーマーケティング他にてブランドマネジメント・メディアプラニング・イベント企画・広告制作等を多岐にわたり経験後、2009年西友に入社。KY(カカクヤスク)・バスプラ・PBみなさまのお墨付き・ど生鮮・プライスロック等を新たなブランド資産として確立。2016年2月、合同会社 西友 マーケティング本部 バイスプレジデントに着任。

青山学院⼤学
経営学部 教授  

⼩野 譲司


専門はマーケティング、サービス・マネジメント。1998年、慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程単位取得、2000年、博士(経営学)を取得。明治学院大学経済学部教授などを経て、2011年より現職。サービス産業生産性協議会が実施するJCSI(日本版顧客満足度指数)に開発主査として関わり、現在、JCSIアカデミックアドバイザリーグループ主査。 主な著訳書として『顧客満足<CS>の知識』(日経文庫)、『仕組み革新の時代』(共著、有斐閣)、『顧客資産のマネジメント:カスタマー・エクイティの構築』(監訳、ダイヤモンド社)、『バリュー・プロフィット・チェーン:顧客・従業員満足を「利益」と連鎖させる』(共訳、日本経済新聞出版社)などのほか、論文多数。