役職を捨てて役割を見つけるようになった、
スピード重視のプロトタイピング

事業部のヨコパナ化は、社内カンパニーで進めています。まず、パナソニックβという組織をシリコンバレーに作りました。この新しい空間では、全く新しい人の交わり方や仕事のプロセスにより、事業部のヨコパナ化に加え、職能のヨコパナ化も進めています。主に30歳前後の若い世代が90日間ここに来て、同様のプロジェクトに取り組むのです。さまざまな職種、職能の者たちが、事業部の所属を越えて一つの会社のように働く場とプロセスを提供しています。
パナソニックβで実現しようとしていることは、過剰な完璧主義からの脱却です。完璧にやるよりもすぐにやってしまうほうが、より完璧に近づきます。要するに、過剰なパーフェクション文化から、不完全を寛容する多試行の文化に変えているというわけです。形や仕組み先行の場合、有効性がどうかと言われる問題があるので、まずはやってしまい、パナソニックでも全く違うやり方でできるのだということを見せます。
「90日でできないことは2年かけてもできない」という表現がシリコンバレーではよく使われますが、90日というのは、一つの仕事を行うスピード感のパッケージとしてちょうどいいのです。30日でもなく60日でもなく180日でもなく、90日なのです。パナソニックβでは、全てのカンパニーからさまざまな職種の人が来て実際にモノを作りますが、ここではとにかく頭を動かす前に手を動かし、フェイルファースト(fail first)で、人間が触ったり見たりして感じられるモノをどんどん作っています。この方法で実際に出てくるモノの数も増え、スピードも従来の5倍から10倍ぐらい早まっています。
また、社員からも「これまで上司ファースト、関連部署ファーストだったが、ユーザーファーストになった」、「所属部門ごとの商品やサービスに限定された狭い思考回路から解放された」「最速で物事を進めるためのプロセスを考えるようになった」「職能や部門を超えたコラボであるヨコパナは、事前調整が大変だと思っていたが、ここではどんどん行える」という声をもらっています。そしてこれは結構大切なことなのですが、「役職を捨てて役割を見つけるようになった」という声もありました。要するに、「何々事業部でエンジニアをやっています」と言っても実際は意味を持ちません。自分が何者かを自問自答しながら、そのチームの中で貢献できる領域を見つけるようになったようで、これは非常に大きな成果だと思っています。
昔は、考えて仕様を説明して承認されてから作ったものが、ここでは、「まずは作ってみる」、「とにかく作って考える」ということを行っています。我々のような堅い大企業で、かつ今まで社内で横の繋がりもなかったような会社でも、さまざまな部署から人が集まって、きちんとしたコミットメントのもとで行えば、こういったことも3カ月くらいでできあがるのだと思っていただけばいいと思います。
我々のHomeXプロジェクトの取り組みも然りですが、とにかく作って考えることから始め、まずはモノを見て、走りながらそれをモデル化、汎用化し、抽象化していきました。その抽象化されたヨコパナの仕組みが、パナソニックβというわけです。但し、これが傍から見て「シリコンバレーで何か楽しそうにやっているらしいよ」というだけでは、会社全体は変わりません。イノベーションを量産化するために、これを全社に適用してバックするということを、今後もこのようなプロセスを通して進めていきます。