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NIHONBASHI BRIDGE FORUM 2016-2

 

「ユーザーの人生を豊かにするために物作りをしている、企業の思いを消費者に伝えることが大切」と語る、株式会社ジャパネットたかた創業者の髙田明氏。髙田氏の言葉に「伝えることが理屈抜きに好きなんですね」と感嘆する、一橋大学大学院教授の楠木建氏。お二人に共通する哲学は「“好き”が可能性を引き出す」ということ。ここでしか見られない、貴重なスペシャル対談が実現しました。



 

 

 

楠木:髙田さんは、本日のテーマについてお話を伺うにはもっともふさわしい方だと思いますが、長くテレビで伝え

   続けるうえで、伝えるターゲットと伝え方というのはどのように絞り込んでこられたのでしょうか。
髙田:ターゲットと伝え方は商品によって異なるのですが、どの製品にも共通していえるのは、企業は消費者の生活

   を豊かにするためにものづくりをしているということです。それを消費者に伝えることが大切だと思います。
楠木:伝えたいと情熱を持ってカメラに向かうなら、伝えたいと思えない商品は扱わないということでしょうか。
髙田:扱わないというより紹介できないのです。心から伝えたいと思えなければ言葉も出ないし、表情も真実の表情

   にはなりません。
楠木:根底に自然な思いや情熱があれば、テクニックを箇条書きにしてマスターする必要はないということですか。

髙田:そうです。そして伝える時は「この商品を使うと、こんなふうに生活が変わりますよ」ということに紹介時

   間の8割を割きます。残りの1割が機能の説明、あとの1割が値段です。機能の説明が1割だけでも売れる商品

   はたくさんあると思います。逆に機能の説明を8割していたら、買おうという気にはならないでしょう。

 

楠木:髙田さんは今や伝え上手、伝える名人で

         いらっしゃいますが、伝えることを始めた

   ときから今と同じような考え方、スタン

   スだったのでしょうか。
髙田:それは「ノー」ですね。考え方やスタンス

         は、意識しなくても経験の中でいつの間に

   か積み上がってくると思います。私は40歳

   までカメラ店をやっていたのですが、ご年

   配の方に使い方を教えていくなかで「相手

   がわかって初めて伝わるんだ」ということ

   を学びました。
楠木:その時代から、伝えることの喜びや、結果と

   して商品が売れるという醍醐味を体感して

   こられたわけですね。
髙田:そうですね。ソニーのビデオカメラを扱ったことがカメラ店の飛躍につながったのですが、当時、売るために

   はどうしたらよいかと考えた末に訪問販売をしました。お子さん、お孫さんの顔をテレビに映し出すと、

   それを見てみんな喜んで、ビデオカメラを買ってくれたのです。喜んでもらえることを考え伝えただけで、売上は九州で一番に

   なりました。「小さなカメラ店がどうしてそんな数を販売できるんだ」と人からは言われましたが、私はお客様に喜ん

   でもらえることを行っただけなのです。
楠木:奇をてらったことや誰も思いつかないことをやるのではなくて、人間の本能のど真ん中に訴えかけることを

   行う。天才的な洞察力やクリエイティビティが必要な物事ではないんですね。
髙田:はい。これはよく申し上げていることなんですが、直感やクリエイティビティ、市場の変化を作り出す力は

   すべての皆さんに備わっているものだと思うんです。それは一途にやり続けている、「今を一生懸命やって

   いる自分」を作り出す人なら、100%持ち合わせています。 市場の変化に対応するのではなく、市場の変化を作る。

   その力は、いま目の前にある物事を着実に積み上げていくことで、身についていくと思います。
楠木:商品を使う喜びや生活の向上を伝えるのは、カメラ店で直接販売していた時代から通販の仕事まで、振り返る

   とずっとつながっていますね。伝えることがよほどお好きなんだと思います。理屈抜きにお好きなんですね。
髙田:そうですね(笑)。やはり「好き」というのがベースにないとできませんね。ただ会社員の場合、入社当初か

   ら配属先の仕事が好きだとは限りませんよね。けれども人間は働くことで、その仕事を面白いと感じる自分を

   つくっていけると思うんです。仕事は好きなものを選ぶのが一番よいのですが、頑張っていればどんな仕事で

   あっても「好き」にできるのではないでしょうか。
楠木:私も同感です。自分の好きのツボを押してくれる仕事であれば「好きこそものの上手なれ」のメカニズムは自

   然と作動してくれると思います。

「Live感が強く、手探りでストーリーが作られていく様子を楽しめました。
 お二人のギャップからポイントが明確になって良かったです」
「楠木先生のリードが素晴らしく、お二人のよいところが引き出されていて、
 痒いところに手の届く対談でした」

 

 

「弟子入りした立川談志師匠は、人一倍めんどうくさい人でした。むちゃぶりの結果、たばこを買いに行ったまま、いまだに戻ってこない弟子もいます」。そんな師匠のむちゃぶりに耐え、半歩先を予測する術を身に付けた立川談慶氏が、明日から誰もが実践できる「話術・伝える力をアップできるコツ」を伝授いたします。


本公演の後半には、談慶氏の落語の舞台も登場し、今と昔の「伝える技術」を同時に体感できる貴重な時間となりました。



 

 

 師匠の立川談志はめんどうくさい人でした。おかげで最近『「めんどうくさい人」の接し方、かわし方』(PHP研究所)という本も書かせていただきました。落語家になるためのプロセスは修行です。言葉の天才・魔術師でもある師匠が「修行とは、不合理、矛盾に対する忍耐力だ」と定義していました。つまり「むちゃぶり」です。そのむちゃぶりのおかげで今の自分があること、そこから学んだ「誰もが話術、伝える力をアップできるコツ」をお話しさせていただきます。

 

 落語家になるにはまず入門、弟子入りしなくてはなりません。私は前座として名前をもらうまでに1年2カ月かかり、ついた名前は前職にちなんだ「立川ワコール」。すぐやめるだろうと期待されていなかったのです。実際ドジの連続で、怒られながら真打ちまで9年半、人の3倍時間がかかってしまいました。逆にいえばそれだけ師匠のエキスを多く浴びることができたわけです。


 師匠は留守番電話に、「明日帰るから迎えにこい」とメッセージを入れてくるけれど、出掛けた先も迎えに行く先も教えてくれはしないのです。たばこの銘柄を教えてもらえないまま買いに出かけ、そのまま戻らなかった弟子もいます。そんなむちゃぶりの日々の結果、磨かれるのは「受け止め力」です。師匠は「俺を快適にしろ」と言いました。人一倍めんどうくさい人間を快適にできれば、大衆を快適にするのは楽だという方程式なのです。そう思うとむちゃぶりは不合理なようでいて、合理的なのかもしれません。むちゃぶりを受け止め、とにかく耐え、少ない情報の中で無い智恵を絞り、半歩先を予測し、師匠を快適にする術を身に付けていきました。

 

 

  普通、自分が話す時には攻めの姿勢、聞く時には守りの姿勢で臨んでいることが多いと思います。ところがこれを真逆の姿勢で臨むと、相手の言うことがよく分かることに気が付きました。また、相手の感情を先回りして捉え、言葉にしておくと、不愉快な話でも相手に不快感を与えずに済みます。自慢話、愚痴、悪口といった内容を話す時には「これは自慢話だけれど」「愚痴っぽい話になるかもしれないけれど」「悪口に聞こえたらごめんね」などと、相手が持つであろう感情を先回りして言葉にしておくと、不快感も無くなりますし「この人は、私を客観的に見ることができる人だな」と評価も上がります。これはスキルというより、癖として身に付けておくとよいと思います。

 

 逆に自分が近づきたい人、価値観を共有したい人、あるいは自分の周囲から蹴落としたい人に対しては、自慢話、愚痴、悪口を言わせるためにわざと隙を作ったり、キラーパスを出したりします。相手がそれらを話せば弱みが分かり、自分が主導権をにぎることができます。

 

 プレゼンの時などにはつい成功談を話しがちですが、人に喜ばれうけるのは、むしろ失敗談です。失敗した話を有効活用することをご提案します。ちなみに私は師匠の下で犯した「しくじり」は、ネタとしてマクラに使っております。

 

 

「攻守の発想には目からウロコでした。とてもユニークな説明でしたが、
 どのお話も本質をついていると思います。
 さまざまなご苦労を力にされている様子が伝わりました」
「あっという間の80分間でした。
 落語を初めて生で拝聴しましたが、また聞いてみたいと思いました」

 

落語家(真打)

立川 談慶

 

1988年 慶応義塾大学経済学部卒業後、株式会社ワコールに入社。3年間のサラリーマン体験を経て、91年に立川談志18番目の弟子として入門。前座名は『立川ワコール』。2000年 二つ目昇進を機に、立川談志師匠に「立川談慶」と命名される。05年 真打ち昇進。慶應大学卒業生では初めての真打ちとなる。著書に『「めんどうくさい人」の接し方、かわし方』(PHP文庫)、『いつも同じお題なのに、なぜ落語家の話は面白いのか』(大和書房)、『大事なことはすべて立川談志が教えてくれた』(KKベストセラーズ)、『落語力』(KKロングセラーズ)などがある。趣味は絵手紙、ボディビル(ベンチプレス120kg.)。