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CDOフォーラム 2017 開催レポート

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CDOフォーラム 2017 開催レポート

パネルディスカッション

 

これから日本企業で起きようとしている
 デジタルによる改革

 

 

 

 パネルディスカッションは、日本ロレアル株式会社の長瀬次英氏、株式会社三菱ケミカルホールディングスの岩野和生氏、株式会社三菱東京UFJ銀行の柴田誠氏、ドーモ株式会社の大山忍氏、一橋大学の神岡太郎氏をパネリストに迎え、CDO Club Japanの加茂純氏がモデレーターとなり、進行していきました。

先駆的にCDOを導入したのは変化に対応するため

 

 まず、モデレーターの加茂氏は、「欧米ではすでに多くのCDOがいて、デジタル改革がかなり進んでいるのに対し、日本ではなぜそこまではデジタル改革が進んでいないのか」と、日本企業が持つ課題を最初のテーマとして提示しました。加茂氏は日本ロレアルの長瀬氏に、いち早くCDOを導入するなど、日本における先行事例を示した日本ロレアルで、なぜそれが可能になったのかを聞きます。

 

長瀬「このままではいけないという会社の危機意識が一番大きいと思います。我々はプロダクトアウトでビジネスを行ってきました。しかし、例えばの一例ですが、今は何か製品に不具合があったら、すぐにSNSで世界中に情報が広がってしまい、一度悪評がたってしまうと、なかなか回復できません。そこでロレアルでは、お客様セントリックスに方針を変更しました。デジタル世界におけるソーシャルリスニング、これ一つとっても全社員にとってしっくりきたものなのです」

 

 次いで加茂氏は三菱ケミカルホールディングスの岩野氏に、改革が遅れていると言われる製造業の中で、同社がCDOを導入した理由を質問します。

 

岩野「この4、5年の間に製造業でもビジネス変革が急激に起きています。我々のようなBtoB企業の経営者は、特にデジタルに対して危機意識があります。そのために、新しいデジタルの組織を作りました。レガシーと思われている企業が新しい形に進化していくことは、日本の社会に対するメッセージになると思います」

加茂氏は三菱東京UFJ銀行の柴田氏に、イノベーションが起きにくいイメージがある日本の銀行で、いち早くデジタル担当役員が置かれた理由を問います。

 

柴田「もともと金融機関は、オンライン化など積極的にデジタルに取り組んできました。しかし、今起きているのは、お客様の側で起きている変化です。スマートフォンの処理能力や通信速度が向上し、いつでもどこでも世界中でネットワークにアクセスできるようになりました。また、最近は独自のインフラを持たない新興企業でも、クラウドを使って簡単に金融サービスに参入できます。こういった変化を、経営レベルでは切実なものとして捉えています。そのため、デジタルに本格的に対応する必要があるのです」

 

 加茂氏は、日本企業でデジタルの導入が進んでいない状況には、さまざまな問題点が考えられるが、それについてどう見ているかをドーモの大山氏に問いました。

 

大山「日本の場合、企業間で人材の流動性がなく、社内では異動によってせっかく理解したデジタルの知識が生かせなくなるなど、社の内外双方で人材確保に課題があります」

 

そして大山氏は解決のヒントも示しました。

 

大山「デジタルの業界を見ると、若い人材が豊富です。社外からそういった人材を入れる場合には、若くてもきちんと権限を持たせることが重要です。また、すでに社内で権限を持っている人が新しい知識を取り込んでいくことも、日本企業におけるデジタル人材確保のアプローチとして重要であると考えています」

 

 加茂氏は一橋大学教授の神岡氏に、海外のCDOサミットに参加してきた経験から見た、日本企業と海外企業のCDO導入への取り組み方の違いを質問します。

 

神岡「日本でCDOの導入が進まないのは明らかにトップの問題です。もちろん、CEOも危機感を持っています。それなのにアクションに移らないことが大きな問題なのです。今は、昔とは違って不確実性が高い段階で意思決定を行わなければなりません。そういった経営スタイルに日本企業は慣れていないのです。リスクを減らしてからアクションを起こしてももう遅いのです。海外の企業は意思決定してアクションを起こすのが早いのです」

部門を超えて企業を先導することがCDOの役割

 

次のテーマとして加茂氏は、CDOを導入しても、日本企業にありがちな部門間の兼ね合いによるやりにくさという課題を解決するにはどうすればいいか、パネリストに問いかけます。まず、長瀬氏が答えました。

 

長瀬「そこは会社の度量の大きさないし本来もっていた個性がポイントになります。ロレアルはもともと開発に力を入れてきた企業であったためにテスト&ラーンを行うことに慣れていて、なにかをやらないとなにも生まれないという考え方を持つ企業風土がありました。その風土がデジタルビジネスの一要素でもあるテスト&ラーン”に馴染みやすくデジタル化を促進させやすい要因だとも思います」

 

加茂氏は岩野氏に、外部からCDOに採用され、既存の部署に対してさまざま提案することは、巨大な企業の中では大変なことではないかと問います。

 

岩野「三菱ケミカルホールディングスは技術者が多い会社です。技術者は自分の専門外の専門家を尊敬するのです。私はケミカルについては専門外ですが、工場に行くと、耳を貸して一緒に議論しようという雰囲気が感じられました」

 

次に加茂氏は柴田氏に対し、コンプライアンスに対して非常に忠実である銀行という組織の中で、イノベーションを起こすための課題を問います。

 

柴田「新しいことにチャレンジしようとすると、リスクをどう解消していくかが大きな課題になります。必要なのは、挑戦と守りのバランスをとることです。デジタル企画部はプロパーの人材だけではチャレンジが難しいので、3~4割は中途採用の人材です」

 

加茂氏は、今後、CDOと同じようにCEOもデータをチェックする必要が出てくることにつき、その課題を大山氏に問います。

 

大山「トップだけではなく、現場の方もデータに基づいたアクションを起こしていくことが重要で、それができるようになることが課題です。トップダウンで意思決定するのではなく、現場にもデータや情報という武器を与えて、その場で意思決定ができるような組織にする必要があると思います」

 

加茂氏はテーマのまとめとして神岡氏に、これからさまざまな企業がCDOを導入するにあたり、ロレアルのようにCDOをじょうずに使いこなすにはどうすればよいかを聞きます。

 

神岡「組織を引っ張っていくには、“思想”が必要になってきます。変革を起こす際にも命令を出すだけではだめで、CEOが思想家の側面を持って皆を先導していかなければなりません。CDOに与える役割の一つは、CEOの右腕として、その思想のエバンジェリスト(伝道者)になってもらうことです」

デジタルがあらゆる業界で全社員の共通言語となっていく

 

 

 

最後に加茂氏はパネリストに、「CDOに興味をもって集まってくださった皆さんに、一言ずつお願いします」と来場者へのアドバイスを求めました。

 

長瀬「本来デジタルは特別なものではないと考えています。今はCDOというポジションが必要ですが、いずれはなくなってもいいと思います。デジタルが当たり前のものになり、全社員にCDOになってもらうためのプログラムを組んでいく事が大切だと思います」

 

岩野「この先5年くらいが、ITに関わっている人にとって千載一遇のチャンスだと思っています。この波に参加して、新しい流れを作れるという意識を持つと面白いでしょう。私はCDOはいずれなくなるものではなく、新しい職種に変化していくと思っています」

 

柴田「金融世界でのイノベーションは、一部の人が起こすだけで終わってはいけないと感じています。それは、金融だけではなく、あらゆる業界に当てはまります。そして、いかに組織全体の取り組みにしていくかがそれぞれの現場で問われていくと思っています」

 

大山「これまでは組織の中で共通言語がないため、事業部間で話がかみ合わずに対立してしまうことがよく見られました。今後データが全社に行きわたるようになると、それを共通言語にすることができます。これが、組織の壁を無くし、企業が一つのゴールに向かっていけるチャンスになると思っています」

 

神岡「CDO Club CEOのMathison氏は、『今後カスタマーがカンパニーになる』とおっしゃっていました。働くことはどういう意味をもつのかなどを含めて、今はあらゆるものを再定義しなければならない時代です。その変革の中で、デジタルの意味を探すことが重要になってくると思います」

 

まだ日本では少ないCDOの中からご登壇いただいたパネリストの方々は、それぞれに明確な目的を持ちながらも、これから道を切り開いていこうとさまざまな取り組みを行っています。また、企業におけるデータ活用の重要性についても触れられたことで、Chief Digital Officer、Chief Data Officerの両面からCDO導入の必要性が伝わるパネルディスカッションとなりました。

 

ドーモ株式会社
クライアントサービス
本部長

大山 忍


日本市場におけるポストセールスの責任者として、顧客企業のデータドリブン変革およびビジネス最適化を支援している。Domo入社以前は、デジタル広告効果測定ツール企業、Omniture(現Adobe Marketing Cloud)、ExchangeWire Japan編集長。前職の日本オラクルではOracle Marketing Cloudのポストセールスを責任者として牽引した。2016年7月より現職。