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CMO Forum 2017 開催レポート 2/3

Panel Discussion
【これからの顧客接点・顧客関係構築における、コミュニケーションを考える】

 

顧客接点のリデザインと新たな価値提供にむけて

青山学院⼤学 経営学部 教授  ⼩野 譲司

株式会社 東京海上日動コミュニケーションズ 執行役員 田口 浩

日本ロレアル株式会社  長瀬 次英

株式会社ニューバランスジャパン  鈴木 健

株式会社アクティブコア  山田 賢治

トリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社  井上 千鶴

 

 

顧客体験の最適化がマーケティングのカギ

 デジタル化が進み、顧客接点が多様化している。あらゆる顧客接点で価値を提供し顧客体験を最適化することが企業のマーケティング戦略構築の重要な要素となっている。顧客接点を今後、どのようにリデザインするべきか。マーケティング、サービス・マネジメントを専門とする青山学院大学経営学部教授の小野譲司氏がモデレーターとなり、5人のパネリストが意見を交わし合った。

カスタマージャーニーにおいてどう接点をつくるか

 

 

小野: マーケティングの分野では、消費者がどのように商品やブランドと接点を持ち、関心を抱くようになり、購入や成約に至るのかという「カスタマージャーニー」や「顧客体験」に関する議論が盛んに行われています。「顧客接点」というキーワードで、皆さんの会社にはどのような課題があるととらえているか、聞かせてください。

 

鈴木: 顧客接点の中でニューバランスが重視してきたのは購買接点です。マーケティング費用の4割ほどを卸売先、流通店などの購買接点に充ててきました。今はメーカーでありながらも直営店、ECのような新しい購買接点をつくり、他の顧客接点に生かそうとしています。今後の課題は、購入前、購入後にどう接点をつくるかです。例えばランニングシューズは買って終わりではなく、必ずそのシューズを履いてランニングをするという場面があります。ランニング大会に協賛するとか、ランニングのプログラムを提供するとか、顧客の自己実現を支援するような接点を持つことも重要だと考えています。

 

長瀬: 日本ロレアル全社のデジタル化を推進するCDO(Chief Digital Officer)という立場でカスタマージャーニーの作成にかかわっていますが、そのパフォーマンスを見ようとした時にROI(投資利益率)をいかに計測するかが課題になっています。消費者が商品やブランドを認知してから購入に至るまでのジャーニーは実に多様です。ソーシャルメディアで情報をシェアする人、グーグルで検索する人、店舗で買う人、ECで買う人…。ステップは本当にバラバラなので、様々なツールを入れ、タッチポイントごとに見ようと努めています。

 

 

 

 

井上: オンライン、オフライン含めて、トリンプは顧客接点をたくさん提供しています。私が所属するオムニチャネル営業本部はリテール店舗、EC、CRMを束ねた組織で、顧客目線でアプローチし、顧客満足度を上げ、継続的に成長していこうという発想でつくられた部署です。これからは、どの接点でどういうベネフィットを提供するのか、お客様に喜ばれる顧客体験を最適化していく必要があると考えています。また、ライフタイムバリュー(LTV)を向上するためのコミュニケーションツールやコンテンツを見極めることも重要だと思っています。

 

田口: 国内のカスタマーセンターでは、最近、お客様からのコンタクトが音声からテキストに急激に変化してきました。各カスタマセンターは一斉にテキスト対応を始め、お客様の変化に追いつこうとしているところです。ただ費用対効果については、まだ十分に検証できていません。また、コンタクトセンター業界は、人材採用が大変難しくなってきており、人材不足とコスト削減のために、AIを導入し運用するケースも増えてきました。今後は、有人対応と無人対応をどのように最適に設計するかが課題です。

 

山田: 我々アクティブコアが手掛けているのはBtoBビジネスですが、この分野でもデジタル化の進化によって顧客が情報をいち早く入手するようになっています。企業はまずその情報収集の段階で、顧客から選ばれなくてはなりません。そのためにはオウンドメディア、コンテンツバリューの強化が課題だととらえています。

購入に結びつきやすい「ゴールデンパス」を見極める

 

 

小野: 一人の顧客が取引期間全体を通して企業にもたらす利益を表すLTVや、投資に対して生み出した利益を表すROIなどの数字に落とし込んだ時、カスタマージャーニーマップの作成や顧客体験の提供という視点は、それらの成果を上げるうえでどの程度、有効なのでしょうか。もし数値で可視化されているようであれば、それも踏まえてお話しください。

 

鈴木: LTVに関しては、短いスパンに限れば損益計算書(PL)で可視化している形になりますが、長いスパンでできているかというと難しいところがあります。例えば、コールセンターやコンタクトセンターはコストがかかるため、一生懸命削ろうとしがちです。そこから生まれるはずの価値を失う機会損失にまでは気が回らないことが多い。将来価値を現在価値に落としてマネジメントしている会社があれば教えていただきたいですね。

 

長瀬: カスタマージャーニーは戦略のベースになるものです。ROIとは分けて考えるテクニックも必要と思います。ブランドが評価される段階があるならば、ユーザーインターフェース(UI)や顧客体験をより良いものにするために積極的に投資すべきでしょう。例えばソーシャルメディアが頻繁にタッチポイントとして出てくるのであれば、そこでビジネスパートナーシップを構築し、クーポンを提供したり、先行的に新しいツールが使えるようにしたりすることが顧客にとっての価値創造につながります。

 

井上: お客様が購入に至るまでの過程には、「どこかで得た情報」が巡りめぐって、最後にインターネットで検索することによって到達するというケースもあります。ROIを見るには、それらのタッチポイントを把握した上で総合的に、はかれるような仕組みが必要です。一方、LTVについては、ラインナップを豊富に取り揃え、年代別のニーズの移り変わりに加え「ラグジュアリーな下着を身につけたい」とか「着心地のいい下着を選びたい」といったお客様のオケージョンごとのニーズを理解し提供することで自ずと上がると思います。過去のデータを見て、購入に結びつきやすい最適な「ゴールデンパス」を見極め、コミュニケーションを取っていくことが重要だと思います。

顧客接点では人が感情的なつながりをつくる

 

 

小野: 顧客接点において人が果たす役割は非常に大きいと考えます。人と接点を持つ時というのは良い面も悪い面も感情が生まれやすく記憶に残りやすい、と考えられるからです。そういう意味では東京海上日動コミュニケーションズが設置しているようなコンタクトセンターは、その最前線に立っている重要な存在といえますね。

 

田口: AIの導入など無人対応化が進み、コンタクトセンターでもお客様と人との接点が少なくなっています。お客様と接する機会をとらえ、どう価値を提供するかが重要です。いろいろ研究してみてわかったのは、社員満足(ES)がお客様満足(CS)に影響しているということです。ESが上がるにつれてCSも上がり、お客様から「本当に助かりました。ありがとう」「次もお世話になりたいから名前を教えて」といった感情のこもったお礼を言われる機会が増えました。また、お客様からの感情のこもったお礼は、社員のモチベーションアップにもつながり、「お客様のためにもっと頑張ろう」となって良いサイクルを生みます。企業は、AIやITへの投資とともに、社員への投資も重要です。

 

 

 

小野: 消費財ブランドも顧客接点における人の役割は大きいと思いますが、いかがでしょうか。

 

長瀬: 化粧品はブランドエクスペリエンスがすべてといっていい商材です。カスタマーセンターにも非常に力を入れています。AIの導入も始めていますが、プレミアムブランドとして価値を提供しようという時にAIはどうなのかと疑問に感じるところもあります。特に日本人はその辺りの感覚が難しいですから。時代に逆行するかもしれませんが、日本では24時間、人が対応するカスタマーセンターをつくる構想も持っています。

 

小野: アクティブコアはマーケティングデータやウェブサイトの行動履歴を統合して分析することで企業の経営を支援しています。顧客接点や人について、どんな問題意識を持っていますか。

 

山田: 以前の企業にとって顧客接点として重要だったのは、営業マンが最初に訪ねる段階でした。そこで資料や動画を使って製品やサービスを一通り説明していました。しかし、今ではお客様は事前にそういう情報は手に入れています。お客様を訪ねる時にはクローザーが登板することが必要です。企業は社員を成長させ、クローザーとしての力を付けさせることが必要になっていると思います。

 

 

 

小野: 今後、顧客接点のリデザインはどういう方向に向いていくのでしょうか。未来の方向性を一言ずつお願いします。

 

井上: キーワードは「シームレス」だと思っています。バックオフィスもフロントもシームレスにお客様にアプローチできるように注力していきたいと考えています。

 

鈴木: 今、ブランドが手掛けているコミュニケーション、サービス、ショッピングはひとつの塊のようなものだと思っています。例えばスターバックスはコーヒーを売っていますが、コーヒーを売るだけでは成立しないビジネスです。店舗があって、そこで働く店員がいて、ブランド体験できるのです。ニューバランスでもバラバラになっている接点を垂直統合し、ブランドをマネジメントしていきたいと思います。

 

長瀬: どれだけマーケティングツールを導入しても、店にモノがそろっていないとか、在庫管理が追いつかないといったことがあればブランドエクスペリエンスは完成しません。デジタルツールを最大限に活用しつつ、社内の業務を最適化した新しいエコシステムを早急につくらなくてはいけないと思っています。

 

田口: これから重要なのはカスタマー・エンゲージメントです。お客様と感情的なつながりをつくることでLTVは向上します。どのようにそのつながりをつくるかを考えていきたいと思っています。

 

山田: 顧客接点の1つである顧客サポートについて、昨年からすべての履歴をデジタル化し、時系列でデータベースに入れることを始めています。効率という点では劣るかもしれませんが、ここから新しい知見を得て価値提供につなげられるのではないかと期待しています。うまく活用していきたいと考えています。

青山学院⼤学
経営学部 教授

⼩野 譲司


専門はマーケティング、サービス・マネジメント。1998年、慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程単位取得、2000年、博士(経営学)を取得。明治学院大学経済学部教授などを経て、2011年より現職。サービス産業生産性協議会が実施するJCSI(日本版顧客満足度指数)に開発主査として関わり、現在、JCSIアカデミックアドバイザリーグループ主査。 主な著訳書として『顧客満足<CS>の知識』(日経文庫)、『仕組み革新の時代』(共著、有斐閣)、『顧客資産のマネジメント:カスタマー・エクイティの構築』(監訳、ダイヤモンド社)、『バリュー・プロフィット・チェーン:顧客・従業員満足を「利益」と連鎖させる』(共訳、日本経済新聞出版社)などのほか、論文多数。

株式会社 東京海上日動コミュニケーションズ
執行役員

田口 浩


1992年、現東京海上日動コミュニケーションズ入社、現在同社在職中。入社時よりコールセンター部門を担当。2010年、一般社団法人コンタクトセンター教育検定協の設立に参加。CMBOKの開発に携わり、検定制度の構築や、学習テキストを執筆。また同年より情報処理学会コンタクトセンターフォーラムに参加、コンタクトセンターの研究と論文執筆を行っている。2012年、公益社団法人・IT協会にて、カスタマサポート表彰制度の審査委員を担当。著書に「コンタクトセンターオペレーター完全マニュアル」(FOM出版、2014年)、「コンタクトセンタースーパーバイザー完全マニュアル」(FOM出版、2014年)など

日本ロレアル株式会社
チーフデジタルオフィサー(CDO)
デジタル統括責任者(デジタルカントリーマネージャー)

長瀬 次英


2015年よりデジタル戦略統括責任者/チーフデジタルオフィサー(CDO)兼エグゼクティブマネジメントコミッティーメンバーとして日本ロレアルに入社。その以前はInstagramの日本におけるビジネス/モネタイゼーションとプラットフォームの責任者としてインスタグラム・ジャパンの日本事業代表責任者、Facebookにてブランドビジネスディベロプメント/クライアントパートナーを務め、KDDI(ワイアレスビジネス推進部/サービス企画部)、JWT(アカウントマネジメント/ブランド戦略プラニング)、Unilever Japan/Unilever Australia(アジア地域ブランド開発マネージャー)、NuSkin(新規事業戦略マーケティング事業部長)と様々な業態/業種にて主にブランドの戦略構築や新商品開発、そしてアジア地域市場でのビジネスの建て直しや新事業ロンチ・収益化を手掛ける。

株式会社ニューバランスジャパン
DTC & マーケティングディレクター

鈴木 健


1991年広告代理店の営業としてスタートし、I&S/BBDOでストラテジックプランナーを経て消費財メーカーのマーケティング企画および調査を担当。2002年ナイキジャパンでナイキゴルフの広告、Web, PRを担当し、その後同社でウィメンズトレーニングのブランドマネージャーを経験。2009年にニューバランス入社し、ニューバランスブランドのPRおよび広告宣伝、販促活動全般を手掛ける。 2015年1月より宣伝会議の「AdverTimes(アドバタイムズ)」においてコラム「マーケティング・ジャーニー ~ビジネスの成長のためにマーケターにイノベーションを~」を連載中。

 

「AdverTimes(アドバタイムズ)」https://www.advertimes.com/

トリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社
オムニチャネル営業本部
オムニチャネル営業本部長

井上 千鶴


NTT西日本、日本マイクロソフトやアップルジャパンを経て、2009年日本ロレアル入社。ランコム、イヴ・サンローラン等の高級化粧品7ブランドの公式オンラインショップのEC事業の立ち上げや、ブランドマネージメント業務に携わり、事業発展、売上拡大に貢献した。2017年より現職。全国250店舗以上の直営店とe-business・CRMをリードし、オムニチャネルの推進に従事している。