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CMO Forum 2017 開催レポート 2/3

Main Sponsor Session :最適な“顧客接点”を創り出す、“AI活用と顧客理解”

 

顧客を知り、顧客の期待を超える、優れた体験を提供するためのマーケティングプラットフォーム

 ~AI・機械学習・ディープラーニングで顧客嗜好・

  タイミング・行動を予測する~

株式会社アクティブコア 代表取締役社長  山田 賢治

 

 

マーケティングにAIを活用、顧客への効果的なアプローチを実現

 AI(人工知能)が急速に進化する中、マーケティング領域でAIを活用しようという動きが出始めている。企業のマーケティングを支援するアクティブコア代表取締役社長の山田賢治氏が、各企業に蓄積された顧客データをAIの活用により、顧客の嗜好に合わせ、適切なタイミングで効果的なアプローチを実現することで、よりよい顧客接点を創り出すためのポイントを語った。

コンバージョン(成約)率が1%程度から6.6%に向上

 

 

 AI(人工知能)が急速に進化しています。先進的な企業では、このAIをマーケティング領域に活用しようという動きが始まっています。機械学習とは確率・統計モデルに基づくパターン認識のことです。与えられたデータからいくつかのパターンを認識・学習し、未知のデータを分類・予測します。機械が予測した結果を正解と比較し、その誤差からモデルを更新していきます。よく使われるアルゴリズムの1つがニューラルネットワークです。AIの多くはニューラルネットワークを使っています。ディープラーニングもAIの手法の1つです。ディープラーニングはニューラルネットワークを幾層も重ね、データを学習して特徴を自動的に抽出します。これがAIにおけるブレークスルーとなり、予測精度は大幅に向上しました。

 

 マーケティング領域で進んでいるのは、企業が構築してきたプライベートDMP(データマネジメントプラットフォーム)に格納している顧客データ、広告データ、Web行動履歴、売り上げデータなどを分析・可視化し、ターゲット顧客を抽出して広告を掲示したり、メールやアプリで情報を配信したりレコメンドするプロセスに、機械学習やディープラーニングを取り入れたりする取組みです。そうすることで顧客の理解を深め、最適な顧客接点を創り出そうという試みが始まっています。

 

 

 当社が手掛けている事例を幾つかご紹介します。1つは19,000人ほどのデータの中から、購買・コンバージョン(成約)しそうな顧客を予測し自動でセグメントする取組みです。Web行動履歴から資料請求につながる特徴を自動学習して学習モデルを作り上げ、学習を重ねてセグメントの精度を向上します。このモデルをBtoBの販促に活用したところ、送信したメールの開封率は54.7%に達し、コンバージョン率(資料請求)は通常1.0~1.2%のところ6.6%まで向上しました。

 

 メールの配信時間の最適化も図っています。多くの場合、メールは配信後、数時間以内に開封されますが、それ以外の時間で開封する顧客もいます。メールを開封した時間、クリックしてウェブサイトにアクセスした時間、コンバージョンした時間などから顧客を自動分類。機械学習により配信時間を最適化します。従来12時に一斉配信していたものを1時間刻みにして個別配信したところ、開封率は19.1%から29.7%に上がりました。メールの開封率が上がればアクセス率、コンバージョン率も上がります。その結果をまた学習して次回以降の配信をさらに最適化しています。

AIは顧客の嗜好をあぶり出すのに有効なツール

 

 

 レコメンドの最適化も進めています。レコメンドは性別、年齢、居住地、閲覧履歴、購入履歴など様々な要素が関係します。このレコメンドエンジンにディープラーニングを組み込んだアルゴリズムを実装しました。ディープラーニングで購入に相関の高い特徴量を自動で抽出してレコメンドする商品を発見します。その結果、マッチング率(レコメンド予測と実際に購入した実績データを比較)は従来の64.3%から78.0%に、コンバージョン率(レコメンド表示のリンクを実際にクリックしたユーザが該当商品を購入)は2.3%から2.8%に向上しました。

 

 ABテストの自動化にも取り組んでいます。メール配信のABテストを自動化した事例を紹介します。 メール配信の対象ユーザの20%にABテストを実施して、その結果を統計モデルからどちらが効果があったかを自動で判定します。残りの80%に効果が高い方のメールを送信します。この一連の作業をAIで自動化します。 これまでテスト、検証後に改善し、実行していた作業を1サイクルでテスト、検証、実行と完結させることができます。

 

顧客接点に合わせたアプローチも自動化する取り組みを進めています。
ウェブサイトを閲覧後に店舗で購入するという事例も増えてきています。行動履歴データを分析し、メールやLINEで販促を行い、店舗に誘導するなど顧客接点の最適化を図っています。

 

 機械学習・ディープラーニングを活用したプラットフォームを構築する上でのポイントは、第1にデータを顧客軸で整備・統合し、すぐに取り出せるようにすること、第2に学習モデルを複数持ち、最適なモデルを選択できるようにすること、第3に顧客の嗜好やタイミングに合わせることです。マーケティング領域においてAIは今後、画像認識、音声処理、データ分析・予測、自然言語処理と複数のディープラーニングの出力を統合して予測していくようになると考えています。顧客の嗜好、志向、思考は一人ひとり異なります。タイミング、興味・関心、ステータスなどをあぶり出していく上でAIは大きな役割を果たすものと考えています。

株式会社アクティブコア
代表取締役社長

山田 賢治


パッケージベンダーにて顧客サポート・開発部門に従事。データベースカーネルの開発、海外勤務を経験後、 データウエアハウス(DWH)事業の立ち上げ、BIシステムの導入・設計・開発に携わる。大手企業のDWH提案・設計・開発・構築を担当。インターネット系ベンチャーの技術部長を経て 2005年にアクティブコアを設立、代表取締役社長に就任。アクティブコアの経営全般および全製品のエンジン設計・開発を担当。特許技術発明者。

下記リンク先より、株式会社アクティブコアのe-bookをダウンロードしていただけます。

 

e-book:
「顧客タイミングとステータスに合わせたマーケティングとオートメーション」

 

資料ダウンロード

 

ゲスト事例講演Ⅲ 【“顧客起点”の組織変革】

 

流動客をインフルエンサー化する顧客体験アプローチ


株式会社スタイリングライフ・ホールディングス プラザスタイル カンパニー
カンパニーエグゼクティブデピュティプレジデント
販促宣伝本部 本部長兼務   岡田 典一

 

 

データ分析で顧客を理解、ターゲットや商品政策を見直す

 業績低迷のトンネルに入り込んでいたプラザスタイル カンパニーは、2015年から顧客起点での改革を進めた。ポイントカード会員のデータ分析からコアターゲットを20代前半、コア商材を化粧品と絞り込み、施策の選択と集中を図った。インスタグラムと連動した店頭プロモーションで情報拡散を図り、新たな客層の来店につなげた。その一連の過程を同社の岡田典一氏が具体的に語った。

インスタグラムと連動した店頭プロモーションで、新たな客層の来店を促す

 

  輸入雑貨店「プラザ」を運営するプラザスタイル カンパニーは2010年から5年間ほど客数が落ち込むトンネルに入り込んでいました。2015年、我々は「流動客をインフルエンサー化する顧客体験アプローチ」による改革に取り組み始めました。その中心的な戦術は「顧客理解と顧客化促進のための体制とコミュニケーション」です。

 

 我々は従来、プラザのコアユーザーは20代後半から30代後半のOLと思い込んでいました。ところが「プラザパス」というポイントカード会員の年齢別買い上げ客数を分析した結果、19~24歳に最も大きなピークがあることが明らかになりました。全店に導入しているビーコンでこの年代の客層の滞在時間をはかると40代、50代よりも短い。店舗の滞在時間が長くなると売り上げが増えるという統計が出ていますから、19~24歳のお客様の滞在時間を長くする方法を考えることが重要ということです。

 

 

 こうしたデータ分析から、我々はコアターゲットを20代前半、コア商材を化粧品に絞り込みました。あえて決めつけて絞ることで施策の選択と集中を図り、次の改革につなげたのです。改革を進めるために販促宣伝本部の組織変革も行いました。ポイントは「お客様が欲しい時に欲しい情報を欲しい形で出せる組織」にすること。ワントゥーワンでお客様に向き合うためにCRM、EC、オウンドメディアなどを販促部門に取り込みました。事業部門であるECを販促部隊に入れるというのはふつうではあり得ないことですが、お客様の立場で見れば、店頭であろうがECであろうが情報としては同じという発想で組織を構成しました。

店舗をメディアとして位置づけ、ユーザーに明確に示す

 

 

 プラザの店頭では年間30本のプロモーションを行い、それに合わせて情報を流していますが、お客様の多くはメディアよりも店頭から情報を入手しています。店頭プロモーションが果たす役割は非常に大きい。ただ店頭プロモーションだけではお客様をインフルエンサー化することはできません。そのために力を入れているのがインスタグラムです。映画『怪盗グルーのミニオン大脱走』の公開前には店頭にミニオンズのフォトプロップスを設置。これを使って撮影した写真をインスタグラムに投稿してもらい、それを見た人がまた新たなお客様となって来店するという循環をつくり出しました。

 

 店頭だけでインフルエンサー化する試みにチャレンジしたのが「I WRAP YOU」というイベントです。店頭でお客様を写真撮影し、その場で印刷し、ギフトラッピングに使いました。プレゼントされた人の驚きと感動は大きく、次々にギフトの写真をインスタに投稿したため、極めて拡散性が高い企画となりました。

 

 2015年からの改革では、お客様の嗜好の多様化に対応するMD構築にも取り組みました。といっても、我々の規模のような会社はお客様のすべての要望に応えることはできません。「購入意欲が高いにもかかわらず購入金額が低い領域」をトライアンドエラーで探し出しました。個店ごとに対応するのでは非常に手間がかかるため、店舗をグループ化し、MDをパッケージ化して標準をつくりました。

 

またNTTドコモと手を組み「dポイント」を導入します。ドコモの持つDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)の中から趣味・嗜好や購買傾向を分析し、顔の見えるお客様を新客としてつかんでいく考えです。ECが急成長している時代ではありますが、だからこそ、我々はメディアとしての小売店の位置づけをエンドユーザーに明確に示していきたいと考えて店舗を運営しています。

株式会社スタイリングライフ・ホールディングス プラザスタイル カンパニー
カンパニーエグゼクティブデピュティプレジデント
販促宣伝本部 本部長兼務

岡田 典一


1985年 株式会社ソニープラザ入社(現:株式会社スタイリングライフ・ホールディングス プラザスタイル カンパニー)。商品部、パリ赴任、ブランド開発等を経験した後、販促宣伝本部へ。2013年にポイントカードの発行と同時にCRMをスタートさせる。2014年アプリ開発、2016年ECプラットフォームとの統合を推進する。

ゲスト対談 【次世代ECが創る、“顧客接点”とコミュニケーション】

 

マーケティングとテクノロジーで考える
次世代ECと組織への取り組みについて


オイシックスドット大地株式会社 執行役員 CMT(Chief Marketing Technologist)  西井 敏恭

対談者:株式会社ビジネス・フォーラム事務局  進士 淳一

 

 

データベースを活用した定期購入型ビジネスモデルで競合に打ち勝つ

 企業が顧客接点を考える際、ECはなくてはならない存在。有機野菜の宅配を手掛けるオイシックスドット大地はそのECにおいて、データベースを活用したサブスクリプション(定期購入)型モデルで競合他社の先を行く。CMOフォーラムの企画者であるビジネス・フォーラム事務局のプロデューサー、進士淳一が、オイシックスドットコム大地の執行役員CMT(Chief Marketing Technologist)である西井敏恭氏に質問する「ゲスト対談」のセッションでは、これからのECのあるべき姿が提示された。

購買履歴に基づいてお薦めリストを提示

 

 

進士: 西井さんはCMT(Chief Marketing Technologist)という役職に就いていらっしゃいます。CMOとは違うCMTという立場で、どのような取り組みをしているのですか。

 

西井: オイシックスドット大地では、マーケティングなど事業戦略は高島宏平社長を含む経営陣がトップダウンで構築していく部分と、事業部メンバーがボトムアップで構築する部分をミックスして実行しています。経営陣だけのトップダウンのみで事業戦略を押し進めていくと、社員とお客様との距離が遠くなってしまいます。社員すべてがマーケティング志向を持ち、お客様に近づき、ボトムアップでマーケティング施策を生み出すこと、それを吸収できるような体制をつくることが2014年にCMOとして入社した私の役割でした。


 社内横断プロジェクトなどを推進し、2年ほどで社内全体がマーケティングに目を向ける文化ができたタイミングでCMTに就任しました。ITを活用しながら、より一層、デジタルマーケティングを推進する取り組みを始めています。デジタルマーケティングはテクノロジーが重要です。CMTになってから、マーケティングとともにシステムも管轄しています。今はテクノロジーを社内に浸透させようと教育などにも取り組もうとしています。


進士: オイシックスの特徴はサブスクリプション(定期購入)型のビジネスモデルを採用していることです。予算や配送日を指定した会員に対して、毎週、購買履歴に基づいてお薦めリストを提示する。データベースを非常にうまく活用してビジネスを展開しているという印象です。

 

西井: 私は以前、化粧品会社でECを担当していましたが、化粧品の場合、一人のお客様がECサイトにアクセスする頻度は年間3~5回程度、1回に購入する品目は2個程度でした。食品は週に1回はアクセスし20個ほどを購入します。得られる購入データ量が格段に多い。デモグラフィックデータと購入データを合わせると、お客様の食習慣をかなり正確に想像できます。「葉物野菜を何割買っているか」「何をリストから外したか」など、データを精緻に分析することでお薦めの精度を高めることもできます。オイシックスはEC中心でビジネスをしてきたため、そういうデータ分析能力、最適化能力が高い。その能力を生かしてサブスクリプションモデルを極めれば、決して負けないモデルがつくれると思っています。

顧客接点が多いECほど、UIの最適化が重要になる

 

 

進士: ECのアクセス頻度が高いということは、顧客接点が多く、触れている時間が長いということでもあります。ユーザーインターフェース(UI)をどう設計するかが重要ですが、どのような意識を持っていますか。

 

西井: 毎週使うのですから、UIはたいへん重要ですね。UIの使い勝手を良くすれば継続してたくさん使ってもらえます。顧客別にUIを変更できるような仕組みをつくり、一部のお客様に新しいUIを使ってもらって、購入金額がどう変わるかといったことも検証しています。私がオイシックスに入社してから最も力を注いだのがPCサイト、スマートフォンサイト、スマートフォン向けアプリケーションソフトの最適化です。以前は売り上げの6割はPCサイトによるものでしたが、今は2割まで縮小し、代わってアプリが3~4割に増えています。


進士: アマゾン・ドット・コムが「アマゾンフレッシュ」を始めたり、大手スーパーがネット通販に力を入れたりと、生鮮食品のネット通販は競合も激しくなりそうです。今後、オイシックスは次世代ECをどのように構築していきますか。

 

西井: 確かにアマゾンの存在は脅威です。米国ではEC市場の半分ぐらいをアマゾンが占めていますから。けれど、例えばファッションサイトのZOZOタウンはファッションに特化し、見た人が「買いたい」と思うサイトをつくって勝ち残っています。我々も生鮮食品に特化し、買いたくなるサイトをつくっていきたい。有機野菜の宅配というオイシックスのビジネスで、お客様との接点はまだ幾つも持てるはずです。例えば商品が届く瞬間、料理中、後片付けなどにも焦点を当てて考えたいですね。


 今、カット済み野菜と調味料、レシピをセットにした「キットオイシックス」という献立キットがよく売れています。購入データでお客様の嗜好がわかるのですから、良いレシピ提案などもできるはずです。現在は宅配しかしていませんが、駅で取り置きしてもらえるような体制をつくればもっと便利になるでしょう。生鮮食品のECが浸透する中で「オイシックスの方がおいしい」「使いやすい」と感じてもらえるよう、食の体験を最適化するような新しい展開をしていきたいと思っています。

オイシックスドット大地株式会社
執行役員CMT(Chief Marketing Technologist)

西井 敏恭


2013年年末までドクターシーラボにてデジタルマーケティングの責任者を務めるなど、Eコマースのマーケティングを10年以上。 デジタルマーケティングとの関わりは2001年に二年半世界一周の旅にて、人気サイトとなり三冊の旅行記を出版したこと。

http://www.amazon.co.jp/dp/B00DTO1788/


現在はCMOサポートのサービスを展開する株式会社シンクロの代表取締役およびオイシックスドット大地株式会社のCMT(Chief Marketing Technologist)として国内大手からスタートアップ企業のマーケティングアドバイザーをおこないながら、次世代のEC戦略を先導している。