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グローバル/グループ経営フォーラム2017

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グローバル/グループ経営フォーラム2017-2

KAITEKI経営実践を通じての企業価値向上促進

株式会社三菱ケミカルホールディングス 取締役執行役専務 経営戦略部門長 吉村 修七

 

 

 三菱ケミカルホールディングス(MCHC)グループは、三菱グループの化学やヘルスケア分野の企業が集まる共同持ち株会社として2005年に設立されました。2017年4月にはグループ内の三菱化学、三菱樹脂、三菱レイヨンの3社を統合して三菱ケミカルが発足。新たな体制の元、機能商品、素材、ヘルスケア分野の事業を通じて、高成長、高収益型の企業グループをめざしています。持株会社体制におけるグローバル・グループ経営の仕組みや、コーポレートブランドである「THE KAITEKI COMPANY」について、吉村氏にご講演いただきました。



各地域内の事業成長、収益向上を支援する

リージョナルヘッドクォーター

 

 三菱ケミカルホールディングスグループは、機能商品、ヘルスケア、素材の3つの事業分野において、グループの総合力を活かした機動的な経営によって企業価値を向上させるため、グループ経営管理機能と個別事業経営機能を分離した持株会社体制を選択することで設立されました。3つの事業分野を通じて高成長、高収益型の企業グループをめざすため、三菱ケミカルホールディングスグループでは2016年度から2020年度にわたる5年間の新しい指針 として中期経営計画「APTSIS 20」を策定。経営のグローバル化という視点において、成長、効率性、基盤強化のそれぞれの項目で、海外事業の収益性強化、グローバルマネジメントの深化などを計画しています。特に、成長加速のための重点施策として、グローバル市場へのアクセス・マーケティング力の強化が行われています。

 

 三菱ケミカルホールディングスグループの海外売上高比率は現状44%に留まっています。これを2020年度には50%とするべく、世界4極に各地域内の事業成長・収益向上を支援する拠点「リージョナルヘッドクォーター(RHQ)を設置。マーケティングの機能をしっかりとRHQに持たせ、事業部門横断的マーケティング活動を推進しています。また、“自動車航空機(モビリティ)”“パッケージング・ラベル・フィルム” “IT・エレクトロニクスディスプレイ” “環境・エネルギー” “メディカル・フード・バイオ”の5つの市場/分野にフォーカスし、関連する事業部門が協奏しながら、最も有効な成長ドライバーを軸にして、成長を加速させています。吉村氏は「これまで事業部の最前線の人間は、当然のことながらヨーロッパ、アジアなど海外に出ていく。しかしやることがバラバラ。新しいことをするのにどのお客様と組んでいくのか。あるいは新しいテーマを創造する時にどこの事業部にいくのか。研究開発をやっていく上で研究者と直接対話すること。既存のビジネスの最前線にいる者にはまだまだこれらに対しての危機感が少ない。新生三菱ケミカルではリージョナルヘッドクォーターを設けてそのような機能を充実させる」と述べられました。

 

 

「KAITEKI」実現による持続可能な社会

 

  三菱ケミカルホールディングスグループでは、企業価値の判断基準として「THE KAITEKI COMPANY」というコーポレートブランドを掲げています。「KAITEKI」とは、グループ全体でめざす「時を越え、世代を超え、人と社会、そして地球の心地よさが続く状態」を指します。THE KAITEKI COMPANYを実現するための判断基準として、Sustainability、Health、Comfortの3つが掲げられ、経営資源の有効活用のため、判断基準を満たさない企業活動は行わないとしています。「企業活動の考え方としては、資本の効率化、イノベーションの創出、サステナビリティの向上の3軸および時間軸を加えて企業価値を把握する四次元経営を目指す。サステナビリティ、ヘルス、コンフォート、かつ事業領域を設けて3軸による企業価値の把握と四次元経営を目指す。グローバル経営の根幹において、新しくメンバーになった方々に、うちの会社は何をやっていて、どういうことをやっていきたいのかを示す。THE KAITEKI COMPANYは企業価値を高める上で非常に重要な提言になっている」と吉村氏は述べられました。

株式会社三菱ケミカルホールディングス
取締役執行役専務 経営戦略部門長
吉村 修七

1979年三菱化成工業入社。三菱化学坂出事業所長、四日市事業所長、炭素本部長、電池本部長、マーケティング室長、経営戦略部門長に従事。2008年執行役員、2013年取締役常務執行役員。2016年三菱ケミカルホールディングス執行役常務。2017年4月から現職。

 

 

失敗を恐れず「変革へ挑戦」し続ける企業風土

ブラザー工業株式会社 代表取締役社長 小池 利和

 

 ミシンの修理から始まり100年以上の歴史を持つブラザー工業株式会社。常に新しいことに挑戦し続け、プリンターや複合機、電子文具といったプリンティング・アンド・ソリューション事業、産業機器などのマシナリー事業、家庭用ミシンなどのパーソナル・アンド・ホーム事業、通信カラオケのネットワーク・アンド・コンテンツ事業、産業用プリンティング機器のドミノ事業など、現在は幅広い事業分野でグローバルに展開。ビジネス環境が目まぐるしく変化するなか、素早く変化に対応し、変革へ挑戦し続ける企業風土をもって、第3の波の実現に向けた変革と事業ポートフォリオの強化を進めています。ブラザーの経営戦略や、失敗に寛容で変革に挑戦し続ける企業風土を作るための経営哲学などについて、小池氏にご講演いただきました。



経営基盤と事業ポートフォリオの強化

 

 ブラザー工業株式会社は、40以上の国と地域に生産拠点や販売・サービス拠点を設け、製品の90%近くを海外で生産しています。従業員の約70%は工場の従業員を中心に海外の人員で、売り上げの80%以上も海外からのものです。ミシンの製造から始まり、その技術を応用して60年代にタイプライターを開発。さらに70年代にはメカとエレクトロニクスを組み合わせ、タイプライターやミシンなどの電子化を進めるとともに、高速ドットプリンターを開発。80年代後半以降はプリンター、ファクス、複合機などの情報通信機器ビジネスが急成長して売り上げを大きく伸ばします。その中で、基幹業務システムの導入や生産の海外移転など経営基盤を整えて、事業の急拡大に対応してきました。小池氏は、23年半にわたる米国駐在の経験から、家族的で風通しがよく、新しいことへの挑戦を後押しし、失敗に寛容な企業風土を構築。当事者意識を持って、自らチャレンジし、諦めない、挑戦・変革マインドの醸成に取り組んでいます。「失敗しても悪いことではない。失敗の経験は人生の肥やし」と小池氏は述べられます。

 

 変革を続けるブラザーでは、市場の更なる拡大が見込める新興国を中心に、2000年代後半以降に新たな販売拠点を設立。生産面においても能力の増強、最適な生産コスト、リスクヘッジを目的にアジアにおいて複数の生産拠点を事業ごとに持ちました。2015年には新規注力領域として産業用プリンティング事業を手掛ける英国のドミノ社を1900億円で買収。未来永劫の繁栄に向けて、変革や成長領域に挑戦し続ける複合事業企業を目指しています。小池氏は「市場の先の見込めない事業と、まだ頑張れば伸びる事業が見えてきた。将来成長は見込めないが堅実な需要がある収益力強化事業と、成長領域事業とを分けて、更なる成長が期待できるものにリソースをシフトする。利益を着実に出しながら事業ポートフォリオを強化していく」と述べられました。

 

 

成功の確率を上げる努力を続ける

 

  「ビジネスは人と人とのつながり」と述べられる小池氏は、従業員とのコミュニケーションを非常に密にとられています。定期的な従業員に向けたメッセージの発信や、Face to Faceでの交流ということで、従業員と語る会を世界の各拠点で実施。より高いレベルを目指してチャレンジする人材を育成するために、30代、40代の次世代リーダーを対象とした社長直轄の若手人材育成プログラムも実施しています。

 

小池氏は最後に「ビジネスは運。運を引き寄せるには成功の確率を上げる努力を続ける。企業のトップである以上、24時間365日、ビジネスのことやグループのリスクなどを考え、成功の確率を高める努力をする。グループ4万人の重さも考える」と述べられました。努力に裏打ちされた運と、失敗を恐れず変革に挑戦し続ける精神がブラザーを支えています。

 

ブラザー工業株式会社
代表取締役社長
小池 利和

1955年、愛知県生まれ。79年、早稲田大学政治経済学部卒業、ブラザー工業株式会社入社。81年、アメリカに渡り、プリンターの販売に注力。2000年、44歳で現地法人の社長に就任し、米州ビジネスの拡大に成功。05年、23年半の米国勤務から帰国。07年、ブラザー工業代表取締役社長に就任、現在に至る。

 

 

大型M&Aを契機とするグローバル化と
日本企業がグローバル化を実現していく上での課題

日本板硝子株式会社 執行役員 グループファンクション部門 人事部 アジア統括部長
兼 グローバル人事特命プロジェクト担当部長 梯 慶太

 

 日本板硝子株式会社は2006年、売上・従業員数とも約2倍の規模を持つ英国上場企業ピルキントン社を買収。従来多くの日本企業が海外拠点を少しずつ増やしていった進化型のグローバル化とは異なり、大型M&Aを契機に短期間でグローバル化を果たしました。統合後は社員のおよそ8割が海外の人員となり、その結果従来の日本人社員、日本の労働慣行だけを意識とした人事の仕組みは機能しません。このためグローバルに機能し、効率的に仕事のできる執行組織を新たに創設し、それに応じて人事機能・仕組みの変革が迫られました。急激なグローバル化に対応するために、日本板硝子がどのような方法をとり、どのような考え方で進めていったのか。小が大を飲む買収を契機とした、人と組織のグローバル化と、それを実現していく上での課題などについて梯氏にご講演いただきました。



買収側・被買収側にこだわらずベストプラクティスを採用

 

  日本板硝子はピルキントン社買収により、グローバルシェアは15%と世界トップクラス、グループ全体で28カ国に主要な製造拠点を持ち、130カ国以上でその製品を販売、約3万人の従業員をかかえる一大グローバル企業となりました。売り上げも約8割が海外から。そのため、早急にグローバル企業にふさわしい執行組織の創設や、ガバナンスの整備が求められました。しかし、買収当時の日本板硝子にはグローバル人材やグローバル化のノウハウは十分蓄積されていませんでした。

 

そこで日本板硝子では、既にグローバル企業としてオペレーションする人材・仕組みを備えていたピルキントン社の手法を学び、合理的な場合には素直にそれを採用することとしました。買収側だからと言う理由で買収側の仕組みを押しつけるのでは無く、国籍・出身にこだわらない適材適所で人材を登用していきました。梯氏は「当時の英国人CEOはグローバル体制でオペレーションしていないのは日本だけであったため、日本にグル―バルな仕組みを導入しようと決断。この手法をとれば一夜にしてグローバル企業になるが、突然外国人上司の部下になった日本人社員は大変苦労することになった」と述べられました。日本発の経営理念や優れた技術を徐々に世界の拠点へ広げていく従来型のグローバル化とは異なり、既にグローバル化した組織に飛び込み取り込んでいく革命的なグローバル化は、劇的に改革が進む代わりに相応の痛みが生じます。それでも当時の経営陣はM&Aを日本の組織、人材をグローバル化する絶好のチャンスと考えました。

 

 

日本人だけではできない企業のグローバル化

 

  梯氏は「革命型のグローバル化は必ずしもすべての日本企業にはフィットしない。とはいえ、日本の企業が真にグローバル化で成功するためには日本人だけでその仕組みを設計することはできないし、日本流を押し付けると上手く行かないだろう。いかに外国人を巻き込みながら、外国人も納得できる組織・仕組みを築いていくか。これがグローバル化で最も大切なことだ。」と述べられました。多くの日本日本人社員は未だ日本でメンバーシップ型雇用を求める傾向にありますが、キャリア志向の強い日本以外の国では、働き方に対する考え方から違います。「外国人の立場になってみると、どういう企業に魅力を感じるか。日本のメンバーシップ型雇用システムは外国人にフェアか? 魅力があるのか? エンゲージメントが高まる仕組みか? 外国人のキャリアプランに合致するか? 外国人が“フェア”で“働きたい”と思う仕組みとはどういうものなのか? これらについて自ら問いかける必要がある」と梯氏は述べられます。日本板硝子では、2016年にグローバルで統一したマネージメントグレード、報酬ポリシーを日本でも導入したことで人事の仕組みの統合をほぼ完了。さらにタレントマネージメントをグローバルで首尾一貫した形で進める一方、日本人日本文化特有のグローバル化への課題を解決する取り組みも継続して行っています。

 

日本板硝子株式会社
執行役員 グループファンクション部門
人事部 アジア統括部長
兼 グローバル人事特命プロジェクト担当部長
梯 慶太

1985年4月、日本板硝子入社。88年4月、本社人事部労政グループへ異動。1999年6月、NSG ホールディングUSA社(米国)へ出向。2002年4月、同社社長に就任。2004年頃より、ピルキントン買収プロジェクトに参画。2006年6月、ピルキントン社買収と同時に設立された統合推進本部(英国)を兼務。2007年4月、日本へ帰国、コーポレート人事部で日本の統合作業をサポートするとともに、HRダイレクター(東南アジア)を兼務。2008年8月、グループHR リソースディベロプメント&トレーニング ダイレクター。2011年9月、執行役員 BP事業部門 バイスプレジデント HR。2012年2月より人事部アジア統括部長。2013年9月よりグループ人材開発・報酬部長を兼務。2008年の委員会等設置会社移行から報酬・指名委員会事務局・2013年から同事務局長。2017年4月から現職。

 

 

 

 

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