MENU

グローバル/グループ経営フォーラム2017

HOME > レポート・特集記事 > グローバル/グループ経営フォーラム2017-3

グローバル/グループ経営フォーラム2017-3

オーガニックなグローバル化と
革命的なグローバル化の組織ガバナンス

 

 パネルディスカッションは、YKK株式会社執行役員財務・経理部長の宮村久夫氏と、先に講演を行った日本板硝子株式会社の梯氏、Genpact Japan株式会社の杉浦氏の3名をパネリストに迎え、早稲田大学ビジネススクール教授の平野氏がモデレーターとなり進行していきました。


会社として何を実現するのか、何を大切にするのか、

理念の共有が大切ではないか

 

  最初にグローバル化、グローバル経営の近年の状況について、平野氏より意見が述べられました。「当初はインターナショナル組織ということで、日本中心にローカルへ進出して販売会社を作ったり、工場を作ったりという第一段階があった。おそらく今、多くの企業があるのは第二段階。マルチナショナルということで、世界の主要マーケットにプレゼンスを作って、なるべくそこに権限を与え、経営をさせていくマルチナショナル経営。

 

その次に、マトリックスといったものやトランスナショナルというものが流行したが、なかなかマネジメントがうまくいっていない」と述べられました。加えて平野氏は「いろいろな数字で管理するとか、効率で管理するとかもあるが、今、もっと大切なことは、会社として何を実現するのか、この会社では何を大切にすればいいのか、それらを共有していく理念みたいなものではないかという議論もある」とも述べられました。これを受け、ディスカッションに入っていきます。

 

 

起業精神、コアバリューの浸透による

オーガニックなグローバル化。

 

まずは平野氏からYKK株式会社の宮村氏へ、YKKのグローバル化や広い意味でのガバナンスはどのようになっているのか、質問が飛びます。YKK株式会社は1934年に創業。金属や樹脂ファスナーを製造するファスニング事業。住宅用窓、サッシを製造するAP事業。ファスナーや建材加工用の機械などを扱う工機事業。この3つの事業を柱に、世界71カ国111社のグループ会社を持ち、7000億円以上の売り上げがあり、国内外合わせて4万5000人近い従業員が働くグローバル企業です。YKKのグローバル化とガバナンスについて宮村氏はこう述べます。

 

  宮村「YKKは創業期から海外進出をしていた。昭和40年代の当時はガバナンスといっても、そういう時代ではなく、また海外と連絡するのも容易ではなかった。国際電話は掛けられる状況ではなく、手紙か、少し経つとテレックス、ファックスがやっとの状況だった。その様な状況では意志の疎通はそう簡単ではない。現地の状況は現地が一番良く分かっている。いちいち本社に確認を取る手段も時間もないのだから、信じて任せるということが必要であった」

 

 YKKには社内の文化・風土として「信じて任せる」「一点も曇りなき信用」というものがあります。中央集権はせず、個社一社一社を大切にしているのです

 

  宮村「基本的な考え方や思想・理念を教え込んで海外に行ってもらう。そうすれば必ず直面する課題に対して同じ判断をするはず。しかし、成功するとは限らない。失敗しても成功せよ、信じて任せる。おれが責任持つからとやらせる。YKKのガバナンスの根本は、こういう企業精神や理念、コアバリューというものが浸透し、理解されることでできている」

 

 

オーガニックなグローバル化と

革命的なグローバル化の共通点、相違点

 

続いて平野氏から梯氏に質問が飛びます。「オーガニックにグローバル化していったYKKさんと、買収によりグローバル化を加速させた日本板硝子さん。どちらも製造業ということでは同じでも、全くパスが違う。今の話を聞いて共通点と異なる点は?」

 

「YKKさんには数十年単位で海外オペレーション経験を積んだ社員がいる。時間を掛けて人材を育成しているからこそ日本人中心のオペレーションができるのだろう。当社には買収時点でそういう人材が十分育っていなかったことがベースにある。ガバナンスに関しては、ピルキントンがイギリスの上場企業だったので、そのレベルは日本で求められているガバナンス以上で、特に報酬については相当株主へ情報が開示されていた。日本のガバナンスは世界的にはまだ遅れている。一方、ローカル化が進んでいるからと言って決してすべてローカルに任せきりという考え方はなく、あらゆる分野でグローバルにポリシーを持ち、標準作業書を持ち、それが遵守されているかをミニマムコントロールする仕組みで、監査チームは現地を訪れ焦点を絞ってチェックしする。しかもその上に指名委員会等設置会社として監査委員会があるという形になっている。グローバル企業と言っても、例えばメーカーなら、製造拠点は2カ所ぐらいだが販売拠点が世界中にあるという企業と、私たちのように地産地消で、オペレーションは30カ国ぐらいある企業とでは、求められる仕組みが異なると思う。YKKさんとの比較でいうと、オーガニックでグローバル化してきたのかM&Aできたのか。この違いが大きくあるのでは」

 

宮村氏と梯氏の話を受けて、平野氏から杉浦氏へコメントが求められました。

 

杉浦「日本の企業に特に多いのは、マトリックス経営ということで、ファンクション機能を横串で刺してガバナンスをきかせるということが増えてきているが、そこのガバナンスがとりづらい。そういった意味ではYKKさんは日本から進出し、日本板硝子さんはピルキントンの買収によりグローバル化し、全く違う手法だが、それぞれうまくいっている。事業部や国を越えてガバナンスを図る。グローバル大手企業に比べ、日本の多くの企業が不得手なところだ」

ローカルとセントラルの関係性の作り方の違い

 

  続いて平野氏から梯氏にローカルとセントラルの関係性について質問が飛びます。「YKKさんの場合は、徹底的に事業はローカルで考えてローカルにもっていき、それをサポートする思想。日本板硝子さんは、どうやってローカルとセントラルの関係性をつくっているのか」

 

「よく言われることだが、本社とローカルはパラドックスだと思う。白黒つけるようなものではなく、その割合は事業の性格や、市場のニーズに応じて異なるものだと思う。例えば、私どもで言うと、建築用ガラスの分野では、元々ガラスは大きくて割れやすいため輸出が難しく、地産地消がある。顧客も各地の独自の文化慣習に根付いているので、マーケティングも地域ごとに違うという性格がある。一方、自動車用ガラスは、顧客が既にグローバル化し、グローバルな動きをしている。組織のマトリックスについて言うと、私どもでも横串が増えて日本人は相当混乱した事。その原因の一つは日本人がなかなかグローバルに通じる専門性を身につけていないからだと思う。そもそも長期安定雇用の国と個々人がキャリア志向をしっかりと持っている国では、人材マネジメントの仕組みが違う。グローバル企業では、専門性があって、かつ異なる部署の人も動かすようなリーダーシップスキルが求められるが、日本の人材はそれが苦手で、組織の上下関係に依存しがち。それらがマトリックス組織が日本にはなじんで来ない理由ではないか」

 

これを受けて平野氏は杉浦氏に「業種、業態によってグローバル化のありよう、組織の分権と集約の度合いは違うと思うがどうか」と、コメントを求めました。

 

  杉浦「業態、サービス、商品によって大きく違うが、プロセスが付加価値を生むかということが一番の起点になっている。付加価値を生むのであれば、ローカルでやればいい。付加価値を生まないQCD(Quality, Cost, Delivery)を求められるプロジェクトであれば、より安く標準化し、ローコストカントリーでデリバリーをするというような、統合、集約をするべきではないかと思う」

 

 

グローバル化における現在の目標、課題、組織のテーマ

 

続いて平野氏からグローバル化における現在の目標、課題、組織のテーマなどにつき質問が飛びます。まずは宮村氏に「グローバル化にとっての大きな目標や、グローバル組織のテーマはどうなっているか」と尋ねます。

 

宮村「目標は、基本的にはやはりどれだけの事業規模にしていくのか。YKKはものすごいシェアといわれるが、現在、年間に世界で消費されるジッパーは400億本と推定しているが、そのうちの20%強しか販売していない。金額ではシェアは40%ぐらいとなるが、そういう意味でまだまだ成長できる。課題は販売量をいかに伸ばすか。どういう地域で、どうマーケティングをして、どういう所でお客様をつかまえるのか。それを供給できるだけの生産体制はあるのかが課題だ」

 

平野氏はさらに「グローバルな面での会計や人事は? それぞれの地域で締めて利益が決まり、それをグローバルで吸い上げてグローバルで再配分するのか、稼いだものはそれぞれローカルでやりなさいということか。また、将来ローカルで人材が育ったら、各地域の人材に任せるのか」と尋ねます。

 

宮村「YKKには『成果3分配』という考え方がある。それに準じて1/3は現地法人に、1/3はその地域に、残りの1/3はグループに還元する。人事に関してもグローバル人事制度に基づき、グループ全体に役割に基づく成果主義を適用している。現在、北中米のトップは現地の方で、YKKイズムを共有できれば性別・宗教・国籍・人種は関係ない」

 

続いて平野氏が梯氏に質問します。「ピルキントンを買収してグローバル化を一気に加速させ、目下の課題は?」

 

「比較的伝統的な建築用や自動車用ガラスでは、全く新しい事業を始めたり、全く新しい商品を出すことは、不得手。また事業によっても市場が地域であったりグローバルであったり異なる。その中で付加価値を上げることにグル―プ全体で取り組んでいる。集権化か分権化かということでは、間接コストは少ないほうが良いので、集権化が向いているだろう。一方、顧客の声を事業開発に反映するという意味では、分権化が良いのではないか。また事業が儲かっている間は地域に権限を残すことでもいいのかもしれないが、事業が不振に陥り緊急事態となると、地域に任せているとなかなか改善が進まない。そういった時に、いかに中央が関与していくか。そういう事業状況の違いも集権化と分権化判断の切り口だ」

 

経営者は価値観の伝道者。企業理念の重要性を訴え続ける

 

  最後に平野氏は、杉浦氏に締めくくりの言葉を依頼しました。

 

杉浦「今回はマネジメントと組織という話だった。日本のお客様もM&Aによって、ますます巨大な組織になり、かつコスト削減をしている。デジタルパワーを取り入れ、co-operationとlow-cost operationに相互にレバレッジをきかせるようなことを、今まさにやろうとしている。日本の企業がこれらをいかに取り入れていくかがこれから重要になる」

 

 そして平野氏は、「今たいへん重要になっているのは、組織のソフトサイドの話。どういう人間を育てていくのか、幹部に上げていくのか。会社はどういう人を大切にしているのかをアピールすること。そして、大切にしている理念をもっと言い続ける。経営者は価値観の伝道者であり、それを共有した次の幹部もしっかりと伝えていく。グローバル化ではそれが国籍を越えて伝えられることが大切。グローバル化においてガバナンスやコンプライアンスをどうするのかというと、細かい、技術的な話に走りがちだが、実は、人が望ましい行動をし、望ましい判断をしていることが重要」と、パネルディスカッションを締めくくりました。

 

異なるグローバル化の過程を経た事例の比較から、グローバル化にあたってのガバナンスの構築のしかたは企業によって違うこと、その一方で、どの企業でも共通に大切なことは何かが見えるパネルディスカッションとなりました。

 

 

 1   2   3