オーガニックなグローバル化と
革命的なグローバル化の組織ガバナンス
パネルディスカッションは、YKK株式会社執行役員財務・経理部長の宮村久夫氏と、先に講演を行った日本板硝子株式会社の梯氏、Genpact Japan株式会社の杉浦氏の3名をパネリストに迎え、早稲田大学ビジネススクール教授の平野氏がモデレーターとなり進行していきました。
会社として何を実現するのか、何を大切にするのか、
理念の共有が大切ではないか

最初にグローバル化、グローバル経営の近年の状況について、平野氏より意見が述べられました。「当初はインターナショナル組織ということで、日本中心にローカルへ進出して販売会社を作ったり、工場を作ったりという第一段階があった。おそらく今、多くの企業があるのは第二段階。マルチナショナルということで、世界の主要マーケットにプレゼンスを作って、なるべくそこに権限を与え、経営をさせていくマルチナショナル経営。
その次に、マトリックスといったものやトランスナショナルというものが流行したが、なかなかマネジメントがうまくいっていない」と述べられました。加えて平野氏は「いろいろな数字で管理するとか、効率で管理するとかもあるが、今、もっと大切なことは、会社として何を実現するのか、この会社では何を大切にすればいいのか、それらを共有していく理念みたいなものではないかという議論もある」とも述べられました。これを受け、ディスカッションに入っていきます。
起業精神、コアバリューの浸透による
オーガニックなグローバル化。

まずは平野氏からYKK株式会社の宮村氏へ、YKKのグローバル化や広い意味でのガバナンスはどのようになっているのか、質問が飛びます。YKK株式会社は1934年に創業。金属や樹脂ファスナーを製造するファスニング事業。住宅用窓、サッシを製造するAP事業。ファスナーや建材加工用の機械などを扱う工機事業。この3つの事業を柱に、世界71カ国111社のグループ会社を持ち、7000億円以上の売り上げがあり、国内外合わせて4万5000人近い従業員が働くグローバル企業です。YKKのグローバル化とガバナンスについて宮村氏はこう述べます。
宮村「YKKは創業期から海外進出をしていた。昭和40年代の当時はガバナンスといっても、そういう時代ではなく、また海外と連絡するのも容易ではなかった。国際電話は掛けられる状況ではなく、手紙か、少し経つとテレックス、ファックスがやっとの状況だった。その様な状況では意志の疎通はそう簡単ではない。現地の状況は現地が一番良く分かっている。いちいち本社に確認を取る手段も時間もないのだから、信じて任せるということが必要であった」
YKKには社内の文化・風土として「信じて任せる」「一点も曇りなき信用」というものがあります。中央集権はせず、個社一社一社を大切にしているのです
宮村「基本的な考え方や思想・理念を教え込んで海外に行ってもらう。そうすれば必ず直面する課題に対して同じ判断をするはず。しかし、成功するとは限らない。失敗しても成功せよ、信じて任せる。おれが責任持つからとやらせる。YKKのガバナンスの根本は、こういう企業精神や理念、コアバリューというものが浸透し、理解されることでできている」
オーガニックなグローバル化と
革命的なグローバル化の共通点、相違点

続いて平野氏から梯氏に質問が飛びます。「オーガニックにグローバル化していったYKKさんと、買収によりグローバル化を加速させた日本板硝子さん。どちらも製造業ということでは同じでも、全くパスが違う。今の話を聞いて共通点と異なる点は?」
梯「YKKさんには数十年単位で海外オペレーション経験を積んだ社員がいる。時間を掛けて人材を育成しているからこそ日本人中心のオペレーションができるのだろう。当社には買収時点でそういう人材が十分育っていなかったことがベースにある。ガバナンスに関しては、ピルキントンがイギリスの上場企業だったので、そのレベルは日本で求められているガバナンス以上で、特に報酬については相当株主へ情報が開示されていた。日本のガバナンスは世界的にはまだ遅れている。一方、ローカル化が進んでいるからと言って決してすべてローカルに任せきりという考え方はなく、あらゆる分野でグローバルにポリシーを持ち、標準作業書を持ち、それが遵守されているかをミニマムコントロールする仕組みで、監査チームは現地を訪れ焦点を絞ってチェックしする。しかもその上に指名委員会等設置会社として監査委員会があるという形になっている。グローバル企業と言っても、例えばメーカーなら、製造拠点は2カ所ぐらいだが販売拠点が世界中にあるという企業と、私たちのように地産地消で、オペレーションは30カ国ぐらいある企業とでは、求められる仕組みが異なると思う。YKKさんとの比較でいうと、オーガニックでグローバル化してきたのかM&Aできたのか。この違いが大きくあるのでは」
宮村氏と梯氏の話を受けて、平野氏から杉浦氏へコメントが求められました。
杉浦「日本の企業に特に多いのは、マトリックス経営ということで、ファンクション機能を横串で刺してガバナンスをきかせるということが増えてきているが、そこのガバナンスがとりづらい。そういった意味ではYKKさんは日本から進出し、日本板硝子さんはピルキントンの買収によりグローバル化し、全く違う手法だが、それぞれうまくいっている。事業部や国を越えてガバナンスを図る。グローバル大手企業に比べ、日本の多くの企業が不得手なところだ」