2018年 1月 26日(金)、アジアにおいて初めての開催となる『CDO(Chief Digital/Data Officer)Summit Tokyo 2018』が開催されました。(参照:CDO Summit http://cdosummit.com/) 先進的にCDO職を設置している企業の取り組み事例とともに、2017年10月25日にカナダにて開催された『CDO Summit Toronto』の取材レポート、海外CDOのインタビュー紹介・解説、パネルディスカッションなど、今後日本におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)を進めるうえでのヒントや示唆 、そして、CDOの役割や重要性を確認できる一日となりました。この日の講演やパネルディスカッションの講演録から、CDOが持つ可能性をご一読ください。
開催日:2018年 1月 26日(金)
主催:一般社団法人CDO Club Japan
協力:CDO Club Global
企画・運営協力:株式会社ビジネス・フォーラム事務局
プラチナスポンサー:Sansan株式会社
ゴールドスポンサー:トレジャーデータ株式会社、株式会社電通国際情報サービス 、株式会社電通 、
株式会社電通デジタル
展示スポンサー:ヴイエムウェア株式会社
Opening Speech 1
デジタルを牽引する人の育成とネットワークの構築を
一般社団法人CDO Club Japan 代表&創立者 加茂 純 氏
2018年1月26日、東京・丸の内・JPタワーホール&カンファレンスにて、一般社団法人CDO Club Japan主催「CDO(Chief Digital/Data Officer)Summit Tokyo 2018」が開催された。CDO Summitは、CDOの世界最大コミュニティである「CDO Club」が展開する大型イベントで、今回が日本・アジア地域での初の開催となる。CDOが集まり、繋がることで生まれる相乗効果への期待。そしてデジタル変革の重要な役割を担うCDOについて、考察を深めるきっかけになればという想いから、今回の開催に至った。イベント冒頭、一般社団法人CDO Club Japanの創立者でありCEOでもある加茂 純氏により、オープニングスピーチが行われた。加茂氏はスピーチで、CDO Club Japan創立への想い、CDOにふさわしい特徴、CDOの必要性などについて語った。
日本企業が活性化し、世界に出ていくきっかけに
CDO Club Globalは2011年に設立されました。CDO Club Japanは2017年5月から準備し、11月から会社組織となりましたが、既に海外での経験、事例、課題も含めて、いろいろな知見の積み重ねがあります。CDO Club Japanが、これからも日本企業が活性化し、もっと世界に出ていくという1つのきっかけになればと思っています。
CDO Club Japanの目的、想いとしては、CDOといわれる、デジタルを牽引する専門職の方をできるだけ企業の中で作っていただき、そのチームを作ることです。そして、みんなで話し合いながら、日本企業、日本全体を活性化することを目指しています。
ミッションの1つとして、社内、社外の垣根を越えたCDOのネットワーキングの機会提供があります。そのような意味も含めて、このサミットや研修などを行っていきます。大きなものにCDOサミット、ワークショップ、ラウンドテーブルといわれる上位のいろいろなミーティング。また、人材を育てていくということで、セミナー、フォーラムがあります。他にもプラットフォームの開発、人材のコンサルテーション。CDOといわれるタレント、人材の、1つのハブとして機能していこうと思っています。
CDOにふさわしい人物、5つの素質
実はCDOはチーフデジタルオフィサー、チーフデータオフィサーの2種類があります。データオフィサーはデータに特化する。デジタルオフィサーは新しいビジネスモデル、新しいチャンスをみつけていくということでそれぞれ違った役割があると言われています。
CDOにふさわしい人物の素質は、私は5点あると思います。1つは社内、社外、エコシステムを含めたオーケストレーション、コーディネーションです。新しいビジネスを生み出すために、いろいろな業界とお話ができるという素質。2つめにデジタル技術とビジネスの見識。これは詳しいというよりも、だいたいどういうトレンドで世の中が動いているのか。どういうデジタルトレンドになっているかという見識があること。3つめがイノベーションを導くビジョン。うちの会社としてはどのような方向を目指すかというビジョンを提示できること。4つめが、「ユーザーエクスペリエンス」と言われていますが、お客様視点で新しいビジネスモデルを再構築できること。5つめは、いろいろな企業や業界や組織のカルチャーがありますから、そのカルチャーを理解すること。単にそんなカルチャーは古いからやめようとか、もっと変わるべきだとか言うのではなく、カルチャーをどう理解して尊敬するか。話し合って、社員を含めたみんなの安心感や尊敬を得て、「一緒に変えていきましょう」と言うことができる素質です。いろいろと難しいのですが、海外を見ていますと、だいたいこのような素質が優れている人がCDOになっています。
さまざまなコラボレーションをしながら、 新しい時代を作っていく
CDOがいるとなぜ便利かというと、いろいろな業界を含めて、ユーザー視点、住民視点で変えていきましょうとなった時、各セクターとの間で非常に話が早く進みます。CDOがそれぞれを代表し、ある程度ビジョンやフレームワークや戦略なりを作っていく。いろいろな業界のCDOが、さまざまなコラボレーションをしながら、次の新しい時代を作っていくことが必要だと思っています。
世界全体では、既にさまざまな人がCDOとして活躍されています。日本では今のところ数十人ですが、今年いっぱいで100人まで増やしていきたい。いずれは100人といわずさらに増やし、新しい時代を作っていただきたいと思います。今は第四次産業革命と言われていますが、インターネットの発展から含めて、20年ぶりの大きなチャンスの時です。ブロックチェーンとか AI など、デジタル技術を使って社会全体を変えていくことで、日本もまた世界全体をリードする立場になれるのではないかと私は期待しています。そのような視点で、この組織も含めて皆さんで一緒にやっていきたいと思っています。皆さん、よろしくお願いします。
Opening Speech 2
デジタルを牽引する人を手助けすることが目的
CDO Club CEO David Mathison 氏
CDO Club Japan 加茂氏に続き、CDO ClubのCEOであるDavid Mathison氏のオープニングスピーチが行われた。Mathison氏は、CDO Clubの目標、CDO Clubが今後進めていくプロジェクトなどについて語った。
グローバルにコミュニティを広げてきた
CDO Clubは2011年にスタートしました。CDO Clubをスタートさせた目的は、デジタルを牽引する皆さんの仕事をしやすくするためということがあります。ですから、私たちはCDOだけではないということです。皆さんの仕事の中にデジタルトランスフォーメーションやデータ主導型の文化といったことが含まれていれば、CIO、CMOであってもぜひ入会していただきたいと思います。
CDO Clubはグローバルに広がって参りました。アメリカからスタートし、ヨーロッパへ。そしてオーストラリアへ広がり、この数年間でアジアまで広がっています。そのように広がりを見せるなかで、私たちが何をやっているかですが、私たちの目標は皆様の仕事がやりやすくなるように手助けすることです。コミュニティを広げていき、その中に皆さん全員が入っていただきたいと思っています。これは決して簡単なことではありません。ですから、何かのツールを提供したいと考えています。
新しいプラットフォームの提供
私たちは世界中のCDO、CDO Clubのメンバーに調査を行い、その結果から、やはり皆さんが助けを必要としていることがわかりました。これに対応するため、これからの6カ月間で新たなプラットフォームを段階的にスタートさせていきます。
まずバージョン1として、3つのコンポーネントが含まれたダッシュボードを提供したいと考えています。コンポーネントの1つめは、コミュニケーションツールで、チームとのコミュニケーション、またはベンダーとのコミュニケーションを行えるツールです。2つめが、簡単にコラボレーションをできるようにするコラボレーションツール。そして3つめがプロジェクト管理になります。ロードマップは分かっていて、成果物も分かっている。タスクに財務的なリソースや人的リソースなどを追加して、成果物をデッドラインに提供できるようにします。
バージョン2は、ブロックチェーンです。CDOはチーフデジタルオフィサーですから、ブロックチェーンにおいて競争力をつけていかなければいけません。私は、これからの5年、10年で、インターネット2.0ともいえる非常に大きな変化が起きると思っています。あと数年でブロックチェーンは、よりシンプルで、より堅牢で、よりスケーラビリティが上がっているでしょう。もし、今ブロックチェーンを見ていない、またはスマートコントラクトや分散型のアプリをやっていないと、おそらく皆さんは生き残れないと思います。よりエキサイティングなインターネットがこれから実現されるので、私たちはそれに対応するために CDOの手助けをしたいと考えています。
私たちは3月にアルファ・ローンチをロンドンで行います。そしてベータ・ローンチはニューヨークのCDO Summitで4月に行います。そして最終的なプロダクトのローンチは6月にサンフランシスコのイベントで行うことになります。これらを楽しみにしていただければと思います。日本にご招待いただき、ありがとうございました。
海外CDOによる特別講演
組織が先に進むため、持てる力を最大限に使うまとめ役
オンタリオ州 保健医療福祉標準化機構(Health Standards Organization)
Chief Digital Officer Amy Yee 氏
2名のオープニングスピーチが終わり、続いて海外CDOの特別講演として、オンタリオ州保健医療福祉標準化機構CDOであるAmy Yee氏が登壇した。Yee氏は講演で、CDOとは何か、CDOに必要なことについて語った。
変革をもたらし、デジタルというパワーを使う代理人
日本でお話をしていてもよく聞かれた質問ですが、CDOとはどう定義をしたらいいでしょうか? CDOとは何なのでしょうか? 私の答えはこうです。 CDO とは変革をもたらすための代理人であり、ファシリテーターであり、そして擁護者であると。組織がさらに先へ進んで行くために、デジタルをうまく使って、プロセス、人、提案など、持てる力を最大限に使うまとめ役。また、そういったスキルを持っている人たちのチームを引っ張っていくのがCDOだと思っています。
デジタルトランスフォーメーションには、デジタルというパワーを最大限に使うことが非常に大切です。CDOはそのためのエージェント、代理人です。そして代理人は力です。誰かを代理し、そこからさらに前に進め、まとめていく。CDOは力を権限委譲という形でいただいて先に進める者。そして自分の力で先に進める者。最終的に CDOは、力を持って他のエグゼクティブの方々もさらに推進していくようなサポーターにならなければいけません。
そしてCDOは、ファシリテーターでもあります。つまり、他の組織が何を言っているのかを聞き、何が今起こっているのかを理解する。その上で、他の人たちをサポートする。どういったミーティングでもファシリテーターになり、変化の兆しをキャッチし、我先にと先導していかないといけない。そして、最後には擁護者でないといけません。別の言い方をすれば、コミュニケーターでなければいけない。聞いてくれる方々を想像し、人々に聞いてもらわないといけません。そして、理解していただくのです。
CDOには何が必要か
この2年ぐらい、インダストリー4.0ということで、テクノロジーのスピードやスケールは、これまで見たことがないようなものがあります。どのようにしてこのような技術の変革を、自分たちの組織に受け入れることができるのか。何が起こっているのか、ぜひ考えていただきたい。「将来どういう状況になっているか」ということを考え、「そのためには何が必要か」を考えるのです。CDO、CIO、またはCEO、CMOのどの立場の方でもいいのですが、何が必要でしょうか?
それを考え、もし皆さんが組織の中でそれについての資料などを作ろうとしていらっしゃるとしたら、その人はまず直感が強くなくてはいけません。問題に深く関わっていかなければいけない。ナビゲーターです。これは政治的なことではなく、組織の中でいろいろ動かなければいけないということです。技術的な面も知らなければいけません。それからいろいろ曖昧なところも受け入れていかなければいけません。だから強い直感を持っているというのは非常に重要です。
それから既存の枠を超えた考え方ができるということ。さらには、技術とか人とかを新しい形で見ることができるということ。そして、いろいろな立場の人を認識して助けることができるということが必要になります。また、技術の経験も必要です。エキスパートではなくてもいいのですが、技術の人たちと話ができなければいけません。そしてそれを技術には直接かかわりのない人に説明したり、理解を深めることをしたりしなければいけません。可能性を見ることができるという能力も必要になります。どのようにすれば技術を新しい形で導入できるか、新しい方法論についても理解をしている必要があります。
そしてコミュニケーション、共感です。オンタリオではチーフデジタルオフィサーが、チーフエンパシーオフィサーとも呼ばれていて、共感する力を持つことは重要です。さらに、皆さんのまわりの人たちでコミュニケーションすること。それから人を動かして行動させることができるかどうかです。
CDOが1人で全部をできるわけではありません。やはり組織で人々を動かすことが重要です。私は、最初1つのチームでしたが、現在は4つのチームを率いています(リードしています)。縦割りの組織を壊していくこと。これもチーフデジタルオフィサーにとって重要なことなのです。
CDO Summit Toronto取材レポート&CDOインタビュー紹介・解説
CDOの『必然性』『必要性』『重要性』を知る!
解説者:一橋大学商学研究科 教授 工学博士 神岡 太郎 氏
一般社団法人CDO Club Japan 理事、広報官 鍋島 勢理 氏
Amy Yee氏による海外CDOの特別講演に続き、CDOの必然性、必要性、重要性を知ると題し、2017年10月25日に開催されたCDO Summit Torontoに伴い、現地CDOに対して行われたインタビュー動画が紹介された。インタビュー動画の紹介、解説は一般社団法人CDO Club Japan広報官である鍋島 勢理氏が担当。紹介された海外CDOは以下の6名。
- オンタリオ州 保健医療福祉標準化機構 (Health Standards Organization) Chief Digital Officer Amy Yee 氏
- マニュライフ・ファイナンシャル 副社長 Chief Analytics Officer Cindy Forbes 氏
- オンタリオ州 Chief Digital officer、デジタルガバメント次官 Hillary Hartley 氏
- バンクーバー市 Chief Technology Officer Jessie Adcock 氏
- ZoomerMedia社 Chief Digital Officer Omri Tintpulver 氏
- Canadian Film Centre社 Chief Digital Officer Ana Serreno 氏
鍋島氏による上記6名へのインタビューでは、「CDOの役割」「CDOに必要なスキル」「CDOになって直面した課題」についてのコメント、最後にCDO Summit Tokyo 2018の出席者へのメッセージが語られた。各内容について鍋島氏が短く解説し、最後にCDO Club Japanの顧問を務める一橋大学商学研究科教授工学博士の神岡 太郎氏が講評を述べられた。
鍋島 勢理 氏による解説 「CDOの役割」について
執行役、 経営者の視点で会社のベネフィットを上げていくにはどうしていけばいいのか。CEOと一緒に全社的の戦略を練り、ビジョンを作り上げていく点では 非常に重要な役割があると、どなたも述べられています。CDOのレポーティングルートを皆さんにお聞きしたところ、CEOがレポーティングルートという方が多数でした。
加速するデジタル化の動向を社内に提示していく点は、漠然とした悩みや不安を持っている社内の人たちに対して、CDOである私たちが、向かっていく方向性を示していく。そしてそれをCEOと一緒に考えていくことも役割であると述べていました。
「CDOに求められるスキル」について
CDOに必要なスキルとして、皆さんおっしゃっているのはカルチャーの理解ということです。例えばヘッドハンティングで社外から入った場合、元々在籍していた社員からは、どうしても異色な人材として見られることが多い。ただ、デジタルトランスフォーメーションを組織の中で進めていく上では、やはり社内の人たちとの関係構築が重要で、組織の文化を理解していくことはとても重要です。困難もありますが、関係構築はとても大切だと皆さん述べられています。その上で重要なのが傾聴する力。Hillary Hartley氏はCDOのことをChief Empathy Officerとおっしゃっていました。「エンパシー」、共感する力ですね。社員たちがこれまで何を達成しようとしてきたのか。そして、どういう困難に立ち向かってきたのか。実際に成功したこと。トライしたけれども失敗したこと。そういうことを、耳を傾けて親身になって聞くことがとても重要だと述べています。そして、エンジニアやプログラマーとの共通言語を持つことが、非常に重要だと述べていました。その道のエキスパートになる必要はないが、理解したことをテクノロジーの知識のない人たちにもどうやって伝えるか。どういう言葉を使っていくのか。表現していくのか。そのようなトランスレートする力も重要だと述べていました。
「CDOになって直面した課題」について
ここで一つ強調したいことは、アジャイルメソッドの導入というところで、デジタル・ディスラプションが進んでいく速度がとても速いということです。社内で新しいサービスを作っていく速度が、とても間に合わないくらい速く急激であるということ。例えば、会社でも3年計画、5年計画、または10年計画と、プランニングをする機会も多いと思います。計画を作ることはいいのですが、常にアップデートしていかなければいけない。社内において横串で見直していかなければいけない。そういう意味ではアジャイルメソッド。 常に更新していくということが非常に重要であると述べていました。
神岡 太郎 教授による講評
組織や文化をどうやって変えていくかが本質
CDOとは何かというのは、ものすごくバリエーションがあり、いろいろなタイプのCDOがあります。タイトルにしてもバックグラウンドにしても多彩です。バックグラウンドが英文学の人もエンジニアの人もいる。タイトルだってChief Analytics OfficerやChief Data Officer 、Chief Technology Officerもいる。こういう人たちが皆デジタルの問題に関わっている。
その中でひとつだけ共通していることは、「チェンジ」。変えるということです。今のやり方では限界がきていることが共通認識となっています。Transformationが必要だということではないでしょうか。このTransformationも、表面的なビジネスを変えるのではなく、人で言うならば服装を変えるだけではなく体の中まで変えなくてはいけない。皆さん、文化とかマインドセットとかDNAという言葉を使っていらっしゃいましたが、表面的に物事を変えるだけじゃダメだとなってきている。そういうことを変えるエージェント、あるいはリーダーが必要ということです。それがたぶん、CDOの仕事だと思います。テクノロジーは重要ですけれども、それはきっかけに過ぎません。これをうまく使って、組織や文化をどうやって変えていくか。そこが本質だと思います。変化をしないといけない時代に、CDOはものすごく大切な仕事だと思います。皆さんにもご協力いただければと思います。
日本企業CDOの現状と変化紹介
日本企業CDO(Chief Digital / Data Officer)の現状とデジタル化の進展
一般社団法人CDO Club Japan 事務局マネージャー
Sansan株式会社 デジタル戦略統括室 室長 柿崎 充 氏
日本企業のCDOの現状と変化の紹介と題し、CDO Club Japan事務局マネージャーであり、Sansan株式会社デジタル戦略統括室室長である柿崎充氏による講演が行われた。柿崎氏は、日本企業のデジタル変革とCDOの現状、デジタル変革への取り組みなどについて語った。
トップダウンのスピーディな変革の必要性
今の日本企業のデジタル化の推進状況の調査結果を見てみたいと思います。デジタル化を推進している企業は比較的多いと言えます。ただ一方で、デジタル化を推進している姿勢はどうかというと、多くの企業が横並び。あるいは同業他社の状況を見て進めるという回答をしています。デジタル化とは企業の変革そのものです。デジタル環境や顧客の変化にどう対応するかという話において、横並びの変革では、対応が遅れて競争に破れるリスクが高まると思います。
次に、CDOが日本にどれぐらい設置されているかですが、2016年から年々、倍以上に増えている状況です。今このような動きが広がっているのはなぜか? やはり真のデジタル化を実現するには、トップダウンで自社特有の課題の解決を目的にする必要があるからだと思います。
自社のルールを変えずにデジタル化する場合、ツールの導入になってしまうと思います。だから本来の企業の変革を行うというデジタル化とは、ちょっと遠いことをやってしまう。日本企業の多くの担当者が、デジタル化の推進に必要な人数とか人材の質、予算、ITインフラ、部門間の協業体制などについて、不十分であると感じています。
中央集権型から分散型へ
世の中は中央集権型から分散型に変わってきています。例えば今、ブロックチェーンが出てきて大きな変化が起きています。何が変わってきたかというと、今まで絶対的な価値基準は貨幣、お金でした。ブロックチェーンにより、貨幣経済が終焉して、価値そのものを直接取引するようになるとも言われています。ブロックチェーンは別名「分散型台帳」と言われています。実は江戸時代に株仲間という同業の問屋があったのですが、その人たちはお互いの台帳を仲間内で公開しあっていたのです。お互いがお互いを裏切らない仕組みを作っていた。デジタル技術によって人間の根本の部分の何かが変わるというわけではなく、人間の原点回帰へのスピードが上がってきているのかなと思っています。
人、組織とも、同じように中央集権型から分散型へ移行しています。今はスマートフォンとクラウドの全盛時代です。デジタル化の中で、自前主義のIT部門というものは発想を変えないといけないと思います。大手企業の方と話していると、まだこの発想に切り替わっていない方が意外と多い。私は今の社内のシステムをクラウドに全部移行しました。例えばワークプレイスというFacebookの法人版。全社員でこれを使っています。今までの、メールでやり取りしていた時代は1対1で、他の人から見えることがありません。隠したい情報は皆さん、なかなか出さないですよね。メールではそうなってしまう。やりとりをオープンにすることで、組織の自浄作用も働きやすくなったと思います。
デジタルテクノロジーを使えば簡単にやりとりをオープンにできます。まだ完全には移行していませんが、いつでも、どこでも、誰でもつながるような環境を作ろうとしています。具体的な成果としては、機動性が高まり、意思決定のスピードと質が上がっています。会議での意思決定を待つのでは、クローズする意思決定になってしまう。オープンにみんなで情報を共有して、リアルタイムに決定できる環境に持って行っています。みんなで協力してオープンになっていますので、世代を超えて活躍できるようになる。生産性の圧倒的な向上につながることになります。
イノベーションはまず自分が変わること
「イノベーション」とは何でしょうか。イノベーションの語源を調べてみると、最初に「イン」があり、これは自分のことを指します。イノベーションは、何かを変える、組織を変えるということではなく、実は自分を変えることなのです。まずは自分をどう変えるかということを考えていただければと。自分が変わることによって、一人ひとりが変わって、組織が変わって、結果として社会が変わると思います。デジタル変革はCDO が一人でやるものではないですよね。皆さん一人ひとりがデジタル変革に取り組むべきだと思います。
Japan CDO of The Year 2017 ファイナリスト報告&授与式
Japan CDO of The Year 2017は、
日本ロレアル株式会社 CDO デジタル統括責任者
長瀬 次英 氏に決定!
午後のセッションの最初は、Japan CDO of The Year 2017の発表が行われた。CDO of The Yearは、CDOという役割の認知と普及、及びCDO Clubの活動に貢献した個人を表彰するもので、2012年からアメリカ、ヨーロッパ、オーストラリア、イスラエルなど各地で開催されている。今回が日本で初めての実施となる。
Japan CDO of The Year 2017として、SOMPOホールディングス株式会社 グループCDO 常務執行役員 楢﨑 浩一氏、株式会社三菱ケミカルホールディングス 執行役員CDO 岩野 和生氏、日本ロレアル株式会社 CDO デジタル統括責任者 長瀬 次英氏の、3名のファイナリストが選出された。この3名より、最終選考の結果、長瀬氏がJapan CDO of The Year 2017の栄冠に輝いた。
日本企業CDO 取り組み事例紹介①
SOMPOホールディングスの
デジタル・トランスフォーメーション
SOMPOホールディングス株式会社
グループCDO 常務執行役員 楢﨑 浩一 氏
日本企業CDOの取り組み事例紹介の1人目として、SOMPOホールディングス株式会社 グループCDO常務執行役員 楢﨑 浩一氏の講演が行われた。楢﨑氏は、「SOMPOホールディングスのデジタル・トランスフォーメーション」と題し、同社の取り組み、向かう方向について語った。
加速するデジタル・ディスラプション
SOMPOホールディングスは、損保ジャパン日本興亜という会社を中心とする保険会社です。三メガ損保と言われるうちの一社です。私は元々三菱商事という会社でキャリアを始め、入社してちょうど17年目くらいの1997年にシリコンバレーへ赴任しました。3年後の2000年に向こうで転職をしまして、それ以来シリコンバレーでスタートアップを4社ほど経営してきました。私のような者をなぜSOMPOホールディングスがハイアリングしてきてCDOにしたかですが、皆さんよく存知のデジタル・ディスラプション。それへの対策という意味が大きかったのです。
デジタル・ディスラプションが加速していて、ちょっと前に書かれたものが既に古い過去のものになっています。当然、保険会社も例外ではありません。少子高齢化、マーケットのシュリンク。例えば、我々はいま、日本国内だけでも千数百万台の車両で保険を扱わせていただいています。ところが、この千数百万台が、下手したらほとんどなくなってしまうかもしれない。なぜかというと自動運転、コネクテッドカー、シェアリング、EV、この4つのディスラプターが、 現状の自動車産業を壊そうとしていますので、その後ろにある自動車保険、保険会社のビジネスも、消されつつあるということです。デジタル・ディスラプションの時代に対して、我々自身が完全にデジタル・トランスフォームし終わらないと、我々自体がなくなるというものすごい危機感をCEOが持っていました。私は元々保険に関してしがらみが全くありません。保険はド素人です。むしろド素人がぶっ壊して再構築をしてくれというのが、CEOが私に与えたミッションでした。「デジタル・トランスフォーメーション。それ、お前がやれ。以上」という話です。「細かいことはお前に任せる」ということで、ヒト、モノ、カネ、経営資源を与えてもらって、好きなことをやらせていただいているので、会社とトップには大変感謝しています。
保険会社から、「保険のその先」に行きたい
私たちは、今までの保険会社から、「保険のその先」に行きたいと考えています。具体的には、保険というものは事故にあってから、あるいは亡くなられてから初めて意識される。でもその時には遅い。車の修理代をもらったって、けがの治療費をもらったって、事故を起こさなかったほうがよっぽどよかった。なんで起こしてしまったのかと。今のままの保険会社では、こういうことは絶対にカバーできません。そこをやろうというのがSOMPOホールディングスです。保険のその先というのは「安心、安全、健康を積極的に提供するサービス産業になる」ということです。
例えば、我々の自動車保険にご加入いただくと、アプリと連動するデバイスが無料で送られてきますから、これを車のダッシュボードに貼ります。これは、英語で言うところのパニックボタンです。事故を起こした場合やロードアシスタンスが必要な場合にこのボタンを押します。そうするとお手持ちのスマートフォンがアプリを立ち上げ、事故受付担当者に電話をかけることができます。事故受付担当者は契約情報や現在位置など全部わかっていますので、スムーズに対応することができます。さらに、今申し上げたパニックボタンの機能だけではなく、運転状況を検知する機能もついています。運転終了後に運転診断やエコドライブ、危険挙動の回数や場所などを報告してくれます。「では気をつけよう」と安全運転ドライバーになる。安心、安全、健康を、プロアクティブに提供していくということです。
そして、こういったものから出てくるデータをクラウドで集め、AI で解析しています。何がしたいかというと、これも安心、安全、健康の提供です。最終的にやりたいのは、「SOMPOに守られている」「SOMPOのおかげで幸せになった」「SOMPOのおかげで健康になった」「SOMPOのおかげでいつも安全」、こういう世界観をデジタルで作っていきたいと考えています。
そのために、いろいろなことをやっています。技術もあります。データも集まってきました。ただ、実は一つ困っていることがあって、それはデータ・サイエンティストが少ないことです。そこで、自分たちで学校を作りました。データ・サイエンティスト・ブートキャンプです。そこでは先ほどのような生データを全部提供して、それを使っていただいています。たぶん、このようなデータを使えるデータ・サイエンティストの学校は世界でも唯一だと思います。データを集める、データを AI にかける、アナリティクスを回す。さらに言うと、先ほどのようなデバイス。そんなものを作ったり、そういうところと組んだりして、我々はデジタル・トランスフォーメーションを起こそうと思っています。ぜひ、皆さんにもSOMPOホールディングスと一緒にやってみたいというお話がありましたら、どうぞお声がけください。
日本企業CDO 取り組み事例紹介②
三菱ケミカルホールディングスの
デジタル・トランスフォーメーション
株式会社三菱ケミカルホールディングス
執行役員CDO(最高デジタル責任者) 岩野 和生 氏
CDOの取り組み事例紹介の2人目として、株式会社三菱ケミカルホールディングス 執行役員CDO 岩野 和生氏が講演。「三菱ケミカルホールディングスのデジタル・トランスフォーメーション」と題し、デジタル・トランスフォーメーションの現状、デジタル・トランスフォーメーションに対しての考えなどについて語った。
デジタル・トランスフォーメーションに関わる者の 社会的責任の増大
クラウド化とサービス化がどんどん進んで、社会システムに影響を与えています。これはもう十数年前から起きていることで、この流れはもっと進んでいくでしょう。モノのまわりのビジネスモデルの変化が起きています。ビジネスの価値の所在が、確実にモノからサービスに、サービスから関係性に移ってきている。関係性というのはエコシステムの議論になってきます。ここが勝負の源泉だと思います。
その中で、データとアルゴリズムの価値が非常に大きくなると考えています。もっと大切なことは、いろいろなところで境い目がわからなくなっていることです。サイバーと物理的世界の関係とか、人間と機械の関係とか、個人と会社の関係とか。そういうことの境い目が全然なくなってきています。境い目が消えていくと、アイデンティティが変わります。アイデンティティが変わるとサービスモデルが変わります。サービスモデルが変わるとお金の取り方が変わります。ビジネスモデルが変わる。または変えないといけない。それをできた人、企業なりがすごく重要な存在となります。知の価値の重要性が増しています。そういう意味で、デジタル・トランスフォーメーションに関わる個人や会社の社会的責任が、ものすごく大きくなってきています。そこをどういうふうに担保していくかを考えないと、この世界で生きてはいけません。若い人たちの教育も含めて、そこのところを徹底的にやらないと、たぶんダメになっていくでしょう。
今はデジタルの技術や思想で変革を起こす重心がユーザー企業に移ってきているなという感じがします。そして我々の会社のような典型的なレガシーな会社が、実はすごく重要になってきているなとも感じます。社会変革の主体者が、ユーザー企業に移ってきているといえます。
技術だけではデジタル・トランスフォーメーションは起きない
デジタル・トランスフォーメーションは技術のみでは達成できません。私は「技術の面だけで考えているとサステイナブルな事業変革にはならない」と言っています。やはり風土が大切です。デジタルネイティブな組織ということが一番重要だと思います。三菱ケミカルホールディングスのビジョンには「デジタル技術と思想によって会社、業界、社会に新しい流れを作る。そしてビジネスや風土に変革をもたらす」とあります。ここに「思想」を入れたのは、技術だけではデジタル・トランスフォーメーション、変革は起きないからです。そして、新しいイニシアチブは、ビジネスに意味がないといけないと言っています。デジタルネイティブな企業風土がないと絶対に長続きしません。 情報技術 (Information Technology, IT) は、けっこう魔物で、社長が「AI やビッグデータを活用しろ」と事業部に言うと、事業部は近くのベンダーを呼んできます。「やれ」と言われているので何かないかなということですが、やれば何かは出ます。それでみんな満足してしまう。何かをやった気になる。それではダメです。戦略なきポイントソリューションの集まりになるだけです。どういう戦略で、どういう価値観、どういう社会をつくるかというところまで持って仕掛けないといけません。
大切なものは組織と風土です。デジタル・トランスフォーメーションは会社全体にまたがっています。そのため、それをどう起こすのか。その時に組織の成熟度がすごく大切になるわけです。そこが結構鍵になってきます。どういうふうに物事の構造を考えて、コンポーネントを組み合わせて全体の形を作っていくかといった教育が、日本はまだ全然できていないと思います。これは、米国ではComputational Thinkingといい、子供の頃から社会変革をおこす人材育成として学校教育にも取り組まれています。
近年の情報科学技術やその思想が産業界、社会、個人に大きな影響をもたらしてきました。今では、特にデジタル変革としてあらゆる産業界に登場してきています。私達の化学産業では、それは一つには、オペレーションの秀逸性であり、もう一つはビジネスモデルの変革です。その中でも製造業が対象とするモノの周りのビジネス価値の変容は着目すべきです。価値がモノからサービスに、サービスがエコシステムに位置付けられることで大きな価値を生み出す。これがプラットフォームや関係性のビジネスにつながっています。大事なことは、化学業界に特有の長いサプライチェーンにおけるデジタル変革を伴うビジネスモデルの変化が起きそうだということです。さらにデータ主導型ビジネスが展望されています。
先ほど申しました通り、重心がユーザー企業に移りつつあり、ユーザー企業が社会変革の主体者になっています。サイバーとリアルの世界が融合し、今までのリアルの世界でのアイデンティティが変わってきています。データというものを本当に考える必要があります。直近の課題、将来の課題は、社内のデータ・プラットフォームやデータ連携といったものの機能の再分解と再構成など、いろいろと考えながらデジタル・トランスフォーメーションを進めていくことです。そして社内に留まらず、パートナーを見つけて手を結んでいくというのを今後の方向と考えています。
Japan CDO of the Year 2017受賞 記念講演
日本ロレアルのデジタル・トランスフォーメーション
日本ロレアル株式会社
チーフデジタルオフィサー(CDO)
デジタル統括責任者(デジタルカントリーマネージャー)
Japan CDO of the Year 2017受賞者 長瀬 次英 氏
CDOの取り組み事例紹介の3人めは、日本ロレアル株式会社 チーフデジタルオフィサー デジタル統括責任者 長瀬 次英氏が講演。「日本ロレアルのデジタル・トランスフォーメーション」と題し、CDOの役割、CDOとして成すべきこと、必要な環境などについて語った。
個に対してのバリュークリエーション
よく「CMO、CIO、CTO、CDOはどう違うのか?」と聞かれます。例えばCMOはマーケット、トレンドを見て、コーポレートのディレクションを考えます。CDOは何を見ているか?僕は人を見ています。社内の同僚たちの困った顔を見ています。聞いています。耳を立てています。そして何とかして、彼らの抱えている問題をすぐに解決します。バリュークリエーションですね。CDOは個に対してのバリュークリエーションだと思います。それは会社の内側だろうと、外の顧客だろうと。テクノロジーを把握した上でバリュークリエーションをするのが、CDOなのではないかと考えています。
CDOという言葉が新しすぎるため、「何をすればいいのかわからない」というトラップに陥りがちです。やはりデジタルを用いて何がしたいのかというところが鍵で、デジタルツール、ブロックチェーン、AI、ロボティクス…なんでもいいです。このようにデジタルはすごく幅が広いので、「そういったものを活用して何がしたいのか」ということがポイントだと思います。それが会社できちんととクリアになっているかどうか。それがたぶん大きなリアクションの違いになってくると思います。お客様のためにより良い提案をする、より良いビジネスをする、より良い労働環境を整える。すべてがバリュークリエーションで、CDOがすることです。
CDOにできること
CDOはE コマースを伸ばすためにいるわけではありません。その先が重要です。例えば、売上が急に上がってしまったら、サプライが追いつかなくなるかもしれません。サプライが追いつかなくなったらどうするか?人を増やすか?製造ピッチを上げるか?急にそんなことはできません。であれば、例えばクラウドソーシングに変える。ロジスティックを変える。倉庫のオペレーションも変える。AI や機械を導入して人数をもっと違うところに当てるとかをしたほうがいい。コールセンターも簡単な質問は AI が答えてしまって、ちょっとテクニカルなものは人が答えるみたいなことにする。いろいろなことがどんどんできます。人件費を半分に減らし、仕事を均等にするなども、CDOがいればできますし、やっています。
そしてもっとビジネスを成長させたい時には何をするか。人を雇います。人を雇う際の問題は、人事がちゃんとブリーフできないことです。「会社としてはここにプライオリティを置いているので、こういった形で進めてください」と、教育から始めないといけません。これはCDOの仕事です。
コーポレートイメージも作らなくてはいけません。今までのやり方ではロレアルの良さが全然伝わらないとなると、ソーシャルの活動もしなくてはならないし、ストラテジー、インフルエンサー戦略もやらなくてはいけない。CEOが見ているよりも細かく見て、デジタルシフトというものを行っているのはCDOだと思っています。
デジタル・トランスフォーメーションに必要な環境
デジタル・トランスフォーメーションを行うには、ある程度トップダウンの環境が重要です。わざわざチーフクラスにデジタルの責任者を置くのはそういう意味です。そして、たぶん日本では大きな弊害になってくると思うのですが、テストアンドランということを認める会社であること。ここが重要だと思います。ロレアルがそうでした。きちんとしたプランがあれば、他の会社では許されないような、失敗、損失を出しても許されるのです。どうやって取り戻すかとなった時には、ちゃんと答えることができ、「じゃあ、それで行こう」となります。たいへん寛容です。ここはけっこう日本の企業では難しいのではないでしょうか?特に日本人というものを考えた時、デジタル化するときに、ここが影響するなと思っています。
これが、できるかどうかということが大きいと思います。ロレアルにはこれがあった、というのが僕の中で大きなポイントでした。つまり、テストアンドランを、80%で進められる度胸があるかないかです。80%、70%で商品やサービスを展開してしまって、リアクションを聞いて、失敗したりフィードバックをもらって100%にもっていくほうが、実は早かったりするのです。ある程度の迷惑はかけてしまうかもしれません。しかし、顧客とのリレーションシップを作れる環境だったら、それほど悪影響はありません。「デジタルによって、お客さんの声を聴いて、近づくことができる。近づけているからこそ、ビジネスができる」。このマインドセットが必要です。「ブランドが王様」から「顧客が神様」。この考え方もそんなに新しくはないですよね。日本人の我々の中には、お客様は神様だというスピリットは昔からありました。それがデジタルになると、より顕著になるだけです。本当にお客様は神様だと思っていないと、ビジネスができなくなってきます。お客様の声を聞いて作るのは効率がよく、確実です。なぜなら、お客様が欲しいものをロレアルは作るのですから。
メーカーは今後、そういった考え方と体制を作っていく必要があると思います。こういったバリューが生まれるからこそ、より消費者に喜んでもらえるような状況になっていく。だから、顧客のことしか考えていません。これまではブランドでどんなものを作るかしか考えてなかったのが、顧客のことしか考えていない。こういった企業カルチャーも含めた体質改善も、CDOは担っていかなければならないと思います。
パネルディスカッション
CDO(Chief Digital / Data Officer)が、
デジタル変革を推進するために必要なこと
トレジャーデータ株式会社 マーケティング担当ディレクター堀内 健后 氏
一般社団法人CDO Club Japan 事務局マネージャー Sansan株式会社 デジタル戦略統括室 室長 柿崎 充 氏
SOMPOホールディングス株式会社 グループCDO 常務執行役員 楢﨑 浩一 氏
株式会社三菱ケミカルホールディングス 執行役員CDO(最高デジタル責任者) 岩野 和生 氏
日本ロレアル株式会社 チーフデジタルオフィサー(CDO) デジタル統括責任者(デジタルカントリーマネージャー) 長瀬 次英 氏
【モデレーター】 一橋大学商学研究科 教授 工学博士 神岡 太郎 氏
CDO Summit Tokyo 2018の最後には「CDOが、デジタル変革を推進するために必要なこと」と題したパネルディスカッションが行われた。パネルディスカッションでは、講演を行った楢﨑氏、岩野氏、長瀬氏、柿崎氏に加え、トレジャーデータ株式会社 マーケティング担当ディレクター 堀内 健后氏の5名がパネリストとして登壇。モデレーターは、神岡 太郎教授が勤めた。モデレーター、パネリストの簡単な自己紹介の後、ディスカッションが開始された。
デジタルが破壊的な力を持っている時代に、
企業はどうやって生きていけばいいのか
神岡: 1番めのテーマです。デジタルが破壊的な力を持っている時代に、企業はどう生きていけばいいのか?今の時代をどう見ているのかを、まずはお伺いしたいと思います。
楢﨑: 一言で言うと、我々CDO自身をも含めて何が起こるか、どうなるかわからない。スピードがどんどん上がってきていて、未来が見えない。それなら何をしたらいいのかというと非常に簡単で、スタンスを小さくとって、変化にアジャイルに対応する。これを会社の上から下まで、全社員のDNAに移植する。これに尽きると思います。それが正解かどうか分からないですが、少なくとも自分がディスラプトされないためには、唯一守らなければいけないルールなのかなと思います。
岩野: 将来は企業という形の組織形態がなくなると私は思っています。社会的機能の分解が起きて、その再構成という形でシステムが作り変えられる。今の企業がどう生きていけばいいのかと言うと、機能分解した時に一番強いものを持っていないと、たぶん生き残れないでしょう。それを鍛えておかなければいけないと思います。
長瀬: やはりその会社、ブランドの特長を伸ばす。強みを伸ばすしかないということです。あと、友達をたくさん作る。一人で全てをやったら崩壊します。そういう大きなマインドセットの変革に、ロレアルは直面したんじゃないかと思っています。
堀内: ビジネスを分かって、デジタルテクノロジーを理解している人たちと、CDOの皆さんがうまくお付き合いいただければ、うまく競争できるんじゃないかと思っています。会社単位の付き合いもそうですし、自分とは全然違う世界だったり、カルチャーを持った人たちとうまく共創していける。また、共に作っていけるようなことができると、変化に強い会社になれるのかなと思っています。
CDOとして何をしなくてはいけないのか
神岡: デジタルによる大きな変化が起きている中で、組織というものは今までとはちょっと違うものになるかもしれません。やはり誰か船頭がいないと、組織や会社は動かないと思います。核になるリーダーとして、CDOは何をしなくてはいけないと思われますか?
楢﨑: まさに人類未曾有の大変革というか、大嵐の中で船から揺り落とされて全員が溺れそうになっているというのが、たぶん今のほぼ全員の感覚だろうと思っています。では CDOは何をする人かというと、「こっちのほうが陸だぞ」とか「こっちには救命ボートがあるぞ」と言って、荒波の中で旗を出す。大嵐の海で「こっちに来ると命が助かるぞ」みたいに。自分も苦しみながら旗手になり、先導役になる。そういうけっこう苦しい仕事がCDOなのかなと思います。
岩野: 私たちは社内で「水先案内人になります」と言っているんです。そういう意味では、水先案内人として信頼してもらい、すごく研ぎ澄まされた方向感覚を持つことがキーになるだろうと思っています。
長瀬: 全く同意見です。唯一付け足すと、そういう人たちを増やすことも重要だと思っています。増やすには同じ経験をさせないといけないと思っていて、そこが一番大変なところじゃないかと思います。旗振り役は何をするかというと、ディレクションとフレームワークを作ります。救命具といった道具もありますし、どっちに泳げばいいのかという方向、それに泳ぐテクニックもあります。それらを一緒に経験しながら、最終的に我々が楽をするような方向で進めていくのがいいんじゃないかなと思っています。
柿崎: 3人のお話を聞いて勉強になりました。組織横断とか横串とおっしゃっていたので、そこが大事かなと思っています。CDOによって組織横断を実現していくことは大事だと思います。
CDOに必要なこと、CDOのイメージを変える
神岡: CDOには、今までのやり方にこだわらない、ある種の嗅覚といったものが必要と思うのですが、どうでしょうか?
岩野: 確かにそうだと思います。そして、一人じゃ何もできないということですね。CDOはコミュニティーで働く仲間が喜びを感じる場を作る、みたいなところがあるんじゃないかと。そしてその人たちが次の世代を作っていく。私が人を採用する時の条件があります。それは、1番目にまず優秀であること。2番目に志が高いこと。3番目は人柄がいいこと。この3つがあると、いいチームができるなという感覚があります。大組織の中でも、中学生の運動部みたいな感じだと思います。そういう厳しいけれども小さく、楽しくて仕方がないチームがいくつかできていく感じになるんじゃないかと思っています。
長瀬: 成果を出すスピードは重要だと思っています。リザルトドリブンなのは共通してあると思います。ただ単にビジョンだけを語っているのではなく、実はものすごく数字にストイックであること。僕は少なくともそうです。リザルトアウトプット、目に見える形で出すということもテクニックとしてあります。デジタルに関わっている以上、そういうものは確実にあると思います。
楢﨑: 物事を知っている奴をいかに多く知っているか。顔の世界なんです。大企業も基本は一緒だと思います。社内で、あいつら面白くてすごく楽しいことをやっているなと思わせる。スモールスタート、スモールサクセスで、「デジタルって少しわかりかけてきた。そして楽しい。もっと話をしろ。もっといろいろ見せろ」となる。そこに尽きるのかなと思います。
柿崎: 抵抗されるとうれしくなってしまうみたいなところがあって、抵抗されるものじゃないと新しいものをやっている気がしないというところがありますね。だから何かマーケティングをやると、営業から言われるんです。抵抗されるから少しへこむ。「それがいいんだ。抵抗されているんだから、何か新しいことに取り組んでいる」と思ったほうがいいということでやっています。
堀内: 変化の時代にデジタルがものすごく重要だから、そのデジタルというところにフィーチャーされているようですけれども。皆さんのお話を聞いていると、新しいビジネスとか、変化を起こしていくのにチームが必要というのは共通して変わらないのだなと今思いました。
長瀬: ひとつ言えるとすれば、CDOはすごく泥臭いですよね。人間臭いというか。ネットワークが重要ですし、結局、人と人とのビジネスなので、人間力が相当問われます。それを持っている人は、自然に人に好かれます。見た目で好かれることもけっこう重要だなと、CDOになってみてわかったところです。
神岡: デジタルは敵ではなく、人間的な側面が大きいということですね。ITにはちょっと暗いイメージがあると思いますが、実はデジタルは明るいんだ、という印象を会社の中に植え付けることがけっこう重要でしょうか?その辺はうまくいっていますか?デジタルはどういう印象を持たれているのでしょうか?
岩野: みんな、ニュースメディアを通して変なイメージを持っちゃっていますね。AIが人間を凌駕するみたいな。「その旗を振る奴が来た」みたいなイメージでCDOは見られているわけです。でもCDOはけっこう泥臭く、相手の話を聞くフェーズから行きます。そうすると何か変わってきます。「こいつら、話せるんだ」みたいな。
長瀬: 私の立場だと下に事業部があって各ブランドがあるんですけれども、横串になってCDOをやる人間としては、それらのブランドのビジネスをよく分かってあげなければいけないのは大前提ですね。例えば、「CDOが来た。メディアを全てデジタルに変える」、そんなイメージなんです。でも、そうじゃないんです。ちゃんと相手のビジネスとか本質を捉えて何がいいかを判断することが、けっこう我々人間味のあるCDOとしての役割じゃないかと思っています。
CDOがうまく機能するような環境、会社とは
神岡: ここには CDOになりたいという方もいらっしゃるかと思います。逆にCDOを採用してみたいという立場の方もいらっしゃると思います。CDOは一人では仕事ができないので、CDOがうまく機能するような環境、会社とはどういうものかを考えてみます。会社がこうあったらCDOはもっとうまくいくと思うことについて、ご意見をお願いします。
堀内: CDOは新しいことにチャレンジするポジションだと思います。ですから当然、裁量は大きいのが理想だと思います。中途採用で役員クラスが入ることはまだ日本では多くはないので、前提条件はかなり幅を持たせておかないと、やることが3カ月ぐらいで変わってしまうということもあるのではないかと思います。会社が柔軟に変われるということがものすごく重要です。入った後に、こんなはずじゃなかったと言われるのが、たぶん一番不満として多いと思います。
長瀬: いろいろサポートがあってこそなので、やはりコミットメントとか、カルチャーとか、いい仲間、人脈によって作ったチーム。そういったところが重要ですね。会社が何をしたいかということ。何をすべきかということ。純粋に真正面からぶつかっていける人と環境が重要ではないかと思います。
岩野: やはり夢とか志のところが合っていないとダメですね。社長なりその会社が、社会においてこの会社をどんな存在に持っていきたいのか、自分たちが何を目指しているのかということを徹底的に考えておかなければ、CDOは採用できないと思います。権限委譲や、人を雇う権利とか、チームを作る自由度とか、お金も含めてかなり裁量を与えられたことはラッキーでした。やることは大変なんですけれども、それぐらいの覚悟を持ったうえで迎えられると、採用されたほうも「頑張ろう」となります。
楢﨑: 人、物、金、データ、時間という経営資源を、ある所まで使える。または好きなようにやる権限とか。自由度を与えるトップや会社側の度量の深さはあるべきだと思います。
神岡: 皆さんありがとうございました。私はチーフデジタルオフィサーは、とてもエキサイティングな役割だと思っています。チーフデータオフィサーも、これからはどんどん重要になってくると思います。ぜひご参加の皆さん、宿題として、今日の話をご自身の組織に置き換えて考えていただければと思います。 長い時間、ありがとうございました。