◆日本企業CDO 取り組み事例紹介①
SOMPOホールディングスの
デジタル・トランスフォーメーション
SOMPOホールディングス株式会社
グループCDO 常務執行役員 楢﨑 浩一 氏
日本企業CDOの取り組み事例紹介の1人目として、SOMPOホールディングス株式会社 グループCDO常務執行役員 楢﨑 浩一氏の講演が行われた。楢﨑氏は、「SOMPOホールディングスのデジタル・トランスフォーメーション」と題し、同社の取り組み、向かう方向について語った。
◆日本企業CDO 取り組み事例紹介①
SOMPOホールディングスの
デジタル・トランスフォーメーション
SOMPOホールディングス株式会社
グループCDO 常務執行役員 楢﨑 浩一 氏
日本企業CDOの取り組み事例紹介の1人目として、SOMPOホールディングス株式会社 グループCDO常務執行役員 楢﨑 浩一氏の講演が行われた。楢﨑氏は、「SOMPOホールディングスのデジタル・トランスフォーメーション」と題し、同社の取り組み、向かう方向について語った。
加速するデジタル・ディスラプション
SOMPOホールディングスは、損保ジャパン日本興亜という会社を中心とする保険会社です。三メガ損保と言われるうちの一社です。私は元々三菱商事という会社でキャリアを始め、入社してちょうど17年目くらいの1997年にシリコンバレーへ赴任しました。3年後の2000年に向こうで転職をしまして、それ以来シリコンバレーでスタートアップを4社ほど経営してきました。私のような者をなぜSOMPOホールディングスがハイアリングしてきてCDOにしたかですが、皆さんよく存知のデジタル・ディスラプション。それへの対策という意味が大きかったのです。
デジタル・ディスラプションが加速していて、ちょっと前に書かれたものが既に古い過去のものになっています。当然、保険会社も例外ではありません。少子高齢化、マーケットのシュリンク。例えば、我々はいま、日本国内だけでも千数百万台の車両で保険を扱わせていただいています。ところが、この千数百万台が、下手したらほとんどなくなってしまうかもしれない。なぜかというと自動運転、コネクテッドカー、シェアリング、EV、この4つのディスラプターが、 現状の自動車産業を壊そうとしていますので、その後ろにある自動車保険、保険会社のビジネスも、消されつつあるということです。デジタル・ディスラプションの時代に対して、我々自身が完全にデジタル・トランスフォームし終わらないと、我々自体がなくなるというものすごい危機感をCEOが持っていました。私は元々保険に関してしがらみが全くありません。保険はド素人です。むしろド素人がぶっ壊して再構築をしてくれというのが、CEOが私に与えたミッションでした。「デジタル・トランスフォーメーション。それ、お前がやれ。以上」という話です。「細かいことはお前に任せる」ということで、ヒト、モノ、カネ、経営資源を与えてもらって、好きなことをやらせていただいているので、会社とトップには大変感謝しています。
保険会社から、「保険のその先」に行きたい
私たちは、今までの保険会社から、「保険のその先」に行きたいと考えています。具体的には、保険というものは事故にあってから、あるいは亡くなられてから初めて意識される。でもその時には遅い。車の修理代をもらったって、けがの治療費をもらったって、事故を起こさなかったほうがよっぽどよかった。なんで起こしてしまったのかと。今のままの保険会社では、こういうことは絶対にカバーできません。そこをやろうというのがSOMPOホールディングスです。保険のその先というのは「安心、安全、健康を積極的に提供するサービス産業になる」ということです。
例えば、我々の自動車保険にご加入いただくと、アプリと連動するデバイスが無料で送られてきますから、これを車のダッシュボードに貼ります。これは、英語で言うところのパニックボタンです。事故を起こした場合やロードアシスタンスが必要な場合にこのボタンを押します。そうするとお手持ちのスマートフォンがアプリを立ち上げ、事故受付担当者に電話をかけることができます。事故受付担当者は契約情報や現在位置など全部わかっていますので、スムーズに対応することができます。さらに、今申し上げたパニックボタンの機能だけではなく、運転状況を検知する機能もついています。運転終了後に運転診断やエコドライブ、危険挙動の回数や場所などを報告してくれます。「では気をつけよう」と安全運転ドライバーになる。安心、安全、健康を、プロアクティブに提供していくということです。
そして、こういったものから出てくるデータをクラウドで集め、AI で解析しています。何がしたいかというと、これも安心、安全、健康の提供です。最終的にやりたいのは、「SOMPOに守られている」「SOMPOのおかげで幸せになった」「SOMPOのおかげで健康になった」「SOMPOのおかげでいつも安全」、こういう世界観をデジタルで作っていきたいと考えています。
そのために、いろいろなことをやっています。技術もあります。データも集まってきました。ただ、実は一つ困っていることがあって、それはデータ・サイエンティストが少ないことです。そこで、自分たちで学校を作りました。データ・サイエンティスト・ブートキャンプです。そこでは先ほどのような生データを全部提供して、それを使っていただいています。たぶん、このようなデータを使えるデータ・サイエンティストの学校は世界でも唯一だと思います。データを集める、データを AI にかける、アナリティクスを回す。さらに言うと、先ほどのようなデバイス。そんなものを作ったり、そういうところと組んだりして、我々はデジタル・トランスフォーメーションを起こそうと思っています。ぜひ、皆さんにもSOMPOホールディングスと一緒にやってみたいというお話がありましたら、どうぞお声がけください。
SOMPOホールディングス株式会社
グループCDO 常務執行役員
楢﨑 浩一 氏
1981年早稲田大学政治経済学部卒業、同年三菱商事株式会社入社。シリコンバレー駐在を経験。ベンチャーの魅力に惹かれ、2000年に現地で転職後、複数のICT関連企業で事業開発や経営に携わり、シリコンバレーに通算12年在住。2016年5月、SOMPOホールディングス株式会社グループCDO執行役員に就任、 2017年4月より現職。 電気通信主任技術者、陸上無線技術士、応用情報処理技術者等ICT関連のプロ資格多数に加え、米国CPA、米国MBA等財務経営系の資格も有する。
◆日本企業CDO 取り組み事例紹介②
三菱ケミカルホールディングスの
デジタル・トランスフォーメーション
株式会社三菱ケミカルホールディングス
執行役員CDO(最高デジタル責任者) 岩野 和生 氏
CDOの取り組み事例紹介の2人目として、株式会社三菱ケミカルホールディングス 執行役員CDO 岩野 和生氏が講演。「三菱ケミカルホールディングスのデジタル・トランスフォーメーション」と題し、デジタル・トランスフォーメーションの現状、デジタル・トランスフォーメーションに対しての考えなどについて語った。
デジタル・トランスフォーメーションに関わる者の
社会的責任の増大
クラウド化とサービス化がどんどん進んで、社会システムに影響を与えています。これはもう十数年前から起きていることで、この流れはもっと進んでいくでしょう。モノのまわりのビジネスモデルの変化が起きています。ビジネスの価値の所在が、確実にモノからサービスに、サービスから関係性に移ってきている。関係性というのはエコシステムの議論になってきます。ここが勝負の源泉だと思います。
その中で、データとアルゴリズムの価値が非常に大きくなると考えています。もっと大切なことは、いろいろなところで境い目がわからなくなっていることです。サイバーと物理的世界の関係とか、人間と機械の関係とか、個人と会社の関係とか。そういうことの境い目が全然なくなってきています。境い目が消えていくと、アイデンティティが変わります。アイデンティティが変わるとサービスモデルが変わります。サービスモデルが変わるとお金の取り方が変わります。ビジネスモデルが変わる。または変えないといけない。それをできた人、企業なりがすごく重要な存在となります。知の価値の重要性が増しています。そういう意味で、デジタル・トランスフォーメーションに関わる個人や会社の社会的責任が、ものすごく大きくなってきています。そこをどういうふうに担保していくかを考えないと、この世界で生きてはいけません。若い人たちの教育も含めて、そこのところを徹底的にやらないと、たぶんダメになっていくでしょう。
今はデジタルの技術や思想で変革を起こす重心がユーザー企業に移ってきているなという感じがします。そして我々の会社のような典型的なレガシーな会社が、実はすごく重要になってきているなとも感じます。社会変革の主体者が、ユーザー企業に移ってきているといえます。
技術だけではデジタル・トランスフォーメーションは起きない
デジタル・トランスフォーメーションは技術のみでは達成できません。私は「技術の面だけで考えているとサステイナブルな事業変革にはならない」と言っています。やはり風土が大切です。デジタルネイティブな組織ということが一番重要だと思います。三菱ケミカルホールディングスのビジョンには「デジタル技術と思想によって会社、業界、社会に新しい流れを作る。そしてビジネスや風土に変革をもたらす」とあります。ここに「思想」を入れたのは、技術だけではデジタル・トランスフォーメーション、変革は起きないからです。そして、新しいイニシアチブは、ビジネスに意味がないといけないと言っています。デジタルネイティブな企業風土がないと絶対に長続きしません。 情報技術 (Information Technology, IT) は、けっこう魔物で、社長が「AI やビッグデータを活用しろ」と事業部に言うと、事業部は近くのベンダーを呼んできます。「やれ」と言われているので何かないかなということですが、やれば何かは出ます。それでみんな満足してしまう。何かをやった気になる。それではダメです。戦略なきポイントソリューションの集まりになるだけです。どういう戦略で、どういう価値観、どういう社会をつくるかというところまで持って仕掛けないといけません。
大切なものは組織と風土です。デジタル・トランスフォーメーションは会社全体にまたがっています。そのため、それをどう起こすのか。その時に組織の成熟度がすごく大切になるわけです。そこが結構鍵になってきます。どういうふうに物事の構造を考えて、コンポーネントを組み合わせて全体の形を作っていくかといった教育が、日本はまだ全然できていないと思います。これは、米国ではComputational Thinkingといい、子供の頃から社会変革をおこす人材育成として学校教育にも取り組まれています。
近年の情報科学技術やその思想が産業界、社会、個人に大きな影響をもたらしてきました。今では、特にデジタル変革としてあらゆる産業界に登場してきています。私達の化学産業では、それは一つには、オペレーションの秀逸性であり、もう一つはビジネスモデルの変革です。その中でも製造業が対象とするモノの周りのビジネス価値の変容は着目すべきです。価値がモノからサービスに、サービスがエコシステムに位置付けられることで大きな価値を生み出す。これがプラットフォームや関係性のビジネスにつながっています。大事なことは、化学業界に特有の長いサプライチェーンにおけるデジタル変革を伴うビジネスモデルの変化が起きそうだということです。さらにデータ主導型ビジネスが展望されています。
先ほど申しました通り、重心がユーザー企業に移りつつあり、ユーザー企業が社会変革の主体者になっています。サイバーとリアルの世界が融合し、今までのリアルの世界でのアイデンティティが変わってきています。データというものを本当に考える必要があります。直近の課題、将来の課題は、社内のデータ・プラットフォームやデータ連携といったものの機能の再分解と再構成など、いろいろと考えながらデジタル・トランスフォーメーションを進めていくことです。そして社内に留まらず、パートナーを見つけて手を結んでいくというのを今後の方向と考えています。
株式会社三菱ケミカルホールディングス
執行役員CDO(最高デジタル責任者)
岩野 和生 氏
1975年東京大学理学部数学科卒業、87年米国プリンストン大学 Computer Science学科よりPh.D.取得。日本IBM 東京基礎研究所所長、米国ワトソン研究所 Autonomic Computing担当ディレクター、先進事業担当、 未来価値創造事業担当執行役員VPなどを歴任、2012年 三菱商事株式会社 ビジネスサービス部門顧問、 科学技術振興機構 上席フェロー。2017年より株式会社三菱ケミカルホールディングス 執行役員、先端技術・事業開発室 Chief Digital Officer。
◆Japan CDO of the Year 2017受賞 記念講演
日本ロレアルの
デジタル・トランスフォーメーション
日本ロレアル株式会社
チーフデジタルオフィサー(CDO)
デジタル統括責任者(デジタルカントリーマネージャー)
Japan CDO of the Year 2017受賞者 長瀬 次英 氏
CDOの取り組み事例紹介の3人めは、日本ロレアル株式会社 チーフデジタルオフィサー デジタル統括責任者 長瀬 次英氏が講演。「日本ロレアルのデジタル・トランスフォーメーション」と題し、CDOの役割、CDOとして成すべきこと、必要な環境などについて語った。
個に対してのバリュークリエーション
よく「CMO、CIO、CTO、CDOはどう違うのか?」と聞かれます。例えばCMOはマーケット、トレンドを見て、コーポレートのディレクションを考えます。CDOは何を見ているか?僕は人を見ています。社内の同僚たちの困った顔を見ています。聞いています。耳を立てています。そして何とかして、彼らの抱えている問題をすぐに解決します。バリュークリエーションですね。CDOは個に対してのバリュークリエーションだと思います。それは会社の内側だろうと、外の顧客だろうと。テクノロジーを把握した上でバリュークリエーションをするのが、CDOなのではないかと考えています。
CDOという言葉が新しすぎるため、「何をすればいいのかわからない」というトラップに陥りがちです。やはりデジタルを用いて何がしたいのかというところが鍵で、デジタルツール、ブロックチェーン、AI、ロボティクス…なんでもいいです。このようにデジタルはすごく幅が広いので、「そういったものを活用して何がしたいのか」ということがポイントだと思います。それが会社できちんととクリアになっているかどうか。それがたぶん大きなリアクションの違いになってくると思います。お客様のためにより良い提案をする、より良いビジネスをする、より良い労働環境を整える。すべてがバリュークリエーションで、CDOがすることです。
CDOにできること
CDOはE コマースを伸ばすためにいるわけではありません。その先が重要です。例えば、売上が急に上がってしまったら、サプライが追いつかなくなるかもしれません。サプライが追いつかなくなったらどうするか?人を増やすか?製造ピッチを上げるか?急にそんなことはできません。であれば、例えばクラウドソーシングに変える。ロジスティックを変える。倉庫のオペレーションも変える。AI や機械を導入して人数をもっと違うところに当てるとかをしたほうがいい。コールセンターも簡単な質問は AI が答えてしまって、ちょっとテクニカルなものは人が答えるみたいなことにする。いろいろなことがどんどんできます。人件費を半分に減らし、仕事を均等にするなども、CDOがいればできますし、やっています。
そしてもっとビジネスを成長させたい時には何をするか。人を雇います。人を雇う際の問題は、人事がちゃんとブリーフできないことです。「会社としてはここにプライオリティを置いているので、こういった形で進めてください」と、教育から始めないといけません。これはCDOの仕事です。
コーポレートイメージも作らなくてはいけません。今までのやり方ではロレアルの良さが全然伝わらないとなると、ソーシャルの活動もしなくてはならないし、ストラテジー、インフルエンサー戦略もやらなくてはいけない。CEOが見ているよりも細かく見て、デジタルシフトというものを行っているのはCDOだと思っています。
デジタル・トランスフォーメーションに必要な環境
デジタル・トランスフォーメーションを行うには、ある程度トップダウンの環境が重要です。わざわざチーフクラスにデジタルの責任者を置くのはそういう意味です。そして、たぶん日本では大きな弊害になってくると思うのですが、テストアンドランということを認める会社であること。ここが重要だと思います。ロレアルがそうでした。きちんとしたプランがあれば、他の会社では許されないような、失敗、損失を出しても許されるのです。どうやって取り戻すかとなった時には、ちゃんと答えることができ、「じゃあ、それで行こう」となります。たいへん寛容です。ここはけっこう日本の企業では難しいのではないでしょうか?特に日本人というものを考えた時、デジタル化するときに、ここが影響するなと思っています。
これが、できるかどうかということが大きいと思います。ロレアルにはこれがあった、というのが僕の中で大きなポイントでした。つまり、テストアンドランを、80%で進められる度胸があるかないかです。80%、70%で商品やサービスを展開してしまって、リアクションを聞いて、失敗したりフィードバックをもらって100%にもっていくほうが、実は早かったりするのです。ある程度の迷惑はかけてしまうかもしれません。しかし、顧客とのリレーションシップを作れる環境だったら、それほど悪影響はありません。「デジタルによって、お客さんの声を聴いて、近づくことができる。近づけているからこそ、ビジネスができる」。このマインドセットが必要です。「ブランドが王様」から「顧客が神様」。この考え方もそんなに新しくはないですよね。日本人の我々の中には、お客様は神様だというスピリットは昔からありました。それがデジタルになると、より顕著になるだけです。本当にお客様は神様だと思っていないと、ビジネスができなくなってきます。お客様の声を聞いて作るのは効率がよく、確実です。なぜなら、お客様が欲しいものをロレアルは作るのですから。
メーカーは今後、そういった考え方と体制を作っていく必要があると思います。こういったバリューが生まれるからこそ、より消費者に喜んでもらえるような状況になっていく。だから、顧客のことしか考えていません。これまではブランドでどんなものを作るかしか考えてなかったのが、顧客のことしか考えていない。こういった企業カルチャーも含めた体質改善も、CDOは担っていかなければならないと思います。
日本ロレアル株式会社
チーフデジタルオフィサー(CDO)
デジタル統括責任者(デジタルカントリーマネージャー)
Japan CDO of the Year 2017受賞者
長瀬 次英 氏
2015年よりデジタル戦略統括責任者/チーフデジタルオフィサー(CDO)兼エグゼクティブマネジメントコミッティーメンバーとして日本ロレアルに入社。その以前はInstagramの日本におけるビジネス/モネタイゼーションとプラットフォームの責任者としてインスタグラム・ジャパンの日本事業代表責任者、Facebookにてブランドビジネスディベロプメント/クライアントパートナーを務め、KDDI(ワイアレスビジネス推進部/サービス企画部)、JWT(アカウントマネジメント/ブランド戦略プラニング)、Unilever Japan/Unilever Australia(アジア地域ブランド開発マネージャー)、NuSkin(新規事業戦略マーケティング事業部長)と様々な業態/業種にて主にブランドの戦略構築や新商品開発、そしてアジア地域市場でのビジネスの建て直しや新事業ロンチ・収益化を手掛ける。