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CMO Forum 2017 開催レポート 1/3

 

2017年9月12日、東京・JA共済ビル カンファレンスホールで『CMO Forum 2017』を開催しました(主催:株式会社ビジネス・フォーラム事務局)。4回目となる今回は「CMOが創る、顧客と企業の新たな接点のデザイン」がテーマです。多様化する『顧客接点』と複雑化する『顧客ニーズ』に、CMO(Chief Marketing Officer:最高マーケティング責任者)は、いかに役割を担うべきか。この日の講演やパネルディスカッションの模様を紹介します。

ゲスト事例講演Ⅰ

ネスレ日本株式会社
専務執行役員 チーフ・マーケティング・オフィサー
石橋 昌文
Sponsor Session

株式会社ビービット
エグゼクティブマネージャ/エバンジェリスト
宮坂 祐
ゲスト事例講演Ⅱ

森永乳業株式会社
マーケティングコミュニケーション部 部長
寺田 文明
Main Sponsor Session

株式会社アクティブコア
代表取締役社長
山田 賢治
ゲスト事例講演Ⅲ

株式会社スタイリングライフ・ホールディングス
プラザスタイル カンパニー
カンパニーエグゼクティブデピュティプレジデント
販促宣伝本部 本部長兼務
岡田 典一
ゲスト対談

オイシックスドット大地株式会社
執行役員 CMT(Chief Marketing Technologist)
西井 敏恭
Panel Discussion

【モデレーター】
青山学院⼤学
経営学部 教授
⼩野 譲司

 

【パネリスト】
株式会社 東京海上日動コミュニケーションズ
執行役員
田口 浩

 

【パネリスト】
日本ロレアル株式会社
チーフデジタルオフィサー(CDO)
デジタル統括責任者(デジタルカントリーマネージャー)  
長瀬 次英

 

【パネリスト】
株式会社ニューバランスジャパン
DTC & マーケティングディレクター
鈴木 健

 

【パネリスト】
株式会社アクティブコア
代表取締役社長
山田 賢治

 

【パネリスト】
トリンプ・インターナショナル・ジャパン株式会社
オムニチャネル営業本部
オムニチャネル営業本部長
井上 千鶴

 

ゲスト事例講演Ⅰ【経営戦略 × “顧客接点”】

 

CMOがデザインする、これからの顧客接点創り
~企業と顧客のコミュニュケーションは新しい時代に~


ネスレ日本株式会社 専務執行役員 チーフ・マーケティング・オフィサー  石橋 昌文

 

 

独自のマーケティング戦略を実践、成熟市場で確実な成長

 ネスレ日本は「キットカット受験生応援キャンペーン」など、独自のマーケティング戦略の実践により、成熟する日本市場で確実な成長を遂げている。2012年には日本企業の中でも早い段階でCMOを設け、マーケティング思考の全社への浸透を図っている。専務執行役員CMOの石橋昌文氏が、ネスレ日本におけるCMOの役割、これまでの取り組みなどを語った。

縦割りを超えたマトリックス組織でマーケティング機能を発揮

 

 私は2012年、ネスレ日本のCMOに就任しました。CMOという役職をつくったのは、日本企業の中でもネスレ日本は早い方だったと認識しています。CMOの役割は商品分野別の縦割りを超え、コミュニケーション、マーケティングリサーチ、消費者対応などの専門性を持ったマトリックス組織でマーケティング機能を発揮させること。具体的な業務にはコーポレートブランドの強化・広報、メディアプランニング、オウンドメディアの活用、消費者コンタクトセンターの運営、CSV(Creating Shared Value)や戦略的PR、デジタルマーケティングの推進などがあります。

 

 ネスレ日本は成長戦略として「イノベーション&リノベーション」「消費者コミュニケーション」「いつでも、どこでも、どんな形でも製品の入手が可能」「低コストで高効率の運営」という4つの柱を掲げており、マーケティング施策もこの柱に沿って実行しています。2011年~2016年の売上高は年平均3.5%増、営業利益は同7.0%増を達成しています。

 

 

 また、ネスレ日本はマーケティングを「顧客の問題解決を通して新たな価値を創造する」ことと定義しています。全社にマーケティング思考を浸透させるマーケティング経営を実行していきたいと思っています。そのための1つの施策として、2011年に「イノベーションアワード」を立ち上げました。社員を対象とする表彰制度で、顧客を定義し、問題を発見し、解決方法のアイデアとその実行結果を報告してもらいます。優秀な成果を上げた人には賞金100万円を贈呈します。初年度の応募数は79件でしたが、2016年度には4724件に達しました。ネスレ日本の社員は2500人ですから1人2件弱、応募している計算です。

戦略的PRを実行、「キットカット」は広告換算37億円分の露出

 

 

 ネスレ日本はコミュニケーションの一環として戦略的PRを推進しています。その成功事例の1つが「キットカット受験生応援キャンペーン」です。キットカットは既に消費者への認知度が高く、広告を打っても効果が出にくい商材となっていました。そんな中、消費者の間で「きっと勝つ」の語呂合わせが受験の験担ぎになると購入するケースが増えていたことを活用。ホテルと連携し、宿泊した受験生にキットカットを手渡ししてもらったり、郵便局と手を組み、メッセージを書いて郵送できる「キットメール」を発売したりしました。このキャンペーンは「受験生をサポートしたい」第三者を核としてメッセージを発信する構図としたことが特徴です。こうした戦略的PRによってキットカットは2016年度、広告に換算すると37億円分もの露出を実現しました。

 

 消費者との接点としてオウンドメディアの活用も進めています。2010年秋に「ネスレアミューズ」を立ち上げ、ブランドごとに所有していた消費者データやキャンペーンデータを統合。ショートフィルム、レシピ、ゲームといったオリジナルコンテンツによって情報発信を行うプラットフォームとしました。通販オンラインショップも備えています。現在のネスレアミューズ会員数は約530万人です。我々の調べではコンテンツへの接触数が多いほど購入意向が高まる傾向があるため、更新のタイミングを図り、リピート訪問を促しています。ネスレアミューズは今後、YouTube、Twitterといったソーシャルメディアとの連携の強化やアプリでの取り組みを推進していきます。

 

消費者との接点としてもう1つ、VOC(Voice of Consumer)センターも活用しています。2009年、従来のコールセンターを消費者の声を吸い上げてそれをビジネスに活用していく狙いでVOCセンターと名称変更しました。具体的にはアフターサービス、メンバーシップ、デジタルコミュニケーション、販売の機能を持っています。ネスレ日本は2020年までに、現在15%ほどの直販ビジネスの比率を20%に高めたいと考えています。現時点でVOCセンターには年間100万コンタクトがあります。20%の直販比率が実現すれば300万コンタクトとなると予想されます。コミュニケーターの確保、コミュニケーションの質のバラつき、コスト増大などの課題を解決しなくてはなりません。そこで昨年、VOCセンターにIBM Watsonを導入。現在、コンタクトの15%をIBM Watsonが扱っています。

 

 ネスレは時代の流れを反映しながら新しい現実を理解しつつ、付加価値を創造しビジネスを伸ばしてきました。これからもその取り組みを続けていきます。

ネスレ日本株式会社
専務執行役員 チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)

石橋 昌文


1985年ネスレ日本に入社。ネスレUK、スイス本社を含め、19年間、コンフェクショナリービジネスに携わり、キットカット受験キャンペーンを成功させる。2009年にネスレ日本常務執行役員コミュニケーションズ&マーケティングエクセレンス本部長に就任。2012年にCMOに就任し、2017年より専務執行役員。社内横断的にマーケティングに関わる。

Sponsor Session 【行動データ活用×顧客体験の設計】

 

データ活用の常識が変わる!
売上140%を実現したUX改善の新手法「デジタル行動観察」


株式会社ビービット エグゼクティブマネージャ/エバンジェリスト   宮坂 祐

 

 

顧客の理解がデジタルマーケティング成功のカギ

 デジタルマーケティングを成功させるためには、顧客を理解し、顧客体験(UX)を改善していくことが欠かせない。しかしデータを集計し、まとめた数値からは顧客の真のニーズや心理を読み解くことは難しい。ビービットのエグゼクティブマネージャ/エバンジェリストの宮坂祐氏はデータを一人ひとりに分解し観察する新手法「デジタル行動観察」を紹介しながら顧客体験改善のポイントを示した。

集計した数値ではなく、データを一人ひとりの行動に分解して観察

 

  デジタル化の時代となり、商品・サービスを起点とする「モノ」から顧客のストーリーを起点とする「コト」をベースとしたビジネスモデルへの転換が進みつつあります。企業にとってはモノという“点”でのコミュニケートから、その前後のカスタマージャーニー全体で価値提供できるようになっています。顧客に関するデータを分析し、顧客を理解した上で顧客体験の改善につなげることが必要です。しかし、データを集計し、数値を見る定量分析から顧客体験を改善することは容易ではありません。相関と因果を取り違えてしまったり、施策の効果がよく把握できなかったりという問題が生じがちだからです。そこで私はデータの見方を変え、一人ひとりの行動に分解して観察する新手法「デジタル行動観察」を紹介したいと思います。

 

 デジタル行動観察とは、行動ログと顧客情報で一人ひとりの体験を見える化することを指します。まず誰の何の行動を観察するのかを決め、絞り込んだ顧客の行動を、一人ひとり、時系列に沿って観察します。次に一連の行動から、「なぜ、この顧客はこういう行動を取っているのか」を読み解き、解釈や気づきを得ます。そして、その解釈や気づきが全体に適用でき、量的に担保できるものなのかどうか、定量的な裏付けを取ります。デジタル行動観察はリアルユーザーによる行動観察をするのとは違い、仕組みさえあればいつでも手軽に実施できます。データが残っているので、確実に購入に至った顧客の行動を検証できます。ユーザーの記憶に頼らずに済むため、長期にわたって行動を確認することも可能です。

デジタル行動観察で「PDCA」を
「STPD(See、Think、Plan、Do)」に転換

 

 

 実際にデジタル行動観察を行って改善につなげた企業の事例を紹介しましょう。1つ目はカラーコンタクトのECサイトです。10~20代の女性に人気を集めるサイトですが、近年、大手企業の市場参入で競争が激化し売上が伸び悩んでいました。売上の大半を占めるリピート顧客を対象にデジタル行動観察を実施しました。従来の顧客データベースの分析では、リピート顧客のほとんどは毎回同じカラーコンタクトを購入しており、同じ商品にしか興味がないと想定されていました。ところがデジタル行動観察では、他のカラーコンタクトの口コミを何ページも見たり、一度購入した後にキャンセルしたりという行動が見られます。他の商品にも関心はあるものの決めきれない顧客の姿が浮き彫りになりました。そこでこのECサイトはいつもと違うカラーコンタクトを試したい顧客が思いきって意思決定できるような工夫を施しました。購入者がコメントを投稿する際には宣伝用の写真ではなく、装着したイメージが分かるような写真を投稿するよう促しました。またリピート顧客が「ブックマーク」からアクセスするのではなく、商品名の検索や広告経由でアクセスしてきている点にも着目。サイトの販促のためにWeb以外の施策も講じました。こうした顧客体験をとらえた施策によって売上は反転上昇しました。

 

 化粧品を販売するエステティクスはECサイトで新しいラインナップの売り上げが想定よりも伸びないという問題を抱えていました。従来、トップページに新商品のキャンペーンページを作り、バナーを貼って誘導していましたが、デジタル行動観察の結果、ユーザーはトップページからすぐに「よく買う商品」のページに移動してしまうことが判明。よく買う商品のページにバナーを貼るように改善したところ、1週間で売上は前週比140%に達しました。

 

 これまで企業の業務プロセスは「PDCA(Plan、Do、Check、Action)」で回っていましたが、デジタル行動観察を起点にすると「STPD(See、Think、Plan、Do)」となります。常に顧客を観ることから始め、その特徴や困りごとに気づけば、適切な課題設定、施策立案が可能になります。従来、データを個人に分解する作業は非常に手間がかかりました。今は一人ひとりを見ることに特化したツールが色々と出てきています。ビービットが提供する行動観察ツール「ユーザグラム」もそのひとつ。4月にリリース後、大手企業からネット専業企業までリリースから4か月で約60社に導入しています。まずは顧客体験の見える化を始めてみることが重要だと思います。

株式会社ビービット
エグゼクティブマネージャ/エバンジェリスト

宮坂 祐


一橋大学法学部卒業後、ビービット入社。金融、メーカー、メディア等のデジタル戦略に関するコンサルティングを多数手がけクライアントの成果向上に貢献。1000人超のユーザー行動観察調査の経験をもとに近年は講演や執筆活動も実施。2016年に『顧客を観よ~金融デジタルマーケティングの新標準』を出版。

 

「ユーザーグラム」http://www.bebit.co.jp/usergram/

ゲスト事例講演Ⅱ 【多様化する“顧客との接点”構築とコミュニケーション 】

 

お客様との新しい関係作りを目指して
~お客様起点のコミュニケーションの取組み~


森永乳業株式会社 マーケティングコミュニケーション部 部長   寺田 文明

 

 

「知ってもらう」「知る」「交流する」取組みを推進

 1日1000万個の商品販売で顧客との接点を持つ森永乳業。テクノロジーを活用し、顧客と直接的に接触しながら、さらに良い関係を構築しようとコミュニケーション活動を強化する。「企業を知ってもらう」「顧客を知る」「交流する」という3つのポイントで進める取組みについて、マーケティングコミュニケーション部部長の寺田文明氏が語った。

マスとリアルをつなぐインタラクティブなアプローチで、
共感の輪を広げる

 

 森永乳業は今年9月に創業100周年を迎えました。現在、1日に1000万個の商品を販売しており、毎日、お客様と1000万個に及ぶ接点を持っていることになります。テクノロジーの発達により、企業はお客様とコミュニケーションを取るための様々な手段を手に入れました。これからは従来の商品購買ルートだけでなく、直接的な接点ルートも強化することでコミュニケーションを充実させ、共感の輪を広げ、お客様と良い関係を構築し、ブランドを確立していくことが重要だと考えています。

 

 とはいえ、お客様から見れば情報が氾濫し、選択肢が数多くある状況です。我々が商品の「知覚品質」の差異を理解してもらい、選んでもらうことは簡単ではありません。従来、企業のコミュニケーション活動はマスを対象とした「企業発信」とリアルな「直接接触」という2つに絞られていました。これからはデジタル技術などを使って2つをつなぐような、「個対個」のエッセンスを持ち、感情を伝えられるインタラクティブなアプローチによって関係を構築する取組みが必要です。こうして関係をつくった上で、コミュニケーションによって知覚品質の差異を知ってもらうのが理想といえます。お客様と良い関係を作るためのポイントは「企業を知ってもらう」「お客様を知る」「交流する」の3つです。森永乳業はこの3つの活動を進め、お客様と「町内会以上友達未満」の関係を構築することを目指しています。


「企業を知ってもらう」ためにはまずコーポレートコミュニケーションを体系化し、「森永乳業と言えば…」という企業像を明確に持ってもらうことが重要です。このため、子供を応援するメッセージや研究・技術起点のメッセージを積極的に発信しています。また商品のステージごとにブランド像を作り上げていくことも求められます。導入したばかりの「イントロダクション」、ターゲット層を獲得した「成長」、市場に定着している「ブランディング」、発売から長い年月がたった「ロングセラー」と各ブランドが現在置かれたステージ別にコミュニケーション戦略を立案しています。例えばロングセラーの「ピノ」に関しては、チョコレートソースやマシュマロクリームなどを自由につけて楽しめる「ピノフォンデュカフェ」を期間限定で出店。リアルなブランド体験という価値を提供しています。いきなり広告するのではなく、お客様が我々に好意を抱き、話を自然と聞く気持ちになるような、広告ではない「プレコミュニケーション」を取っていくことも必要です。


「お客様を知る」ためには、データやデジタルを活用し、お客様のリアルの声を徹底して聞くことが求められます。重要なのは、同一対象者から多面的に情報を得るシングルソース、購買や視聴などの行動データ、そしてデータ連携です。さらにSNSから生の声を収集、分析する「ソーシャルリスニング」を積極的に行っています。

コミュニケーション活動の推進には横串機能の強化が必要

 

 

  お客様と常に「交流する」姿勢を持つために、森永乳業は多くのイベントを実施しています。昨年は70件を超えました。単発のイベント実施にとどめず、それらをプログラム化することでイベントの規模感を醸成し、発信メッセージを強化しています。例えば女子栄養大学と手を組んだ「食のオピニオンリーダー向け基礎学問+応用研究+実用調理イベント」、元オリンピック選手が参加する「バレーボール女子 中学生応援企画」などのプログラムで交流に努めています。


 コミュニティサイト「Newの森」にも力を入れています。こうしたコミュニティサイトは感情を伴う交流が多人数で可能なのが特徴といえます。「Newの森」には乳製品を使ったレシピ、乳製品に関する豆知識、掲示板機能などを備えていますが、分析の結果、コミュニティ内での関与レベルが上がるほど、当社に対する好意が向上し、実購買額が大きくなっていることがわかっています。


 こうしたコミュニケーション活動を部門別の縦割り組織で進めるのは困難です。1つの人格としてコミュニケーションをしていくために横串機能の強化が必要となります。CMOを求める声もありますが、役職を設定しなくても、社内の草の根的な動きで小さな成功体験を重ね、それを拡大し、組織化していくことが有効だと考えています。横串機能を持つ我々マーケティングコミュニケーション部は、泥臭く、汗を流しながら、旗振り役となって、できることを愚直にやり続けようと思っています。

森永乳業株式会社
マーケティングコミュニケーション部 部長

寺田 文明


84年入社、多摩工場(原料受入・仕込)、中央研究所(一般食品)、製品開発部(飲料商品)、米国駐在(LL豆腐 事業)、総務部秘書室、営業本部室を経て、08年より広告部に異動。16年にマーケティングコミュニケーション部に部門名変更。飲料、ヨーグルト、冷菓、チーズ等の広告コミュニケーション活動全般に携わる。