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Innovation Seminar 2018 第1回 Anticipate!

 

オープニング
アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社
マネージングパートナー・日本代表
原田 裕介
ゲスト講演Ⅰ

ソフトバンク コマース&サービス株式会社
コンシューマー事業本部
IoT戦略室 室長
近藤 正充
基調講演

アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社
マネージングパートナー・日本代表
原田 裕介
ゲスト講演Ⅱ

東日本旅客鉄道株式会社
総合企画本部 技術企画部
イノベーション・エコシステムPT
次長
中川 剛志
クロージング

 

オープニング


アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社 マネージングパートナー・日本代表

 原田 裕介

 

 

 講演に先立ち、3回にわたるセミナーの開催主旨と各講演の概要について、アーサー・ディ・リトル・ジャパンの原田氏から紹介がありました。アーサー・ディ・リトル(ADL)は、イノベーションやテクノロジー、社会や産業のパラダイムシフトにこだわりを持ったコンサルティング会社であると原田氏は語ります。また、ADLのバリュープロポジションは、社会や産業の将来どうなるのかを洞察し(Anticipate!)、次に、新しい道筋や方向性を提示し(Innovate!)、その上で、社会・産業・企業の組織が「Transform!」していくところまでを一貫してサポートすることにあり、今回のセミナーも、この3つのキーワードを各回のテーマにしていると続けました。

 「Anticipate!」をテーマにした第1回では、ソフトバンク コマース&サービスの近藤正充氏から、スタートアップや大企業のものづくりを支援するプラットフォームによって、ものづくりのシステムをどう変えようとしているのかについて紹介していただきます。東日本旅客鉄道の中川剛志氏には、JRが取り組むIoTやAI、ビッグデータを活用した新しい鉄道のサービスの取り組みについて紹介していただきます。

 

 次に「Innovate!」をテーマにした第2回では、ソニーの齋藤博氏から、社長直下のオープンイノベーションで行っている新しいものづくりの取り組みについて紹介していただきます。三菱ケミカルホールディングスのCDOである岩野和生氏には、デジタルによって化学系の伝統的企業の変革に向けての取り組みについて紹介していただきます。

 

 最後に「Transform!」をテーマにした第3回では、ヘルステックカンパニーへの変革を目指すフィリップス・ジャパンの相澤仁氏から、会社全体のトランスフォームについての学びにつき語っていただきます。また、ロボットバイクなどの開発に関わっているヤマハ発動機の西城洋志氏には、シリコンバレーにおける新しいものづくりの取り組みについて紹介いただきます。

 

 原田氏は他にも、「既存の産業区分では語れないような切り口」で「自社立ち位置の再定義」をしている注目すべき企業(テスラやテンセントなどの新興企業から、GEやマイクロソフトなどの従来型企業含め9社)を紹介しました。そして、「本日は、大きな環境変化の中、どのような視点で、“新規事業や組織改革、あるいは、産業を超えた新たなエコシステム作り”に進んでいけばよいのかにつき、なにか一つでもつかんでいただければ嬉しく思います」と述べ、オープニングのスピーチを締めくくりました。

アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社 マネージングパートナー・日本代表

原田 裕介

ゲスト講演Ⅰ:ソフトバンクが進める“新しいモノづくり”のカタチ

 


ソフトバンク コマース&サービス株式会社 コンシューマー事業本部 IoT戦略室 室長 
近藤 正充

 

 

 近藤正充氏は1999年にソフトバンクパブリッシング株式会社(現SBクリエイティブ株式会社)に入社後、2006年にはソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)に移籍。在職中約2年間のシリコンバレー勤務を経た後、2015年にはIoT時代のモノづくりを見据えた新事業「+Style (http://plusstyle.jp/) 」をスタートさせました。2017年にソフトバンク コマース&サービス株式会社に事業ごと移籍。本講演では「+Style」の取り組みについて、お話しいただきました。

IoT新時代を見据えた「+Style」という プラットフォーム

 

 情報流通の手段がパソコンからスマートフォン、さらにはIoTへと移行しようとしています。「さまざまなデバイスやセンサーなどがネットワークで繋がり、相互に情報を交換して問題解決するIoTデバイスの成長は著しい」と、近藤氏は語ります。ある調査では、IoTデバイスの数は2018年には世界全体で85億個と、スマートフォンの数を超えると予想されているそうです。近藤氏は、2040年になると日本では一人当たり1,000個超のIoTデバイスを所有すると予想しており、今後の新ビジネスの誕生に期待しています。現在はB2B向けの商品がほとんどのIoTデバイスも、今後はB2C向けの商品がいろいろと開発されると見ており、「+StyleはそんなIoT時代を見据えた、商品企画や開発、販売を支援するプラットフォームです」と近藤氏は紹介します。

 

 +Styleには、「プランニング」「クラウドファンディング」「ショッピング」という3つの機能があるとのこと。「プランニング」では、企業がユーザーと一緒に商品の企画を行います。そして、「クラウドファンディング」によって開発・製造のための資金調達を支援し、「ショッピング」ではWeb販売などによる商品の売買を支援します。「すでにこの2年間でさまざまな商品が誕生しています」と近藤氏は具体的な商品を例示します。たとえば、スマートフォンを使ってアプリからペットに餌をやるデバイスでは、カメラが付いているので遠隔からペットが餌を食べる様子を見ることができます。また、フィットネス機器にセンサーを付け、トレーニングの様子や成果などをスマートフォンで他人と共有できるデバイスなども注目され、さまざまな展示会で紹介することとなりました。

モノづくりの変化に応えるサポーターズとして

 

 

 近藤氏は続けて、IoT時代のモノづくりの今後のキーワードは、「オープンイノベーション」「クラウドファンディング」「ピボット」であると語ります。「ピボット」とは、事業の方向転換や方針変更を意味し、特にスタートアップ期のベンチャー企業において、現在進めている事業では成長が見込めなかったり、新たな可能性がある別の市場を見つけたりした場合に選択されます。IoT時代のモノづくりの過程は、「オープンイノベーション」で一般消費者の意見に耳を傾け、「クラウドファンディング」で企画をオープンにし、その商品が欲しいと思った人から資金援助を受けます。さらに、「ピボット」によって商品の評価を聞きます。「その評価により、今後の見込みがないなら、すぐに止めることも重要」と近藤氏は語ります。昔の商品企画は、企業の中の閉じた環境で進められていたのですが、今後は多様なニーズに細かく対応することが重要です。一方で、近藤氏は「モノづくりがどのような過程で行われているのか、ストーリー性を感じながら商品を育てていきたいと思う消費行動が生まれています」と最近の傾向に触れ、商品企画をオープンに進めていくことの意義を伝えました。

 

 +Styleでは、コンセプトの立案から流通に至る過程の中で、さまざまなサポートを行っています。物は作れるけれども売り方がわからない企業にはチャネル開拓を支援し、プロトタイプは作れるけれども量産ができない企業には、製造工場を紹介します。こういった取り組みによって、非IT企業に対してIT(IoT)化をサポートします。例えば、バッグメーカーのエース株式会社との取り組みでは、スマートフォンが充電できるバッテリーや、位置がわかるトラッキング機能が内蔵されたスマートラゲージ「マックスパス スマート」を商品化し、昨年秋から販売を開始しています。

 

 その他、興味深い取り組みとして、金沢美術工芸大学におけるIoT授業についての紹介がありました。2017年4月から2カ月間、IoTとはなにかを説明する授業を行い、最後に学生たちにIoTデバイスの企画とモックアップ製作までを行わせるカリキュラムです。すでに世の中に存在する先端のIoT技術を基にして、自分たちならばそれを使ってどんなプロダクトを作るかを発表させたのです。電気を伝える導電性繊維や、触れているだけで心拍データが取得できる技術などを持った企業と一緒に授業を行い、それらの技術を理解してもらったうえで学生にチャレンジさせました。企業側の感想は「今まで社内では出てこなかったアイデアが得られた」とのことで、「今年の授業では実際に商品化できるところまでやりたい」と近藤氏は語ります。

スタートアップの存在感が増したCES 2018

 

 

 最後にトピックスとして、今年1月にラスベガスで開催されたCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)の話題が紹介されました。昨年は、Amazonのスマートスピーカー対応デバイスの話題でもちきりだった感があったそうですが、今年はGoogleのスマートスピーカーの話題が目立ったとのこと。最近は大手自動車メーカーも積極的に出展しており、最新のエレクトロニクス技術が搭載された未来の自動車について紹介しています。中でも、今年はトヨタが発表した「e-パレット・コンセプト」という未来のモビリティのプラットフォームが印象に残ったとのことです。


 一方で、今年はフランスをはじめとするヨーロッパの国々がスタートアップの支援に力を入れ、存在感が増していることが印象に残ったそうです。ただ、その中で日本は少し取り残されている感があり、「+Styleによって日本のスタートアップを盛り上げていきたい」と語って、近藤氏は講演を締めくくりました。

ソフトバンク コマース&サービス株式会社
コンシューマー事業本部
IoT戦略室 室長

近藤 正充


+Style(プラススタイル)事業責任者。1999年、ソフトバンクパブリッシング(現:SBクリエイティブ)入社。ヤフープレス、iモードスタイル等の媒体を担当し、2005年にiモードスタイルの編集長に就任。2006年よりソフトバンクモバイル(現:ソフトバンク)に異動し、戦略企画、宣伝・販促企画、サービス/コンテンツ企画、携帯電話/スマートフォン商品企画などを担当。2013年より約2年間シリコンバレー勤務。2015年に帰国し、現職。

基調講演:激変するパラダイムが イノベーション・マネジメントに求める新たな視座

 


アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社 マネージングパートナー・日本代表
 原田 裕介

 

 

 原田裕介氏は東京工業大学大学院、マサチューセッツ工科大学(MIT)経営大学院を修了後、情報機器メーカーを経てアーサー・ディ・リトル(ADL)に参画しました。以来、産業を超えた事業モデル策定に関するプロジェクトを多数経験され、近年は成長戦略の策定や経営体制の構築など、戦略から実践までの一貫した支援に従事されています。今まさに激変するパラダイムシフトの潮流を感じておられ、そのような時代に求められるイノベーション・マネジメントについて、ご講演いただきました。

ビジネスの成り立ちが異なる新興企業とレガシー企業

 

 原田氏は、ゼネラル・エレクトリック(GE)やシーメンス、IBMなどといったレガシー企業は、デジタル化の波の中で大いに悩んでいると感じています。その理由について、「そもそもスタートアップなどの新興企業とレガシー企業では、ビジネスの成り立ちが大きく異なっています」と語ります。例えば、新興企業ではプラットフォームは、後から計画して作られたものではなく、会社の存在自体が「そもそも最初からプラットフォームベース」になっているか、「必然的に(自然に)プラットフォームが構築される」ようになっているが、対してレガシー企業は、投資額とその期待成果を踏まえた事業プランとしてのプラットフォーム構築になりがちであると述べます。

 

 例えばアマゾンも、創立当初は各業務プロセスにつき、アウトソースを活用していましたが、徐々に買収を含めた内製化を進めた結果、ITインフラはもとより、商品の流通から配送、さらにはコンテンツ配信や制作に至るまで、自社の事業の枠を超えたプラットフォームが出来上がりました。このように新興企業においては、「プラットフォームを活用して、社会や産業を変えていくようなエコシステムの創造までを目指している」と原田氏は見ています。一方で、レガシー企業でありがちなのは、ベンダーの立場を固持し、大口アカウントからの取り引きや事業成果をベースにしたプラットフォームの構築になり、その結局、どうしても株主の利益や短期的な収益にこだわってしまい、「民主的、かつ、ボーダーレスにビジネスを標準化できるプラットフォーム」という捉え方ができなくなっていると指摘しました。

パラダイムシフトによってなにが起きようとしているのか

 

 

 こうしたパラダイムの変化によって、どういうことが起きているのでしょうか。その点について原田氏は、「イノベーションの対象が“商材”から“顧客”、そして“社会・産業”へと変化している」と語ります。イノベーションの方法についても、「自社のための“個別プロダクトの開発”から、顧客に対しての“プロダクト連携・システム連携”へと進み、さらに“全く新しい社会システム・アーキテクチャの提案”へと変化している」と語ります。すなわち、イノベーションの方向が、「モノづくり」から「コトづくり」、そして「場づくり」へと進化しているということです。その実例として原田氏は、まず、中国においてモバイル決済の普及を進めるAlibaba/Tencentのとりくみを紹介し、その背後にある、単なる決済の枠組みを超えた、国家的デジタルレーニン主義とも捉えることができる本質的パラダイムシフトまで深堀りました。さらに、電気自動車事業によるエネルギー需要側と、太陽光発電事業の推進によるエネルギー供給側の両方の立場に立とうとしている”世界で唯一の垂直統合型エネルギー企業“を目指すTeslaや、既存システムを覆す技術開発をミッションとして、数多くの産業革命を起こしているDARPA(国防高等研究計画局)の時代に即したイノベーション創出のアプローチと、それを民間に展開したADLの実例をもって紹介しました。


 こういったパラダイムシフトについて、原田氏は改めて3つの側面から解説しました。1つ目の“課題解決のあり方の変化”では、社会課題を解決することが経済価値の創造につながってきたとし、「行政や自治体などが主体に行ってきた社会課題の解決のための取り組みが民間にもシフトしている」と語りました。また、SDGsやESGなどの影響といった定性的な時代感の提示にとどまらず、著名ベンチャーキャピタル(VC)の投資対象先領域テーマからも、当該変化につき紐解きました。2つ目の“業界の枠組みの変化”では、「バリューチェーンの内外において異業種による競争が進展している」と語ります。3つ目の“変革を実現する技術の多様化”では、2010年を「60年に1回の産業変革」「100年に1回の社会変革」「15年に1回のICT変革」の3つの変革が一気に起きた年と捉え、一例として、画像認識技術においてディープランニングによる圧倒的ブレイクスル―があったこと。及び、画像認識技術、あるいはAIが、誰でも使えるようになってきている、オープンソース化などのパラダイムシフトについて触れました。

激変するパラダイムにどう対応していけばいいのか

 

 

 このような、パラダイムの劇的な変化に対応すべき企業の考えるべきことは、「本質的変化を踏まえたパラダイムの抽出」「新たなポートフォリオマネジメントの導入」「自社の強みと変曲点の交点を踏まえたビジョンの構築」「事業・産業を越えた枠組みの俯瞰」「内なる組織への対峙:組織とプロセスの開発」であるとし、原田氏は次のように解説します。


 「本質的変化を踏まえたパラダイム」の例として、IoTやAIの普及による知財のあり方、例えば、「学習済みモデル」という新たな知財が現出してきたこと、あるいは、ユーザー主導のモビリティのあり方などに言及し、このような変化を、迅速かつ正確に捉えることが重要になると述べました。「新たなポートフォリオマネジメント」は、リスクや事業ステージに合った外部の活用、ともなうステージゲート的な考えを超えた考え方の重要性を説き、例えば、定常業務型と異なる組織構造の導入などの実践例を紹介しました。さらに、本質的な変化は、ポートフォリオマネジメントに限らず、バリューチェーンの見方、データの意義、経営資源の定義、まであり、その内容についても言及しました。「自社の強みと変曲点の交点」を捉えるための、事業創出に向けた、技術を含めた自社資源の棚卸しからのビジョンを構築に至る5つのステップを紹介しました。「事業・産業を越えた枠組み」の例としては、AI技術者を積極的に採用している広告代理店の状況は、自動運転などのモビリティ領域と共通な「業界構造の破壊的変革」という視点にて紐解きました。また、外部を活用、例えば、VCの活用においても、その目的ごとにアクセスすべきVCが違うことを示しました。そして、「内なる組織への対峙」として触れられたのは、新しいことを始める際には過去の成功体験が往々にして邪魔になること。および、マイクロソフトの新CEOが取り組もうとしている企業文化の変革やIBMがどのように変革してきたかの実例から、日本企業もマネジメントとしてとりくむべき、事業環境や産業の変革時における“文化・風土の変革”の重要性につき語りました。


 まとめとして、これまでにないパラダイムシフトが、解くべき課題や競争のあり方、製品・サービス・技術まで、すべての分野に現れ、社会や産業の変革を自ら描画して推進していくモデルが台頭していくことになると原田氏は語りました。そのため、自社の強みとオープンイノベーションとのバランスを再検討したエコシステムおよび組織プロセス・文化の再構築が必須であると述べ、講演を締めくくりました。

アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社
マネージングパートナー・日本代表

原田 裕介


東京工業大学大学院、マサチューセッツ工科大学(MIT)経営大学院修了。情報機器メーカーを経てADLに参画。以来、上流の素材から顧客接点まで含めた、産業を超えた事業モデル策定に関するプロジェクトを多数経験。近年は、産業構造や社会環境の変化潮流を踏まえた成長戦略の策定、イノベーションを継続的に創出する経営体制の構築等、戦略から実装までの一貫した支援に従事。経済同友会会員、経済産業省技術経営プログラム企画検討委員等。講演、著書、執筆多数。

ゲスト講演Ⅱ:IoT・BigData・AI による「モビリティ革命」の実現

 


東日本旅客鉄道株式会社 総合企画本部 技術企画部 イノベーション・エコシステムPT 次長
 中川 剛志

 

 

 関東から東北までを営業エリアとし、1日約1,710万人が利用している東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)。鉄道事業をはじめとして生活サービス事業やIT・Suica事業、さらには今年度から新たに加わった国際事業本部を含め、4つの事業に取り組んでいます。同社で研究開発の統括、計画策定、支援などを行う技術企画部の中川剛志氏から、ICTやAI、ロボットなどの最新技術を活用する「技術革新中長期ビジョン」を中心にご講演いただきました。

技術革新中長期ビジョンにおける
4つの分野への取り組みとは

 

 2016年までは右肩上がりだった日本の人口も、2017年からはついに減少に転じました。一方でICT分野の技術開発は今後も指数関数的に進んでいき、特にAIおよびAIを搭載したロボット分野に関しては、ますます技術革新が進んでいくと予測されます。JR東日本では2016年11月、こういった環境の変化に対応するため「技術革新中長期ビジョン」を発表しました。その方向性について中川氏は、「IoTやビッグデータ、AIなどによって“モビリティ革命”を実現します」と語ります。具体的には、「安全・安心」「サービス&マーケティング」「オペレーション&メンテナンス」「エネルギー・環境」の4つの分野に取り組むとのことです。

 

 中川氏は「安全・安心」分野の目的について、「危険を予測しリスクを最小化することであり、そのためにデータ分析によるリスクの予測などを考えています」と語りました。「サービス&マーケティング」分野については、お客さまへ「Now, Here, Me(今だけ、ここだけ、私だけ)」の価値を提供。特に、ドアツードアでの移動を意識したサービスを進めていくとのこと。「オペレーション&メンテナンス」分野では、生産年齢人口20%減を見据え、仕事の新しい仕組みを作っていきます。例えば、線路や架線のメンテナンス業務などにAIの技術を取り込み、機械化を進めていきたいと語ります。「エネルギー・環境」分野においては、今以上のエネルギーマネジメントにより、2030年度に鉄道エネルギーの使用量を25%削減することを目指しているとのことです。

具体的な取り組みは「メンテナンスの革新」
「顧客サービス」「AIとロボットの開発」

 

 

 中川氏は続けて、「技術革新中長期ビジョン」に関する取り組みの各論について説明します。まずは「メンテナンスの革新」です。線路や架線のメンテナンスに関して、「現在の“時間”を基軸にしたTBM(タイム・ベースド・メンテナンス:時間基準保全)からCBM(コンディション・ベースド・メンテナンス:状態基準保全)に移行する“スマートメンテナンス構想”を進めています」と中川氏は語ります。これまでのように、定期的に専用の軌道検測車を走らせたり目視によって状態を検査するのではなく、普段稼働している営業車両にモニタリング装置を搭載して毎日状態を監視するというものです。すでに、山手線の新型車両で、この取り組みを試行しています。


 次に「顧客サービス」の取り組みについて中川氏は語ります。2014年3月にリリースしたJR東日本アプリのダウンロード数は、すでに300万件を超えているとのこと。このアプリでは、例えば山手線では利用者は列車の場所だけでなく車内の温度や混雑情報などもわかります。また、管理側も運行状況の見える化によって列車の位置情報や混雑率をビジュアルに把握でき、適切な輸送配置が実現できます。「次世代新幹線」では東京・札幌間が5時間で結ばれることが予想されるので、お客様にその時間を快適に過ごしてもらうための新しい価値を提供しようという取り組みも行っています。


 「AIとロボットの開発」の取り組みで中川氏は、ディープラーニングによる画像解析の可能性に注目していると語りました。「AIによる眼を線路や架線のメンテナンスに役立てようと考えています」(中川氏)。その他にもAIをコールセンターにおけるお客様案内に活用し、電話による問い合わせへの対応数を減らしたり、1件あたりの応答時間を短縮し、応答率を向上させようとしています。そしてロボットの活用を、労働人口減少対策と捉えているとのこと。例えば、駅構内におけるロボットの自律移動を実現し、混雑状況を把握するクラウドシステムと連携して混雑を回避するロボットを開発しています。

モビリティ革命の実現に向けた取り組みについて

 

 

 自動運転時代の到来によって、クルマを所有するという認識がなくなり、「公共交通機関とマイカーの区別があいまいになってくる」と考える中川氏。将来、モビリティ革命によってあらゆる既存の交通インフラのサービス、情報、決済を統合し、ワンストップでシームレスかつフレキシブルなサービスとして提供する「MaaS(Mobility as a Service)」の時代が来ると予測します。MaaSによって、ユーザーはスマートフォンで検索するだけでA地点からB地点までのトータルな乗り換え情報を得るだけでなく、支払いもクレジットカードで一括で済ませられるようになります。そんな時代に鉄道に求められるのは、ファーストワンマイルやラストワンマイルを支援する連携の仕組みです。


 こうしたモビリティ革命の実現に向けた取り組みで重要なことの一つに、「場の創出」があります。そこでJR東日本は、2017年9月に新たなエコシステム構築を目指して「モビリティ変革コンソーシアム」を設立、現時点で105社が参加し、「Door to Door推進WG」「Smart City WG」「ロボット活用WG」という3つのワーキンググループを構築し、運営・活動しています。「Door to Door推進WG」では、出発地から到着地までのシームレスな移動の実現をテーマにしています。「Smart City WG」では、ドイツ鉄道を事例に、次世代型の街にあり方とそれを支える公共交通の役割について検討しています。「ロボット活用WG」では、サービス分野とメンテナンス分野、そして車両工場のスマート化についても検討しています。中川氏は最後に、「今後もワーキンググループ参加企業と、積極的に実証実験などを進めていきたい」と語りました。

東日本旅客鉄道株式会社
総合企画本部 技術企画部
イノベーション・エコシステムPT
次長

中川 剛志


1991年東日本旅客鉄道株式会社に入社し、通信業務の保守・工事に従事。2001年よりフロンティアサービス研究所にてICTに関する研究開発を推進。2014年5月より本社総合企画本部技術企画部にて技術開発におけるオープンイノベーションを担当する。モビリティ変革コンソーシアム事務局長。

クロージング

 

アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社 マネージングパートナー・日本代表

 原田 裕介

 

 クロージングでは、アーサー・ディ・リトル・ジャパンの原田裕介氏が、今日は2つの大きなメッセージがあったと語ります。1つは「新しいイノベーション創出の在り方」として、「社内での研究開発型、あるいは個別顧客との共創型に加えて、関連プレイヤーとビジョンを共有して連携・拡大しながら取り組むエコシステム型の存在感が増してきていること」について。もう1つは、「イノベーション創出の目線の変化」として「“自社の商材・サービス”、あるいは“顧客”に加えて、“社会課題”を見据えた上で、社会や産業システムを変えていく目線でのイノベーションが重要になってきていること」。このようなことから、社会インフラの要求機能への取り組みが非常に重要になってきたと感じられること。さらに、エコシステム型のイノベーション創出が広がってきている中で、「場づくり」が重要だと語ります。


 また、ゲスト講演について振り返りを、「社会産業インフラ」「エコシステム」「場つくり」という三つの重要ワードを提示して行いました。まず、ソフトバンク コマース&サービスの佐藤正充氏の講演では、「消費者参加型のプラットフォームを作っている」という話に大変興味を持ったと語ります。中でも、「場所自体がIT化する」という考え方が興味深かったとのこと。他にもイノベーションに関する新しい流れとして、今年のCESで、多くの各国ベンチャー企業が集結しているホールに、興味のある投資家や関連プレイヤーが集まり、活発に交流するEurekaという場の意義に言及しました。


 さらに、中川氏の「イノベーション・エコシステムを作って社会課題を解決していく」という話に触れ、そのための新しい仕掛け・仕組みとして「モビリティ変革コンソーシアム」の話があり、まさに社会産業作りという、新しいイノベーションに関しての実例を紹介いただいたことが印象深かったと語りました。

最後に原田氏は、「今年のCESでの8つの学び」と「ADLと3Dプリンティング企業の提携」につき紹介し、第1回のすべての講演が終了となりました。

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