2019/01/25 (  金 )

NIHONBASHI BRIGE FORUM 2018

NIHONBASHI BRIGE FORUM 2018

NIHONBASHI BRIDGE FORUM 2018
働く「こころ」のマネジメント
最高の成果を生み出す組織・人づくり

2018年10月25日、日本橋三井ホールにて「NIHONBASHI BRIDGE FORUM 2018~働く「こころ」のマネジメント 最高の成果を生み出す組織・人づくり」を開催いたしました。

「NIHONBASHI BRIDGE FORUM 2018~働く「こころ」のマネジメント 最高の成果を生み出す組織・人づくり」

2018年10月25日、日本橋三井ホールにて「NIHONBASHI BRIDGE FORUM 2018~働く「こころ」のマネジメント 最高の成果を生み出す組織・人づくり」を開催いたしました。

特別講演 :「ワークプレイス版『嫌われる勇気』実践のススメ」

哲学者 岸見 一郎

哲学者 岸見一郎 氏

 最初の講演者は、『嫌われる勇気』をはじめとする多くの著書で知られる、哲学者であり、アドラー心理学の研究者でもある岸見一郎氏です。テーマは「ワークプレイス版『嫌われる勇気』実践のススメ」。日々働く職場においての「嫌われる勇気」の本質や、対人関係のありかた、リーダーに求められる資質などについて語っていただきました。

 

評価を恐れず、仕事に取り組む勇気

『嫌われる勇気』という本のタイトルが一人歩きして、「嫌われてもいいから言いたいことは言わないといけない」という意味に解釈されている方が割と多いのですが、実はそういう話ではありません。リーダーは自分の言いたいことを言うのではなく、「自分の言葉に、部下、働く側の心に、何か語りかけるものがあるか」、そこを考えていかなければいけません。例えば、朝、皆が「今日も一日がんばるぞ」という気持ちになれるかどうかということです。そのような気持ちになれるように働きかけることが、リーダーの役割です。

リーダーは、人と人との関係のあり方について、よく知っていなければなりません。対人関係は、職場のものだけが特別なのではなく、あらゆる対人関係が同じなのです。皆さんが職場で尊敬されるリーダーでありながら、家庭ではあまりよく思われていないということは、本来あり得ません。どの対人関係もうまくできるという術を心得ていなければ、職場でリーダーという立場で指導することはできないと思います。

アドラーがこう言っています。「自分に価値があると思える時にだけ、勇気を持てる」。勇気には2つの意味があります。1つ目は「仕事に取り組む勇気」です。結果が評価としてはっきり出ることを恐れる人がいます。そういう場合、失敗や間違いを恐れます。失敗や間違いを恐れると、進歩も成長もなくなってしまいます。人からどう評価されるかということを恐れる人は、あまりにも多いと思います。それに伴って起こるもう1つのことは、上司の顔色を伺う。上司に気に入られようとする。自己保身に走って平気で嘘もついてしまう。それではいけないと思います。「嫌われることを恐れるな」、「評価を恐れずに仕事に取り組め」ということが、「嫌われる勇気」の元々の意味なのです。

評価を恐れないということは、失敗や間違いを恐れずに挑戦し、その結果も恐れないということです。評価を恐れるのは、ひとえにリーダーの責任だと思います。リーダーは、自分が教えている人に自分を超えさせなくてはなりません。ですから、「出来が悪い」と叱るばかりではなく、叱らなければならない状況になった場合には、「自分の指導には改善の余地がある」と思ったほうがいいでしょう。

対人関係を恐れない勇気

哲学者 岸見一郎 氏

もう1つの勇気は、「対人関係の中に入っていく勇気」です。人との関係の中に入れば摩擦が起き、傷つくこともあります。対人関係の中に入ることによって傷つくことを恐れる人は、何らかの理由をつけて、入らないようにします。とはいえ、生きる喜び、幸せだという感覚も、対人関係の中でしか得ることができません。仕事も対人関係そのものなので、それを恐れていたら仕事になりませんよね。そして、対人関係の中には、仕事を超えた喜びもあります。お客さんとの関係でもそうですし、同僚との関係、部下や上司との関係の中で、そういう感覚を持てるということは、すごく大切です。

対人関係の中に入っていく、あるいは仕事に取り組む勇気を持てるようになるためには、アドラーは「自分に価値があると思えなければいけない」と言っています。叱られた若い人が、果たして自分に価値があると思えるかどうか。今やってしまった失敗について「駄目じゃないか」と言われた場合は、部下も「言われても仕方ない」と思うのですが、上司はつい余計なことを言います。「お前はいつだって、何をやらせてもダメじゃないか」とか。上司は「叱ってやると奮起するんじゃないか」と大きな勘違いをしています。実際には、若い人はそんなふうに叱られたら、「自分に価値がある」とは思えなくなります。失敗は次回挽回するしかありません。そのためには同じ失敗をしないための工夫をすればいいのです。

叱られることで、対人関係の心理的な距離は遠くなります。距離が遠くなったら、「上司の言うことが正論だ」と受け入れることをしなくなります。リーダーは、時には厳しいことも言わなければなりません。しかし、「挑戦的な言い方、威嚇的な言い方をする」と思われるような関係を築くことはよくありません。逆に言うと、文句を言うような言い方をしても、若い人が素直に受け入れてくれるような関係を築いていかなければならないということです。部下が、本人の考えに基づいて、思い通りに、思い切って行動できる環境を作ることが、上司の大切な役目だと思っています。

Voice of attendees

「部下との対人関係の重要な点を学ぶことができました。対等な目線でリーダーとしての役割を担っていきたいと思います。職場を変えていこうという勇気をもらいました。」

「会社の対人関係で意識すべきことは、家族(子供)との関係にもあてはまる。抱えていた悩みを解決する糸口が得られるとても良いお話だった。」 


楠哲学者
岸見一郎氏


1956年、京都生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程満期退学(西洋哲学史専攻)。専門の哲学に並行して、心理学のフロイト、ユングと並ぶアドラー心理学を研究。奈良女子大学文学部非常勤講師、京都聖カタリナ高等学校看護専攻科(心理学)非常勤講師などを歴任。 著書に『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(古賀史健と共著、ダイヤモンド社)、『幸福の哲学』(講談社)、『愛とためらいの哲学』(PHP研究所)、『成功ではなく、幸福について語ろう』(幻冬社)、『老いる勇気』(PHP研究所)、訳書にアドラー『個人心理学講義』『人生の意味の心理学』(アルテ)、プラトン『ソクラテスの弁明』(KADOKAWA)など多数。

基調講演: 「夢みる力が“気”をつくる」 

九州旅客鉄道株式会社 代表取締役会長 唐池 恒二

九州旅客鉄道株式会社 代表取締役会長 唐池恒二 氏

 世界的な注目を集めたクルーズトレイン「ななつ星in九州」。その企画から運行まで、自ら陣頭指揮を執った九州旅客鉄道(JR九州)代表取締役会長 唐池恒二氏。ななつ星以外にも「ゆふいんの森」、「あそBOY」等、D&S(デザイン&ストーリー)列車の運行をはじめ、博多~韓国・釜山間の高速船「ビートル」の就航にも尽力されました。さらには、九州新幹線全線開業、国内最大級の商業駅ビル「JR博多シティ」開業という2大プロジェクトを成功に導いた立役者でもあります。今回は、「夢みる力が“気”をつくる」と題し、新たな事業分野に果敢に挑む熱い組織の作り方、従業員、関連企業、そして地域も含めた、事業に関わるあらゆる人の「心の火」のともし方など、経営者の視点から、心のマネジメントについてご講演いただきました。

「世界一豪華な寝台列車」という新たな夢をつくる

1987年、国鉄分割民営化に伴いJR九州が誕生しました。大赤字でのスタートでしたが、夢を2つ持っていました。1つは株式上場。そして2つ目は、九州に新幹線を走らせたいという夢です。当初、絶対に叶わないと思っていました。社員も当時の社長も、そう思っていました。

ところが会社発足から22年。2009年に私が社長に就任した時には、2年後に九州新幹線が開業することが決まっていました。絶対に叶わないと思っていた夢が実現するのです。しかし、夢が実現するということは夢が無くなるということです。特に鉄道部門の社員たちにとって、新幹線は大きな夢でした。その実現は大変喜ばしいことですが、夢がなくなるということでもあるのです。

鉄道以外の事業はどんどん成長していました。鉄道以外の分野の社員からは、次から次へと夢が出てきて、その実現を目指す。だから成長していきます。ところが鉄道事業は売上が横ばいで、唯一の夢が九州新幹線でした。それが実現して、鉄道部門の夢が無くなるのです。「夢を持たない組織の士気を高めるのは大変だろう。夢を作らなくてはいけない。では夢を作ろう」ということで、主だった部長を集めて「世界一豪華な寝台列車を作ろう」と投げかけたのが2009年6月です。九州新幹線の開業が迫り、大変な時期でした。

技術的、経営的に成り立つのか検証するようにと投げかけ、1カ月後に返答が来ました。「大きな課題、解決しなくてはならない問題が山ほどあります。しかし、社外の知恵と力を借り、私たちが猛勉強しながら進めれば、やってやれないことはありません」というのが各部長からの回答でした。行間からは「やりたくありません」という気持ちも読み取れましたが、こういう時、トップは無性にやりたくなるものです。「これはやろう」と思いました。

“気”が詰まった列車が感動を生む

九州旅客鉄道株式会社 代表取締役会長 唐池恒二 氏

「ななつ星」には、デザイナー、職人、地域の人々、JR九州全社員、多くの人々の手間や思い、期待が詰まっています。それを総称するのが「気」だといえます。勇気の気、気力の気、気迫の気、そういうものが詰まっているのです。「ななつ星」に乗るお客様は、列車が駅を出発するときに社員や居合わせた観光客が手を振る姿を見て、沿線で手を振る住民の方々を見て、そしてクルーや地元の人たちのおもてなしに感動し、涙されます。列車の旅の最後にはフェアウェルパーティーがあって、「あと1時間ほどで旅が終わる」と思うと皆さん、号泣します。クルーたちも泣きます。なぜ泣くのか。「これは気だ。気がななつ星にぎっしり詰まっている。気が作用しているんじゃないか」と最近思うようになったのです。「気」イコール「エネルギー」です。気のエネルギーが感動のエネルギーに変化している。エネルギーは、お客様はもちろん、応援している人にも伝わるのです。

「気」が目に見えないエネルギーとなって私たちを動かしています。気は人間誰しもが持っているものです。ただ、気がどんどん集まって満ち溢れる人と、薄らいでいく人とで差が出てきます。ですから、気を集めたら勝ちです。気が満ち溢れた職場は元気になります。気が満ち溢れた店は必ず繁盛します。私は、気が満ち溢れた会社は業績が良くなると信じていますし、当社の社員は気について、私と同じように語れます。気を大事にして、気を信じて、気を高めようとしてくれています。

ではどうやって気を集めればいいのか。その1つの方法は、夢見る力を持つことです。夢見る力が組織に気を与えます。また、組織に気を満ち溢れさせることは、働き方にも通じていると思います。スピードのある、きびきびとした動きをする集団には気が集まってきます。明るく元気な声で会話する、そういった職場、お店には気が集まってきます。そして隙を見せない緊張感。隙を見せないお店、隙がない組織にも気が集まってきます。「世界一豪華な寝台列車」という夢を見る力が気を集め、実現に向けて関わる多くの人々に伝わって、さらに気を集め、お客様にも伝わって、感動を生むことにつながっているのだと思います。

Voice of attendees

「熱い思いが伝わってきて、お話を聞いているだけで涙が出ました。今の自分の会社には「本気」が足りない。「気に満ちあふれた職場」のためにすぐできることはいくつもあると気づいた。」

「夢を語ること、気の大切さ。経営者が熱をもって事業を推進していくことで、組織が変わっていくこと、また、人々の本気がすばらしい価値提供につながるという考え方に感動しました。」


九州旅客鉄道株式会社
代表取締役会長
唐池 恒二


1953年大阪府生まれ。1977年京都大学法学部を卒業後、日本国有鉄道に入社。1987年国鉄分割民営化に伴い、九州旅客鉄道株式会社(JR九州)に入社。「ゆふいんの森」や「あそBOY」等のD&S(デザイン&ストーリー)列車の運行をはじめ、博多~韓国・釜山間の高速船「ビートル」の就航に尽力。その後、毎年大幅な赤字を計上していた外食事業を黒字化し、子会社化したJR九州フードサービスの社長に就任。2002年には、炭焼創菜(そうさい)料理店、「赤坂うまや」の東京進出を果たす。2009年6月JR九州代表取締役社長に就任。2011年には九州新幹線全線開業、国内最大級の商業駅ビル「JR博多シティ」開業と、2大プロジェクトも成し遂げた。九州を基盤に魅力あるまちづくりを目指す中で、外食事業の海外進出や農業などの新たな事業分野へも果敢に挑んできた。2013年10月に運行を開始し、世界的な注目を集めたクルーズトレイン「ななつ星in九州」は、その企画から運行まで自ら陣頭指揮を執った。2014年6月、JR九州会長に就任。

テクニカルセッション: “実践版” アンガーマネジメント
~1分で解決!怒らない伝え方

日本アンガーマネジメント協会 理事 戸田 久実 

日本アンガーマネジメント協会 理事 戸田久実 氏

 怒りと上手に付き合うための心理トレーニング、「アンガーマネジメント」を推進する日本アンガーマネジメント協会理事、戸田久実氏。今回、テクニカルセッションとして、アンガーマネジメントとはどのようなものかを分かりやすく解説していただきました。多くの実例を紹介し、フォーラム参加者同士で意見交換を行うなど、参加者それぞれが自身の働き方や指導方法に、新たな気づきを得るきっかけづくりの場=体験型セッションが実現できました。

怒りに振り回されず、上手に怒る

「アンガー」は「怒り」です。それをマネジメントしようというのが「アンガーマネジメント」です。そして、「マネジメントとは後悔しないこと」と私どもはお伝えしています。これは、「怒る必要があるときには上手に怒りましょう」ということです。怒る必要のないことには怒らないようになり、後悔しないようになる。それを目指すのです。よく勘違いされて、「アンガーマネジメントって、怒っちゃいけませんよということでしょ」と言われるのですが、そうではありません。怒りは感じてもいいし、必要ならば怒ってもいいのです。ただし、怒る必要があることと、怒らなくてもいいことを見極められることが大切なのです。

「怒る必要があるときは、3つの点に気をつけて上手に怒るように」と私どもはお伝えしています。3つの点とは、1点目に人を傷つけないこと、2点目は物を壊さないこと、3点目は自分を傷つけないことです。怒りは自然な感情のひとつです。さらに、怒りは自分の身を守るための感情ともいわれています。大切なのは、「怒りに振り回されないこと」です。「怒らなくてもいいことを見極められる」、「怒るならば適切な表現ができる」、さらに「自分の感情に責任を持てる」、これらがアンガーマネジメントの目指すところです。

私たちは、「怒りは自分が生み出した感情だよ」とお伝えしています。誰かのせい、何かのせいではなく、怒りは自分が生み出した感情だと。そこに関わってくるのが「べき」という発想です。「こういうときはこうするべきだよね」、「こうあるべきだ」というように、「べき」は自分の理想、願望、譲れない価値観を象徴する言葉です。そういう「べき」がその通りになっていない、思い通りになっていない、破られた。そのときに怒りが生まれます。自分はどの程度の「べき」を持っていて、どの程度のことを望んでいるのか。それを振り返り、それが伝わるように相手に対して言語化できているか、そこを振り返ってみる必要があります。そういう機会を設けていくことも、アンガーマネジメントのトレーニングのひとつ です。

適切な叱り方のポイント

日本アンガーマネジメント協会 理事 戸田久実 氏

叱ることは悪いことではありません。「相手の成長を願って、意識と行動を改善してもらうことが、叱ることの目的ではないか」とお伝えしています。問題なのは叱り方です。適切な叱り方をするためには、相手にどう伝えるのかが大切です。そのポイントは5つあります。1つ目は「何を伝えたいか」です。あちらこちらに話が飛ばないように、的を絞って明確に伝えます。2つ目は、的を絞ったらそれを「抽象的な表現ではなく具体的に伝えること」です。「何をどのようにしてほしいのか」、「なぜそのようにしてほしいのか」、「なぜこう言っているのか」、それを相手が理解できるように伝える文言も必要です。3つ目に、「客観的な事実を伝えること」です。例えば、「いつも約束破るよね」、「絶対に私の言うことを聞いてくれない」という場合、それは事実なのかを振り返ることもしてください。例にあげた「いつも」、「絶対に」は事実なのでしょうか、4番目に、「なぜ」と追い詰めないことと、今後に目を向け、過去を振り返らないことです。「なぜ」を繰り返すと、相手は思考停止になるか、言い訳を考え始め、改善にはつながりません。また、過去がどれだけダメだったかを証明することも、改善にはつながりません。5番目に「感情をぶつけない」こと。怒りという感情の裏側にはネガティブな感情が潜んでいることがあるといわれています。その感情を言葉に出すことはいいことですが、相手にぶつけないことが大切です。

怒るときでも、叱るときでも、自分の正義を押し付けることが目的になっている方が少なくありません。自分が正しいということを相手に認めさせることがゴールではないはずです。「こうあってほしい」、「わかってほしい」ということを相手に理解してもらいたいわけですが、自分の「べき」と相手の「べき」が違うことは当然あります。また、怒っている相手をどうにかしようとするよりも、まずは、怒りをぶつけてくる人に振り回されない自分を作る。それもアンガーマネジメントです。是非そこから取り組んでいただければと思います。

Voice of attendees

「耳の痛いお話でした。他者との認識のズレを意識し、自分の感情をコントロールして、しっかりと伝えることの大切さを学んだ。
また自分の子供へのしかり方を強く反省させられた。」

「旬なトピック。思いあたる節がたくさんあり、とても勉強になった。怒りの仕組みや対応方法のヒントを知ることができた。
今日から一つでも実践したい。」


日本アンガーマネジメント協会
理事
戸田 久実


立教大学卒業後、株式会社服部セイコー(現セイコーホールディングス)にて営業、音楽系企業にて社長秘書として勤務。現在は研修講師として民間企業、官公庁の研修・講師の仕事を歴任。対象は新入社員から管理職まで幅広く、相互信頼をベースにした「伝わるコミュニケーション」をテーマに「アンガーマネジメント」、「アサーティブコミュニケーション」、「プレゼンテーション」、「女性リーダー研修」など多岐にわたる研修や講演を実施。講師歴は26年。登壇数は3,000を超え、指導人数は10万人に及ぶ。
2008年10月アドット・コミュニケーション株式会社設立。
著書は『アンガーマネジメント 怒らない伝え方』(かんき出版)、『アドラー流 たった1分で伝わる言い方』(かんき出版)、『マンガでやさしくわかるアンガーマネジメント』(日本能率協会マネジメントセンター)など多数。

ゲスト講演:試練を乗り越え生きる力をつくる
葉隠(はがくれ)~勤め人としての心意気

明治大学文学部 教授 齋藤 孝

明治大学文学部 教授 齋藤 孝 氏

『声に出して読みたい日本語』など、数多くのベストセラーの著者であり、テレビ等でも活躍されている明治大学文学部教授、齋藤孝氏。江戸時代の「武士道の精神」から読み取れ、現代社会にも生かせるストレスマネジメントの考え方を、近著、『図解 葉隠-勤め人としての心意気』から引用しながら、分かりやすく解説していただきました。お話を聞くだけではなく、参加者全員が立ち上がり、実際に体を動かしながら体験。大いに盛り上がりました。

卓越した武士のストレスマネジメント力

武士は究極の務め人です。殿様がいて、家老などがいます。今のサラリーマン社会よりも、もっときつい勤め人の世界です。ミスをすると、もれなくというわけではないのですが、切腹することになります。しかも切腹を前向きなものとして受け止めてやるわけです。そのような状況ですから、多くの武士が平常心を失ったかというと、そうではありませんでした。むしろ心身を整えるということを、日々やっていました。武士ほどストレスマネジメントに長けた人たちは、世界的に見ても珍しいのです。今の時代は変化が激しく、いろいろと理不尽なことも起こると思います。ストレスの大きな時代です。そんななか、私は数百年離れた人間の精神文化を受け取ることに、非常に意味があると思っています。卓越した武士のマネジメント力から学ぶことがあると思います。

「武士道の精神」は、心のことではありません。文化なのです。まず、「心」と「精神」を分けて考えてください。心は天気のように移り変わるものです。例えば「昨日は楽しかったが今日はイマイチだった」というのは「心」です。心は、個人的で、あてにならないものです。あてにならない分、感受性が豊かです。悲しかったり、つらかったり。楽しかったりと、変化を楽しめます。もう一方に「精神」があります。「武士道の精神」は、武士全員が共有しています。個人の内面ではありません。ですから文化なのです。江戸の初期の武士も、幕末の武士も、ほぼ変わりません。

これからの人間関係はリアクションが重要ですから、反応が悪い、不機嫌そうであることは、それ自体がマイナスになります。反応よく、機嫌のよい状態を続けることが第一です。武士の世界でも同様でした。武士は「常に機嫌をよく保て」と言われていました。ですからどんなときでも機嫌がいいのです。「切腹」と言われても機嫌がいい。そういった上機嫌な状態を慢性的に続けていくことが大切です。

「死に対する覚悟を決める」ことが
 究極のストレスマネジメント

明治大学文学部 教授 齋藤 孝 氏

『葉隠』は、佐賀の武士、山本常朝が話した言葉を聞き書きした、武士の覚悟について書かれた本です。有名なのが、「武士道といふは、死ぬことと見つけたり。二つ二つの場にて、早く死ぬ方に片付くばかりなり。別に仔細なし。胸すわって進むなり」という箇所です。意味は、「武士道とは死ぬことだ。要するに迷ったら死ぬほうに行けばいい。生きるほうと死ぬほうの二つの道があったとする。そうしたら死ぬほうに、早く片付くようにするといい」ということです。

しかし実際に山本常朝という人がどうだったかというと、結構、高齢まで生きました。ですから、本当に言いたいことは、「死ぬ」ということではないのです。「楽になりたい、生きたいと思うのが人間である。そうするとかえって苦しくなる。むしろ、死ぬような大変なほうの道を選ぶことによって、腹がすわる、胸がすわる。つまり、リラックスする」と言っているのです。精神の逆説、パラドックスです。「生きよう」、「楽なほうにしよう」と思うと焦ってしまい、ストレスが増えます。「どうせ死ぬんだから」と思っていると、なんだか急に楽になります。「死ぬこと」よりも大変なことは無いわけですから、「死ぬこと」を前提にすると、「それに比べれば全部が楽だ」となります。いつも死を意識していれば、目の前のことは小さく見えてきます。「死ぬよりはマシか」と思えてくるのです。「死ぬわけじゃないし、命あっての物種」、「生きているだけで丸儲け」ということです。

究極のストレスマネジメントは、「死に対する覚悟を決める」ことです。死ぬことが一番つらいとすれば、死に対する覚悟さえ決めれば、あとのことは些細なこととなります。自分の考えを残すとか、子孫を残すとかができれば、自分は死んでもいいと思えてくる。自分の命さえも越えていくということなのです。

Voice of attendees

「武士道とは死ぬことと見たり。現在のサラリーマンに通ずるものを感じました。またあらためて生死について考えさせられた。自分の想いを職場でどう伝えるか、活かせるかのヒントを見つけられそうです。」

「本当に楽しい講演でした。笑いをとりながらも核心を外していないところは流石です。講演後、気持ちが楽しくなりました。軽妙なお話の中に真理があり、とても楽しく学ぶことができました。」


明治大学 文学部
教授
齋藤 孝


1960年静岡生まれ。東京大学法学部卒。同大学院教育学研究科博士課程を経て現職。『声に出して読みたい日本語』(草思社、毎日出版文化賞特別賞)がシリーズ260万部のベストセラーになり日本語ブームをつくった。専門は、教育学、身体論、コミュニケーション技法。前文化庁文化審議会国語分科会委員。著書に『読書力』『コミュニケーション力』(岩波新書)、『質問力』『学問のすすめ 現代語訳』(筑摩書房)、『雑談力が上がる話し方―30秒でうちとける会話のルール』(ダイヤモンド社)、『大人のための読書の全技術』(KADOKAWA中経出版)等多数。著書累計出版部数は1000万部を超える。NHKEテレ「にほんごであそぼ」総合指導。TBSテレビ系「情報7days ニュースキャスター」「あさチャン!」MC等テレビ出演多数。

ケーススタディセッション:才能と情熱と解き放つ
~ ヤフーの組織づくりの考え方

ヤフー株式会社 常務執行役員 コーポレートグループ長 本間 浩輔

ヤフー株式会社 常務執行役員 コーポレートグループ長 本間 浩輔 氏

人事部長として、社内コミュニケーションや組織運営を円滑にするためのさまざまな制度や仕組みをつくり、実践されてきた、ヤフー株式会社常務執行役員コーポレートグループ長、本間浩輔氏。本間氏に、人を動かす方法や、上司と部下の関係を円滑にする方法、仕事に対する考え方などを、ご自身の経験にもとづき、語っていただきました。

 

危機ドリブンよりも希望ドリブン

人を動かす方法は2種類あると思います。1つは危機で引っ張る方法です。「これをしないと、うちの会社はつぶれるぞ」、「こんなことをしていたら明日はクビになるぞ」という「危機ドリブン」です。そうやって人を動かしている会社があります。もう1つは「希望ドリブン」です。「俺たち、もっといい会社になろうぜ」、「もっと自分たちのサービスを認めてもらおう」という引っ張り方です。今は特に変化が激しいので、「このまま成長しないと死ぬぞ」、「変化しないとダメだ」と言われることが多く、さまざまな企業で、マネジメントやメッセージのスタイルが、危機ドリブンになり過ぎているのではないかと思っています。

危機ドリブンで社員がモチベートされるかというと、もう限界に来ているのではないかと私は思っています。今、「変革」が人事や経営の流行り言葉です。「どうしたら自分の部下が主体的に動くようなるか」が、頻繁に出る話題です。そのアプローチとして、多くの企業は危機ドリブンをとります。多くの経営者は「危機意識の醸成が重要」と考えているのではないでしょうか。

一方、「社員の幸せを考える」のは、希望ドリブンです。健全な方法で組織を良くしたり、社員の心に寄り添ったりすることによって、楽々と会社が最高益を更新する。そういう体制にしたいと思ったのです。マーケティングでは、「フィアアピール」という言葉をよく使います。恐れをアピールすることによって物を買わせるのです。新聞記事もそうです。「AIの進化で人間の仕事がなくなる」と言っています。前は「ITで仕事がなくなる」と言っていました。そんなフィアアピールばかりで私たちは幸せになれるのか、本当に良い提案ができるのかというと、怪しいと思います。

社員が才能と情熱を解き放つための取り組み

ヤフー株式会社 常務執行役員 コーポレートグループ長 本間 浩輔 氏

ヤフーの考え方についてお話ししたいと思います。私たちは「才能と情熱を解き放つ」というスローガンを掲げました。「社員が生き生きと働く会社にしたい。社員がいきいきと働くことによって、企業が楽々と最高益を更新していくような会社を作りたい」と考えたからです。社員はいきいきと働けるが企業は成長しない。これでは誰も認めてくれません。ですから、危機ドリブンではなく、希望ドリブンで社員のポジティブな力を結集して勝つような会社にしたいと思いながら、6年間やってきました。

具体的な取り組みとしては、「1on1」があります。上長が30分間、部下の話をしっかり聞くというものです。社員が才能と情熱を解き放つような会社にするために、一番しなければならないことは何か。それは上長と部下のコミュニケーションだと考えました。上長が30分、部下の話をしっかりと聞けば、部下の情報はかなり集まるのではないかと思ったのです。コミュニケーションがなければ「上長は部下のことを何も知らない」となってしまいます。たった1つでもいいのです。部下のことを1つ知っていれば、上長のマネジメントは変わると思います。

もう1つ、「人材開発会議」を行っています。人材開発会議では、1人の社員に対して、今の上長、前の上長、横の上長が集まって、「この人のいいところはどんなところか」、「課題はなんだろうか」、「じゃあこの課題を解決するために、この人は次にどんな経験をしたらいいんだろう」ということを話し合います。短くて15分、長ければ30分です。「人は可能性の塊」です。個人の可能性を消すようなことはしたくないと思っています。そして個人の可能性は、本人に聞くだけではなく、まわりの人が観察をしていてわかるものもあると思い、人材開発会議を始めました。

利益を上げることも大変ですが、「利益を上げ続ける組織」を作ることも大切です。そしてその組織は、心を持った人によって構成されています。そこに寄り添うことはマネージャーとして当然の仕事ですし、私はそれは正解だと思っています。

Voice of attendees

「心に響きました。「どうしたら、社員が心から働きたいと考えるのだろう」という悩み解決のひとつの策になるかもしれない。」

「経営戦略としての社員の幸せを考える=会社の発展・存続につながるという考え方に共感。また自社を取り巻く問題点を明確に整理できた。」


ヤフー株式会社
常務執行役員 コーポレートグループ長
本間 浩輔 氏


1968年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社野村総合研究所に入社。総合研究本部研究員。2000年スポーツナビ(現ワイズ・スポーツ)を起業、取締役に就任。2002年に同社がヤフー傘下入りした後は、Yahoo!スポーツのシニアプロデューサー、メディア事業部ビジネス開発本部長を経て、2010年よりワイズ・スポーツ株式会社社長。2012年ヤフー株式会社人事本部長、コーポレート統括本部長を経て、2018年4月より現職。

特別講演:私の柔道哲学

柔道全日本男子総監督 井上 康生

柔道全日本男子総監督 井上 康生 氏

人フォーラムの最後は、シドニー五輪柔道、100kg級金メダリストで、現在、全日本柔道男子監督を務める井上康生氏による講演です。「私の柔道哲学」と題し、柔道界の裏話やご自身の活動のお話などを交えながら、柔道と向き合っていく上でのテーマ、現場で戦うにあたって大切にしていること、2020年東京オリンピックに向けての思いを語っていただきました。本稿はその講演の抜粋です。

監督として柔道と向き合う上での3つのテーマ

私自身は柔道を学んで、また、スポーツに携わる中で、「柔道、スポーツに直接関わることだけを学んだ」とは思っていません。何を学んだのかというと、「生きる力」を学んだという気がしています。そして今、全日本柔道男子監督として柔道と向き合っていくにあたり、私自身、大きく3つのテーマを掲げています。

1つ目のテーマは「目標」です。全日本である以上、選手たちの目標は、やはり「世界一」。「オリンピックでの金メダル」です。自分を信じて目指すからには、極限の目標を求めるべきだと思います。そして、それを達成できるように努力をしているところです。2つ目は「生きる力」を磨くことです。私自身、柔道、スポーツで、生きる力を養うことができました。ですから、選手たちには、柔道、スポーツを通じてさまざまな体験をしてもらいたい。そして、生きる力を磨いてもらいたいと思っています。3つ目は、「柔道で学んだことの社会への還元」です。1882年に柔道を創設された嘉納治五郎先生が、「柔道を、そして柔道を通じて学んだことを、いかに社会に還元し、貢献していく人間になるか。これが究極の目的である」と説いてらっしゃいます。柔道で、そして柔道を通じて学んだことを、いかに社会に還元できる人間になっていけるかということです。これらを私自身のテーマとして、全日本、そして柔道と向き合っているところです。

東京2020に向けて

柔道全日本男子総監督 井上 康生

この3つのテーマを柱として、現場で戦うにあたって大切にしていることは、「自己形成」、「強さ」、「組織」、「スポーツの価値」の4つです。

まずは「自己形成」についてです。私が監督に就任し、何をすべきかを考えた中で、「まずはできること、やれることをひとつひとつ積み上げて行こう」と思いました。いきなりステップアップして全てを変えていく、あるいは、何か新しいことをやろうとしても、それは難しいことです。まずは自分自身、コーチやスタッフ、また選手たちが「変えられるところから地道に変えていこう」ということです。

次は、「強さ」を求めていくことです。試合に勝つために、私たちはやはり「強さ」というものを普遍的に持っておかなければならないと思います。どんな環境であろうが、どんな相手であろうが、組んでしっかりと勝負でき、投げられる力、抑え込める力。また防御においても相手に投げられない力。そういう「強さ」をどれだけ作っていけるか。その気持ちを絶対に持っていなければいけないと思っています。

次に「組織」です。全日本の監督は、365日、選手と一緒にやっているわけではありません。半分くらいは、自分たちがそれぞれ所属している企業や大学で練習をしています。だからこそ、所属先との関係を大切にすることが必要です。私自身が全日本の監督として何をしなければならないかというと、マネジメントです。全日本、所属している企業、JOC、選手。それら全体をうまくリンクさせる。うまく情報を共有しながら、同じ目線を持って進んでいけるように対話することが大切です。

最後に「スポーツの価値」。これは例えば良きライバルを持つことです。それにより、自分自身が成長できます。スポーツの原点、柔道の原点とは何か。それは「好き」だということ。「楽しくやること」も忘れてはいけません。ここにスポーツや柔道の力、価値が含まれていると感じています。

柔道の創設者、嘉納治五郎先生が説かれた目的を実践し、これから先も、スポーツ、柔道が、社会でいかに価値あるものであり続けるか、それがスポーツや柔道の発展につながっていくと思っています。そういう使命感を持ちながら、2020年、思い切って戦いたいと思いますし、選手たちは日々、死に物狂いで頑張っています。その選手たちを是非とも応援していただきたく、お願いいたします。

Voice of attendees

「企業活動における人材育成に通じる奥深い話。内発動機を促し、自主・自立を時代の変化に合わせた方針や手段の変革など、とても勉強になりました。」

「日本代表を柔道で世界一に導くための人間力を磨いていく育成と、新しい環境の変化に柔軟に対応する力は素晴らしいマネジメントと感じました。」


柔道全日本男子総監督
井上 康生 氏


1978年宮崎県生まれ。東海大学体育学部武道学科卒業後、同大大学院体育学研究科修士課程修了。柔道は5歳の時から始め、全国少年大会をはじめ、全国中学、インターハイなど各年代の大会を軒並み制覇。切れ味鋭い内股を武器に、大内刈、大外刈、背負い投げを得意とする超攻撃柔道で数々の結果を残した。
2000年シドニー五輪100kg級金メダル、2004年アテネ五輪100kg級代表。1999、2001、2003年世界選手権100㎏級で優勝。2001~2003年全日本選手権優勝。
2008年に選手としては第一線を退き、2009年から2年間、英国に留学。ロンドン五輪では全日本特別コーチ、2012年11月からは、リオデジャネイロ五輪に向けての全日本柔道男子監督を務めた。
2016年のリオデジャネイロ五輪においては、1964年の東京五輪以来となる「全階級メダル獲得」を達成する。同年9月に、2020年の東京五輪のまでの続投が発表された。
著書に『改革』(ポプラ社)、『ピリオド』(幻冬舎)、監修書に『DVD付心・技・体を強くする!柔道基本と練習メニュー』(池田書店)がある。

<参加者の属性>

≪業種≫

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≪部門≫

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≪役職≫

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