BtoBマーケティングフォーラム 2017
マーケティングと営業の連携
~成果を最大化する仕組みと組織の創り方
2017年7月25日、東京・虎ノ門ヒルズフォーラムにて、株式会社ビジネス・フォーラム事務局主催「BtoBマーケティングフォーラム 2017」を開催いたしました。
BtoC に限らずBtoBにおける顧客(企業)の購買行動・プロセスは大きく変化しています。これに対応し、企業の成長を加速させて行くうえで、新しいテクノロジーの導入や組織的マーケティングの取り組みを行う企業は多いものの、営業部門とマーケティング部門がうまく連携できていないというケースが非常に多くなっています。
このような背景を踏まえ、フォーラムでは「マーケティングと営業の連携~成果を最大化する仕組みと組織の創り方」とのテーマを掲げ、先進的な手法を用いた仕組みづくり、最適なマーケティング&セールス組織体制の構築について、実践企業のマネジメントに携わる方々にご講演いただきました。
当日はBtoB事業を行う企業のマーケティング/営業部門の経営層、管理職の方々を中心に、定員を上回る多くのお客様にご来場をいただきました。
参加者のセグメント
講演1:「部門間連携とマーケティング機能」
東レにおけるBtoBtoBマーケティングの実践
東レ株式会社 マーケティング企画室長 島地 啓 氏
繊維から高機能フィルム、炭素繊維、エンジニアリング・プラスチック、電子情報材料、医薬・医療材、水処理膜など、幅広い分野の製品をグローバルに製造・販売し、昨年で創業90年を迎えた日本を代表する素材メーカー、東レ株式会社。先端材料で世界一を目指し、環境や医療などさまざまな分野の地球規模の課題にソリューションを提供しています。素材企業である東レは、BtoBの会社の先にさらにBtoB、BtoCの会社がある構造で事業展開しており、直接の取引先だけでなく、「顧客の顧客」も含めた市場全体を俯瞰したニーズに応えていくことが重要と考えています。東レにおけるBtoBtoBマーケティングの実践、各事業部との横串連携の実践事例、セールス&マーケッターの育成に向けた取り組みなどについて、島地氏に講演いただきました。
営業担当全員がマーケッター、マーケティング企画室による横串連携
東レは繊維を中心とした素材を扱う企業であり、加工や組み立てを行うメーカーとのBtoBの取引が主となっています。しかし、東レは自社の素材を加工してできた最終製品を消費者へ販売するBtoCの部分にも注目。「顧客の顧客」、さらにその先の消費者も含めた市場全体を俯瞰する、BtoBtoBのマーケティングを実践しています。島地氏は「直接取引のお客様は当然大事。だから、お客様の要望や、お客様の需要動向を見るのは重要だが、そこだけを見ていてはいけない。市場全体を俯瞰しなくてはならない」と述べられました。
繊維産業のサプライチェーンでは、上流の繊維メーカーの規模が大きく、縫製に至るまでの加工の各段階が細分化されているため、繊維メーカーの営業が、川中、時には川下の加工の各段階に関与し、商品設計、生産管理、最終製品を消費者に届けるところまで含めて、関わることが多いという歴史的背景がありました。
東レも「営業という仕事はセールス&マーケティングである」といいます。これは、営業の部署、営業の担当者は、マーケティングと販売の両方を行うという考え方です。マーケティングを担当するのは各営業組織であり、営業担当者がマーケティングのマインドを持ち、マーケティングをしっかりと行うことが重要となります。マーケティング企画室、そして特定分野の事業戦略室が、他部署の動きをとらえ、部署間の連携をうまくとり、同じお客様に対するワンストップ・トータル・サービスをスムーズに提供できるやり方を、日々試行錯誤しながら実行しています。
営業力強化のための3つの指針と5つの力の向上
東レはサプライチェーンが非常に長いビジネスが多く、このサプライチェーンを改革していくことが大きなテーマとなっています。さまざまな事業分野を備えることによる総合力でソリューションを提案し、いかにパートナーシップをリードしていくかが取り組みのポイントです。島地氏は「強いセールス&マーケティングをどう作るかは私どものミッション」と述べました。
これに関し、東レでは営業力強化のための3つの指針を掲げています。
- 営業の基本は、お客様・市場の声を聴くこと
- 「グッド・サプライヤー」から「ベスト・パートナー」へ
- 「価格で選ばれる」より「価値で認められる」へ
これらを理想として人材教育を行っています。その上で、以下の5つの力の向上に努めています。
- コミュニケーションする力
- 市場から学ぶ力
- お客様視点で考える力
- サプライチェーンを構築する力
- 価値を創造する力
これにより、営業の中でいかにマーケティングマインドを持って、物づくり、チャネルづくりをしていくかということを訴えています。
最後に島地氏は「地球上の問題に対し、素材で社会を変えていく。“新しい価値の創造を通じて社会に貢献します”というのが東レの企業理念。これを言い換えたものが“素材には社会を変える力がある”というコーポレート・ステートメント。これが実現できるようにしっかりやっていく」と述べて講演を締めくくりました。
東レ株式会社
マーケティング企画室長
島地 啓 氏
1982年4月東レ株式会社入社。印刷関連材料を扱う印写システム事業部にて輸出営業を担当し、同事業の北米マーケティング担当として米国駐在を経験。帰国後、光ディスク事業室、液晶材料事業部貿易課長を経て、2004年に印写システム事業部長。2007年より東レインターナショナル株式会社にて経営企画等のスタッフ業務を経験した後、2013年6月東レ・ダウコーニング社長就任。2016年6月に東レ株式会社マーケティング企画室参事。2017年5月より現職。
講演2:「成果を最大化する考え方と仕組み」
勝ち続けるための顧客エンゲージメント
株式会社マルケト 代表取締役社長 福田 康隆 氏
株式会社マルケト(Marketo)は、マーケティングオートメーションをSaaS型で提供する、外資系企業の日本法人です。世界で5000社以上に採用され、デジタルマーケティング、マーケティングオートメーションの世界ではトップクラスの実績を持ちます。マーケティングオートメーション導入における課題の整理方法や、顧客生涯価値(LTV)のエンゲージメントマーケティングのあり方について、先進BtoB企業の最新マーケティング実践事例を交え、福田氏にご紹介いただきました。
顧客エンゲージメントをいかに作っていくかを考えたプラットフォーム
マーケティングオートメーションは、各段階でのアカウントベースでのデータのとりまとめ、分析、スコアリングにより、購買の意思を判断して対応するといったマーケティング業務を自動化し、マーケターの業務効率を向上させます。福田氏は「BtoB、BtoCの違いはあるが、マーケティングの根幹は個人。個人に対して適切なタイミングで適切なメッセージを送れるかにある」と述べられました。いかに顧客からの信頼を得て、長期的な関係を構築するか。いかに相手に関心を持ってもらえるか。これを根幹に持っていることがマーケティングでは重要です。
マルケトのマーケティングオートメーションは、マーケティングの本質である、いかに顧客との接点を作っていくか、エンゲージメントを作っていくかということを考えて作られています。顧客の行動がデジタルにシフトしたことで購買行動が変化し、営業担当者を増やし続けても売り上げ向上には限界がある現在、マーケティングオートメーションは重要なツールと言えます。
しかし、デジタルマーケティング、マーケティングオートメーションが重要であることを理解していても、何からスタートしたらいいのかわからないという企業は多数存在します。福田氏は「何からスタートしたらいいのかを知るには、何がゴールかを明確にする。何がゴールで、何が課題か。そして、どういう道を歩んでいくべきなのかの整理できていない場合が多い。ボンヤリと考えてリストアップはされるが、それぞれがゴールなのか、課題なのか、問題点なのか、整理をすることが必要」と述べられ、これを解決するシンプルな方法として、「ビジネスゴール」「問題点」そして「解決策」の3つの箱を描き、分類していく方法を説明されました。これらが混在しているのが多くの企業の特徴で、3つに明確に整理し、まとめていくことで、今何をするべきかが見えてきます。
潜在顧客からロイヤルカスタマーまでの一連のプロセスを統合的に管理
続いて福田氏は、導入企業の実例を元に、マルケトのマーケティングオートメーションの効果を説明されました。導入によって、まず数多くのリードに優先順位がつけられ、インサイドセールスなどに割り当てられます。次に購入の見込みに応じて実際に案件を進めます。商談につながらなかった件、訪問しても失注した件などの情報を蓄え、相手がどんな製品や内容に興味があるのかに絞ってセグメンテーションが行われます。ここから興味のある内容に絞ったメール配信などが行われていきます。これにより、確度の高い案件に絞り込み、訪問による受注率が大幅に向上しています。営業担当者が契約に力をかけられるので、成約までの時間が短縮するのです。メルマガも適切なセグメンテーションすることで開封率が向上しています。このように、潜在顧客、そして認知を経た段階から契約、ファンとなって再購入するという、潜在顧客からロイヤルカスタマーまでの一連のプロセスを統合的に管理していきます。導入は、非常に高度でデータドリブンなマーケティングの第一歩となるのです。
「本来のマーケターは創造する仕事に集中し、決められたことを正確にこなす仕事はマーケティングオートメーションのようなツールが行うことが求められる。決められたものを組み直すのではなく、マーケターは自分で自由に創造して組み立てるようになる。一番の課題は人。人をどう教育していくのか。ここが一番の課題であると考えている」と福田氏は述べられ、講演を終えました。
株式会社マルケト
代表取締役社長
福田 康隆 氏
1996年、早稲田大学商学部卒業。同年、日本オラクル株式会社に入社。2001年より米国オラクルに異動し、ハイテクや自動車などの業界を中心に、在米日系企業のビジネス開発を担当。2004年に米国セールスフォース・ドットコムへ入社し、在米日系企業への営業活動から、日本のSMB市場へのオペレーション戦略立案に携わる。2005年、セールスフォース・ドットコム日本法人に異動し、中堅中小企業に特化した営業組織を編成。以後9年間に渡り、専務執行役員兼シニア・バイスプレジデントとして、同社の成長を牽引する。2014年6月から現職に就任。
講演3:「マーケティング・マネジメントと組織」
世界を相手に戦う
横河電機のマーケティング戦略と組織体制
横河電機株式会社 執行役員 マーケティング本部長 阿部 剛士 氏
計測、制御、情報技術を軸にビジネスを展開している横河電機株式会社は、100年を超える歴史を持ち、海外売上比率が7割近くを占めるグローバル企業です。同社を取り巻くビジネス環境が大きく変化する中、グローバルレベルでのマーケティング改革に挑戦されています。ビジネス環境の変化を解説していただくと共に、世界で戦うために同社が取り組まれるマーケティング・マネジメントや最適なマーケティング組織体制について、阿部氏にご講演いただきました。
テクノロジーのエクスポネンシャル(指数関数的)な変化とデジタルマーケティングへの移行
阿部氏は、現在置かれているビジネス環境についてこのように述べます。「今我々は第四次産業革命に入ろうとしている。過去3つの産業革命と、第四次産業革命では大きく違うところがある。それは、早いということ。時代は待っていない。変化という言葉を聞かない日はないくらい世の中は変化している。その中でも特に重要なのはエクスポネンシャル(指数関数的)な変化。これに注意しなくてはならない」。
インターネットにつながるパソコン、タブレット、スマートフォンなどのデバイスの数は、2006年頃は世界で20億台だったとされています。これが2015年では150億台で、10年間で約7倍に増加しています。2020年には500億台になると予測され、インターネットを使う人は地球の人口の過半数になるといわれています。また、3Dプリンター、産業用ロボット、ドローン、バイオといった、さまざまなテクノロジーの処理スピードやコストパフォーマンスなどは日々飛躍的に向上しています。重要なテクノロジーは、エクスポネンシャルに変化しています。
「こうした変化が起こってきたのは、世の中がデジタルエコノミーに移ってきたため」と阿部氏は述べます。デジタルエコノミーになってきたということは、マーケティングもデジタルマーケティングになっていくことです。これは必然的といえます。このような背景を受け、阿部氏は「今後必要なのが顧客購買体験の創出。BtoBといっても、もはや対象は個人になってきている。私たちのお客様の購買体験をどう演出、創出するかがキーになってくる」と述べます。
コンパスになることを期待されているマーケティング
世の中がデジタルエコノミーに移行することにより、消費者の購買行動にも変化が起きています。製品の情報を消費者自ら容易に収集できるようになり、多くの消費者が価格よりも顧客体験を優先する傾向になっています。BtoCに限らず、BtoBでも同じ傾向がみられます。購買担当者、エンジニア自らがどのような商品があるかを検索し、どのような会社かを調べます。評価や製品のデータベースも検索して見ます。購入を検討するならば、会社のウェブサイトに直接質問を投げ、早急なレスポンスを期待。レスポンスが遅ければその商品は候補から除外されてしまいます。これに対応するためのツールがマーケティングオートメーションです。阿部氏は「マーケティングは、いかに質のいいリードを引いてくるか。ここがキーになってくる。正にいま開発中であり、MQLからSQLにしていくか。ここが重要」と述べます。案件の発掘を効率よく行うには、デジタルマーケティングは必須となるのです。
これに加えて、阿部氏は「マーケティングの大きな役割の1つとして、コンパスになることを期待されている。会社がどちらに向かっていけばいいのかを教える役割だ。いろいろなステークホルダーがいるが、マーケティングはこういった方たちにインフルエンスを与えること。我々マーケティングがコンパスになれるかどうか。信頼してもらえるかどうか。データ分析も含めて正しい方向を教える、インフルエンスを与える。これが重要」とも述べられました。
最後に阿部氏は「あらゆる産業に横断的にデジタル化の波が押し寄せ、リニアではなく、エクスポネンシャルに変化している。小さな変化を見落とすと危ない。BtoBの購買行動は劇的に変化している。膨大なデータや知識を測定、管理、分析するシステムとタレントを持ち、組織内で横断的に活用する必要がある。案件発掘を効率化するにはデジタル化は避けられない。内部、外部に大きなリーチを持つ。内部そして外部のリソースを活用できる組織を作ることをお勧めしたい」と述べて、講演を締めくくりました。
横河電機株式会社
執行役員 マーケティング本部長
阿部 剛士 氏
1985年、インテルジャパン株式会社(現インテル株式会社)に入社、2005年、同社マーケティング本部長に就任、2007年、芝浦工業大学専門職大学院 技術経営/MOT卒業、2009年、同大学地域環境システム専攻博士課程修了、2011年、同社取締役副社長 兼 技術開発・製造技術本部長に就任、2016年、横河電機株式会社に入社、現在に至る。
講演4:「アカウント・ベースド・マーケティングの実践」
マーケティングと営業の連携を強化する、
顧客分析に基づいたターゲティングとは
株式会社東京商工リサーチ 事業本部 マーケティング部 部長 弓削 正範 氏
国内で最も長い歴史を持つ企業調査会社、株式会社東京商工リサーチは、全国に80の拠点を持ち、1800名ほどの社員が日々企業情報を調べています。世界最大級2億7千万件を超える企業データベースを有する米国のDun & Bradstreet(D&B)ともパートナーシップを結び、与信管理だけではなく、営業マーケティングにも使える企業情報提供も始めています。近年、BtoB事業を行う企業を中心に、営業とマーケティングの連携を実現する新たな手法としてアカウント・ベースド・マーケティング(ABM)が注目されています。アカウント・ベースド・マーケティングで重要となる、優良顧客になり得るターゲットアカウント特定の方法について、弓削氏にご講演いただきました。
一括管理されたデータベースから優良顧客を定義、抽出
弓削氏は「ターゲットアカウントの特定では、まず、既存のお客様の中から優良な顧客を定義、抽出。そして、優良とされた顧客と同じ特徴、特性を持つ企業を探し、それをポテンシャルのあるアカウントとしてターゲットしていく」と述べられました。自社にとって優良な顧客と、特性、特徴が似た企業は、現在の取引の有無にかかわらず、当然、優良顧客となる可能性が高く、そこをターゲットアカウントとしていくのです。
優良顧客を抽出するには、取引企業とのさまざまなやり取りをデータベース化して活用します。例えば、CRMや請求データが入っているERPなどです。これらのデータが、ルールに従って管理されていれば、優良顧客の分析に必要なトランザクションデータを抽出することができます。しかし、事業部ごとにSFAを使っていたり、マーケティングの部署だけがCRMを使っていたりして企業情報がバラバラに管理されている場合があります。そのような場合、東京商工リサーチでは名寄せというマッチング技術により、豊富な辞書情報を用いて企業の名称や住所などの揺れを正し、取引企業を一括管理できるようにします。そうすれば、自社に眠っているさまざまな商談履歴や売り上げデータなどを元に分析し、優良顧客を特定することが可能になります。
優良顧客と似た特徴を持つ企業をターゲットアカウントに
優良顧客を特定できたら、次に、似た特徴を持つ企業を特定していきます。それには、顧客の属性を見る必要があります。BtoBの場合、購入主体が企業、組織なので、売上高、工場数といった基礎的な企業情報や、キーマン、ユニットの情報などがこれに含まれます。しかし、企業の情報は売上や事業所所在などを含め、刻々と変わります。自社の取引が数社、数十社程度ならマーケッターがモニタリングしながら対応することも可能ですが、数千社、数万社となると少人数のマーケティング部署では不可能です。それを、東京商工リサーチが提供している最新のデータ、さらに与信管理で使う正確なデータを利用すれば、顧客の属性を正確にプロファイリングできるようになります。
プロファイリングでは、例えば統計的な手法を使い、売上高や従業員数などの企業の属性をいったんバラバラにし、それを日本全国の企業と比較して、どのような特徴、特性があるのかをスコアで表します。次に全国の企業にそのルールを当てはめてスコアリングすると、ポテンシャルアカウントのリストが作成されます。これを元にアカウント・ベースド・マーケティングのターゲティングを行えば、ポテンシャルの高い顧客のみに営業活動を行うことができるので、非常に効率的です。
最後に弓削氏は「ターゲティングによるスコアは統計的な観点でしか出していない。ポテンシャルアカウントを攻める時には、マーケティングの部署は営業と一緒になってこのターゲットでいいか、他に情報は無いかと考えていく必要がある。それによって営業側しか知らない情報をマーケティング側が得ることができる。また、営業側に対し、なぜその企業をターゲットにしたのかを説明する必要がある。これがうまくいけば、思ってもいなかった案件を拾えることがある。営業とマーケティングが同じものを見て、同じような立場で、同じように戦略を立てていくのがよい」と体験を述べられ、講演を締めくくりました。
株式会社東京商工リサーチ
事業本部 マーケティング部 部長
弓削 正範 氏
外資系国際ブランドのクレジットカード会社でプロダクトマーケティング、マーコム業務をマネージャとして約10年経験後、2009年に米国ダンアンドブラッドストリート(D&B)と東京商工リサーチ(TSR)の合弁会社であるD&BTSRへ入社。その後、TSRへ転籍し、マーケティング部の立ちあげを事業部長として指揮し、現在に至る。
講演5:「BtoBマーケティングトップの役割と新たな連携施策」
NECにおけるマーケティング戦略と実践
日本電気株式会社 執行役員 兼 CMO 榎本 亮 氏
100年以上の歴史を持つ日本でも有数の企業の一つであるNECは2013年にBtoB、BtoG(Government)へ事業をフォーカスし、社会価値創造型企業への転換を行いました。BtoB、BtoG(Government)へ事業をフォーカスする中で、同社はマーケティングの重要性を早くから認識し、他社に先駆けた戦略的なマーケティング施策への取り組み、CMO職の設置、さらには最適な組織体制の構築などに取り組んできました。BtoBマーケティングの特性や目的、アカウント・ベースド・マーケティング(ABM)の実践事例、マーケティング&セールスの組織体制などについて、同社のCMOとして全社のマーケティング活動を統括する榎本氏にご講演いただきました。
BtoBマーケティングの目的
BtoB事業では、顧客企業内の様々なステークホルダーの把握、幅広いパートナリング、多様なビジネスモデルなど、BtoC事業とは異なるマーケティングが必要となります。榎本氏は「BtoB事業では、お客様が期待している真の価値を提供するために、幅広いパートナリングをはじめとした様々な要素が必要になる。BtoB事業では、BtoC事業以上にマーケティングが重要になっている」と述べられます。
また、以前とは顧客も変化してきています。例えば、顧客が得られる情報は、営業で提供できる情報量よりも圧倒的に多くなりました。従来型の営業中心の顧客とのコミュニケーションだけでは通用しなくなっています。そのため、顧客のデマンドそのものをつくりだしていく取り組みを行うことで、潜在的なニーズ、ウォンツを顕在化させる、より上流からマーケティングを始める必要があります。また、その顧客に絞り込んでアカウント・ベースド・マーケティングを行う必要があるのです。「顧客は法人格としては一人ですが、その中に非常に複雑なステークホルダーを抱えています。その中で、真のニーズが何で、真のキーパーソンが誰であるといったことが絞りこまれないとBtoBのビジネスはうまくいきません。」と榎本氏は述べられます。
続けて榎本氏は「常日頃からお客様との信頼関係を構築し、それを維持すること。NECというブランドに対しての期待を常に高いレベルに保つことがBtoBマーケティングの目的」と述べられます。これを実現するために、NECでは、顧客に対して一貫性のあるメッセージを発信しながら、顧客との接点をしっかりと活用することで、顧客が何にどう反応しているかを把握しようとしています。さらに顧客と価値観を共有、共創する取り組みを進めています。
CMOの役割はマーケティングで自社を変革すること
榎本氏は、マーケティングの実践において「お客様の本質的課題を把握すること。事業に対する徹底的な好奇心を持ち、営業マンとマーケターがお客様になりきらないと、本質的な課題は把握できない」と述べられます。顧客の本質的な課題を把握し、それに対し新たな価値を創造、提案することで、顧客の事業を通じた社会課題が解決されます。「ソーシャルバリューを上げればエコノミックバリューも上がる。そこまでいかないとBtoBマーケティングをやりきったと言えない。お客様の真のパートナーになったとは言えない」と榎本氏は強調します。
BtoBマーケティングは、デジタルマーケティング、アカウント・ベースド・マーケティングだけでは効果的に行えません。経営やマネジメント、組織や人の意識などの変革もなければ、BtoBマーケティングは実現できません。榎本氏は「CMOの役割はマーケティングで自社を変革すること。お客様の課題にどう対応するのか、NECは本気なのかと自社に問いかける。社員が行動する時にその態度でいいのか、社員に向かって問いかけ、それらの結果として自社を変革するのがCMO」と述べられます。加えて営業とマーケティングのあり方をこのように述べられます。「営業とマーケティングを分ける必要はない。同じ成果に向かって一緒に歩む。プロセスとして時系列的に並んでいるが、全く同じ役割を担うものであると考えている。プラットフォームをIT上でも共通化して、コミュニケーションがスムーズにできるようにしていきたい」
最後に榎本氏は「お客様に導入していただいた後もお付き合いしていただく。売り込むだけがデジタルマーケティングではない。いろいろな観点からお客様が今どう思っていらっしゃるかを把握し、また次の話につなげていくという、ノンストップのマーケティングのループをつくる。これをしっかり回すのが本当のマーケティングだと思っている」と、BtoBマーケティングへの思いを述べられ、講演を終えました。
日本電気株式会社
執行役員 兼 CMO (チーフマーケティングオフィサー)
榎本 亮 氏
1995年から2002年までArthur Andersen(後のBearing point)においてマーケティング戦略・営業改革等を推進するコンサルティング部門のパートナー。Bearing point 合流後はCommunications領域のマネージングディレクターとして2008年まで従事。2009年から2014年までIBMの通信業界担当理事。2014年Salesforce.comで通信業界担当執⾏役員に就任。2015年からNECの執⾏役員となり、コーポレートマーケティング本部を担当。2017年4月にNECの全社マーケティング活動を統括するCMOに就任、現在に至る。
パネルディスカッション マーケティングと営業の連携を徹底討論!
実践企業によるマーケティング&セールスの課題共有と組織間連携の進め方
アンリツ株式会社 計測事業グループ グローバルオペレーションセンター
マーケティングコミュニケーションチーム 課長 駒井 寛 氏
大成建設株式会社 営業推進本部 企画推進部 次長 上田 茂数 氏
ルネサス エレクトロニクス株式会社 ブロードベースドソリューション事業本部
WEBデマンドクリエーション部 部長 関口 昭如 氏
【モデレーター】 株式会社マルケト マーケティング本部長 バイスプレジデント
小関 貴志 氏
パネルディスカッションでは、アンリツ株式会社の駒井寛氏、大成建設株株式会社の上田茂数氏、ルネサスエレクトロニクス株式会社の関口昭如氏をパネリストに迎え、株式会社マルケトの小関貴志氏がモデレーターとなり、マーケティングと営業の連携に関して議論を展開しました。
アンリツ株式会社の駒井氏は、研究所から事業戦略室を経て、2000年にマーケティングコミュニケーションチームへ異動。セールスツールの作成やプロモーションを通じ、マーケティングに取り組まれています。大成建設株式会社の上田氏は、属人的な営業の色合いが強い総合建設業において、10年ほど前にマーケティング部門を立ち上げました。その後、営業の最前線に異動し、そこでもマーケティングの取り組みを実行しました。現在は再びマーケティング部門に戻り、さまざまな企画を形にする推進役を担っておられます。ルネサスエレクトロニクス株式会社の関口氏は、ウェブデマンドクリエーションを担当。半導体業界でも進む、お客様との接し方の変化に対応すべく、高度なデジタルマーケティングを推進しています。
足並みがそろわないマーケティング部門と営業部門
モデレーターの小関氏はまず、「なぜマーケティングと営業は足並みがそろわないのか?」というテーマから議論へ導入しました。会場の参加者に挙手でアンケートをとったところ、「マーケティングと営業があまりうまくいっていない」という方が多い傾向にありました。これを踏まえて小関氏はパネリストに各社での経験や意見を尋ねました。
上田:「私は営業側とマーケティング側の両方を経験したので、両方の立場からお話しします。建設業の場合、セールスのリードタイムが非常に長く、また個人的なレベルでは、得意先をたくさん持っていて案件が多い人と、新規が多く案件の少ない人がいます。マーケティング側としては極力案件の少ない人を応援する意味でリードを渡していきたいが、やはり社内組織的にはマーケティングから営業にリードを渡す仕組みを創る必要があります。またお互いの理解には“共感”、“同苦”、“連帯”という3つのキーワードがあり、マーケティングが営業の最前線で活動する人達の気持ちに寄り添い、共に活動するという心を持つことが重要です。そして日々コミュニケーションを取ることも大切です。時にはマーケティング担当者が営業担当者と一緒にお客様にお会いさせて頂き、その中で市場観を掴む。また営業の経験はなくても営業の気持ちが分かる。そういうマーケターを育てなければならないと思います。営業が上げる数字は会社の生死に関わるので、非常に重いミッションを背負っています。私としてはやはりマーケティングから営業に寄り添うのが良いと思います。」
駒井:「早い時期にマーケティングオートメーションツールを導入しました。リードの確度を高めようとしたのですが、なかなかうまく動かせなかった時期があります。ちょうどその時期、国内のセールスが落ち込んできて、営業本部長から、休眠顧客を掘り起こし、受注に結び付けろという指示がありました。そこから営業サイドも重い腰を上げて、マーケティングオートメーションツールを活用しようとなり、マーケティングサイドと営業サイドで一緒にやっていこうとなりました。チームを立ち上げて、いろいろな部門を巻き込んでやった結果、ある程度営業サイドの要求を組み込んだプロモーションが、国内ではうまくできてきたと思います」
関口:「マーケティングと営業はロール&レスポンシビリティが違うので、完全に一心同体というところまでは行っていないかもしれません。取り組み始めた当初は、営業の期待値と我々マーケティングの期待値は大きく違っていました。今は以前よりもだいぶ近寄ってきたと感じます。お互いを理解するには、やはり時間がかかりました。それから、営業と我々ではKPIが違うこともあります。そこを完全に合わせるのは難しいと思いますが、同じ認識、ベクトルにしていくのは大切なことだと思います。また、デジタルマーケティングは科学的なアプローチで、データに基づいて関係部門と会話し、施策をうつ。する。かたや営業は人と人とのコミュニケーションも重要です。この両面が必要だと思います。
マーケティングと営業をつなぐための取り組み
次に小関氏は、マーケティングと営業で足並みが揃っていないという方が多い中、具体的にどうやって両者をつないでいくのか、尋ねました。
関口:「営業案件を我々マーケティングの次の工程である営業がどう受け取ってくれたかを考えます。後の工程の人は、ある意味我々のお客様のようなものです。我々の仕事をいかに評価してもらえるかが大切だと思って、デジタルから生まれた営業案件をKPIに変えました。後工程の人に評価してもらい、目標を共有することが大切です。営業は売上の金額など、いろいろな要素があり、我々は案件の件数で測っているので、簡単ではありませんが、営業と目標を共有して進めるというアプローチにしたことは、効果があったと思います」
ここで小関氏は、「マーケティングと営業をつなぐにあたり、上層部の方の理解を得ることは重要なテーマではないか」と上田氏に質問します。
上田:「上層部の理解は結果しかありませんに尽きると思います。数字が上がってきていると上層部は理解してくれて、予算も配慮してつけてくれます。具体的な評価指標数字は何かといいますと、リターンオブマーケットインベストメント。ROMI(Return On Marketing Investment)の評価が一番の理解なのかなと思いますが最も分かりやすいと思います」
駒井:「ROMIの話が出ましたが、我々としても、さまざまな施策が売り上げにどこまで結びついたか、どこまで貢献したのか、その効果を見たいというのは以前からありました。広告の効果、プロモーションの効果を見たいという部分では、マーケティングオートメーションを入れたことは一番良かった。いろいろな部署を横断してプロジェクトを立ち上げ、ワーキンググループを作って取り組んだことで、皆が同じ方向を向いていくことはできたかと思っています」
営業とつながる、成果につながる、マーケティング部門のあり方
次に、各社のマーケティング部門の成果にはどのようなものがあり、それはどのように評価されるのか、小関氏がパネリストに質問します。
駒井:「コンバージョンと、新規市場における認知度の上昇です。本当は、どの程度受注まで結びついたかということも我々の成果としてカウントしていいのではないかと思っています。これだけの受注に結び付きましたと胸を張って言えるような形にしたいという理想はあるが、なかなかそれは実現できない。試行錯誤を繰り返しています」
関口:「やはり、主要な成果の指標としては、デジタルマーケティングコミュニケーションから案件が生まれること。もう一つ注力しなくてはいけないのが、デジタル上で製品選択や開発を早く終わらせたいというお客様の重要なニーズで、これにどこまで貢献しているのか。これはもしかしたら満足度調査かもしれないし、もう少し違う世界かもしれない。この両面をトラックしなくてはいけないと思っています」
上田:「マーケティング部門の成果は、1年間の短期で考える場合は、営業が受け入れてくれた見込み客、見込み案件の数です。リードは営業の受け入れられないと意味がありません。中長期である3年、5年、10年の期間単位で見る場合にはROMIだと思います」
最後に小関氏は各パネリストに、フォーラム参加者に伝えたいメッセージ、今後の課題や展望を尋ねました。
関口:「我々はまだヒヨコですが、自分たちが思い描いた絵に近づいてきています。ただまだまだ、どちらかというとデマンドファネルの左から右に一方通行でいく活動が多く、期間限定のプロモーション活動が多い。その中で、お客様のニーズを見つけるタイミングが合わないことがある。デマンドファネルの右から左への活動も加速していきたいですね。ツールベンダーともいろいろとテクノロジーという点で相談しないといけない。今、興味がないという人に興味を持ってもらう、そういう活動をやっていきたいと思っています」
駒井:「日々改善が必要です。まだやり残していることはスコアリングです。製品がいろいろあってそれぞれ設定を変えていかないといけない。1つ1つつくり、それを横に展開することがうまく進んでいません。あと、コンテンツを準備するのが難しいと感じています。ファネルのステージごとにお客様が必要とする情報が違うので、それに合わせて何段階もつくることが大切です。私の部門にとっての課題だと思っています」
上田:「先程もABM(Account Based Marketing)の話が出ましたが、私もこれを意識していきたいです。また、最近は日本国内でも自然災害が多いのですが、業務・事業継続や災害対策において建設業の果たす役割は大きく、また地方創生への取り組みもあります。事業特性上、建設業は社会インフラづくりが大きなミッションです。これらをマーケティング活動の中でも市場に訴求し、ミッション性のあるマーケティングに取り組んでいきたいと思っています」
マーケティング部門と営業部門が協力する体制を、どのようにつくり、結果を出していくのか。各社の経験、取り組み、今後の課題や展望が見えるパネルディスカッションとなりました。