2017/03/02 (  木 )

CIO Forum 2017 レポート

CIO Forum 2017 レポート

CIO Forum 2017
ITが導く企業変革とイノベーション
~経営機能としてのITリーダーの役割~

 

2017年3月2日、東京・コングレスクエア日本橋にて、株式会社ビジネス・フォーラム事務局主催「CIO Forum 2017」を開催しました。AIやIoTなどをはじめとした近年のテクノロジーの急速な進化に伴い、企業における情報システム・IT部門には従来の役割の枠を超えて、“ITでビジネスにイノベーションを起こす”という経営戦略に紐づくミッションが求められています。そのような中で、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)を含むITリーダーは、いかにしてビジネスに新たな付加価値を生み出し、企業競争力の向上につなげているのでしょうか。当日の講演やパネルディスカッションの様子をご紹介します。

特別講演Ⅰ:「次世代コンビニの実現に向けたローソンのIT戦略」

お客様にとって、なくてはならない存在を目指して

株式会社ローソン 執行役員 業務システム統括本部 副本部長 兼
株式会社ローソンデジタルイノベーション 代表取締役社長
白石 卓也

 2015年にIT子会社「ローソンデジタルイノベーション」を設立した株式会社ローソンは、様々な社会環境の変化に直面しています。深刻な人手不足、働き方・働き手の多様化、他業種との競合激化、お客様ニーズの細分化。「社会変化対応業」であるコンビニエンスストアは、なくてはならない社会インフラとして存在していくために、地域の需要に対応したきめ細かいサービスの提供を様々なパートナーと連携しながら進めています。「次世代コンビニの実現に向けたローソンのIT戦略」と題し、ITを用いたビジネス戦略や具体的な取り組み事例、ITリーダーに求められる役割を白石氏に講演いただきました。

  

最新のITテクノロジー導入で進める
“小商圏型製造小売業”化と オープンプラットフォーム化

 

 白石氏は、株式会社ローソンの掲げる2つの大きなビジネス戦略テーマを紹介しました。1つ目が小商圏型製造小売業。2つ目がオープンプラットフォームです。この戦略に対して白石氏は「我々テクノロジー部隊は、最新テクノロジーを導入していくのが1つ。もう1つ重要なのが、データの活用分析によるアプローチ。さんざん言われてきているが、ここにきてデータをどう使ってビジネスを作り上げていくのか、業務改善していくのかが、益々重要になってきている。変化することを前提としたシステム基盤を作り上げていくことが、ITの戦略として重要だ」と言います。

 

 今までローソンは、最初の商品企画開発と、最後の販売を中心にやってきました。現在では、原材料調達の会社を作り、さらに製造や物流も含め、パートナー企業と密に連携していく方向にシフトしています。これにより、企画から販売まで、一気通貫でサプライチェーン全体の流れを把握できます。コンビニエンスを目指してきたが、今後はよりエッセンシャルな存在を目指す。他の店とは違う体験、サービスで、お客様が「どうしてローソンでなくてはいけないのか」を考え、なくてはならない社会インフラとして、存在していくことを目指しています。

 

 これに対し、白石氏は具体的な取り組み事例として3つ挙げています。まず「インストア分析」。カメラ、センサーを用いてお客様の動線、商品陳列状況の把握を行い、お客様の購買行動の原因解析を行う実験を実施しました。お客様にもう1品をどう買ってもらうか、どうやってもう1人に店に入ってもらうかを、ITによりアプローチする取り組みです。次に「レジロボットやRFIDの活用」。2016年9月に行われた無人コンビニの導入実験を紹介しています。コストの削減だけでなく、個品のトレースアビリティも明確にするRFIDのプラットフォームをオープンに構築していくことで、社会インフラとしての世界初の個品管理プラットフォームが実現できます。もう1つが「AIチャットボットマーケティング」。AIチャットボットはLINE株式会社と共同で行っている、AIを使ったコミュニケーションサービスです。POSやポイントカードからは得られない幅広い情報を取得できる、SNSを中心としたお客様とのコミュニケーションは、今後更に重要になると白石氏は予測しています。

 

ITリーダーに求められる役割は、「2020年をイメージする」
「全体俯瞰と一点突破」「推進する組織体系づくり」

 

 最後に白石氏はITリーダーに求められる役割として「2020年をイメージする」「全体俯瞰と一点突破」「推進する組織体系づくり」の3つを挙げています。2020年をイメージするとは、IT・テクノロジーをベースとして、2年後、3年後にはどのような世界になっているか。その時お客様はどのようなことを望んでいるのかをイメージすること。ニーズが多様化するなか、コミュニケーションのあり方を考える必要があります。全体俯瞰と一点突破とは、全体の整合性を合わせながらシステムを変更していくとともに、特定の領域で大きく成果を出すこと。最後に、推進する組織体系づくりとは、推進体制をどうしていくか。これがないと、いくら戦略をたてても絵に描いた餅となってしまう、と白石氏は言います。

 

 そして、白石氏はローソンの掲げるデジタル戦略を進めるために必要なこととして2つを挙げています。1つは「テクノロジーの活用ノウハウの蓄積と内製化」。2つ目が「オープンイノベーション推進強化」。ノウハウの蓄積と内製化という点は、ローソンデジタルイノベーションを設立した背景でもあります。オープンイノベーション推進強化という点では、様々なパートナー企業との協力を進めています。チェーン全体のあらゆる分野にテクノロジーを活用し、ローソンがコミュニケーションインフラとしてなくてはならない存在となるべく、白石氏は日々第一線で奮闘されています。


株式会社ローソン
執行役員 業務システム統括本部 副本部長 兼
株式会社ローソンデジタルイノベーション 代表取締役社長
白石 卓也


東京大学大学院卒業後、1996年フューチャーアーキテクト入社、その後プルデンシャル生命保険、IBM、ベイカレントコンサルティングを経て、2015年4月ローソン入社。ローソンが推し進めている次世代システムの責任者を務める。2016年2月に設立したローソンデジタルイノベーション 代表取締役社長を兼務。

基調講演:「ITでイノベーションをリードし、新たな競争優位性を獲得する ~AI(人工知能)や先端技術を素早く取り込み ビジネス価値を生み出すクラウド・プラットフォーム~」

イノベーションのためのプラットフォームを提供する
コグニティブ、クラウドソリューション

日本アイ・ビー・エム株式会社 取締役専務執行役員 IBMクラウド事業本部長
三澤 智光

 

 「今やコグニティブソリューションとクラウドプラットフォームの会社である」と宣言し、クラウドやAI、データサービスやアナリティクスの新規研究開発投資を活発に行う日本アイ・ビー・エム株式会社。IBMのクラウド戦略や、企業が自社に合ったハイブリッドなシステム環境をどのように構築運用していくのかについて、「ITでイノベーションをリードし、新たな競争優位性を獲得する」と題し、様々な取り組み事例とともに、三澤氏に講演いただきました。

 

オンプレミスとクラウド
まったく異なるアプリケーション特性にどう応えるか

 

 三澤氏は最初に、オンプレミスで稼働している従来型アプリケーションと、クラウドで使われるアプリケーションの特性の違いについて解説しています。現在、クラウドコンピューティングは、アマゾンやグーグルに代表される「クラウドネイティブ」な企業が使うのに大変便利なものとなっています。このようなクラウドネイティブな会社が求めるアプリケーション特性と、一般企業が求める旧来型のアプリケーションでは求める特性が大きく異なります。

 

 例えば財務会計や生産管理など、旧来型のアプリケーションはSOR(System of Record)。特定の人が特定の人数で使用し、365日安定的に動き続けることを求められます。それに対し、クラウドで求められるものは、今日の時点では同時100ユーザーで動いていたものが、1年後には同時10億ユーザーで動く可能性もあるという、とてつもなく大きいスケーラビリティが要求されます。さらに、このようなお客様との接点をささえるSOE(Systems of Engagement)アプリケーションは、お客様の満足を維持するために頻繁に変更が行われます。三澤氏は「クラウドに実装されている変化の大きいアプリと、365日安定的に動くアプリとをどのようにマネジメントするかが今後の課題である」と言います。

 

 IBMではこの点に力を入れ、アプリケーションの構築、管理、実行するためのクラウド基盤、IBM Bluemixを提供しています。オープンソース のPaaS (Platform as a Service) であるCloud Foundryをベースに、オンプレミスの環境もクラウドの環境も選択できるハイブリッドなデザインを実現可能にしています。

 

エコシステムを作りやすく
インターオペラビリティの高いクラウドを提供

 

 三澤氏は、IBMがクラウドプラットフォームをつくるにあたり一番大切にした考え方は、「オープンスタンダードテクノロジーとオープンソースで作り上げていくこと」だと言います。オープンスタンダードテクノロジーとオープンソースでオンプレミスのアプリがつくられていれば、IBMクラウドとのインターオペラビリティは高くなります。また、いくつかのクラウドの間でも、オープンソースで作られていればクラウド間のインターオペラビリティも高まります。

 

 三澤氏は「オープンテクノロジーを選んだ理由は、ベンダーロックインで自由にアプリ基盤を動かせなくなることを避けるという理由だけでなく、様々なアプリ開発者やサービス事業者とのエコシステムを作りやすくしている。一緒にビジネスをできるようになるということ」と言います。加えてこのようにも述べています。「今後クラウドプラットフォームに求められることは、この素晴らしいプラットフォームの上で“どんなビジネスバリューを作り出すのか”ということ。オープンスタンダードテクノロジーをベースに、ハイブリッドなデザインをしやすくする。Watsonなどのコグニティブの機能を取り入れやすくする。プラットフォームの上に数多くのバリューを載せて皆様方のデジタライゼーションをお手伝いする」、これがIBMのクラウドの考え方です。


日本アイ・ビー・エム株式会社
取締役専務執行役員 IBMクラウド事業本部長
三澤 智光


1987年4月に富士通株式会社入社。1995年5月に日本オラクル株式会社へ入社し、2000年に執行役員 パートナー営業本部長 兼 ソリューション統括部長を務める。その後、2011年に専務執行役員 テクノロジー製品事業統括本部長、2014年に副社長執行役員 データベース事業統括、2015年12月に執行役 副社長 クラウド・テクノロジー事業統括を歴任。2016年7月より日本アイ・ビー・エム株式会社 取締役専務執行役員 IBMクラウド事業本部長へ就任し、現在に至る。

特別講演Ⅱ:「コニカミノルタにおけるグローバルIT戦略 ~ビジネスに貢献するITマネジメント~ 」

 

既存のIT技術と新しいIT技術の両立
ITビジネスに必要な「攻め」と「守り」のバランス

コニカミノルタ株式会社 執行役 IT企画部長
田井 昭

 

 海外での売上高が8割を占めるコニカミノルタ株式会社は、グローバルITガバナンスの強化を進めるとともに、「攻め」と「守り」を意識したIT施策により大きな効果を上げています。「コニカミノルタにおけるグローバルIT戦略~ビジネスに貢献するITマネジメント~」と題し、グローバルガバナンスの現状や課題、攻めのIT、守りのITとは何かを、田井氏に講演いただきました。

現地尊重型からスタンダード準拠型へ
グローバルITガバナンスの現状と課題

 

 田井氏はグローバルITガバナンスの形態として統制力の強さの順に4つを挙げています。グループ・グローバルでのITリソース全体像の把握を行わない、一番統制力の少ない「無秩序型」。それぞれの地域の特性に合わせ事業部門ごとに処理をする「現地尊重型」。準拠すべきスタンダードを定めることで最低限のラインを確保しつつ、違いを吸収するためのローカライゼーションを許容する「スタンダード準拠型」。そして一番統制力が強い、統一された戦略、方針に従う「ベストプラクティス展開型」。コニカミノルタでは、以前はITセキュリティポリシーや主要会社の基幹システム方針を配信するにとどまり、後は現地に任せる現地尊重型のガバナンスをとっていました。ITのグローバル化を進める為にどうするかを考えた結果、現在では、バラバラだった国際ネットワークの統合やマスターデータの標準化など、グローバルでのIT部門の協力を強化。スタンダード準拠型へ移行しています。これにより、グローバルでのIT費用の見える化と、プロジェクトの可視化によるIT投資の最適化が達成されました。

 

 しかし課題もあります。田井氏は課題として、ITの技術がバックオフィスに留まらずフロントのビジネスに影響するようになり、IT部門の役割の変化が生じている点を挙げています。また、EUのGDPR(EU一般データ保護規制)により、EU内のデータを簡単に持ち出せなくなる事への対応も急ピッチで進めなくてはならない現状も挙げていました。環境の大きな変動に対応する為、新たなガバナンスフレームが必要になっています。

ITの「攻め」と「守り」
ビジネスに貢献できるIT部門になるには

 

 続いて、田井氏はビジネスにおけるITの「攻め」と「守り」について、新しいものに挑む「攻め」の時こそ「守り」が必要であると強調します。IT部門としてビジネスに貢献するには、IT部門のみでは効果がなく、トップのコミットメントと事業部門とどう連携していくかが重要です。その際、既存の課題を残して新しいビジネス「攻め」を行うことはできず、既存のIT基盤「守り」を強化することは、「攻め」を行う為にも必要となります。守りと攻めのバランスが大切です。事業部門との連携では、IT部門が担う領域を明確化し、自部門の得意領域、強化領域を活かすことで、ビジネスへの貢献の効果が増加します。これを実現するためには、新規技術の習得と、人材育成強化は必須であって、IT部門の進化をメンバーが意識できることが重要です。

 

 そして田井氏はIT部門のビジネスへの貢献について、このように締めくくられました。「人材強化は大変。従来のメンバーを強化するのは年単位でかかる。しかし、一緒に働いているメンバーがこういう環境を理解して新しい事にチャレンジして、そこで何か面白い事をぶつけられて楽しめるなと思ってくれればその組織は活性化するし、進化する事が出来る。これからITは裏方ですまない部分が出てくる。責任は大きくなるが、その分エキサイトな部分がある。同じ業界で働いているIT企業のメンバーの方もそう思っていただければ、エコシステムではないが、日本企業のITがこれからもさらに成長できる領域になっていければいい」


コニカミノルタ株式会社
執行役 IT企画部長
田井 昭


1981年小西六写真工業株式会社(現コニカミノルタ株式会社)入社、2007年にKonica Minolta Business Solutions U.S.A., Inc. 上級副社長へ就任。2009年にコニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 開発本部 ソリューション開発センター システムソリューション部長、2011年にコニカミノルタホールディングス株式会社 IT業務改革部長、2013年にコニカミノルタ株式会社 IT業務改革部長、2014年に同社 執行役 IT業務改革部長を歴任。2015年4月に同社 執行役 IT企画部長へ就任し、現在に至る。

特別講演Ⅲ:「パナソニックのIoT、AI戦略 ~コトづくり起点のイノベーション」

コスト削減のみから、顧客価値提供のIT施策を
「コトづくり」を起点としたイノベーション

パナソニック株式会社全社 CTO室 ソフトウェア戦略担当理事
梶本 一夫

 

 お客様に常に寄り添う「コト」を提供できる最短距離にいるパナソニック株式会社は、家電からはじまり、自動車、住宅、あらゆるB2Bに向けたパートナーとの協働を行い、お客様の「いいくらし」を拡げています。IoT、AI戦略の現状や、新たな価値を生み出すための戦略策定の秘訣を「パナソニックのIoT、AI戦略~コトづくり起点のイノベーション」と題し、梶本氏に講演いただきました。   

 

全ての空間で24時間お客様に寄り添うポテンシャルのある会社社内リソースのシフト

 

 梶本氏は、「住宅空間」、「非住宅空間」、「モビリティ」、「パーソナル」の4つの空間を示し、お客様は24時間この4つのいずれかの空間で過ごされていると説明します。パナソニックは、この4つの空間すべてにおいて常にお客様に寄り添えるポテンシャルを持っています。お客様に常に寄り添う「コト」をどうやってお客様に届けていくかを考え、2013年に市場への新たなアプローチ戦略を立案しました。それを受け、あらゆるB2Bパートナーとの協働を行い、社内リソースをシフトしていきます。従来通りのB2Cのビジネスに加え、住宅設備、アビオニクス、スタジアムソリューション、自動車やその他の機器の部品事業へ。梶本氏は「ハードをIoTに闇雲に繋げてもビジネスになるかわからない。21世紀に残れる企業を目指し、現在の会社のポートフォリオ、ポジションと今後の技術進化を睨みながら、成長領域に技術開発投資をしていく」と言います。

 

 とくに、IoT、ロボディクス領域においては、「技術10年ビジョン」としてAIロボティクス家電、自動運転コミュータ、店舗接客ソリューション、次世代物流搬送などに既に取り組んでいます。例えば、AIロボティクス家電では、パナソニックと、セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ、大和ハウス工業の3社合弁の会社を設立し、洗濯、乾燥、アイロン、たたみ、収納までの全てを行う完全全自動の洗濯機を開発。自動運転コミュータでは、自動運転車両向けのミリ波レーダーを用いた高精度・広視野角化技術を発表しています。店舗接客ソリューションでは、ローソンと協働して、無人コンビニエンスストアの導入実験を行っています。次世代物流搬送では、自律搬送ロボットの新JIS安全認証規格を初取得し、空港やホテルでのサービス実証実験を開始しています。

 

 ほかにも、IoT技術によるスマート工場、IoTを用いて不具合による遅延を防ぐ航空機のアビオニクスなど、様々な分野に技術、製品を提供しています。パナソニックはIoTデバイスを作る会社なので、そのモチベーションは高く、今後も様々な分野に挑んでいきます。

 

コストよりも価値を
コトづくりファーストの戦略の重要性

 

  次に梶本氏は、日本の企業はIT、モバイル、IoT、AI、ビッグデータなどの波に乗り切れていないと指摘します。日本企業の非効率性の原因として、ソフトウェアの無理解を挙げ、欧米と日本とのソフトに対する認識の違いを説明しました。日本では、ソフトに対するKPIは「コスト」。マイナスをいかに小さくするかという単年度戦略で動きます。対して欧米のソフトに対するKPIは「価値づくり」。プラスをいかに大きくするかという長期戦略になります。日本はソフトウェアによるルール作り(エコシステム)をコアコンピタンスの1つととらえず、簡単に他国のエコシステムに飲み込まれてしまう状況といえます。

 

 梶本氏は、このような状況において、日本企業が飛躍するための処方箋として次の5つを挙げています。1つめに、ことづくりファースト、ソフトウェアセカンド、ハードウェアラストであること。ソフトウェアによる「ことづくり」とエコシステム作り起点の戦略を取れるかが重要です。2つめにオープンイノベーション。エコシステムづくりのために、損して得取れの社内プロセスを実行します。3つめに、ストック型ソフトウェア開発。エコシステムを強化するため、ソフトのノウハウ資産蓄積を継続することが必要です。4つめに、コーディング重視・運用重視。コーディング、テスト、データ分析を工数単価で評価していないか。PF戦略、課題対応で優秀なコーディング経験者を重用しているか。クラウドでは運用し、顧客対峙しながら新規機能開発をしているかが問題となります。5つめに現場へのエンパワーメント。旧来の価値観のトップマネージメントが居座っていないことが鍵となります。梶本氏は「内向きのコスト削減のみという視点から一歩踏み出し、CIO自らが外に出て顧客価値提供に向けたIT製作を行うべきだ」と強く勧めています。


パナソニック株式会社
全社CTO室 ソフトウェア戦略担当 理事
梶本 一夫


1986年3月京都大学大学院工学研究科情報工学専攻修了、同年松下電器産業株式会社(現パナソニック株式会社)入社。中央研究所情報グループ配属となりOSのマルチメディア機能開発に従事。その後、ビデオ編集システム、音楽配信システム、デジタル放送送出設備開発に従事の後、2007年4月システムエンジニアリングセンター所長、家電ソフトプラットフォーム開発やソフトウェアプロセス研究、オープンソース利活用、クラウド技術開発推進等に従事。2014年10月現職となり、ソフトウェアの全社戦略策定・推進を担当。

パネルディスカッション:「【今後のITリーダーのあるべき姿】経営機能としてのITリーダーの役割とは」

組織変革、テクノロジーへの対応、未来展望
第一線で活躍するITリーダーが「あるべき姿」を議論

 

 パネルディスカッションでは、ヤンマー株式会社の矢島氏、アサヒビール株式会社の松浦氏、大和ハウス工業株式会社の加藤氏、日本アイ・ビー・エム株式会社の三澤氏の4名のCIO、ITリーダーをパネリストに迎え、ジャーナリストの松岡氏がモデレーターとなり進行していきました。最初に各パネリストの自己紹介と共に自社の業務内容やIT戦略などを簡単に紹介していただき、ディスカッションに入っていきます。

事業部門、経営層とIT部門とのコミュニケーション術

 

 まずは「ITリーダー× 組織変革:組織をどう動かすか ~変革を浸透させるためのポイント」というテーマからスタート。モデレーターの松岡氏より「事業部門、経営層とのコミュニケーションをどうとっていくか?これをワンポイントで各人お願いします」と質問が飛びます。

 

松浦「通常の業務を行っていく中で、組織を横串で見て新しいことにチャレンジしていくことが重要になっていく。多くの場合、物流の人は物流の、営業の人は営業のデータしか見ておらず、これでは従来の延長にしか過ぎない。イノベーションのためには横串でコミュ二ケーションをとりながら、こういうデータはこういう風に自分の業務に活かせるのではないかという意識を持つ。横のネットワークが今後重要になってくると感じている」

 

 加藤「経営層はビジネスの成長を実現させるために経営判断をして、指導してリーダーシップを発揮している。ITはあくまでもそれを支えるツールである。事業部門がシステムオーナー、データーオーナー、予算オーナーであり、事業部門がやりたいことに対してIT部門で何ができるのか。それをIT部門が提案し、事業部門の成果が上がるように支援している」

矢島「経営者、事業部門、IT部門がお互いに理解し三位一体となり取り組むことが大切。経営者が何をし、現場が何をし、ITが何をするかを、明確にできるか。双方が納得しながら、それぞれ責任をもって役割を果たすことが必要だ」

 

ここで松岡氏からさらに質問が飛びます。
「事業部門、経営層とIT部門との関係は長らく論議されたテーマで、なかなかいい答えがありません。もう一歩踏み込んで、具体的にどうアクションをするか。経営者層、IT部門、業務部門がそれぞれどう動けばきっかけがつかめるでしょうか?」

矢島「業務プロセスのオーナーを明確に示し、情報オーナーを明確に示す。役員、社長クラスにそれぞれのオーナーは誰なのか決めてオーナリングをしてもらわなければ、IT部門側からは情報提供はしないというぐらいの姿勢が必要。各職種の部隊が何をどう共通化するのか、職種のトップが決める。IT部門ではない。各職種の中期計画で提示させている」

 

加藤「IT部門が要求に耐えられる体制をつくることが必要。構造改革として全体最適化とマルチタスク解消を目指した組織改革、プロジェクトマネジメントの改革、個人の能力アップを実施している。自らが会社の要望、経営の要望、事業戦略の要望に耐えられる体力作りをしなければならない」

 

松浦「既存の部署でいると既存の部署のミッションをやっていれば評価された。それだけでは将来大丈夫か。今の延長だけでいいのかという不安があった。色々な部署の色々なノウハウやデータを持ち寄りながら、外方向にもネットワークを向けている」

 

三澤「十数年前、IT部門と情報子会社との関係はどうすればいいか、という質問が多かった。自社にどうITを取り戻すか。ITがビジネスを支えるエンジンになってきている。そこでまず、クラウドによるスモールスタートが効果的だ」

先端テクノロジーに立ち向かうために、“人材確保”が鍵を握る

 

続いて、「ITリーダー× テクノロジー:デジタル・トランスフォーメーション時代のITマネジメント」のテーマに移ります。松岡氏より、先端テクノロジーを取り入れる上で、CIOはどう取り組んでいくべきか、という質問が投げかけられました。

 

矢島「ビジネスの利益を上げるためにどのようにIT部門が関わるかが、部門から見た課題。従来の技術のままの守りの世界では100を100返さないといけなかった。新しい技術での攻めは3割返せればすごい。しかし、今まで守りでやってきたものは急に攻めの世界では使えない。それに対して、毎年3~5%は各自新しいことをやってみろと投げかけた。そうすると、守りをやっていた者でも何人かはやるものが出てきた」

 

加藤「次のステージをどうしていくか、という世界に来ている。最新の技術を使えばどういう物ができるのか、と言う目で見なくてはいけない。状況を判断してうまく予算を確保し、新しいものにトライアルする。これはCIOレベルのトップでなければできない」

 

松浦「デジタルでの新規取組は費用対効果が問題になる。つまり、効果が分かっていたら誰でもやる。スモールスタートし、来る日のために小さくコツコツ成功を重ねていく。データやデジタルを使いながらいかにやるか、新しいモデルを考える必要がある」

 

ここまでの答えを受け、松岡氏からさらに質問が出ます。
「このテーマで一番悩むのは人材をどう確保するのかということだと思います。皆さんその点はどうされているのでしょうか?」

 

矢島「社内的な話では、色々トライさせて能力を見いだしています。外に向けてはいろいろな所で積極的に話すことで、ヤンマーがデジタルで先進的な取り組みをしているとアピールする。今では、なんでこの会社に?という人が、来るようになった。“ヤンマーが何かやろうとしているな”と感じてくれたのだろう」

 

加藤「IT部門の人材育成は企業が持っている人材育成に入らないところがある。企業の人材育成はジェネラリスト型で、マネジメント人材ばかり育てている。しかし、IT部門は高度なIT人材であり、スペシャリストを育てるやり方。セミナーなど、外部の経験をたくさんさせるようにしている」

 

松浦「人材の確保はデジタル部門で一番難しい問題。社内での育成が重要だが、社内はデジタルに強い人が少ない。社内で育てながらも、我々の事例を見て社外からも関心を持っていただければと考えている」

 

三澤「人材育成は苦労している。お客様の所に行った時に、“クラウドの時代だが人が育たない”と嘆かれることがある。そんな時は、“砂場みたいなところはありますか?”、“クラウドを自由に触れる環境を整えていますか?”と質問している。実際のところ、月額数万円分のBluemixの環境を確保するだけでWatsonやIoTなど最新テクノロジーに常に触れられる。触って経験する場をどう与えてあげるかが重要である」

 

さらなる発展を目指すITリーダーに求められるもの

 

最後に「ITリーダー× 未来展望:これからのCIO、ITリーダーはどうあるべきか」というテーマで、CIO・ITリーダーの資質に関わるディスカッションが行われました。

 

松岡「これまでの2つの議題はITの両輪。それを踏まえてCIO、ITリーダーはどうあるべきか。資質的な話を交えてお聞かせください」

 

加藤「一番は後進の育成。これから企業を成長させて存続させるためには、我々の後輩がいかに企業に貢献できるかが重要である。そして最新のテクノロジーがいかにビジネスにキャッチアップできて、ビジネスに活かせるかを見極める“目利き力”。自らが新しい物を知らないと判断できない。常に最新の物に触れ、自らの目線で部下にちゃんとアドバイスができる必要がある」

 

松浦「今後重要になってくるのは、新しい事にいかに挑戦し続けるか。そして、それをあきらめずにやり抜くか。前例はないが、だからこそやる、という精神で取り組みたい」

 

矢島「チャレンジャブルにやらなくてはいけない。すごいスピードで技術が進んでおり、時代の進みは速い。素直にどんどん学ぶことが大切である。次に重要なのは、コミュニケーション力。技術論などぶつけても若者に壁をつくられる。CIOの仕事は前に出ないことであり、ベストコーチ、ベストキャディー。社長をプレーヤーとして優勝させることが仕事だ」

 

三澤「IT部門トップに共通しているのは“知りたがりの教えたがり”であり、原理原則を知りたがる。知りたい、教えたい。そして、その原理原則とビジネスを掛け合わせて考えていく事が求められる」

 

今回のパネリストは、長い歴史をもつ企業におけるITリーダーの方々です。自社の伝統や歴史を重んじながらも、ビジネス環境の劇的な変化や先端テクノロジーの進化に対応すべく、日々新しいことへのチャレンジを絶えず続けています。これからのITリーダーがどのように企業変革やイノベーションを牽引していくかについて、多くのヒントが含まれたディスカッションとなりました。