CX Management Seminar 2022
『顧客』を起点としたこれからのマネジメント
~組織・仕組み・テクノロジーの観点から考察する、CX向上への道筋~
主催:株式会社ビジネス・フォーラム事務局
開催趣旨
テクノロジーの進化とパンデミックによって企業と顧客の関係性が大きく変化しています。劇的なスピードで変化するビジネス環境下での経営の舵取りは、数年先ですら予測することが困難な状況です。このような状況の中では、顧客を理解し、顧客のニーズの一歩先を照らし、顧客の一喜一憂を知ることで、差別化された価値ある顧客体験を生み出すことが可能になります。不確実性の時代における経営は、真の顧客中心主義にこそ、成長の解があるのではないでしょうか。
しかしながら、顧客体験や顧客中心主義の考え方や仕組みは、まだまだ営業やカスタマーサービス等、企業のフロント部門のミッションに限定されがちです。本来であれば、顧客のニーズや声、差別化された顧客体験の価値を、事業におけるビジネスプロセス全体に落とし込んでいくことが重要です。また、テクノロジーにより様々なデータを多角的かつスピーディーに分析できるようになったことで、差別化された顧客体験をより早く、より高度に、より価値あるものとして提供することができます。それは事業や企業において大きなアドバンテージとなり、企業成長の礎になります。今こそ、顧客を起点とした経営施策が求められているのです
当セミナーでは、「顧客」を起点にした組織体制や仕組みの再構築と、その取り組みを実現するテクノロジーについて、先進企業の取り組み事例を含め、考察していきました。
参加者の属性
特別講演
顧客起点の経営改革
~ミスミ新規事業meviyにみるCX起点のDXと組織づくり
株式会社ミスミグループ本社
常務執行役員 ID企業体社長
吉田 光伸 氏
ものづくり産業の在り方を一変する革新的なサービスも、顧客へその価値が伝わらなければ意味がない。
新規事業を成功に導いた大胆なCX(顧客体験)起点のDXと組織づくりの手法とは?
労働生産性の改革を実現する
DX新規事業
世界の顧客約33万社に機械部品の製造・販売を行うミスミグループ。3,000万点を超える世界最大級の品ぞろえ、受注生産で標準2日・納期遵守率99%の確実短納期を実現する極めて高度な生産システムとグローバルのサプライチェーンを有する同社は、もはや製造業におけるインフラとみなされている。
同社ID企業体社長・吉田光伸氏は、新規事業「meviy(メビー)」立ち上げの背景を話す。狙いは労働生産性の改革だ。
「1980年代の強い日本の製造業を支えていたのは、豊富な労働力×長い就業時間による膨大な総労働時間でした。それがVUCA※の時代になり、労働力は人口減少により収縮し、就業時間は働き方改革によって最適化され、製造業全体が使える時間が激減しました。この流れの中では、労働生産性を改善ではなく改革することが生き残りの要件になります」
製造業は設計・調達・製造・販売のプロセスにおいて、調達が生産性向上のボトルネックになってきたと吉田氏は指摘する。多くの会社では、いまだ調達領域で紙図面とFAXが欠かせないという。
「生産ラインのある自動機の部品が1,500点とした場合、部品1点につき紙図面の作図に30分はかかるとして計750時間、各部品につきFAXを使った見積もり作業に25時間、見積もりと納品待ちで168時間を要することからトータル約1,000時間(125日)もの時間が使われてしまっています。日本のメーカーが仮にこのような設備を1台調達すると、日本全体で年間3.8億時間、2兆円以上の経済損失が発生していると試算しました。そこで当社が生み出せる最大の価値創造は何かと突き詰めたどり着いたのが、時間の創出。ものづくりにおける時間革命を起こすDXとしてmeviyを開発しました」
デジタルの活用によって
製造業の時間革命を実現
meviyは顧客側の革新「AI自動見積もり」と生産側の革新「デジタルものづくり」から成る。「AI自動見積もり」では、顧客がソフトウェアで設計したデジタル図面データをそのままクラウドにアップロードすると、AIが形状を認識し、価格と納期を回答。その後、「デジタルものづくり」が図面から製造プログラムを自動生成し、受注と同時に加工をスタートすることができる。見積もりから生産までほぼ無人で、「即時見積もり、最短1日出荷」という時間革命を実現した。
「例えば、これまで1,000時間かかっていた調達領域で900時間が創出されます。この900時間を人間にしかできない創造性の高い仕事、新しいサービス、より良い設計などに充てていただきたい。ユーザー数は急激に伸びており、すでに国内8万ユーザーから累計800万超の設計データがアップロードされ、高い評価をいただいています」
顧客起点に立ち返り
必要な情報を届ける
顧客33万社へのカタログ販売という強固な顧客認知があった同社も、meviyは顧客認知ゼロ、営業・マーケティング組織ゼロからのスタート。便益・独自性は十分な商品であるにもかかわらず、当初はバラついた顧客接点により、いわゆるムリ・ムラ・ムダが多く、その価値は伝わらない。この課題解決に向けて行ったのが、顧客起点への立ち返りだ。大事にしたのは、経営陣が顧客の声を聞くことだった。
「顧客に耳を傾けることで、1人の営業マンが非常に幅広いプロセスで動く、いわゆる多能工の弊害が見えてきました。CXのあるべき姿としては、便益・独自性という情報が必要な時に必要な形で顧客に伝わる状態。それは顧客接点を個の頑張りに期待するのではなく、リ・デザインした仕組みで実現すべきです。ものづくりの発想で、顧客への情報品質の向上とリードタイム短縮の同時実現を目指し仕組み化していきました」
マーケティング・インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスの各プロセスを分業・専任化。同時に、プロセスごとのアクションを「標準化」、情報をクラウドに集約する「一元化」、情報提供をオートメーション化する「自動化」を行った。それにより、顧客あたりの接触前確認の生産性は3倍になり、接触時間は倍増。必要な情報を、必要な時に、必要な形で届けられるようになり、顧客数は急増していった。
「meviyは紙の削減によるカーボンニュートラル、時間創出による人手不足解消、データ管理によるセキュリティ強化など、ESGへの貢献度も高い。事業成長と社会貢献を同時に狙っていきたいと考えています」
(注釈)
※VUCA
Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取った造語で、未来予測が難しい状況を指す。
(図版とキャプション)
meviyの価値を伝えるために、顧客起点に立ち返り、ものづくりの発想で顧客接点のリ・デザインを実施。分業体制と専任化による情報品質の高度化、デジタル化による顧客状態の見える化に努め、営業マンの頑張りに頼ることなく、情報品質の向上とリードタイム短縮を同時実現した。
株式会社ミスミグループ本社
常務執行役員 ID企業体社長
吉田 光伸 氏
ミスミ入社前は、国内大手通信会社、外資系大手ソフトウェアベンダに籍を置き、インターネット黎明期からデジタルを活用した新規事業の立ち上げ、事業拡大に数多く携わる。ミスミでは国内事業、海外事業、新規事業を経てオンライン機械部品調達サービス「meviy(メビー)」を展開。権威ある10個の受賞に加え国内シェアNo.1を獲得。製造業におけるDXをけん引する。
講演
データドリブンによる価値ある顧客体験の創造
~思い込みの “おもてなし” からの脱却~
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
プロダクティビティーアプリケーションズ事業本部
CX事業部
CX Partner Business Development Manager
江原 孝大 氏
CX(顧客体験)のリーダー企業として知られるアマゾン。その取り組みの背景には徹底的に顧客起点で考える姿勢があるという。アマゾンウェブサービスジャパン(AWS)でCX事業部にて日々CXビジネスに携わる江原考大氏がCX創造の鍵を解き明かす。
CXを中心とするサイクルで
イノベーションを起こす
80%の顧客はCXを商品・サービスそのものの価値と同等と判断。3分の1の顧客はCX次第で商品購入をやめる。32%の顧客はたった1回の不快な体験で好きだったブランドを使うのをやめる――。AWSでCX事業を手掛ける江原孝大氏は、これらの調査結果※1を挙げながら、CXの重要性を指摘する。
「ロイヤルカスタマーをつなぎとめておくコストと、新規顧客開拓のコストを比較した場合、後者には5倍のコストがかかる“1:5の法則”があります。さらに、顧客離れを5%改善すると収益が少なくとも25%上がる“5:25の法則”もある。それほどロイヤルカスタマーは重要だが、このロイヤルカスタマーをつなぎとめておくために重要なのがCX。興味・比較検討・購買・利用・共有という購買サイクル全般における顧客の感情を含む体験がCXです。そのため、 顧客の思考と感情をしっかりと意識することが大切です」
アマゾンが掲げるミッションは「地球上で最もお客様を大切にする企業であること」。社員の行動指針には、常に顧客起点で考えることが掲げられ、ビジネスモデルは成長を中軸に、CXの洗練を中心に顧客数と出品者、品ぞろえの増加、コスト構造の改善といったサイクルを回していくと定義されている。スマートスピーカー「Amazon Echo」や定額制オンデマンドビデオ配信サービス「Amazonプライム」といったイノベーションも、このサイクルを回す過程で生まれてきた。
「アマゾンには顧客起点に徹底的にこだわる Working Backwards という手法があります。顧客は誰か? 顧客にとってそのサービスの メリットは? 顧客のニーズとウォンツは? それをどのように知ったのか?自分たちの思い込みではないか? などを顧客起点で整理し、はじめにプレスリリースを書きます。記者発表で投げかけられる質問を考え得る限り想定し、FAQを全て整理する。このステップの精度がなければ、CXを高めることはできません。いけるとなれば、CXをビジュアル化して詰めていき、具体的な製品、サービスの制作に入る。全プロセスが顧客視点で進んでいくのが特徴です」
「残念」「喜び」という
感情の違いがある
江原氏は、顧客の思考と感情を理解したCXの創造について、ECサイト上でのスニーカー購入の例をAs-Is/To-Be※2で解説する。As-Isでは、あるスニーカーを認知後、サイトで様々なスニーカーを比較検討し、対象のカートに入れる。この時の顧客の思考と感情は「不安」だという。
「購入を決めたものの、サイズが合っているか心配なため口コミサイトを 調べ、何度かサイズ変更を繰り返すものの確信を持てずに、本来は嬉しい・楽しいはずの製品購入も、不安・面倒・苛立 ちの感情で購入することになる。結果、もうワンサイズ上にしておけばよかった、返品も面倒だし『残念』という感情で終わってしまう。これが現状の CX です」
では、これをあるべき顧客体験(To-Be)にするにはどうすればよいか? 認知、比較検討し、カートに入れるまでは一緒だが、新しいボタンが出現する。クリックすると、自分が指定したサイズに加え、その前後のサイズが試着できるようになっている。試着し、合わないスニーカーの返却は集荷してもらえる。
「1足購入した事実は変わりませんが、As-Is と対照的に To-Be ではぴっ たりのサイズを選べた『喜び・楽しい』という感情で終わる。これが、顧客体験を創造するということ。顧客体験を創造するということは、つまりお客様に喜びを与えるイノベーションを創造することに他ならない。例のように、実際に3 種類のサイズを発送するにはサプライチェーンなども巻き込んだ改善が必要になる。このためCX改革は全社での取り組みとなります。これはあくまでも例ですが、CX 向上を実現するためには、ここまでやり遂げないと実現はできないのです。」
行動データを元に顧客の
思考と感情を読み取る
顧客の思考と感情を読み取る根拠となるのは、KPI軸ではなく、顧客軸での行動データの分析だ。行動データは、購買前段階のニーズ認識・情報探索・評価/検討の「選択データ」、購買段階の選択・注文・決済の「購入データ」、購買後段階の消費/活用・エンゲージメント・リクエストの「使用データ」に分けられる。この行動データを分析することで、新たな顧客体験、イノベーションを提供できるようになる。EC サイトだけでなく、リアル店舗、メタバースなどチャンネルは多様化・複雑化の一途。顧客を軸にしたこれらのデータを使うには、各チャネルでデータが適切に取得できなければ始まらない。このため、リアル店舗などでは既存業務のデジタル化を推進し顧客のあらゆる行動をデータ化していくことが肝要になってくる。さらに、顧客は複数のチャネルを利用するので、チャネル毎のデータを統合し分析する仕組みを構築することも重要である。
「CX を創造するには、現状の顧客体験(As-Is)からあるべき顧客体験(To-Be )のカスタマージャーニーをきちんと描き、そのカスタマージャーニーを実現するためにチャンネルごとの仕組みを検討していく。チャネル毎の仕組みを考える際には、その仕組みに、顧客軸でデータを取れるような設計にしていく必要もある。現在、多くの企業でDXが推進されているが、データ活用の仕組みを検討する際に、顧客軸でデータを活用できる仕組みを組み込んでいくことが重要である。顧客軸のデータを分析し気付きを得ることで、新たなCXを創造することが可能となる。CXを 創造することは、製品・サービスを作り出すのと同様に、投資や時間を要しますが、今後、企業にとって、さらに重要性を増していくでしょう」
(注釈)
※1:調査出典
※2:As-Is/To-Be
As-Is(現状)を正しく理解し、とTo-Be(未来のあるべき姿)とのギャップを把握するフレームワーク。
(図版とキャプション)
アマゾンのミッションは「地球上でもっともお客様を大切にする企業であること」。そのビジネスモデルは、成長を真ん中に据え、CXを中心として顧客数増加、出品者増加、品揃え増加と同時に、低価コスト体質・構造と低価格を実現していくサイクルを回していく。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
プロダクティビティーアプリケーションズ事業本部
CX事業部
CX Partner Business Development Manager
江原 孝大 氏
CX事業の専門家として、最新テクノロジーを用いた企業のCX/EX改革推進を担当。システムインテグレーター各社とエコシステムを形成し、国内企業のCX/EX向上実現に向けて、日夜奔走中。AWS入社前は、外資系大手ITベンダーに籍を置き、大規模業務アプリケーションの専門家として、設計、導入、ソリューション開発に従事した後、グローバル新規事業の国内展開、事業開発をリード。
パネルディスカッション
「顧客」を起点に、経営を問い直す
〜組織・仕組み・テクノロジーの観点から考察する、CX向上への道筋〜
不透明な時代を生き残っていくためには、CX(顧客体験)を効果的に組み込んだ経営戦略が必須となる。CXを駆使し各業界でリードする3者が、現状の課題から見えるCX向上のポイントについて語り合った。
パイオニア株式会社
Chief Customer Officer & Chief Marketing Officer at Mobility Service Company
石戸 亮 氏
インターネットビジネス、SaaS、経営に従事。 学生時代に累計30万部のフリーペーパービジネスを主宰し、サイバーエージェントへ入社。グループ企業2社の取締役として経営に携わった後、Googleへ入社し、データを活用した統合マーケティング支援や、世界中のGoogleオフィスと協業。2016年からイスラエル創業のマーケティング・インテリジェンス企業DatoramaでSaaSを提供。2018年SalesforceによるDatorama買収によりPMI(買収後の経営統合)をリード。現職にてIoT SaaS/ MaaSビジネスを加速することがミッション。
株式会社ミスミグループ本社
常務執行役員 ID企業体社長
吉田 光伸 氏
ミスミ入社前は、国内大手通信会社、外資系大手ソフトウェアベンダに籍を置き、インターネット黎明期からデジタルを活用した新規事業の立ち上げ、事業拡大に数多く携わる。ミスミでは国内事業、海外事業、新規事業を経てオンライン機械部品調達サービス「meviy(メビー)」を展開。権威ある10個の受賞に加え国内シェアNo.1を獲得。製造業におけるDXをけん引する。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社
プロダクティビティーアプリケーションズ事業本部
統括本部長
下村たまえ
アマゾン ウェブ サービス ジャパンプロダクティビティーアプリケーションズ事業本部・統括本部長。米国にて法人ITサービスの企画、営業を経て帰国後、外資IT業界にてグローバルインフラから業務アプリケーション、セキュリティー、ビジュアルコミニュケーション、アウトソーシングサービス、コンサルティングサービス提供の責任者として企業のグローバルビジネスを含めたDXの支援を幅広く提供。近年は先進技術を活用してお客様のCX/EX向上とCXイノベーションを支援している。
モデレーター
立教大学ビジネススクール 教授
田中 道昭 氏
経営者にこそ求められる
顧客の声を聞く姿勢
CXの創造のために、最も強調したいことをお聞かせください。
下村:顧客を知る。これに尽きると思います。どの企業にもデータ、顧客の声はあります。しかし、いかにカスタマージャーニーを描き、よりよいCXの提供を意識できるかは、いかに顧客を知ることができるかに大きく左右されるからです。
石戸:経営者が顧客の声を聞くことは極めて重要です。大手企業と共に新規事業の立ち上げを目指す際に残念に感じるのが、新規事業担当者やDX担当者が現場で聞いた情報を経営者に報告として上げてしまうこと。これは席でいうと経営者と担当者が向かい合う形になっています。そうではなく、経営者と担当者が横並びの席に着き、一緒にお客様の方向を向いてプロジェクトに取り組むのが理想です。
以前私が在籍したイスラエルのスタートアップは、半年に1度は社長が来日し、顧客の声を直接聞いていました。しかも会社が成長し大きくなっても当たり前のように続けていたのです。経営者が顧客の声を聞くことは、文化としても構造としても非常に重要だと認識しています。
吉田:経営者と顧客との間に距離があるにもかかわらず、経営者に「自分は顧客を理解している」とおごりがある状態が、CXにおける失敗の一番の原因だと思います。私も定期的にお客様を訪問して実際の声を聞くと思わぬ発見があります。
「meviy」は図面を1つ1つアップロードする前提でシステムを作りましたが、ロイヤルカスタマーを訪ねてみると、そこでは100個、1,000個のレベルでアップロードしたいという要望を聞くことができました。即座にその改善に動きましたが、情報を下から受けるようではリードタイムが発生しスピードも遅い。やはりトップがお客様に向き合って迅速に対応し、新たに生まれた価値をまたお客様に伝える。その繰り返しが、CXの創造に効果的です。
CXを向上させていくためのポイントとは?
下村:CXの文脈では「ロイヤルカスタマー」や「アイディアルカスタマー」といった用語が重要視されていますが、そのようなキーワードは定義が日々変化していることを意識する必要があります。
分かったつもりにならず、いかにその時の状況にスピーディーに対応できるか。そして、いかにテクノロジーを柔軟に駆使して実行に移せるかが重要だと思います。
石戸:重視したいのは、サービス立ち上げ後の顧客の見える化。意外と陥りやすいのが、見える化をしているはずのデータがサイロ化※1して実際は見えなくなってしまう事態。これでは、いざダッシュボード※2で分析しても、そこに現実の顧客像は見えてきません。
また、実際の顧客と向き合わずにExcelなどの作業だらけになる弊害も生じます。顧客の見える化は、サービスのフェーズごとにデータ管理のアーキテクチャが最適化されていなければ、効果的とは言えないのです。
徹底的な顧客起点の姿勢と
自己否定の問題提起
イノベーションを起こすために必要なことは?
下村:アマゾンの用語“Still Day 1(スティル デイ・ワン)”※3として知られていますが、常に顧客を知り、お客様起点でモノを考える姿勢を徹底することは絶対的な部分。その上でデータを取り、分析する。
イノベーションもその定義自体を日々考える必要がありますが、我々の共通語になっているのは「お客様にWow!と思ってもらえる体験を提供すること」。Wow!まで至るものかどうかを常に反芻しながら、実装まで持っていくことを心がけています。
石戸:ポイントは健全な自己否定ができるか。現行のサービスが10年前、20年前からさほど変わっていないケースも多々ありますが、顧客は結構変化しているもの。会社に長く在籍するほど自己否定は難しいとは思いますが、特に大手企業においては、いかに自己否定の問題提起から新たに物事を形にしていけるかが、イノベーション創出の鍵となるでしょう。
吉田:一般的にイノベーションの源泉とされる「知の探索」がいかに普段からできているかがやはり重要です。その知の探索で、一人のお客様の“個”にいかに迫れるか。お客様にいかに憑依して、実際に感じている痛みや苦しみを汲み取れるか。それが顧客起点の経営の出発点であり、イノベーションの種になります。
それだけに、トップが現場に行き、顧客と対話することは、イノベーション創出の極めて重要なアクセラレーションとなるはずです。
三者三様の意見から、今企業がアップデートすべき問題意識の数々が浮かび上がりました。今日はありがとうございました。
(注釈)
※1
データが様々な部署やアプリケーションに分散し孤立してしまっていることにより活用されない状態。
※2
複数の異なるデータや情報を直観的に把握するために、一元化し可視化するツール。
※3
Amazon創業者のジェフ・ベゾスが社員に対して示した言葉の一つ。「毎日がはじまりの日」といった意味を持ち、同社が掲げるミッション「地球上で最もお客様を大切にする企業になる」を実現するために社員一人ひとりが大切にする姿勢を指す。