デジタルイノベーションによるビジネス構造の変革。その先にある社会貢献
デジタルイノベーションで生産性改善、新事業を創造し社会を良くする
CDOは、デジタルで新しいビジネスや構造を創造することに、社会的責任をも持つ
株式会社ローソン
執行役員 オープンイノベーションセンター センター長
兼 経営戦略本部 副本部長
白石 卓也 氏
株式会社ローソンは、人手不足、消費者意識の変化など、さまざまな問題に対応するため、積極的にデジタルテクノロジーを活用しています。2016年1月には、ローソンのデジタル化推進、次世代システムの設計・開発・導入・運用を担うIT子会社、株式会社ローソンデジタルイノベーションを設立。2017年5月には、さまざまな業種や団体と連携し、店舗へ導入する最新テクノロジーの検証を行うオープンイノベーションセンターを新設しています。今回は、ローソンの執行役員でありオープンイノベーションセンターのセンター長も兼任する白石氏への、神岡太郎教授によるインタビューです。
白石様のこれまでの経歴と、CDOとしての会社での役割をお聞かせください。
白石:SIとして社会に出て、開発を行っていました。その後は、ITコンサルティング会社で小売り、流通、金融、保険といった業種のコンサルティングやシステム開発を行いました。そんな中で、一番新しいテクノロジーを素早く導入できるのは小売業であり、最新テクノロジーに接していくために小売りの中に入ってやっていこうとローソンのシステム部門に入りました。今、社内では「次世代コンビニ」に向けてビジネスモデルの再構築が行われていて、私はそのイノベーション全体を見ています。
サービス業も小売業も含めて、今一番深刻な問題は人手不足です。店舗だけでなく、物流センターも製造工場も含め、どうにかして全体の生産性を改善していかなくてはなりません。消費者の意識や社会環境は日々変化し続けているので、我々も商品やサービスを常に変え続けています。そこでいかにデジタルを活用するのか。デジタルによりいかに新しい事業を創造していくのか、そういう検討を行っています。
CDOとして重視している点はどのようなことでしょうか?
白石:やはりデータの活用です。今、我々が持っているが使っていない宝があるので、それを有効に活かしていくことに注力しています。コンビニは消費者のニーズがリアルタイムに最も分かっている業態だと思います。とはいえ、我々の持っているデータは、ローソンで実際に買っていただいたお客様の購買データと会員カードデータだけ。では、買っていない、買う前のお客様の行動はどうなのか。一度手に取ったが棚に戻して買わなかったお客様はどのぐらいなのか。お店の前を何人お客様が通られて、そのうち何人が入店されて、そのうち何人が購入されたのかはこれまでは分かりませんでした。今はカメラ、センサー、IoT、RFIDといったものでデータが取れるようになってきています。会員カードデータやPOSデータ何年分をどう分析するかも重要ですが、今まで無かった映像データ、センサーデータ、行動データ、位置データを分析する。小売業はデータが勝負。結局そこに行きつくと思います。データをうまく使い収益をあげていくことは、日本の企業はまだまだ弱いと思います。
白石様のチーム体制をお聞かせください。
白石:デジタルをやっていた人間を含め10人ぐらいが中心になって動いています。それ以外のスタッフは案件ごとに各部署から集まり、プロジェクト単位で動いています。オープンイノベーションセンターは全て社外の人と一緒にやっていて、人数としてはそれなりにいます。 社外の方なのにローソンの社員のように動いていただいている方も結構います。さまざまな会社の方がいろいろなテクノロジーを持ち込んで、よりオープンに一緒に実験をやりましょうという感じです。今は5、6人の小さなベンチャーでも、すごい技術を持っていたりします。画像認識一つにしてもいろいろな会社に入ってもらって競い合っていただいている。その中で一番精度の出たところと組みますよという話をしています。これまではワンストップで大きなベンダーさんにお願いしていたのを自分の目利きで探す。一番重要なのは目利き力だと思っています。AIといったらそれこそ何百社、何千社となります。新しいテクノロジーにおいて、どこと付き合うかというのは本当に難しい。いろいろなところと付き合ってみて、話してみて、だんだんノウハウとして蓄積されてくる。やはり目利き力が重要なのかと思っています。
CDOに必要な能力や心構えなど、これからの人たちに対してコメントをお願いします。
白石:新しいことに興味を持ち、楽しんで取り組めるかが大前提です。イノベーションは最初はなかなか賛同を得ることが難しいものです。今まで散々やってきたけれどもできなかったものもあるので、まずは「そんなことできるわけがない」と言われます。そういう逆境に強いというか、ストレス耐性があることが一番重要かと思います。
あと、何かしらのよりどころが必要だと思っています。RFIDも生産性や効率化というところが目立ちますが、個品管理が可能となることで、それによりフードロスを減らしたい。需給のバランスもあれば、賞味期限などいろいろな理由があって、食品の廃棄は大量に出ています。RFIDで賞味期限を個品で管理できるので、賞味期限が全てデータとして上がります。そこでいかにフードロスを減らしていくか。そういうことが本当に重要だと思っている。効率化とか便利さだけでは皆さんついてこないと思うし、まとまらないと思う。少子高齢化、食品の問題、環境の問題、品質の問題など、どんな問題でもいい。コンビニエンスストアは今では社会インフラとなっている。地方で店舗をやむおえず撤退しなければならないこともあるが、地域のお客様や自治体から、店舗を残してほしいとの要望をいただくこともある。そういうところにドローンなどのデジタルテクノロジーを活かす可能性はあるし、そこで我々が活躍できるところがある。コンビニの今後の在り方は社会的責任を果たしていくうえでも重要で、我々のよりどころでもあります。行きつくところはそういうところではないかと思います。
参考になるお話をありがとうございました。
オープンイノベーションセンター
「オープンイノベーションセンター」(通称「ローソンラボ」、東京都品川区)は、2017年10月に開設。次世代店舗の実験施設であり、独自の技術を持つ多様な企業とパートナー関係を結び、次世代店舗へ導入するテクノロジーの実験・検証を行っている。
<参考リンク>https://www.lawson.co.jp/lab/tsuushin/art/1313189_4659.html
インタビューアーからのコメント
オフィシャルにCDOというタイトルを持たなくとも、組織の中で実質上CDOとしての役割を果たされている場合がある。白石氏はまさにその具体例で、ご本人もそのような認識だと思われます。白石氏の重要な仕事は、収益につなげてゆくために、データを利活用する仕組みとプロセスを創造することです。それが、顧客との接点である店舗だけでなく、物流や製造までまたがっていることが大変なところです。ただ、白石氏とのインタビューで気づいたことは、CDOが、何を(What)どのように(How)やるべきかということ以上に、何のためにそれをやっているのか(Why)ということに対しても、強く意識しているということです。当たり前のことのようにも思われるかもしれませんが、我々はCDOがいかにデジタルやデータを活用して、組織の競争力を高めるということだけに注目しがちです。白石氏の意識は、価値創造するだけでなく、フードロスをなくすという社会的課題、自動化による人手不足への対応という目的を強く意識していることです。そして最後に、前回のSOMPOホールディングス グループの楢崎氏とも共通しますが、新しいことにチャレンジすることを楽しめるということが、CDOに求められる重要な要素だということがうかがえました。
一橋大学商学研究科 教授 / CDO Club Japan顧問
神岡太郎
【企画・編集責任者】
ビジネスフォーラム事務局 プロデューサー 進士 淳一