CDO Interview vol.8 後編

2018/09/12 (  水 )

CDO Interview vol.8 後編

・各部門のデジタルオフィサーをCDOが束ね、
 全社横断的な変革を進める

・組織の壁を超えて動くことができるメリット

・過去のビジネスモデルに最適化され過ぎた組織の再構築が必要

 

富士フイルムホールディングス株式会社 執行役員 CDO
依田 章 氏

前編に続き、富士フイルムホールディングス株式会社CDO依田氏へ、神岡教授からCDOに関しての質問が続きます。

 

富士フイルムグループでは、CDOと各部門に設置されたデジタルオフィサーで構成される「デジタル変革委員会」を組織化していますが、どのような組織なのでしょうか?

 

依田:研究開発、 製造、販売・マーケティング、間接部門の各部署のデジタル変革を担う責任者により全社的なデジタル変革について議論し施策を立案するための会議体です。デジタル変革は、全社で横断的な活動にしないとなかなか進めにくいものです。例えばデジタルマニュファクチャリングを入れて工場の生産性をもっと上げたいということを1つの工場、あるいは1つの製造部門だけでやろうとしても非常に難しい。ならば、なるべく共通化して、全生産部門が使えるような形に持って行きましょうと。そういうことを議論しています。単一部門ではできないような取り組みを、複数部門で協力したり共通の仕組みをつくったりして大きな流れにしていきます。教育や人材育成も、委員会が中心になり、全社的に進めていきます。人事部門も入って各部門の実情に対応した研修教育プログラムを考えます。そして、意識改革を進める研修プログラムも企画して、人事部門と組んでマインドを変えていこう、スキルを変えていこうという取り組みも行っています。人材育成や意識改革には、他社さんも苦労されていると思います。我々もこういう場を使って、全社横断的に効率よく進めたいということで行っています。

 


各部門に設置されたデジタルオフィサーなど、富士フイルムとして求めているデジタル部門の人材像をお聞かせください。

 

依田:これからは、最低限のデジタルスキルはいろいろな部門の中で持ってもらうことが必要だと思っています。特に部門のデジタルオフィサーは、それぞれの部門の本質的な課題を理解した上で、情報技術を使ってどの様に改革していくかを具体的に示す事が重要です。デジタル・マーケティングが大切だというところもあれば、スマートファクトリーが大切だというところもある。デジタルオフィサーは、その部門の役割と状況に照らし合わせて、情報技術がどんなインパクトを与えるかということを理解できることが必要と考えています。では、具体的にデータサイエンティストである必要があるかというと、データサイエンティストのスキルがある人たちは、デジタルオフィサーよりもう少し下の階層で必要になると思っています。理想的には、それぞれの部門にデータサイエンティストがいるといいのですが、必ずしもそうではないので、例えばインフォマティクス研究所のメンバーが支援しています。デジタル部門の人材には、事業を進める上で一番大切な業務プロセスを自身がよく理解して、それをしっかりとデジタルの技術、あるいはソフトウェアの技術に翻訳できることが絶対に求められます。例えば、情報系スペシャリストは、「どんなシステムが欲しいですか?」と聞いて、情報システムを構築に行きますが、そうではなく、業務プロセスやその事業の目的を理解して、どんなITシステムがあったらいいのかを自身が考えることができると一番いい。そして、事業部側には、そういう情報系スペシャリストと議論ができて、相手の立場も理解しながら、「じゃあ、こんなふうに情報活用してみよう」と考えることが求められます。


 

具体的な製品やサービスなど、CDOのチームとして、作ってみたいものはありますか?

 

依田:画像解析のAI をベースにして「ひびみっけ」というサービスを今春から提供しはじめました。これは社会インフラの点検サービスです。橋などの社会インフラは人の目視点検が義務付けられています。「ひびみっけ」は、医療画像診断システムの開発で長年にわたり培ってきた画像解析技術をベースに、社会課題を解決するシステムとして構想してきたものです。近い将来は、ロボットがインフラ点検を支援する時代が来るでしょう。こうした時代に熟練点検者を支援するAI機能が必ず必要になることを想定して富士フイルムの技術を活かしたいと考え、このサービスを始めました。CDOとしての関わりは、こうした画像処理や情報科学に自社の技術を掌握しながら、事業部門、工場や間接部門の人と話をして「こんな技術があるからあなたの部門の課題をこの様に解決したい」など、組織の壁を越えて活動を提案するところにあるとも思っています。


 

これから CDOを目指す人に伝えたいことがあれば、ぜひお願いします。

 

依田: CDOには、デジタルオフィサーだけではなく、データオフィサーの人も、デザインオフィサーの人も含まれます。やはりみんな必要だと思います。デジタルオフィサーで、なおかつデザインオフィサーで、データも分かる。そこで新しい事業の進め方を、デジタルをベースにしてデザインしていくというような、クリエイティビティが大切ではないかと思います。日本の製造業では、既存のビジネスモデルに対して会社の組織が最適化されて作り込まれ過ぎているが故に、変革が進まないということが出てきます。自動車産業、エレクトロニクスを始め多くの産業で同様の課題に直面していると思います。日本人の器用さであったり真面目さであったりを組み合わせて、強みを発揮した産業構造であってそれ自体は長所と思います。それをもう1回、再設計しないと、デジタル変革は本当の意味では起きないでしょう。これは一企業だけではなく、社会の仕組みとか、あるいは行政とか、規制とか、そういったことも含めて、日本の活力をもっと伸ばすための全体のデジタル変革が必要になります。そういうことをしっかりと考えて、社会の仕組みから、教育のあり方から全部変えることを考えないと、日本の産業が世界で再び輝くということにはならないと思います。

 

参考になるお話をありがとうございました。

 

インタビューアーからのコメント

 富士フイルムは、アナログからデジタルに変わる時代のデジタル・トランスフォーメーション(DX)と破壊的な価値創造を経験してきた企業です。その富士フイルムが、今日におけるDXにどのように対応しようとしているのか興味があるところです。ここでの本質的な問題の一つは、個々の変化の問題ではなく、「組織として変われる能力や体制」をどう身に着けるのか、ということかもしれません。この問題に対して、依田CDOは明確な考え方を持っておられました。世の中の変化よりも一歩先に変わろうということです。富士フイルムが、環境の変化にReactiveに反応するのではなく、むしろ、その環境変化を利用して、自社を進化させようとしているように感じました。変わるのは環境ではなく、あくまで企業が主体的に変わるのだということではないでしょうか。周りに振り回されて、必死に変わらなければならないという企業とは一線を画すように思われます。

それに関連して、依田CDOの話の中で面白かったのは、製造業が何をするのかというモデルを、根本から変えたいというところです。顧客が使っている内に変化してゆくような製品をデザインし、開発するということだと思います。当然サービスの要素が不可分になってくるわけですが、製造業というモデル自体をDXしてゆくということでしょうか。それを日本の製造業のCDOがチャレンジすべきだというのは、スケールの大きな話ですが、日本としては避けて通れないくらい重要な問題だと思いました。CDO Club JapanのCDOの中で、こういう問題をテーマに議論する場があればと思いました。

今回のインタビューを通して、富士フイルムがCDOを採用して、本格的にDXに取り組もうとする、強い意志のようなものを感じました。CDOのやる気と会社の考え方がうまくマッチしているようにも感じました。上記で述べたこと以外に、CDOが組織の壁を超えて動けること、CDOが中心に各部門に置かれたデジタルオフィサーが交流できる体制になっていること、CDOがデジタルという切り口で人材の問題に強い関心を持っていること等、興味深い話が沢山あました。今後、依田CDOから見た富士フイルムがどう変わって行くのか、大変楽しみです。

一橋大学商学研究科 教授 / CDO Club Japan顧問
神岡太郎

【企画・編集責任者】
ビジネスフォーラム事務局 プロデューサー 進士 淳一