CVC Interview vol.4

Fenox Venture Capital 共同代表パートナー&CEO アニス・ウッザマン 氏

2018/07/30 (  月 )

CVC Interview vol.4

ベンチャー企業をリスペクトし、積極的にパートナーシップを構築する

自前主義から脱却するために、意識改革が重要

意識改革により、イノベーションを次のステップへ

Fenox Venture Capital 共同代表パートナー&CEO
アニス・ウッザマン 氏

今回はシリコンバレーを中心に世界中のスタートアップ企業への投資を行うFenox Venture Capitalの 共同代表パートナー&CEOであるアニス・ウッザマン氏をお招きし、VCの視点から見た、日本企業が抱える課題を伺いました。


樋原:大手企業がイノベーションにおいて抱えている問題は、どのようなものがあるでしょうか? どの辺が一番問題と思われるか、お聞かせください。

ウッザマン:多くの日本企業と接してみると、大手企業としてどこからイノベーション活動を始めればいいのか分からない、という企業が多いかと思います。近年の、世界の科学技術の急速な発展についていくことは大手企業にとって難しくなってきており、ベンチャー企業と連携して世界の最先端技術をキャッチアップしようと考える大手企業が多いと思います。

例えば、何とかしてイノベーション活動を始めようと、とりあえず海外(シリコンバレー、イスラエル、シンガポールなど)を訪問する大手企業も多いと思います。ところが、いざ海外へ出ても現地で何をすべきかがわからず、とりあえず現地の日本人コミュニティと接触してみる。しかし、そこで世界トップクラスのイノベーション活動におけるノウハウの習得は難しいでしょう。活気のある大手企業だと現地に駐在員を残して様子をみます。ところが、毎日のように現地で多くのベンチャー企業と会ってはいるものの、具体的な投資案件としてベンチャー企業を見出すことができなかったり、技術レベルの高いベンチャー企業と会えずに終わってしまうことが一般的です。なぜなら、日本の大手企業は、世界最先端の優秀なベンチャー企業と出会える現地のトップレベルのコミュニティに入れていないからなのです。

さらに、大手企業の問題として、「ベンチャー企業とどう付き合えばいいのか、分からない」ということもあります。大手企業の文化とベンチャー企業の文化が大きく違うからです。大手企業は、入った時点で全部が揃っています。でも、ベンチャー企業には保険もないし何もない。また、NDA(秘密保持契約)を先に結びたいけれども、NDAがどういうものかも分からない。文化に大きなギャップがあって、大手企業とベンチャー企業がぶつかっている。そんなところが、イノベーション全体の大きな問題となっているのではないかと思います。

しかし、5、6年前と比較すると、日本の大手企業のイノベーションに対する意識がより良くなってきていると思います。2012年頃は、「これから何かをやる」という意識でしたが、現在はもっと具体的になって「イノベーションに向けて、インキュベーションをやるべきか、ファンドをやるべきか。国内なのか、国外なのかと」という質問が出てきています。ただ、まだHOWの部分が見えていません。何かをやらなくてはいけないと決めて動こうとするのですが、HOWがまだ分からない状態であることが多いように思います。

樋原:日本企業の弱い点は、どんなところだと思われますか?

ウッザマン:ベンチャー企業に対する不安が大きいところだと思います。「ベンチャー企業の技術に高い信頼をおけるかかどうか」というところではないでしょうか。日本企業がシリコンバレーに参入する主な目的は、世界最先端技術を学ぶことです。そして、場合によってはその技術を日本・アジアで展開することです。シリコンバレーやイスラエルなどの最先端技術を1日も早く日本に持ち込んでアジアのマーケットに展開する能力を、日本の企業は大いに備えていますから、それを実行していくべきだと思います。

そして、ベンチャー企業に対する信頼度を上げなければいけません。Apple、Google、Facebookなどのグローバル大手企業も、何かの分野を始める際に真っ先に行っていることは、プラットフォームとなるベンチャー企業の買収です。例えば AI にしても、Googleはまずディープマインド(DeepMind)を買収しています。IoT であれば、最初にネスト(Nest)を買収しました。この買収したネストが Google にとってIoT のプラットフォームになり、その上に自分たちの様々なものを積み重ねていきました。Google には素晴らしいエンジニアが大勢います。全米でトップのエンジニアが在籍しているのはGoogleでしょう。それにも関わらず、ベンチャー企業を買収して土台を準備した上で、更なる開発を進めているのです。日本の企業にはこのような手法は見受けられません。プラットフォームとなるものを買収してからその上に乗せていくという順番をフォローしておらず、何でも自分たちでやろうとする自前主義の考え方です。「これは簡単」「自分たちで全部できる」と考えてしまい、ベンチャー企業と提携したがらない傾向があります。しかし、“タイミング”がずれて結果的に世界トレンドについていけず世界の技術の進歩に間に合わなくなっているのです。この“タイミング”が非常に重要であることを強く意識していく必要があると思います。

樋原:「これをやれば日本の企業も変わる」という、改善すべき点は何でしょうか?

ウッザマン:改善点はいろいろ考えられます。まず、それぞれの企業での人間の意識改革が重要です。そして、意識改革をするためには、社内で教育を始める必要があると思います 。そして、海外や国内のパートナーと、パートナーシップを結ぶことも必要です。そうすることで、次のHOWの部分が見えてくるのです。例えば、イノベーションのセンターやインキュベーターを立ち上げる、あるいはファンドを組成するなどです。具体的なHOWを見出すために、パートナーシップを結ぶことは大変重要だと思うのです。

また、このHOWですが、日本は高齢化が進んでいるためマーケット規模が小さくなっています。ですから最初から海外展開を視野に入れてビジネス展開を考えないといけないと思います。日本の大手企業は、国内のベンチャー企業も見ながら、米国、イスラエル、インドネシア、シンガポール、ベトナムなどのベンチャー企業もしっかりと見ていく必要があります。

樋原:日本のスタートアップについてはどうお考えですか?

ウッザマン:世界のスタンダードと比較すると、日本のベンチャー企業のスピード感は少しスローだと思います。アメリカの、ベンチャー企業の一つの手法として、たくさん資金を調達してスピード感をもって早く行うスタイルがあります。例えば、開発者が20人必要な場合は一気に40人を揃え、6カ月間かかるものを3カ月間で完成させてしまう。このアグレッシブさは日本のベンチャー企業にはあまり見受けられません。また、スピード感がスローだと、ベンチャー企業にとって重要なネットワークの構築もスローになりますのでよくありませんね。

そして、日本のベンチャー企業はプロモーションが苦手のように思います。日本のベンチャー企業は、プロダクトが完璧な状態で発表する傾向がありますが、海外のベンチャー企業は、ある程度プロダクトが出来た段階でどんどんプロモーションを行って知名度を上げていきます。日本のベンチャー企業はプロモーションに対して遠慮気味なので、海外のベンチャー企業と比較するとやはりマーケティング能力に差がついてしまっています。日本のベンチャー企業には、マーケティングのパワーを増やして欲しいですね。

また、日本のベンチャー起業家には、工学部出身の割合が比較的低いです。アメリカだと、スタンフォード大学やMITなどの工学部出身の学生がベンチャー企業を立ち上げることが多いです。工学部で勉強するロケットサイエンティストでもベンチャー企業を作ってしまいます。アメリカでの教育の影響が強く、多くの先輩たちが工学部出身で大きな企業を作っているという文化があるのです。日本でベンチャー企業を立ち上げた起業家はビジネス専攻など文系出身が比較的多いからか、テクノロジー系のベンチャー企業の数が少ないような気がします。そこで、日本でビジネススクールとエンジニアリングが連携をして、工学部出身の学生もビジネスのノウハウを学べる機会を作ることで、工学部出身の学生もベンチャー企業を立ち上げやすくなりますし、日本でテクノロジー系のベンチャー企業も多くなると思います。

樋原:貴重なお話をありがとうございました。


 

Fenox Venture Capital 共同代表パートナー&CEO
アニス・ウッザマン 氏

 

インタビューアー:
樋原 伸彦 氏

1988年東京大学教養学部教養学科(国際関係論)卒業、東京銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行。世界銀行コンサルタント、通商産業省通商産業研究所(現・経済産業省経済産業研究所)客員研究員、米コロンビア大学ビジネススクール日本経済経営研究所助手、カナダ・サスカチュワン大学ビジネススクール助教授、立命館大学経営学部准教授を経て、2011年から現職。米コロンビア大学大学院でPh.D.(経済学)を取得。専門はファイナンスとイノベーション、特にベンチャーキャピタル、コーポレート・ベンチャー・キャピタル、エコシステムなど。

担当:
ビジネス・フォーラム事務局 プロデューサー 山本 沙紀

立命館大学にてベンチャーファイナンスを専攻。サービス系ベンチャー企業を経て2013年ビジネス・フォーラム事務局に入社。New Business Creation Forum企画考案・企画者。他、人事系・製造業など幅広く企画を担当。