2018/11/06 (  火 )

BtoBマーケティングフォーラム 2018 開催レポート

BtoBマーケティングフォーラム 2018 開催レポート

BtoBマーケティングフォーラム 2018
製造業における最適なマーケティング設計
~世界で勝ち抜くための組織と仕組みの創り方~

開催日:2018年 9月 27日(木)
主催:株式会社ビジネス・フォーラム事務局
特別協賛:株式会社 東京商工リサーチ
協賛:マーケットワン・ジャパン

 

 2018年9月27日、東京・THE GRAND HALLにて、「BtoBマーケティングフォーラム 2018」(株式会社ビジネス・フォーラム事務局主催)を開催致しました。今年で3回目の開催となる本フォーラム。今回は「製造業における最適なマーケティング設計」をメインテーマに、日本の製造業がグローバル市場で勝ち抜くために必要な組織と仕組みの創り方について、先進企業のマーケティング変革を牽引するリーダーの方々をお招きして、活発な議論が展開されました。当日は日本企業のマーケティング、営業、経営企画部門の経営層、管理職の方々を中心に、定員を上回る多くのお客様にご来場をいただきました。

※ご登壇者のご所属、お役職は2018年9月時点のものです。

オープニング 株式会社ビジネス・フォーラム事務局 北村 将

マーケティング機能を活かす組織・仕組みづくりが課題

株式会社ビジネス・フォーラム事務局
プロデューサー 兼 マーケティング戦略室 リーダー
北村 将

 良いものを作れば売れる時代は終焉し、BtoB事業を行う製造業でもマーケティングの重要性が高まる昨今。このBtoBマーケティングフォーラムも、今年で3回目を迎えます。その中で、これまでご参加いただいた方々から、まだまだBtoB製造業におけるマーケティングの課題があるというお声をいただきました。まず、これまで技術力を武器にグローバルで戦ってきた背景から、マーケティングを担う組織がそもそも存在しないというケース。また、マーケティング機能があっても、営業など他部門の下請け化してしまい、セールスプロモーションの領域にとどまったマーケティング活動になってしまっているケース。そして、日本本社のマーケティング機能が、海外支社や海外販社・パートナー企業と上手く連携ができていない点が、課題となっているとのことでした。

 参加者の皆様にご協力いただいた事前アンケートでも、自社内におけるマーケティング機能を活かす取り組みについて「まったく進んでいない」「あまり進んでいない」と答えた方が、合わせて66.2%もいるという結果が出ています。BtoB製造業において、どのようにマーケティングを活かす組織づくりを進めていくのか。また、グローバルを含めた他部門と連携し、成果を最大化する仕組みをどう設計するのか。このようなところに課題があると感じて、「組織」と「仕組み」を大きなテーマに、本フォーラムを開催するに至りました。

 今回は、先進的なマーケティングの取り組みをしているBtoB製造業の企業様、また実現に向けた支援を担っている企業様のマネジメント、推進リーダーの方々にご登壇いただきまして、皆様と議論や考察を深めていければと思っております。本フォーラムが、BtoB事業を展開する日本企業における「マーケティングの地位向上」の一助になれば幸いです。

講演Ⅰ 富士フイルム株式会社 板橋 祐一 氏

富士フイルムにおける事業変革とデジタルマーケティング

富士フイルム株式会社 e戦略推進室長
板橋 祐一

 

新規市場を開拓するデジタルマーケティング構想と組織体制構築

 デジタル化の大波による看板事業消失の危機に対し、大胆な経営改革により業態転換を進めた富士フイルム。新規市場をスピーディーに開拓するためのマーケティング戦略とは。そして、グローバル展開を円滑に進めるためのポイントとは。グループ全体のデジタルマーケティング施策を統括する板橋氏が、自社の事例を基にデジタルマーケティング推進に向けた勘所について語った。

破壊的イノベーションによる主力事業の売上激減を、どう乗り越えたか

 今の時代、思いがけないところから競争相手が現れ、あっという間に事業が塗り替えられる「破壊的イノベーションの時代」だと言われます。1934年に「富士写真フイルム」として創業した当社は、2006年に「富士フイルム」と社名を変更しました。その背景には、当社の主力商品だった写真フイルムの市場規模が、2000年をピークに10年で10分の1以下に減少したことがあります。まさにこの「破壊的イノベーション」の影響を受けたのです。富士フイルムはどうやってこの危機を乗り越えたのか、そして現在はどのような成長をしているのかについて、ご紹介いたします。

 写真フイルムの売上が減少する中、当社はこれまで写真産業で培ってきた技術から、新規事業を生み出してきました。化粧品や医薬品、医療機器、機能性パネルなどのディスプレイ分野など、これまで磨いてきたハイレベルな技術を、様々な分野に展開することが生き残り戦略となったのです。もともと写真で培ってきた技術を他分野でマネタイズするために、適切な市場を開拓する必要がありました。これこそまさに、当社のマーケティングにおける課題だったわけです。

 技術は持っているけれども、お客様にどのような形で届けるのが適切かわからなかった当社では、デジタルマーケティングを生き残り戦略の一環として推進してきました。デジタルマーケティングの定義は様々ですが、当社は「デジタルコミュニケーションを通じて顧客を創造する活動」と定義しています。これにより、当社の技術を活かせる市場を継続的に探し出す仕組みを構築しているのです。

“Digitize or Die”生き残りをかけたデジタルマーケティング

 当社が実践してきたデジタルマーケティングについて、「組織・体制」「ナレッジ蓄積とツールの選択」「経営の理解と支援」「グローバル戦略」の4つの観点からご紹介します。

1.「組織・体制」

当社は以前、各事業部の中にマーケティング機能を持っていました。この体制だと、デジタルマーケティングのような専門性の高い分野については、ナレッジが蓄積しないという課題があったのです。これに対する解決策として、全体を横串で刺す組織「e戦略推進室」を作りました。また、アドテクやデータ分析を専門にしているグループ会社とも連携し、インハウスで取り組むことで、ナレッジを社内に蓄積。インハウス化することで、スピード感を持って専門性の高いコンテンツ制作ができるメリットもあります。

 

2.「ナレッジの蓄積」

最初に取り組んだのはeコマースの部門をe戦略推進室の中に取り込むことでした。eコマースは国内も海外も重要な分野ですし、デジタルマーケティングとしては、施策と売上が一気通貫で評価できるメリットもあります。また、当社ではBtoCのデジタルマーケティングチームもe戦略推進室の中にあるので、BtoC分野で得たノウハウも共有できています。さらに、グローバルに展開していくために、グローバルスタンダードの外部マーケティングツールを使用。このようなツールはどんどん新しい物が出てくるので、「自分たちに必要なものは何なのか」を見極めて選ぶリテラシーが、マーケターには必要です。

もう一点、当社が取り組んでいるツールとして、マーケティングオートメーションがあります。フィリップ・コトラー先生も「マーケティングオートメーション(MA)を使うことが生き残るための強力な武器」と言っていますが、当社も数年前から取り組んできました。これもやはりBtoCのeコマースでテストして、効果を試してからBtoBに導入しています。BtoCと比べてBtoBビジネスはコミュニケーションプロセスが複雑であり、MAの成果が見えにくいのが難点です。ただ、海外の企業でも「MAの定着には4年かかる」と言われているので、企業文化を変えて定着させるために、時間をかける必要があると感じています。

 

  1. 「経営の理解と支援」

これは、デジタルマーケティングを推進していく上で欠かせません。経営陣に理解してもらうために、当社が意識したことは3つあります。マーケティング用語は使わずに説明すること。売上に直結した数字を見せて説得すること。コスト削減をアピールすることです。その結果、当社のe戦略推進室は全社プロジェクトとして位置付けられ、人的リソースと予算を確保できました。

 

4.「グローバル戦略」

海外事業を展開していく上で、全社プロジェクトであることが大きなポイントとなっています。e戦略推進室が“Center of Excellence”としてグローバルのハブ機能を担って、ナレッジを共有し、全体のレベルを上げようとしています。日本で蓄積したナレッジをまずは欧米、AIPACからスタートし、今後全世界に広げていく予定です。

 

 ここまで4つの観点からご紹介してきましたが、実際のマーケティングの効果をどれだけ説明しても、現場へ浸透させていくことは容易ではありません。理屈では越えられない高い壁が、現場には存在するのです。そういう時に私が必ず伝えるのは“Digitize or Die”というコトラー先生の言葉です。冒頭にご紹介したように、2000年から写真フイルムの市場規模が一気に縮小した経緯があるため、当社はこの言葉を身にしみて実感しています。あれはまさに、デジタル化に遅れたために起きた悲劇だったわけです。生き残ることができた当社も、まだデジタルマーケティングを進化させている途中です。このような取り組みを通して、継続的に新しい事業を開発し、もっと良い会社になれるよう、今後も力を入れていこうと考えています。

富士フイルム株式会社
e戦略推進室長
板橋 祐一


1985年東京工大修了、富士写真フイルム株式会社入社。研究者として1994年画期的なカラープリント方式を開発。その後ビジネスマンとして電子映像事業部やイメージング事業部でデジカメやフォトプリンター、チェキなどのマーケティング・商品企画及び事業戦略を担当。2012年よりe戦略推進室長として、富士フイルムのデジタルマーケティングをグローバルに推進中。

講演Ⅱ 株式会社 東京商工リサーチ 弓削 正範 氏

BtoBマーケティングの加速に向けた、データマネジメントの勘所

株式会社 東京商工リサーチ 事業本部 マーケティング部 部長
弓削 正範

営業とマーケティングをつなぐデータマネジメントとは

 営業とマーケティングの連携を実現し、営業成果を最大化する新たな手法として、アカウントベースドマーケティング(ABM)に取り組む企業が増えている。ABMを成功に導くデータマネジメント、そして、データを駆使した効果的なグローバル営業・マーケティング活動とはどのようなものなのか。世界最大級3億件超のグローバルな企業データベースを起点に、戦略的な営業・マーケティング活動を提案する東京商工リサーチの弓削氏が語った。

膨大なデータを活用するために、クリアすべき2つの障壁

 BtoBビジネスの環境は、かつてないスピードで変化しています。インターネットでの情報収集が容易になったことで、2020年までには購買プロセスの85%が買い手側で完結するとも言われています。さらに、意思決定者の人数が増えたことも、購買環境を複雑にしている要因です。3年前は3~4人だった意思決定者が、現在は平均で8人だと言われています。このように複雑化する環境の中でビジネスを成功させるためには、「データ」の活用が欠かせません。

  日々生成される膨大なデータを上手く分析するには、2つの障壁をクリアする必要があります。一つは、「データのサイロ化」です。企業の自社データは、各部門でそれぞれのルールに従って生成され、複数の場所に点在するなど、多くの場合連携がとれていません。このようなデータを収集して分析できるよう準備するには、時間と手間がかかります。よって、データ生成段階から組織横断的に管理し、整備できる環境を整える必要があるのです。

 もう一つは、「品質の問題」です。データは変化し続けるものであり、メンテナンスしなければ陳腐化するため、最新のデータを維持することが欠かせません。データのメンテナンスコストに関して、1:10:100のルールと言われるものがあります。データ登録時に最新かつ統一されたルールに従って格納し、それを活用した場合は「予防コスト」として1ドルかかるとしましょう。もし、登録時のメンテナンスをせずに、登録後に修正・重複排除などをした場合は、「訂正コスト」として10ドル。さらに登録時も登録後もメンテナンスせずにデータを利用し、お客様からの反応によってデータの品質が低いことを知った場合の「無視コスト」は、100ドルと言われます。コストを抑え、効率的に成果を上げる営業をするためにも、データのメンテナンスは欠かせないのです。

売上を拡大させるデータドリブンマーケティングのプロセス

 データを活用することで得られる恩恵としては、まず客観性を担保できる点があります。その結果、アカウンタビリティやトレーサビリティも向上。さらに、営業とマーケティングが同じ言語で会話できることでコミュニケーションが円滑になり、案件開拓から受注後の管理までシームレスな運用が可能に。ビジネスの成長を加速させるためにも、データを駆使し、分析・ターゲティングを行うデータドリブンマーケティングの重要性が高まっているのです。

 最後に、当社が考える「売上拡大につながるデータドリブンマーケティング」のプロセスについて、ご紹介します。まずは、自社保有データと外部の企業情報データを、アカウントごとに紐づけて統合することが必須です。当社では世界最大級3億件のデータベースを持つダン&ブラッドストリート(以下「D&B」)が使用する「D-U-N-S Number」で紐づけていますが、ユニークなコードで結び、分析に活用できるデータにする必要があります。データ準備ができたら、次は分析です。顧客分析モデルはいろいろなものがありますが、D&Bの調査では「アカウントベースドマーケティング」による分析が、最も多くの企業で行われているという結果が出ています。これは、自社の優良顧客企業と同様の特徴・特性を持つポテンシャルアカウントを選定し、アカウント単位で行うマーケティング活動のことです。

 ポテンシャルアカウントの選定には、3つのやり方があります。一つ目は、企業規模や業種業界などの基本情報を活用するターゲティング。二つ目は、企業の新規雇用・工場新設・社長交代などのイベントによる詳細で動的なターゲティング。三つ目が、自社データによる顧客分析の結果にもとづいたアカウントベースでのターゲティングであり、ここで生きてくるのがデータ分析になります。自社の顧客データと外部データを組み合わせてプロファイリングすることで、ポテンシャルアカウントを選定。その後、意思決定権者を特定し、その行動や変化を見逃すことなく、営業との連携を強化して売上を拡大するのが、データドリブンマーケティングの手法です。

 また、BtoBの購買プロセスが複雑化するなかで売上を拡大するためには、データを活用して購買プロセスの早い段階から接触することが効果的です。当社が提供する「D&B Hoovers」というツールでは、デジタルマーケティングを自動化することができます。このようなツールを用いて、企業のデータを活かして戦略的にターゲットを選定し、これまで買い手側で自己完結してしまっていた85%の部分に対して、ターゲティングDMやインサイドセールス、訪問営業などの接触をすることがカギとなってきます。

 「今日、世界で最も貴重な資源はもはや石油ではなく、データである」と言われる時代。2020年には、データ生成量が現在の43倍にもなると言われています。BtoB企業においても、このような膨大なデータを活用した効果的なマーケティングで、グローバルに展開していくことが今求められているのではないでしょうか。

株式会社 東京商工リサーチ
事業本部 マーケティング部 部長
弓削 正範


外資系国際ブランドのクレジットカード会社でプロダクトマーケティング、マーコム業務をマネージャとして約10年経験後、2009年に米国ダンアンドブラッドストリート(D&B)と東京商工リサーチ(TSR)の合弁会社であるD&BTSRへ入社。その後、TSRへ転籍し、マーケティング部の立ちあげを事業部長として指揮し、現在に至る。

講演Ⅲ オムロン株式会社 井垣 勉 氏

オムロンのグローバルBtoBブランドマーケティング戦略

オムロン株式会社 執行役員 グローバルインベスター&ブランドコミュニケーション本部長
井垣 勉

本社主導のブランドマーケティングにおける組織連携のカギとは

 制御機器や電子部品をはじめ、多岐にわたる事業を世界110カ国以上で展開するオムロン。グローバルに広がる顧客に対応するために、事業部門(タテ)のマーケティング活動と本社機能部門(ヨコ)のコーポレートブランディング活動を連結したコミュニケーション戦略を推進している。グループ全体のコミュニケーション戦略を統括する井垣氏が、世界で戦うための組織連携と仕組みづくりについて語った。

グローバルブランド力を高めてきたオムロンの「エコシステム」

 オムロンと言うと血圧計や体温計といったヘルスケア関連のBtoC製品をイメージされるかもしれません。しかし、当社は制御機器や電子部品、車載電装部品、社会システムなど多岐にわたるBtoB事業を展開しております。売上構成比の9割はBtoBビジネスであり、中でも売上の半分近くを占める制御機器事業は、オムロンの本業と言っても過言ではありません。事業内容は多岐にわたりますが、実は共通して「Sensing & Control+Think」というコアテクノロジーがあります。様々な情報のインプットとアウトプットの間を、ソフトウェアやアプリケーションを使って転換するアルゴリズムが、オムロンならではの付加価値です。

 また、当社の売上構成比をエリア別に見ると、約6割を占めているのが欧米・中華圏などの海外売上です。従業員比率も、約7割が日本人以外。株主も約半数が海外の機関投資家であり、ステークホルダーがグローバルに広がっています。グローバルにおけるブランド力に関しても、ブランドコンサルティング会社であるインターブランド社が昨年発表した「日本のベストグローバルブランド」において、当社は39位にランクインしました。評価された点の一つ目は、PR。BtoB展示会やWebサイトなどでの発信内容が統一されていること。二つ目は、BtoB企業としては珍しく、ブランドが購買に与える影響が高く評価されたこと。三つ目は、米国・欧州・アジアでのグローバル認知度が高いことです。では、オムロンはどのようにグローバルにおけるブランド力を高めてきたのか。その取り組みについて、ご紹介いたします。

 当社のすべてのブランド活動やコミュニケーションは、自社ホームページに誘引するために設計しています。そのフックとして重要な役割を果たすのが、国内外の展示会です。BtoBの展示会だと「いかにその場に人を呼び込むか」に注目しがちですが、当社では「潜在顧客に、どう情報を届けるか・タッチポイントを作るのか」を重要視しています。展示会を軸に、社外メディアやPR・IR活動など、メディアを積極的に使って私達が伝えたいメッセージを伝える、あるいは興味を持ってもらうことに力を入れているのです。そして、当社に興味を持ったり、もしくは展示会に来て接したりした後に、自社ホームページに誘引し、メディアや展示会では伝えきれなかった情報をお伝えする設計です。他にも、社内コーポレートSNSを使って社員間で共鳴が連鎖するよう仕掛けたり、自社SNSアカウントにて社外人財からの共鳴を獲得したりするなど。展示会・メディア・SNSから獲得したファンは、マーケティングオートメーションツールによるOne to Oneの対応で、維持・獲得をしていきます。このように、社内外をシームレスにつないだコミュニケーションの「エコシステム」を通じて、共鳴の拡大と連鎖機会を創出しております。

統合された価値をワンストップで提供する連携体制

 私の役割は、展示会から獲得につなげるためのメディア発信をはじめとした「ブランディング」です。ブランディングは「認知の獲得」が目標で、そこからブランドとビジネスをつなげるマーケティング活動では「理解の獲得」を。さらに一歩先のセリングでは、営業活動による「評価の獲得」が目的となります。この3つの活動がしっかり連携し、リアルな営業の現場での売上につなげていきます。当部門の役割は、それぞれの事業部と連携し、展示会のためのプロジェクトチームを主導していくことです。

 展示会を軸にした当社のブランディング戦略を、2017年度の事例からご紹介いたします。まず、広報部隊が制御機器事業の事業部と連携し、秋の展示会を山場として、年間を通じたカスタマージャーニーを設計しました。4~6月に注目喚起のため、戦略説明会などでコンセプト発表。7~9月は提供価値訴求として、セミナー登壇やメディア露出で新サービス発表など。10~12月は価値体験の提供として、展示会出展。1~3月は商談獲得などの具現化提案として専門セミナーを開催するなど、年間を通してチームが同じスケジュールで動きました。その結果、狙ったとおりの顧客の態度変容を獲得し、ターゲット顧客を展示会に誘客できました。

 もう一つ、アメリカの「CES(Consumer Electronics Show)」という世界最大級の先進技術の見本市に出展した事例をご紹介します。CESのケースでも、展示会前からあらゆるメディアで話題を盛り上げ、現場の営業活動でも注目を喚起しました。その結果、オムロンブースへの来場者数は18,000人を超え、コンタクト先取得数は11,000件以上、メディアへの露出件数は560件を超えるなど、目標数をはるかに超えた結果に。幅広い業界の著名人も来場し、オムロンのビジョンや技術に共感してくれました。また、展示会後もメディア掲載や現地の展示会に出展するなど、価値体験の提供フェーズにつなげています。

 以上のように、展示会を軸に、事前プロモーションから会期中プロモーション、会期後プロモーションまで「統合された価値」をワンストップで提供する体制が重要だと考えています。そのためにも広報が主導している活動と、事業部側が行っているマーケティング活動を連携させて、一つの計画で動く体制づくりが必要です。当社もまだまだ連携に課題があり、一気通貫した体制を目指しています。今後も、現在実践しているプロセスを繰り返しながら、ダイレクトに成果につながるような体制を強化していきたいと思います。

オムロン株式会社
執行役員
グローバルインベスター& ブランドコミュニケーション本部長
井垣 勉


早稲田大学商学部を卒業後、マツダ株式会社に入社。その後、外資系コンサルティング会社を経て、外資系消費財メーカーの広報部長を約10年務める。13年2月にコーポレートコミュニケーションの責任者としてオムロンに入社。17年4月から現職。同社のIR、SR、PR、社内コミュニケーション、ブランド戦略などをグローバルに統括する。日本広報学会理事や大阪機械広報懇話会代表幹事などを歴任。社外でも広報活動の発展に尽力する。

講演Ⅳ マーケットワン・ジャパン 大橋 慶太 氏

本社主導のグローバルマーケティングの実践

マーケットワン・ジャパン シニア・ディレクター グローバルデマンドセンター・コンサルタント
大橋 慶太

日本本社が担うべき役割と、組織体制の最適解とは

 企業活動のグローバル化がますます加速する中で、今後の企業成長において必要不可欠なのが、グローバルマーケティング体制の再設計である。グローバルマーケティング推進において、日本本社が担うべき役割とは何か。そして、どのように主導していくべきか。売り上げ直結型BtoBマーケティングの実現を、グローバル規模で支援するマーケットワン・ジャパンの大橋氏が語った。

売上に貢献するグローバルマーケティングに向けた3つのステージ

 グローバルマーケティングの実践に関して、上手く進んでいない企業が多いと感じています。例えば、ローカライズという名の下にマーケティングを現地に委ねてしまっていたり、海外の支社が日本本社のマーケティング方法に賛同してくれなかったり。本日は、当社が20年にわたって世界30カ国以上、300社を超える企業へのコンサルティングの中で蓄積してきたノウハウから、本社主導型のグローバルマーケティングを成功させる方法をお話しします。

 本社主導型のマーケティングを実現するためには、本社・支社がマーケティングゴールを共有し、その上で現状を把握して、ゴールまでのプランを明確にする必要があります。また、本社がマーケティングハブとして機能していることが重要です。ビジョンだけを海外支社に伝えて動かすのではなく、本社がハブとして機能して、グローバルマーケティングを実現するためのサポートや設計も行うイメージです。

 売上に貢献できるマーケティングのために実践すべき要素は、多岐にわたります。すべてを一気に実践すると混乱するため、当社が推奨する3つのグローバルマーケティングのステージ「全体設計」「始動と実践」「継続改善」に分けて考えてみましょう。

 

1.「全体設計」

マーケティングの目標設定や現状把握などの全体設計については、本社側が大きな役割を担う部分です。グローバルマーケティングを成功させている企業は、全体設計がしっかりしており、ROMI(Return On Marketing Investment・マーケティング投資回収率)を最大化できることを、経営陣にもわかりやすい言葉で示しています。そうすることで、経営陣から承認・サポートを得ることができ、グローバルマーケティングへの協力体制が実現するのです。

 

2.「始動と実践」

このステージでは、役割分担を決めることが非常に重要です。本社や海外支社が、どこまでの役割を担うのか。また、各国のマーケティング部門や営業部門、海外のパートナーを巻き込むために、マーケティングプロジェクトの意味やリターンを明確に示し、リソースを割いてもらわなければなりません。全体設計のステージで明確なロードマップを作成できていれば、役割分担や協力体制についても上手く進みます。

 

3.「継続改善」

この部分がなかなか難しい部分です。多くの企業は、全体設計をする人と実行する人が異なり、そこにギャップが生まれてしまいます。また、設計段階でコンサルタントなど外部の力で綺麗な絵を描いたとしても、自社のリソース不足で実現できない場合が多々あります。当社は設計のコンサルティングだけでなく、推奨したプランを当社で運用できるサービスを整えておりますが、そのように実現可能な設計ができるパートナー選びも重要です。

本社主導型のマーケティングを実現するカギは「和魂洋才」

 ここまで本社主導型のグローバルマーケティングを3つのステージに分けてご説明しましたが、マーケティングを推進する人に求められる素養についても、5つご紹介します。まず、「売上創出型マーケティングができる」こと。経営者の思いを設計図に落とし込むことで売上へ貢献する力は、プロジェクトを始動させるために不可欠な素養だと思います。次に「各国の市場・商習慣・規制への理解」も必要です。現地のメンバーに任せっきりにするのではなく、本社側も理解し、判断や助言を行う必要があります。リソースが避けない場合は外部の力を借りましょう。その上で、ローカルに任せる線引きをして、「グローカル体制を構築できる」素養も必要です。さらにはIT部門との連携を推進するための「マーケティングテクノロジーへの理解」がなければ、実行フェーズにて関係者を巻き込むことはできません。各国で使用しているデータやシステムを統合し、グローバルで推進するために必須な素養です。そして最後に、「社内外の推進・牽引力」です。経営陣との折衝や協業、各国・各部門のステークホルダーからの納得を獲得する際に必要となります。

 これら5つの素養を、すべて持ち合わせている人はなかなかいないでしょう。ただ、マーケティングのステージによっても必要な素養は異なりますし、すべてを1人の推進役が持ち合わせていなくても、グローバルマーケティングを成功に導く方法はあります。では、実際の企業はどのように推進しているのか。ケーススタディとして、日本本社や各国の関係者から承認・コミットを獲得できず、当初はプロジェクトがなかなか進まなかった企業の解決事例をご紹介します。この企業では、グローバルマーケティングにおける変革プロジェクトの全体設計をしたものの、当時声の大きかったアメリカのマーケティング責任者がその方針に反対しており、承認が得られないという課題がありました。しかし、そこを上手く逆手に取って、このアメリカの責任者を口説いて日本本社へ転籍させ、プロジェクト推進リーダーに任命。アメリカでの知見も活かしてプロジェクトを再設計してもらい、推進力・牽引力を持ってプロジェクトを進められるようになったことで、本社主導型のマーケティングを実現しました。

 以上のように、不足している知識やリソースは、自社の中で人を動かしたり、アウトソースを使ったりして実現することが重要だと感じます。「和魂洋才」という言葉がありますが、まさに不足している機能やツールは外から持ってくる。つまり「洋才」を活かし、本社はマーケティングの定義や挑戦をやり遂げる覚悟というところで「和魂」を持って進めていくことが、本社主導型のマーケティングにおける成功のカギなのではないでしょうか。

マーケットワン・ジャパン
シニア・ディレクター
グローバルデマンドセンター・コンサルタント
大橋 慶太


BtoB/BtoC企業のマーケティング・コンサルティングに15年以上従事。日本初の音楽配信サービスの立ち上げ、大手製造業のグローバルガバナンスの強化、企業変革など数多くのコンサルティング業務を経験。現在は多くの上場企業を対象に、グローバルマーケティング強化に向けたデマンドセンター構築を支援するコンサルタントとして活躍。実践ステップ策定、プロジェクト管理まで幅広い業務をこなす。

講演Ⅴ THK株式会社 坂本 卓哉 氏

顧客志向+個別対応を実現する、THKのグローバルマーケティング戦略

THK株式会社 グローバルマーケティング統括部 統括部長
坂本 卓哉

グローバルOne to Oneコミュニケーションを実現する販売体制とは

 世界で50%以上のシェアを誇る直動案内部品「LMガイド」をはじめ、世界24カ国92カ所で事業を展開するTHK。一品一様の個別対応によるグローバルマーケティングを実現させる仕組みと、あらゆる販売チャネルを総動員して幅広い顧客とつながる “Omni THK“ について、グローバルマーケティング活動を統括する坂本氏が語った。

THKにおけるグローバルマーケティング戦略

 当社は、直動コア技術を使って産業機器以外の業界にもグローバル展開を進めており、医療機器やロボット、再生可能エネルギーなどの事業も行っています。売上高を地域別に見ると、日本の売上は34%、次いでアメリカが24%、欧州が19%、中国が14%と、売上の7割近くを海外が占めている状況です。グローバルの販売体制を構築するには、製販一体で進めることが求められます。私はグローバルマーケティングを統括する立場ですが、一般的なマーケティング施策だけではなく、内容によっては製造や販売段階まで踏み込む必要があると考えています。

 弊社の成長戦略として「グローバル展開」「新規分野への展開」にプラスして2016年より「ビジネススタイルの変革」の三本柱で改革を進めています。これまで当社は、特定のお客様に特定の製品を継続的にご購入いただくことがメインでした。しかし、この先我々が成長するためにはカバレッジを増やすことが重要だと考え、現在は海外、日本国内の展示会出展にも力を入れています。展示会1回につきおよそ1~2万件のリードを獲得し、マーケティングオートメーションやテレマーケティングなど、社内外のツールを使って最適な顧客を選別。実際に展示会の集客数は2倍に増加し、リードの獲得数も大幅に伸びています。

 カバレッジを増やし、最適な顧客を選別したら、最後は獲得のフェーズです。直接販売の場合はSalesforceを導入して、リードの効果測定を行っています。ただ、デジタルの数字だけだと効果が見えにくいのが現状で、それ以外の部分でどのように効果測定をするかが課題となっています。一方、代理店や販売店、特約店などの間接販売の場合は、継続的に売上を上げる仕組みとして “Omni THK“ という独自のコミュニケーションプラットフォームを作りました。

コミュニケーションプラットフォーム “Omni THK“ とは?

 “Omni THK“ は、選定から発注までのプロセスをすべて実行できるコミュニケーションプラットフォームです。従来は対面での接点からスタートし、選定時には訪問や電話でご提案していたため、発注までに時間がかかっていました。間接販売の場合、THKへの問い合わせなどのプロセスが入ることで、さらに時間がかかってしまうことも課題でした。“Omni THK“ には在庫品検索ツール、最適品選定ツール、CADダウンロード、寿命計算、出荷日や価格の表示、見積書の発行、Web発注などの機能を搭載。各フェーズにかかる時間を短縮することで、お客様の生産性向上につなげることができます。

 お客様から見ると、直販営業や代理店、他にもAmazonのようなECなど、販売チャネルの選択肢は多岐にわたります。当社では、対面・非対面を問わず、あらゆる接点をシームレスに融合して、お客様にとってベストなソリューションを出していければと思っています。マーケティングとしては、すべての接点をデジタル化することで効果測定がしやすくなるのも事実ですが、現状ではデジタルとアナログを融合し、提供価値を上げていきたいところです。

 この “Omni THK“ は、昨年まずASEANからスタートし、今年に入って中国、ブラジル、日本に展開をしています。各エリアで結果を出し、今後拡大していければと思っています。

 また、さらにお客様の生産性向上に貢献するために、機械要素部品のIoT化も進めています。現在、機械要素部品にセンサーを組み込んで、異常を検知した場合に信号を発する部品を開発中です。これにより、お客様のご希望に添った部品の開発や、絶対に停止しない設備を実現する一端を担うことができます。今後は、部品のIoT化を通じてもお客様の生産性向上につなげていきたいと考えています。(参考:www.thk.com/omniedge/jp)

 当社では、世界中のお客様とOne to Oneでつながるために、様々な取り組みを行っています。 “Omni THK” においても、機械要素部品のIoT化においても、デジタルとアナログを融合させて、お客様に付加価値を提供することが目標です。グローバルマーケティング戦略によりカバレッジを増やしながらも、お客様にとって最適なタイミングで接点を持ち、お客様ごとの個別対応を実現することで、さらに提供価値を高めていきたいと思います。

THK株式会社
グローバルマーケティング統括部 統括部長
坂本 卓哉


中央大学卒業後、株式会社キーエンス入社。キーエンスタイランド、中国などでマーケティング責任者を経験後、15年2月にTHK株式会社に入社。マーケティング推進部部長、ICBセンター長に就任。現在はグローバルマーケティング統括部長として現在に至る。

特別講演 横河電機株式会社 阿部 剛士 氏

マーケティングで変革する企業経営
~世界で戦うYOKOGAWAのマネジメントと組織

横河電機株式会社 常務執行役員 兼 マーケティング本部長 博士(技術経営)
阿部 剛士

マーケティングを武器にした企業へ変革するために必要なこと

 計測、制御、情報技術を軸に、グローバル市場でビジネスを展開する横河電機。従来のマーケティング機能の考え方を越えたユニークな組織体制で、さらなるビジネスの拡大を進めている。マーケティングを活かすための全社的な組織変革のキーファクターとは一体何なのか。BtoB企業におけるマーケティングの役割や、これからの時代を勝ち抜く企業経営について、かつてない勢いで同社の変革を牽引する阿部氏が語った。

マーケティングの力で変革を起こす

 今年で創業103年を迎える当社は、今まさに戦略的転換期にあります。市場が成熟し、経営者の判断がこれからの成長と衰退を分ける、重要な時期です。横河電機のコアビジネスであるインダストリアルオートメーションの石油事業に関して、近い将来には需要が頭打ちになるという予測があります。そんな状況下で当社をさらに成長させるためには、マーケティングの力で変革を起こす必要があると感じました。そこで、横河電機をマーケティングの会社にしようと、様々な変革を進めています。本日は、マーケティングで企業をどう変えていくのか、組織と人財についての取り組みをご紹介いたします。

  2016年のアメリカでの調査によると、BtoB市場で新しいサプライヤーを探す時に、購買者がGoogleやBing検索を使用する割合は87%という結果が出ています。製品を探す時には、63%の人がまず企業Webサイトを見ていました。今や顧客の多くが、自分でサプライヤーや製品を探して購買に至っているのです。こういった背景をもとに、当社ではマーケティングの「まみむめも」に重点を置いています。まず「ま」は、マーケティングオートメーション(MA)です。売上を創出する式は、「売上=リード(案件)×成功率×価格」で表されます。この式において「リード(案件)」の数と質を高めることが、マーケティングの役割です。イベントやダイレクトメールなどの施策でリード数を集め、購買につながる質の高いリードをMAで選定していきます。購買行動が劇的に変化しているBtoB市場において、24時間以内のレスポンスを可能にするMAを活用することで、案件発掘を効率化することができます。実際の取り組みとして当社では、2017年度にアメリカにデマンドクリエーションセンター(DCC)を作り、試験運用してみました。結果は、投資1に対してリターンが10と、思いのほか良かったです。今年度からアメリカでは本格始動し、来年度にはヨーロッパやアジアにDCCを拡張していく予定です。

  次の「み」は、マーケットインテリジェンス(MI)です。当社では、MIに関するチームを昨年度発足しました。データを集め、分析・管理し、組織内で横断的に活用しています。チーム発足から1年が経ちましたが、知見を交えたデータを用意できるため、意志決定者が正しい意思決定を行うにあたって、かなり成果が出ています。次の「め」は、マーケティングエブリシング(ME)です。横河電機をマーケティングの会社にするためには、CEOのマーケティングへの理解が欠かせません。日本の製造業は「良いモノをつくれば売れる時代」を経験してきたため、企業におけるマーケティングの地位が低い傾向にあります。もしも企業のCEOがマーケティングに興味がなく、理解がないとしたら、マーケティングの地位向上および今後の企業の成長は、かなり厳しくなるでしょう。当社のCEOはマーケティングで会社を変えたいという意識を持ち、理解してくれているからこそ、私が今行っている改革が実行できています。これからの時代は「良いモノをつくれば売れる時代」ではありませんから、今後日本においても、マーケティングの重要性が問われていきます。さて、マーケティングの「ま・み・め」をお話ししましたが、「む」と「も」はまだ見つかっていません。もし良いアイディアがあれば、教えていただければ幸いです。

VUCAワールドを勝ち抜く横河電機の組織マネジメント

 ここからは、イノベーションを活性化するための組織マネジメントについて、共有します。今の世界は、“VUCAワールド” であると言われます。変わりやすく(Volatility)、不確実(Uncertainty)で、複雑(Complexity)で、あいまい(Ambiguity)な世界です。ダボス会議でも3年連続で出た言葉で、この世界でどう生き残っていくかが課題となっています。加えて、これまでの理論では通用しないほど、マーケットの移り変わりも早くなっていますよね。だからこそ、より素早い意思決定ができるよう、経営者の意志決定スキームを変える必要があると思います。サントリーの創業者が「やってみなはれ」という言葉を大事にしていましたが、まさにこれからの時代にとって重要な考え方です。早く、速く、頻繁にFail(失敗)して進まなければ、生き残っていけません。チャレンジを良しとする企業文化を醸成するためにも、まず人事制度を変える必要があるでしょう。当社でも、挑戦を評価するような人事制度へと改革を進めています。

 また、当社のマーケティング本部は、一般的なマーケティング組織とは異なる構成をしています。通常考えられるような「マーケティングコミュニケーション(広報・広告/Webマーケティング)」や「ブランディング」の機能のほかに、「次期中期・長期事業計画立案」「新規事業開拓」「R&D」「IAマーケティング」「M&A・戦略的アライアンス」「特許戦略」「標準化戦略」「渉外」「工業デザイン」の機能も持っています。これらの機能をマーケティング本部の傘下に置く企業は、日本の上場企業では当社だけだと思いますし、世界中でもあまり類を見ない構成です。では、なぜこのような組織構成なのか。VUCAワールドで生き残るためには、これらの機能がマーケティング本部にないと、挑戦のサイクルを早く回せないと考えているためです。

 なかでも、R&Dは重要です。当社のR&Dは従来の研究開発だけでなく、お客様を持ち、一緒に開発もしています。また、1年半前から開発プロセスを変更し、ビジネスコンセプトの企画から開発フェーズへと移る従来のプロセスをやめて、テストと修正が繰り返し行われる「アジャイル型」にしました。こうしてPoC(Proof of Concept:概念実証)を行いながらアジャイル型開発を進めていると、知財に関してパートナー企業との見解の相違が生まれるなど、問題が起こります。これを解決するにあたって、マーケティング本部の下にある知財・標準化チームがサポートできることも強みです。R&Dや知財がマーケティング本部にあるからこそ、アジャイル型開発やさらなるビジネスの拡大が可能になります。

 先ほどの機能に加え、「組織開発」もマーケティング本部傘下にあります。当社は創業から100年以上が経つ企業ですが、当社に限らず、組織は老朽化するものです。そのため、当社では組織をマーケティングする「LORG(Learning Organization Initiative)」という組織開発グループを作り、自立型組織を構築する取り組みを行っています。LORGに関しては、ピーター・M・センゲ氏の『学習する組織(Learning Organization)』という本を参考にしていますので、気になる方は読んでみてください。

 2018年は、大政奉還があってから150周年の年です。150年前は武士の時代でしたよね。当時の武器は刀でしたが、150年経った今、武器はスマートフォンに変わりました。この150年で起こった変化が、次は15年で起こるでしょう。これこそがVUCAワールドなのです。変化は徐々に始まり、ある点から一気に伸びてきます。最初の変化が小さいので、見落      としがちですから、私は常々、現場での小さな変化を見逃さないようスタッフに言っています。来る変化に対応する準備はできていますか? 本日共有した内容が、皆様の参考になれば幸いです。

横河電機株式会社
常務執行役員 兼 マーケティング本部長 博士(技術経営)
阿部 剛士


1985年、インテルジャパン株式会社(現インテル株式会社)に入社、2005年、同社マーケティング本部長に就任、2007年、芝浦工業大学専門職大学院 技術経営/MOT卒業、2009年、同大学地域環境システム専攻博士課程修了、2011年、同社取締役副社長 兼 技術開発・製造技術本部長に就任、2016年、横河電機株式会社に入社、現在に至る。

<企画者からの御礼>

 この度は「BtoBマーケティングフォーラム 2018 製造業における最適なマーケティング設計~世界で勝ち抜くための組織と仕組みの創り方~」 に多数ご来場を賜り、誠にありがとうございました。

 3回目の開催となりました本フォーラムは、昨年開催の同フォーラムにご参加いただいた方々との意見交換の中から、「製造業における最適なマーケティング設計」という着想を得ました。当日のプログラムでは、世界で勝ち抜くための組織と仕組みの創り方について、先進企業のマーケティング変革を牽引するリーダーの方々をお招きして、考察・検証して参りました。皆様のご参加、当日のご協力誠にありがとうございました。

 ビジネス・フォーラム事務局では、今後も皆様の課題解決のヒントとなるようフォーラムを企画してまいります。 企画・テーマ等にご希望・ご意見がございましたら、ぜひこちらまでお寄せ下さいませ。

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株式会社ビジネス・フォーラム事務局
プロデューサー 兼 マーケティング戦略室 リーダー 北村 将