・5年先に企業が生き残るための鍵 ~それはデジタルの波を理解し正しく乗ること~
・差別化のためには「アジャイルな組織」であり、「デジタルと非デジタルの融合」が必要
・デジタル施策の成否は「いかに関係者との対話・連携できるか」がポイント
株式会社ファミリーマート
シニアオフィサー
経営企画本部 デジタル戦略部長
植野 大輔 氏
株式会社ファミリーマートは、全国約17,000店のリアルな接点を活かし“地域密着”と“オープン主義”をキーワードに、地域の皆さまに寄り添い「いちばん便利なお店」を目指した、デジタル戦略推進に取り組んでいます。今回は、デジタル戦略部の責任者であり、デジタル変革を牽引するリーダーでもある植野様へ神岡太郎教授によるインタビューです。
マーケティング本部からデジタル戦略部へ移られた背景を教えてください。
植野:ファミリーマートは、他社に比べてデジタルで遅れを取っているのが現状です。喫緊の課題として、デジタル戦略を圧倒的に推進する必要性を感じていました。それまでマーケティング本部として取り組んできた変革が
第一ステージに乗ったこともあり、会社の重要課題であるデジタルを担う部門を預かることになりました。
2018年11月にデジタル戦略部を立ち上げるにあたっては、ポイントカードのCRM を担っていた人材を中心に組織化しました。その上で、デジタルに関しては自社の中で持っていない能力も必要となるので、積極的に外部のアドバイザーとも連携を取っています。デジタルに関するソリューションを提供する会社はたくさんありますから、誰と付き合うべきかという目利きが、かなり重要です。
デジタルの強化を推進していくにあたり、どのような変革を中心に考えられていますか?
植野:力を入れていきたい分野が二つありまして、「デジタル時代の顧客体験」と「レジオペレーション」です。特にレジ業務に関しては、店頭で様々なサービスを受け付けており、業務が複雑化しています。一方で、業界的にも人手不足が深刻化している。働いてくれるスタッフのためにも、レジオペレーションに関する負荷を解消していかなければなりません。
また、デジタル強化の推進はデジタル戦略部だけではなく、CIOとも深く連携を取って進めています。デジタルとシステムがどのように連携して行くかをしっかり確認するために、少なくとも毎週1時間ほど個別に話す場を設けるなど。すみ分けとしては、お客様との接点の部分はデジタル戦略部がメインで担っています。
改革に向けて、具体的に取り組んでいることはありますか?
植野:2019年7月に、具体的なデジタルの施策として「ファミペイ」という社運を賭けたアプリを投入します。電子マネー機能を搭載し、スマホ画面にバーコードを表示して、店舗で決済するものです。その他にも、ポイント付与やクーポンの配信など。おそらく、店頭でお買い物をお得に便利にしていただくにあたって、現状のベストなデジタルソリューションを提供できると思います。
ただ、「ファミペイ」を浸透させるためには、まず加盟店の皆様にこのソリューションを信じていただき、積極的にお客様にお勧めしていただかなければなりません。そのために、現在、加盟店の皆様を対象とした商品展示会を全国で開催していますが、そこにデジタル戦略専用のブースを設けています。そこでは、私も現地に張り付いて、実施する意義や具体的な操作方法を徹底的にご説明して、導入する上での不安をすべて解消できるように努めています。「デジタル時代だ!」とスローガンを掲げるだけでなく、加盟店の皆様一人ひとりと向き合って、地に足のついたボトムアップでの変革を進めていきたいです。
「ファミペイ」に関して、どうしてもテクノロジーはコピーされてしまうものだと思いますが、他との差別化のポイントは、どのようにお考えでしょうか?
植野:やろうと思えば半年ぐらいで他社も同じ機能をコピーすることはできると思っています。他社との差別化するポイントは二つ。一つ目は、我々デジタル部隊が圧倒的に機動力のあるアジャイル組織として次の一手を先んじて出し続けることです。これは私たち、デジタル戦略部が、責任を持ってアジャイル組織に自己進化していかなければなりません。二つ目は、店舗現場の機動力。デジタルと非デジタルの2つの機動力を融合させて、差別化を図っていきます。
「ファミペイ」の開発に関して、苦労した点や課題などはありましたか?
植野:徹底的にお客様起点のアプリにするために、社内の理解を得ることがとても重要でした。「ファミペイ」の開発をキックオフする時に、外部のアドバイザーに「過去のご経験から、アプリが失敗するケースの要因は何ですか?」と尋ねたところ「社内論理です」とキッパリ言われたんです。お客様にとってプラスになるアプリを作ろうとしても、結局社内で議論するうちに不要な機能を追加してしまって、失敗につながりやすい‥‥‥。そこで「ファミペイ」の開発では「社内論理は自分が何とかする!」と言い切り、検討チームにはお客様にとって本当に有用なアプリを作り上げることだけに集中してもらいました。同時に、ファミリーマートの部門を超えてオープンにブレストできる組織文化にも、とても助けられています。
ちなみに、「ファミペイ」は店舗でのお買い物をさらに便利にできるアプリですが、便利の追求という点では、交通系電子マネーを個人的にベンチマークにしています。交通系電子マネーが登場して以降は、現金で切符を買うよりも圧倒的に便利になりました。アナログの世界をデジタルで異次元なレベルまで便利にする、それは「ファミペイ」が目指したい姿でもあります。
とにかく「ファミペイ」は社運をかけた施策なので、絶対に成功させなければなりません。万が一失敗すると、現場からデジタルへの信頼を失い、この先しばらくデジタルを全社一丸で推進することが困難になる可能性だってあると、毎日、大きな緊張感を持ってやっています。だからこそ、この一発目の施策は、大きな成功が求められているんです。そして、「ファミペイ」をさらに普及させるために、最初の一手で留まることなく次の手を出し続けていくことが重要です。無人コンビニのように人もおらず、レジを無くすところに到達できればいいのですが、一足飛びにそのステップに移ることは現実的ではありません。今あるお店を出発点に、一段ずつ進化していきたいと思います。
「ファミペイ」も含め、植野様の今後のミッションを教えてください。
植野:いろんな企業がデータをマーケティングで駆使しようと奮闘していますが、本当に活用できた企業は、まだあまり無いように思います。幸いなことに、コンビニは既に「ID付きPOS」データに慣れ親しんでいて、客層や商品のトライアル率、リピート率などのデータを活用することに抵抗はありません。しかし、例えば高精度にOne to Oneでクーポンを配信するような取り組みをするとしたら、これまで取れなかったID付きPOS以外のデータも必要だと思います。One to Oneに近いインセンティブを「ファミペイ」でご提供し、本格的なOne to Oneマーケティングの時代へ向けて、地道に運用精度を上げていければと思っています。
最後に、植野様のお役回りは、実質「CDO」に近い役割かと思います。CDOが担うべき役割について、どのようにお考えでしょうか?
植野:当社ではCDOという役職は現状用いておりませんが、このデジタルの波を理解し、正しくデジタルの波に乗れるよう会社をリードして行くことが、企業の5年先を決めるのではないかと思います。海外では名だたる小売企業がデジタルの波に乗り遅れて、突然低迷するような事例もありますから、あまり悠長には構えていられません。
しかし、リアルなお店を持つ小売企業は、デジタル化だけが早すぎても結果が出にくいのが実情です。「闇雲に、早くて新しいことをやれば良い」というわけではないんですね。オンラインだけで完結できるデジタル施策であれば早く実現することも重要ですが、我々は実店舗を持っていますので、リアルな店舗の物理的スペースやサプライチェーンの制約などを理解した上で、デジタル化のロードMAPをどう作れるのかが肝になると思います。
貴重なお話をありがとうございました。
インタビューアーからのコメント
植野氏は、マーケティングの発展形として、顧客起点でのデジタルを実現しようとしています。
その最高責任者であるので、タイトルは別にして、CDOとよぶのにふさわしい役割です。
些細なことかもしれませんが、植野氏が「顧客体験」と「オペレーション」という小売りでの表と裏を同時に明示的に答えられたことに、いかにもCDOらしいと思いました。
それは、異なる領域をつなぐというデジタルの最も大きな特徴を引き出すことだからです。
この点は簡単なようで、組織は縦割りのため、なかなか実現できません。
顧客価値を実現するための視点でオペレーションを行うことは、小売りにとって究極の課題の一つでしょう。CDOという立場になったからこそ、お題目でなくなりました。そのアプローチにチャンレンジすることが可能になり、自然にその2つを同時に答えられたのだということを感じました。
そして、「ファミペイ」のようなデジタルの利活用については、テクノロジーやアプリケーションではなく、「アジャイル」「デジタルと非デジタルの融合」という「組織で差別化」するという考え方が示されたように思います。電子マネー系は、しばらく、百花繚乱状態が続くでしょう。デジタルは、組織がどうそれを利活用するかで価値が決まります。組織の問題なのです。加盟店がそこでどう機能するかが、勝敗を分けることになります。加盟店は第二の顧客です。今後、加盟店を含めて、ファミリーマートが組織としてどう差別化し、戦っていくのか、興味深いところです。
デジタル戦略の推進を担う、植野氏の取り組みをマーケティング視点から迫り、紐解く!
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【企画・編集責任者】
ビジネスフォーラム事務局 プロデューサー 進士 淳一