CMO Interview vol.1 後編

2018/12/12 (  水 )

CMO Interview vol.1 後編

・マーケティングに強い組織づくりのカギは、知識の収集・蓄積・流通

・”知識”の重要性を認識することが、マーケティング組織の課題解決の糸口

・消費者視点でマーケティング戦略を再解釈する必要がある

ビジネス・フォーラム事務局の大好評シリーズ「CMO Forum」のスピンオフ企画として連載する当インタビュー。マーケティングを取り巻く環境変化に立ち向かい、挑戦を続けるCMOの方々に、今取り組むべき課題やマーケティングを牽引するリーダーが持つべき視点を伺っていきます。

インタビュー前編では、マーケティングにおける変化と、変わらない本質を整理しながら、マーケティングの役割についてお話を聞きました。後編では、その役割を実現するための組織づくりの課題と構築に向けて気を付けるべきポイントについて、引き続き音部大輔氏に聞きました。

 

株式会社クー・マーケティング・カンパニー
代表取締役
音部 大輔 氏

新卒でP&G Far East Inc. マーケティング本部に入社。17年間の在籍中、アリエール、ファブリーズ、アテント、パンパースなどのブランドを担当し、市場創造やシェアの回復を主導後、US本社チームでイノベーションの知識開発に従事。帰国後、ダノンジャパン、ユニリーバ・ジャパン、日産自動車、資生堂などでブランドマネジメントや組織構築を指揮。

CMO Interview vol.1 前編はこちら

マーケティングに強い組織づくりのカギは「知識」

――マーケティングに強い組織をつくろうと思った時に、どんなことに気を付けるべきでしょうか。

組織づくりについては様々なポイントがありますが、まずは戦略を持つことが大事だと思います。「いい組織をつくりたい」という目的があって、その目的達成のために使える資源は有限ですよね。自著『なぜ「戦略」で差がつくのか。』でも記したのですが、達成すべき目的があって、資源に限りがある場合は、「目的達成のために資源をどう利用するのか」の指針である戦略が必要になります。戦略を立てるために、まず明確にすべきなのが「いい組織」の定義です。「いい組織」については、いろいろな要素が考えられると思いますが、総括すると「自律的に成長し続けられる組織」ではないかと私は考えています。 

何をもって「成長」とするかについては、私は「去年できなかったことが、来年できること」と定義付けています。もしこの定義通りに組織が成長しているとしたら、結果的にビジネスも伸びるはずです。それと同時に、組織の中の人が成長しているとも言えるでしょう。ゆえに、組織の持続的な成長のためには、人の持続的な成長が必要だと思います。人の成長も先ほどの定義通り、「去年できなかったことが、来年できること」です。できるようになる理由は、去年と来年の間に、経験値も含めた知識が得られるからですね。

――知識の扱いが、マーケティングに強い組織をつくるための重要なポイントになってくるのですね。

そうです。強いマーケティング組織、すなわち自律的に成長し続けられる組織をつくろうと思うならば、去年できなかったことが来年確実にできる仕組みをつくるべきだと思います。要するに、持続的に知識が収集され、蓄積され、流通できる仕組みをつくることが重要なのです。

例えば、ブランドマーケターの矜持や美学として、「自分が会社を去り、この世を去った後でも、自分が手掛けたブランドが世の中で愛されていること」が、目指すべき目標の一つだと思います。ブランディングやマーケティングが属人的な状況では、それを実現することは難しいでしょう。つまり、再現性を保つためにも、プロジェクトが終わった後にレビュー(振り返り)をして、知識を得る必要があります。知識を収集・蓄積・流通させることができれば、今後リーダーが代わっていったとしても、ブランドとしての進化を遂げられるはずです。

マーケティングが上手く機能していない組織の共通点

――音部様は様々な企業のマーケティングの現場を見ていらっしゃると思いますが、マーケティング組織が上手く機能していない企業においては、どのような組織課題があると思われますか?

先ほど言及した「知識」に対する重要性を認識できていない企業も多いのかもしれません。レビューをないがしろにしていたり、知識を流通させるための仕組みができていなかったり。人や時間、お金など資源を使って行ったプロジェクトのレビューをしなければ、それが知識になることはなく、成長にもつながりません。失敗したとしても、成功したとしても、レビューをして知識を得ることが大切です。

――一方で、代理店やパートナー企業など外部に任せることで、知識が蓄積しにくいという悩みを持つ企業も多いかと思います。

パートナー企業との協業に関しても、知識を収集・蓄積・流通しやすくする仕組みが必要です。その仕組みづくりのために真っ先にやらなくてはいけないのが、共通言語を確立することではないでしょうか。旧約聖書にある「バベルの塔」では、天まで届く塔を造ろうとした人類に対して、塔の建築がそれ以上進まないように、神が人々の言語を変えたという話がありますよね。要するに、言語が異なると共同作業ができないのです。同じように、外部のパートナー企業との連携においても、言葉や概念の共通言語づくりは重要です。

日本企業とグローバル企業という観点で例を挙げると、日本企業は「阿吽の呼吸」や「空気を読む」といった、ハイコンテクストな環境だと言われます。一方でグローバル企業の人は、多国籍な環境でプロジェクトを進めざるを得ない環境にあり、ロジカルに話さないと効率が悪いので、必然的にローコンテクストになります。人間は言語とロジックによって理解をするので、共通言語を持ち、ロジックを用いてコミュニケーションを取ることが大事だと感じます。

――グローバル企業に関連した話だと、海外、特に欧米の方が日本よりもマーケティングが進んでいると、引け目を感じている日本企業も多いかと思います。その点はいかがでしょうか。

たしかに、マーケティングにおいて非常に洗練されている企業がグローバル企業だというケースはあると思いますが、だからといってグローバル企業の方が進んでいるとは、一概には言えないと思います。人種や国籍の問題ではなく、企業自体の問題です。国内でも洗練されている企業はありますから、「日本人はマーケティングが苦手」ということではなく、経験値の問題だと思います。マーケティングは知識を体系化させて、新しい知識を得る活動なので、やはり知識の扱い方が重要です。

マーケティング戦略立案のポイントは、消費者視点で目的を再解釈すること

――実際にマーケティング戦略を立案するにあたって、どのようなことを意識すべきだとお考えでしょうか。

消費者視点で考えることが重要です。例えば売上目標を10億円と設定した場合、その10億をどう達成するのか。一般的にありがちなのは、取引先単位で「取引先Aとの商談であと2億円」とか、施策に落とし込んで「ボーナスパックをやれば1回5,000万だから、何発かやろう」とか、そういう議論になってしまうことです。

そうではなく、消費者の視点で解釈しなおして、マーケティングが寄与しやすい行動や認識の単位にする必要があります。ユーザー何人にいくらずつ使ってほしいのか。あるいは、リットルやキログラムなどの別の単位で考えてみるとか。企業の目的、すなわち売上目標やシェア目標などを、消費者視点に解釈しなおすことが、初めの一歩です。

目的の解釈は、自社が持つ資源とも関連します。その資源を投下するための方針が「戦略」となります。先ほどの例であれば、「売り上げ目標10億円」はミッションなので、10億円を達成するための解釈は資源量によって変えてもいいはずです。10万人に1万円ずつ使ってもらうのか、100万人が1,000円ずつ使うのか、などの解釈の部分ですね。ただ、現在のマーケティング業界は、プレーヤーの増加によって非常に複雑になっています。リソースが複雑になっている現在だからこそ、より効果的な、洗練された目的の再解釈が必要とされているのではないでしょうか。

インタビュアーからのコメント

音部様にもご登壇頂いたCMO Forum 2018の中でも、参加者からの関心が最も高かったのは、「マーケティングを機能させる組織」についてのトピックでした。音部様のお話の中で、「再現性を保つ」という点に触れていましたが、マーケティング施策の中では、奇抜なアイディアやユニークさが求められる場面も少なくありません。ついヒットを生み出すカリスママーケッターやアイディアマンに依存してしまいがちです。しかし、組織としてマーケティングを機能させるためには、成功・失敗の要因は何だったのか等、取り組みを振り返り分析し、言語化して、強い組織の基盤となる「知識」につなげることが重要です。変化する環境だからこそ、いかに「再現性」を保ったマーケティング組織をつくっていくかが、今CMOや組織のリーダーに強く求められていると感じました。

今回のインタビューを通して、音部氏が企画側や読者の視点に立って、丁寧に質問に答えていた姿が非常に印象的でした。常に相手の視点で考えるその姿勢から、数々の企業でマーケティングの要職を歴任された音部様だからこそ、真の”消費者視点”を常に体現していることを強く実感しました。マーケティングを取り巻く環境や手法は今後も変化していきますが、マーケッターが常に消費者視点・顧客視点を持ち続け、体現していくという姿勢は、今後も変わらないのではないかと思います。

【インタビュアー 兼 企画編集担当】
ビジネス・フォーラム事務局 プロデューサー  
松岡 英美

大学卒業後、産業機械メーカーの営業企画としてマーケティングに携わり、新市場開拓・営業活動を行う。その後、ビジネス・フォーラム事務局に入社。企業のエグゼクティブを対象に、CMO Forum をはじめ、マーケティングやデジタル変革、働き方改革、コーポレートガバナンス等、経営課題に寄り添ったテーマのセミナーを多数企画。イベントプロデューサーとして、企画から運営までを指揮統括している。