CDO Interview vol.14 中編

株式会社 東芝 執行役常務 最高デジタル責任者 島田 太郎 氏

2019/11/11 (  月 )

CDO Interview vol.14 中編

  • デジタル戦略の責任者への経営層からの期待とは?
  • デジタル戦略を進めるチーム・組織作りの工夫は?

東芝は、2018年11月に発表した全社変革に向けた5ヵ年計画「東芝Nextプラン」の中で「世界有数のサイバー・フィジカル・システム(CPS)テクノロジー企業を目指す」ことを打ち出しています。

同社の執行役常務 最高デジタル責任者として、東芝グループを世界有数のCPSテクノロジー企業に進化させていくための大変革を指揮されている島田 太郎 氏に、『変革を担うリーダーの価値観』や、『いかに取り込もうとしているのか』を伺った、神岡太郎教授のインタビューです。

 

株式会社 東芝
執行役常務
最高デジタル責任者
島田 太郎 氏

2018年10月に東芝に入るにあたり、経営層からはどのようなことを
期待されたのでしょうか?

島田:最初に言われたのは「変わる東芝をやってもらいたい」ということでした。東芝はとても立派な会社だと思いますが、東芝が今後もビジネスで成功していくためには、とにかくデジタルビジネスモデルを構築しなければならないと思います。では、デジタルのビジネスモデルとは何か?
私が、他の成功事例を分析してみたところ【ライトアセットでデータセントリック】、【サブスクリプション型のリカーリング】といったキーワードが高成長で高収益であることがわかってきます。東芝が持つテクノロジーや顧客基盤といった財産を活かし、こういったエッセンスを含むデジタルビジネスモデルを構築していくのことが、私の役割です。

一つ具体的な例を挙げると、東芝には鉄道システム事業をやっているグループ会社がありますが、電車を滞りなく動かすため、点検で異常があった際にはすぐ補用品を届けなければなりません。
しかし、電車の状態に関する情報は、お客様である鉄道会社から逐一もらえるわけではないので、デジタル化して効率化したいという話がありました。そこで私は「じゃあ、電車を売らなければいいのでは?」と言ってみたんです。電車を売るのではなく、サブスクリプションモデルにしてみてはどうだろうか、と。そのビジネスが成り立つかどうかは別として、売ってしまうから現状がわからなくなるわけですから、こちらですべて管理するという考え方からビジネスを発想することも、方法の一つなのではないかと思います。

サブスクリプションというビジネスモデルは知っていても、実際のビジネスに適応して
考えるのは、なかなか難しいですよね。現場の方々の反応はいかがでしたか?

島田:初めのうちは「まさか電車をサブスクリプションにするなんて、考えたこともなかった」という反応でした。しかし、そうやってデジタルビジネスモデルについて一緒に考えていくうちに、「鉄道会社によってはサブスクリプションモデルにできるかもしれない」とか、「こういうオペレーションにした方が各鉄道会社の得意な分野を伸ばしてもらえる可能性もある」といった考え方をしてもらえるようになりました。

これからデジタルトランスフォーメーションを推進するにあたっては、このように、これまで考えてきた「自分達の仕事の範囲」を超えていかなければならないと思います。その範囲を超えて再び定義するにあたって生じるリスクを限りなく低減させながら、どれだけ実行していけるかが大切で、その塩梅を決めるのも重要な役割だと考えています。

デジタル戦略を進めるにあたって、チームづくりはどのようにされているのですか?

島田:主にサイバーフィジカル推進部という20名ほどのチームで進めていますが、それぞれの分社にもデジタル担当者としてDSO(Digital Strategy Officer)を置いているので、各分社に任せられるところは任せています。一方で、これまでの事業とはまったく異なるデジタルビジネスモデルを推進する場合は、自ら事業部を組織します。

私が、東芝に来て改めて思ったのは、技術的には非の打ちどころがないですし、小さな領域でも最先端のことをやっているけれども、企業として利益を出すにはもっとスケールが必要だということです。今後ビジネスを広げるためには新しい場所に飛び込んでリスクを取ることも必要ですが、どちらかと言うとこれまでは、リスクを取ったビジネスを東芝からカーブアウトする形になってしまっています。その結果、中長期的に手堅く進めてきたビジネスが多く残り、社内で殻を破るような文化が築かれていないのだと思います。

だからこそ、現状を刺激する人が必要です。最高デジタル責任者(CDO)としては、その役割を担わなければなりません。車谷会長の言葉を借りれば「ファーストペンギン」です。ペンギンは最初の1匹が水に飛び込むのを見て、その他の仲間が次から次へと海に飛び込んでいくそうです。私がその最初の1匹になって、他の社員をモチベートしなければなりません。

変革をもたらすために組織を刺激することに、社内から反発はありませんでしたか?

島田:当然ながら、このやり方に不満を持っている方もいます。だからこそ、人をモチベートしてカルチャーを変えるために、まずは自分が率先して動かなければなりません。私は普段から「東芝のBIOS*(バイオス)をアップデートします」という言い方をするのですが、やはりマインドセットから変えていく必要があると思います。社員1人1人が、1円でも利益を上げる方法を考えてほしいと。今、東芝が置かれている状況はどういうものかを社員全員が理解した上で、東芝の成長を考える必要がありますから。そうして今考えるべきことを浸透させることで、デジタルトランスフォーメーションを推進する土壌を作っていけると思います。

<注釈>
*BIOS(バイオス):Basic Input Output Systemの略。OSの起動や、PCと接続機器間の入出力を制御するプログラム。