CDO Interview vol.15 中編

日本航空株式会社 常務執行役員 イノベーション推進本部長 西畑 智博 氏

2019/11/19 (  火 )

CDO Interview vol.15 中編

  • 『チーム力』を高めるために意識していること何か?
  • 大企業で変革プロジェクトを担うリーダーに求められることは?

 

日本航空株式会社
常務執行役員 イノベーション推進本部長
西畑 智博 氏

デジタルトランスフォーメーション成功のカギのひとつが「巻き込み力」であることは
前編でお話いただきましたが、チームとして円滑に推進するために、どのようなことを
意識されましたか?

西畑:巻き込み力に必要なことは、進むべき方向とビジョンを伝えることだと思っています。それらをしっかりと伝えることで、賛同者がついてきてくれるようになりますから。ただし、独りよがりにならないようにするためにも、自分の不得意な部分もさらけ出さないといけません。私は「何でもできる」というのは「何もできない」に等しいと思っていますので、まずは自分が苦手なことをメンバーに伝えて、それが得意な誰かに補ってもらうようにしています。

そうして社員同士の多様性を認め、お互いを補いあっていくチームとして結束するために、イノベーションを推進するチームを「TEAM ZOO」と呼んでいます。私が「TEAM ZOO」と言い出したのは、もう20年以上前のeビジネス推進チームの頃です。多様性を動物園に例えて、個人の得意と不得意を組み合わせることで新しいものを生み出していきたいと考えました。現在のデジタルイノベーション推進部を設立した際に、インナーブランディングとして正式にロゴを作り、社内外で使うプレゼン資料にロゴを入れたり、「TEAM ZOO」のサンクスカードを作ってお世話になっている人達にお渡ししたりと、様々に活用しています。

「TEAM ZOO」などのチーム力を高めるための方法のベースは、西畑様が
2014年から取り組まれた旅客基幹システムを刷新する「SAKURAプロジェクト
にもありますよね。

西畑:SAKURAプロジェクト」は、50年間使ってきたJALの予約発券の基幹システムを刷新するプロジェクトで、800億円をかけ2,000人以上が関わるとても大きな規模での巻き込みが必要なプロジェクトでした。当時メンバーに何度も伝えていたのが “One boat(ワンボート)” という言葉です。プロジェクトのメンバー全員が同じ船に乗って力を合わせる必要があったからです。また、この時もチーム力を高めるために「SAKURA」のロゴを作り、サンクスカードを始め、Tシャツ、フラッグ、のれんなどのアイテムを製作しました。

海外のベンダーも多く関わっていたため外国人の方とのやり取りも多かったのですが、とにかく信頼関係を築くことを重視していました。最も多く伝えた英単語は、間違いなく “trust(信頼)” と “appreciation(感謝)” の2つでした。感謝の気持ちがベースとなって出来上がったチームは上手くいきますからね。プロジェクトに携わったメンバーもそれを理解して進んでくれた結果、予定通り2017年にサービスインすることができました。

これほどの巨大プロジェクトですから、メンバーへの信頼と、自分の中での覚悟がないと取り組めないですよね。

西畑:そうですね。SAKURAプロジェクトにおける最悪の事態は「飛行機が飛ばなくなること」でした。万が一そういった事態になった時には、責任を取る覚悟をしていました。ただ、上手くいくという自信はありました。メンバーも、成功を確信していたと思います。とはいえ、念のためサービスインをしてからの2週間は最悪の事態に備えて、白いシャツ14枚と上下スーツを常備して、目の前のホテルに泊まっていましたが(笑)。

あれだけの大きなプロジェクトを成し遂げたメンバーは、現在あらゆる部署に散らばっています。SAKURAスピリットを持つ仲間が会社全体にいることは、デジタルトランスフォーメーションの第一歩なのだと感じます。こうして、会社は少しずつ変わっていくのではないかと思うのです。

SAKURAプロジェクトを始め、ITを使って道なき道を切り開いてきたからこそ、
今のデジタルトランスフォーメーションに関する発言に説得力がありますよね。
これまでのご経験から、プロジェクト推進においてリーダーにはどのようなことが
求められると思われますか?

西畑:プロジェクトを推進するためには、2つのやり方が必要だと思います。ひとつは、将来を見据えた着地点を設定する方法。もうひとつは、目先の目標を達成するための方法です。近い未来の目標を設定できる人は多くいますが、長期的な着地点を宣言できる人は少ないので、自分はリーダーとしてその役割を担わなければならないと思っています。例えば、eコマースを導入した時にも「国内線のWeb販売率は2005年には50%を超える」という将来的な着地点を、まず打ち出しました。当時のWeb販売率は5%ぐらいでしたので、それに対して50%という数字は途方もない目標に感じた人もいたかもしれません。しかし、私にとっては目標というよりも「意志」であり、それを社内外に宣言することで既成事実化し、現在と着地点のギャップを埋める方法を考えていきました。

そうしたリーダーシップは必要不可欠だと思いますが、西畑様の場合は一方通行で
「意志」を伝えるだけでなく、チームのメンバーからのリアクションによって
波を大きくしていくようなイメージがあります。

西畑:そうですね、結局は自分一人では何もできないので、チームに参加してくれる「人」が最も重要ですから、メンバーとともに一丸となって波を大きくしていくことが大切だと思います。もちろん、チームには現場だけでなく経営陣や部課長層も含まれていて、この3階層のベクトルを合わせることが重要です。経営陣がトップダウンで「DXを推進せよ」と言ったところで現場は動きませんし、「やらされているDX」と「本気でやりたいと思って取り組むDX」には大きな差が出てくると思います。逆に現場が動きたくても経営陣の理解がないと、先へ進めないケースもありますよね。その点、私は今経営陣の中にいますので、自分事としてDXを捉えて自分の言葉でメンバーに伝え、賛同してくれる仲間を増やして「本気で取り組むDX」を進められる環境にあります。

欧米ではトップダウンでデジタルトランスフォーメーションを進めるケースが多い
ですが、西畑様のようにチーム力でアプローチすれば、日本企業も負けていないのでは
ないかと思っています。

西畑:まさに私たちの最大のテーマは、JALのような大企業でいかにイノベーションを起こせるかということです。スタートアップだけではなく、大企業でもできるというひとつの事例をつくることが自分のミッションだと思っています。今でこそJALは大きな企業となりましたが、遡れば日本で最初に国際線を飛ばすなど未開の地を切り開いてきたのですから、開拓者精神が根底にはあるはずです。そのルーツを思い出して、また開拓していけば良いのです。DXにも様々なパターンがあり、チームやリーダーが違えばやり方も異なりますが、JALではJALのDXを進めていきたいと思います。