2023/12/11 (  月 )

Business Forum Presents. チャールズ・オライリー教授来日記念 特別イベント 「両利きの経営」“実践論” 開催レポート〈DAY3〉

Business Forum Presents. チャールズ・オライリー教授来日記念 特別イベント 「両利きの経営」“実践論” 開催レポート〈DAY3〉

Business Forum Presents. チャールズ・オライリー教授来日記念 特別イベント

「両利きの経営」“実践論”

~改革の第二ステージへ向けて、戦略・人・組織のマネジメントをいかに実装するか~

〈DAY3〉戦略を実行する“人” 開催レポート

開催日:2023年 3月 14日(火)

主催:株式会社ビジネス・フォーラム事務局

共催:株式会社アトラエ、株式会社野村総合研究所

開催趣旨

両利きの経営はいかにして実行できるのか。日本企業の取り組み事例や具体策を交え、“戦略・人・組織”の観点から、改革の実行フェーズを加速する糸口を考察していく「『両利きの経営』“実践論”」特別イベント。

<DAY3>では、日本企業の新規事業推進リーダーの皆様を迎え、「戦略を実行する“人”」について、リアルな実体験とともに考察。DAY1DAY2に続き、最後は、推進の担い手となる“人”の視点から、その要件、そしてジレンマを乗り越える行動のヒントなどを紐解きました。

<特別講演> 

お客様の価値創造のためのコマツのイノベーション戦略

  • 建設現場のデジタルトランスフォーメーション実現への挑戦
  • お客様の価値創造のための社内改革・意識改革の進め方
  • 今後の課題と展望

コマツ(株式会社 小松製作所)
執行役員 スマートコンストラクション推進本部長
(兼)株式会社EARTHBRAIN 代表取締役会長
四家 千佳史

リーダーは失敗を許容し、社内を“自分ごと化”で巻き込む
アジャイル型でチャレンジする組織文化を出島でつくる

世界中の建設現場を牽引され続けているコマツのスマートコンストラクション。自社の強みを進化させたこの事業は、まさに両利きの実践そのものです。本事業の推進をはじめ、子会社EARTHBRAINの立ち上げなどコマツの新規事業の取組みをリードされている四家様より、これまでの挑戦やご苦労を振り返りながら、イノベーターとしての思考・行動のヒントをお話しいただきました。

「<特別講演> 」の様子

「『安全で生産性の高い、スマートでクリーンな未来の現場』という価値を創造し顧客へ提供することがコマツの成長戦略」と四家氏は語ります。同社が提供するソリューションである「スマートコンストラクション」は、当初建設機械などのIoTを進めていたものの、「各プロセスのデジタル化を進めても、プロセス自体が変わらなければお客様の課題解決と未来の現場は実現できない」と、顧客のありたい姿と現状のギャップを明確にしたことによる気づきから、施工プロセス全体を可視化した一歩先のDX、つまり建設機械などの「モノ」から生産活動に寄り添う「コト」へ舵を切った経緯を説明。

スマートコンストラクションに着手してすぐに記者発表を行い、「当時はコンセプトしかなかったので、ありたい姿を一本のビデオにしました」と四家氏。これによって目標に向かってバックキャストで考えるようになったことに加え、「当初、技術系の役員からは『できるわけがない』と言われたが、『対外発表したならやるしかない』と協力を得られるようになった」と社内の変化を振り返ります。

また出島組織であるEARTHBRAINの設立について、顧客に提供する価値がモノからコトへ変わるため、「新しい組織で、新しい仕事の仕方、新しい評価軸、新しい投資判断を行うために立ち上げました」と出島を作った理由を説明。そして、「新規事業を成長させていくには、トップがいかに覚悟をもって、失敗を許し応援していくかに尽きるのではないか」とリーダーシップの重要性を語りました。

最後に、聴講者からの質問に答えました。多くの新規事業リーダーが悩む「社内をどう動かすか」の質問には、ビデオの例を挙げ「自分ごとにしてもらうことで巻き込んでいった」と回答。「EARTHBRAINとコマツの文化の違い」については、「コマツと逆にしました。例えば、自分が立てた目標に対し達成率が高いとコマツでは評価されますが、EARTHBRAINでは『目標が低すぎる』と怒られるくらい。いかにチャレンジしたかを評価しています」と答え、「働き方のルールなどもまずは試してみて軌道修正する」と、アジャイルに挑戦を進める組織文化でもあることも強調しました。

「<特別講演> 」の様子

Voice of attendees

「モノ作りのトップ企業がコトにこだわり新規事業に組織を向けさせたパワーに関心しました。」

「何かを変革する際に、一般的なプロセスでなく、会社の方向性を外部アナウンスし組織のベクトルを合わせるというスピード感は大変参考になりました。」

「まだ実現できていないもの、実現できるか分からないものであっても、映像として見える化することで課題が浮き彫りになり、社内が一つにまとまるという事例。その他ビジネスモデルまで、大変興味深く、楽しいプレゼンでした。」

「これまでの建機単独の改良に満足することなく、未来のあるべき建造プロセスから現在の顧客の課題を解決していくという姿勢が参考になりました。数年前のビデオが未だに目標になっているのは驚きです。」

「社内改革の進め方や、社外パートナーを巻き込む活動、出島の設計が非常に参考になりました。」

コマツ(株式会社 小松製作所)
執行役員 スマートコンストラクション推進本部長
(兼)株式会社EARTHBRAIN 代表取締役会長
四家 千佳史


1968年福島県生まれ、1997年に株式会社BIGRENTAL(本社:福島県郡山市/建設機械レンタル業)を社員3名で創業、2008年社員数700名までに成長した同社とコマツレンタル株式会社(コマツ100%出資)が経営統合、同時に代表取締役社長に就任。2015年1月にコマツ執行役員スマートコンストラクション推進本部長に就任、2021年7月に株式会社EARTHBRAIN代表取締役会長に就任(兼務)、現在に至る。

<共催講演>

イノベーション創出における「両利き」の人材活用の考え方

  • 新規事業・イノベーション創出に必要な人材とは
  • 外部人材の活用実態と課題、活躍促進のポイント
  • 新規事業・イノベーション創出における「両利き」の人材活用の考え方

株式会社野村総合研究所
経営DXコンサルティング部 グループマネージャー
柳沢 樹里

イノベーション推進を機能させる人材とチームづくり
経営陣からもチームからも信頼されるマネジメント人材の重要性

続いて柳沢氏からは、野村総合研究所がイノベーション人材やマネジメント人材を対象に行った調査結果を基に、複数の事例を交えつつ、イノベーションに必要な人材について講演を行いました。「イノベーションの着想には価値を発見する活動、続く育成のフェーズでは価値を実現する力が必要です。そのため、価値発見力を持つ人と価値実現力を持つ人でチームを作ることに加え、前半と後半で適性に合わせてリーダーを交替するなど、プロジェクトの進め方も重要」と分析します。

「<共催講演>」の様子

また、キャリア採用人材の活用については、「その人材のポテンシャルを生かし切れるかが課題。採用した人材と既存人材から成るチームを、マネジメントによってうまく機能させることがポイントになります」と述べました。

マネジメント人材に期待される役割は、「チームをうまく機能させること、経営陣からの後押しを得ること、事業部が協力しやすくすることの3つで、これはオライリー教授が定義するCE(コーポレート・エクスプローラー)の役割と似ています」と解説。これらの役割を果たし、実際にイノベーションをリードした人たちの例を紹介しました。そして、「難しい局面でのマネジメント経験や事業開発をやり遂げた経験などを経て、経営陣からの信頼、チームからの信頼を得ることができ、自信を持つ人材を育てることが重要になる」と説明しました。

講演の後は、野村総合研究所の阿波村氏がオライリー教授とビンズ氏に質問をした映像が紹介されました。「CEを会社としてどう育てるか」という質問に対してビンズ氏は、「適切な環境を整備することで機会を与え、モチベーションをアップさせること。たとえ新規事業創出に成功しなくても学習する機会となります」、そして「まずはアイデアを出すことを歓迎し、着想と育成ができるような構造を提供することです」と回答。オライリー教授はインテルが実際に行っている新規事業創出の取り組みを例に、「社員全員にアイデアを聞くと、たくさんの人が手を挙げる。これによって文化を変え、起業家精神が強化されます」と答えました。

Voice of attendees

「イノベーション・フェーズやチームマネジメントの重要性を体系的に案内いただき参考になりました。」

「人材の立場からの新規事業開発を分析していて、興味が持てました。」

「イノベーション組織のマネジメントに求められるものがわかりやすく、具体的な進め方が参考になりました。」

「価値発見力と価値創造力という言葉がわかりやすかったこと、着想→育成→量産化という流れを意識し大事にしたいと思えました。」

株式会社野村総合研究所
経営DXコンサルティング部 グループマネージャー
柳沢 樹里


東京工業大学 大学院情報理工学研究科修了、2003年野村総合研究所(NRI)入社、2015年一般社団法人 Japan Innovation Network 出向、2017年NRIへ戻り現職へ。専門はイノベーション(事業創造)マネジメント、人材育成・人材活用戦略。NRIでの業務は、イノベーションマネジメントコンサルのほか、社会システム関連・業務革新関連コンサルや人事でのダイバーシティ推進担当など多岐にわたる。主な著書は、『大企業におけるオープンイノベーション~生きた出島戦略~ 』(NRIパブリックマネジメントレビュー)、『イノベーションを創造する人材像および組織像』(NRI知的資産創造)。

<パネルディスカッション>

変革の担い手となるイノベーター人材の要件
~新規事業成功の鍵を紐解く~

  • 大手企業の中で事業探索をいかにして進めるか
  • 新たな事業を切り拓くために必要な要件、組織と育成の仕組み
  • 実際の取組みから振り返る課題(壁)と今後の展望 など

ソニーグループ株式会社
Startup Acceleration部門 副部門長
Sony Startup Acceleration Program (SSAP)責任者
小田島 伸至

東京海上ホールディングス株式会社
デジタル戦略部長
楠谷 勝

富士フイルム株式会社
取締役 常務執行役員 知的財産本部 管掌
柳原 直人

*社名五十音順で記載

モデレーター

株式会社野村総合研究所
経営DXコンサルティング部 グループマネージャー
佐藤 悠一

DAY3のパネルディスカッションでは、まさに各社のCE(コーポレート・エクスプローラー)ともいえる立場でイノベーションや新規事業を推進してきたリーダーのお三方を迎え、リアルな経験談・挑戦談を通して、本テーマを深堀りしました。

Ⅰ.危機感の“自分ごと化”、“見える化”がマインド変革の鍵

モデレーターの佐藤氏が、まず新規事業を成功に導く鍵の一つである「マインドセット」(意識・行動様式)について問うと、第二の創業を経験した富士フイルム 柳原氏は、2000年以降、写真用カラーフィルムの需要が急落したことを振り返り、「目の前の危機感は大きかったが答えが無い状況でした。既に事業が多角化していたので、元々写真の事業で成功していた者に加え、写真以外の分野でやっていた者やアウトサイダー的なメンバーがインフルエンサーとなり、マインドを変えていきました。ただ全社に浸透させるには15年から20年かかりました」と説明。「結果、今では本質的な課題を自分たちで取りに行く行動様式が根付いています」。

また東京海上 楠谷氏は「他業種の事例を挙げても危機感を抱きにくいので、欧米のトッププレイヤーがいかに進んでいるかのホラーストーリーを社内に示しました。シリコンバレーで過ごしていたのも、こうした情報収集が理由の一つです。ただそれを自部門の危機感にする、自分ごと化するのはもう一段ハードルがある」と発言します。それを受けた小田島氏は、SSAP(Sony Startup Acceleration Program)を始めたきっかけを振り返り、「危機感などを自分ごと化するキーワードは『見える化』。SSAPを通して成功する若者が出てきたり、新しい事業の発表に世の中が反応したり、数字の上下などで見える化される。新規事業を進めるための部門間連携が進まないのは、連携の先のビジョンやパーパスに共感できていないからだと思います」と付け加えました。

「<パネルディスカッション>」の様子

Ⅱ.夢を語るリーダー、志を共有し力を補完し合うチームづくり

新規事業をリードする人材・チーム要件について、柳原氏は、故・元富士フイルム 戸田CTOの言葉を引用し、「まずリーダーはホラ吹きであるべし。ホラとウソは違う。ホラは明日の夢を語り、ウソは昨日の過ちを誤魔化す。そしてリーダーにつく助さん格さんのような2人がいる」。「最初は、明日の夢を語るリーダーと、リーダーについていく同志2人の計3人で走り始めて、軌道に乗ってきたらフォロワーを増やしていくやり方が理想的です」と語りました。同志2人の人物像は「新規事業には失敗が多いので、リーダーと三位一体となり明るく前を向いて進める人です」。楠谷氏はチームについて、「当社では新規事業リーダーだけでなく本業と関連部門の責任者もワンチームにして、既存事業と利益相反せず一緒に責任を追うようなアサインメントの工夫をしました」。また「一人だと難しいので、補完しあいながら進むには3人という人数は大事。多数決を取れる人数でもあり、成功に近づく形ではないか」と柳原氏の意見に同意しました。

小田島氏は、新規事業の成功に必要な力に、起業力、協働力(ソーシャルスキル)、実行力、構想力、人間力の5つを挙げ、異なる力を持つ人材同士が協力するには「成し遂げたいことの共有、共通目標がモチベーションになります。いかに多くの人のモチベーションを高められるかが事業のサイズを決めていくと思う」とし、「元々それが上手な人もいるし、仕組み・教育によってできるようになる人もいる」と話します。

「<パネルディスカッション>」の様子

Ⅲ.CEが持つべき視点とは

両利きの経営、新規事業推進の難しさである「バランスの取り方」について、小田島氏は「何のためにやっているのかを自問自答し、事前に共通認識を握っておくこと。ゼロサムゲームではないのでWin-Winの思考を持つことも大事」と言います。

最後に「CEはどのような存在か」、「自身が心がけていること」をモデレーターの佐藤氏が尋ねると、柳原氏は「オライリー教授らによるCEの定義は完成度が高いが、そこで完成ではなく、不確定な時代の中では、自社が持っている知識・アセットを構造化しておき上手く組み合わせていく柔軟さ、想定外の事態に備えて常に複数のオプションを用意しておくことができる人物であり、私自身、それが必要と思っています」と回答。小田島氏は「CEは成長をリードし、市場をつくる役割だと思います。ただ、事業を成長させるだけではなく、その過程で常につきまとう不安への対処方法を教える人でもあるのではないか」。そして「人間は変化が嫌いなのだと理解しておくことと、何のために変化していくのか、北極星を明確にすることが大事です」と答えました。楠谷氏は「試合でリスクを最小化する審判ばかりいても仕方ないので、プレーヤー側にいかにリソースを供給するかが大事。適切なリスクをテイクできるよう、俯瞰した立場から事業を見ていくのが、当社でCEに一番求められること」とし、自身は「『しなければいけない』という考え方をせず、好奇心で進むこと。そして好奇心は年齢や経験を積むと減ってくことを肝に銘じて、若い人たちと交流することです」とCEが持つべき視点とアクションのヒントを述べました。

Speaker’s Message

―「イノベーター人材の要件で最も重要だと思うこと」について、ひと言

富士フイルム 柳原氏

「不易流行」

変わるものもあるが、人間の本質は変わらない。それをどれだけ深く理解していくかが、マインドセットとして大事です。

Speaker’s Message:富士フイルム 柳原氏

ソニーグループ 小田島氏

「豊か」

新規事業の目的であり、事業に取り組むうちにメンバーの心も豊かになります。それによって新規事業も生まれやすくなるのではないかと思います。

Speaker’s Message:ソニーグループ 小田島氏

東京海上日動ホールディングス 楠谷氏

「折れない心」

うまくいかなくても、自分たちには折れるという選択肢はないのだという強い気持ちがあると非常に強いと思っています。

Speaker’s Message:東京海上日動ホールディングス 楠谷氏

Voice of attendees

「各社とも課題、悩みは別々であっても、根底では同じことに挑戦している気がした。」

「色んな業種の観点からの議論、大変興味深く聞くことが出来ました。」

「両利きの経営を実践する際の本音の部分も話されていて共感できた。」

「是非CEになり、また実践でCEを育てたい。」

「トップマネジメントの決断、当事者意識、当事者意識を浸透させるには見える化すること、課題を自分で見つけて設定できる人材教育、リーダーはホラ吹きだがホラとウソは違う、などなど、これまた当社のトップに聞かせたいと感じた。」

「3人それぞれの言葉がとても参考になりました。特に共創という考え方が自分には不足していたと気づかされました。」

ソニーグループ株式会社
Startup Acceleration部門 副部門長
Sony Startup Acceleration Program (SSAP)責任者
小田島 伸至


ソニー株式会社(現:ソニーグループ株式会社)入社後、北欧へ赴任し3年でゼロから300億円の事業立ち上げを実現。帰国後、本社事業戦略部門を経てSony Startup Acceleration Programを立案し、国内外でゼロから22の新規事業を創出。取締役として株式会社エニグモ、株式会社サプリムの事業経営にも携わる。経済産業省主催 第2回日本ベンチャー大賞 イントラプレナー賞(審査委員会特別賞)受賞(2016年)

東京海上ホールディングス株式会社
デジタル戦略部長
楠谷 勝


1994年入社。法人営業部で、エネルギー分野、金融分野のリスクマネジメントに携わった後、グループ全体のデジタルイノベーション推進に従事する。2016年からは、東京海上グループ初となる米国シリコンバレーにおけるデジタルイノベーション拠点の立ち上げを行い、デジタル技術を活用した新しい保険サービスの開発や、スタートアップ、プラットフォーマーとの戦略的アライアンス構築などに取り組む。2019年4月には戦略的アライアンスを統括する新部門・デジタルイノベーション部を立ち上げ。2021年4月からはグループ全体のデジタル戦略を統括する現部門に。

富士フイルム株式会社
取締役 常務執行役員 知的財産本部 管掌
柳原 直人


1986年3月京都大学大学院研究科前期課程修了。 同年4月富士写真フイルム株式会社入社。材料研究に従事、2012年6月R&D統括本部 有機合成化学研究所長、2015年6月執行役員就任、R&D統括本部長、高機能材料開発本部副本部長を兼務、2019年4月バイオサイエンス&エンジニアリング研究所長、 同年6月取締役常務執行役員就任、2022年より知的財産本部管掌、現在にいたる。

モデレーター

株式会社野村総合研究所
経営DXコンサルティング部 グループマネージャー
佐藤 悠一


東京大学 大学院経済学研究科経営専攻修了、HEC Paris MBA。専門は全社の経営改革における構想策定から実行まで一貫した支援、特に組織構造や経営管理、コーポレートガバナンスの仕組みづくり。主な著書は、「本社が具備するべきダイナミック・ケイパビリティ」(2021年12月 野村総合研究所 知的資産創造)、「全社構造改革を実現するための本社部門再編」(2015年5月 野村総合研究所 知的資産創造)。「グローバル・ビジネス・マネジメント―経営進化に向けた日本企業への処方箋」(2017年5月 一條和生、野村総合研究所グローバルマネジメント研究チーム)等。

<座談会>

Special after talk ~「両利きの経営」”実践論”を振り返って~

株式会社アクション・デザイン 代表取締役
IESE(イエセ)Business School 客員教授
加藤 雅則

株式会社アトラエ
Wevox事業部
針生 康二

株式会社野村総合研究所
グローバル経営研究室 室長 経営DXコンサルティング部 部長
阿波村 聡

今回のフォーラムには、3日間を通して、企業の管理職の方々を中心に約800名が登録。締め括りとしてライブで行われた座談会では、聴講者から寄せられたコメントを元に、全体を振り返りました。

Special after talk ~「両利きの経営」”実践論”を振り返って~

Ⅰ.新規事業推進では目的を掲げ共感を得ることが大切

まず、現状維持を望み、新規事業推進に抵抗する社員への対処法を問うコメントに対し、加藤氏は「悪意があって抵抗するのではありません。既存事業と新規事業ではルールが違うのだと共通理解を持つことが大事で、そのためには共通の目的を大きく掲げることが重要」と答えます。針生氏は、顧客支援で実際に行っている方法を紹介しました。「例えば仲のいい同期の社員同士が既存事業側と新規事業側にいるような状況を生かして、新規事業に取り組む方の仲間を既存事業側に作る支援をしています」。阿波村氏は、両氏の語る方法に同意するとともに、「お互いに本音で話して共感することが大事で、合意ができた後は、企業内の行動原理を組織や制度に落とす。その両方をセットで行うことが必要と感じます」と加えました。

Ⅱ.CEの育成にはまず組織内の連携をとる

オライリー教授の「組織の環境を整えて機会を与えることでCEは育っていく」という言葉が印象的だったという加藤氏。CEを育成するための教育について、「環境を整えること、いわばアラインメントを整えることは、どの企業でも重要なのでは」との見解を示し、針生氏は、「組織のカルチャーが自然とできていくように仕掛けを整えることが、環境や育成の機会をつくっていくことになる」と話しました。

また阿波村氏は、「多様な人とやり取りを楽しめる素養が必要だが、その素養があるかどうかは個人を見ただけでは判断できない。機会を与えてどう変わるのかを見る必要がある」と、育てる側に必要な視点について述べました。

Ⅲ.ミドルマネジメント層がすべきこと

「『両利きの経営』理論はトップのリーダーシップの領域だが、ミドルマネジメント層に大事なことを知りたい」という質問に、針生氏は「未来から逆算して今を見ている人は、現状に対する危機感を強く持っているが、社内で評価されていないケースがあるのではないか。そういった人同士の連携が非常に重要」と答えました。次いで阿波村氏は「上司とも部下ともコミュニケーションを取る層なので、影響力が一番強い。だからこそ、『共感』と『説得』の両方を進める大事な役割があります」と語りました。そして加藤氏が、「万が一、トップダウンがないのなら、トップダウンを引き出すようなボトムアップが必要。未来を語る機会をミドルとトップとの間で持ち、そこに若い層を巻き込むことで相互作用が生まれるのではないでしょうか」と締めくくりました。

最後に、3日間の総括として一言ずつコメントがありました。

針生氏

「挑戦と適用」

各社のお話で、チャレンジの継続が非常に重要だということが共通していた。加えて、挑戦から学んだことをその次の挑戦に適用していくことが極めて重要だと思います。

阿波村氏

「ミューチュアルリスペクト(相互尊重)」

大企業が新規事業を始める際には衝突は避けられないので、必要な議論を行い、共感するところは共感するというベースを持つことが重要だと実感しました。

加藤氏

「BOLD(大胆)なAMBITION(抱負)をどこで実現するか」

DAY1のオライリー教授とビンズ氏のメッセージを受けて。ハンティングゾーン、つまり「的」を、共通理解のもとで言語化することが大事になってくると痛感しています。

※掲載のご所属・お肩書は開催当時のものです。予めご了承くださいませ。