- 中編では、日本企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)について、お考えを伺います。
TomyK Ltd.
代表
鎌田 富久 氏
デジタル第一幕はGAFAの勝利に終わりましたが、デジタル第二幕では世界で勝てる日本企業をつくりたいとおっしゃっていました。アメリカと日本を比較して考えると、日本に必要なことは何だとお考えでしょうか?
鎌田:アメリカの起業家は「資本主義をとことん食い尽くそう」という野心家が多い印象です。アメリカン・ドリームの原動力として機能したと思います。一方で日本は、アメリカ的な「行き過ぎた資本主義」になり切れなかった国とも言えると思います。大企業の社長の給料もそれほど高くないですし。
このある種、皆で分かち合う文化、そのような “日本らしさ” が、次の時代(*共創やエコシステム、ESGやSDGsを重視するビジネス環境)にはプラスに働くのではないかと思っています。
これからの時代は、ただ稼ぐというよりも、「社会課題を解決し、もっとみんなで持続可能な形にしよう」という方向に進んでいますから。
その中で、理想的な日本のスタートアップのあり方については、どのように考えておられますか?
鎌田:地球的課題を解決することでグローバルに展開していく形が良いと思います。もちろん事業を持続させるためには収益を上げないといけませんが、最も大事にしてほしいのは、ミッションです。やはりお金も何もない創業期に人を集めるためには、「どういう世界を実現したいのか」というミッションで惹きつけるしかないですから。
そういう意味では、もう少し国がスタートアップを支援してもいいように感じますよね。
鎌田:本当にそうですね。助成金などもありますが、アーリーステージの資金集めはかなり難しいのが現状です。最もリスクが高い時期ですからね。そこに対して、もう少し補助的な施策があったり、大企業が積極的にスタートアップと組んでくれたりすると良いと思います。
今はコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)が増えてきているとはいえ、ベンチャー投資額で考えると、アメリカの8兆円に対して日本は3000億円で、大きな差があるといわれています。デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するための一つの手段として、大企業がスタートアップと組むことで良い循環を作り出すことができると思います。
ベンチャーも大企業も「リアル×デジタル」の領域を狙っていく中で、大企業におけるDXは予選突破のために最低限必要なことだとお話されていました。
大企業がDXを成功させるためのポイントは何だと思われますか?
鎌田:テクノロジーの進化が速い現代において、自社内だけで新しい技術を開発したり製品を作ったりするだけでは、最先端に追いつけない時代になりました。また、ネットで全体が繋がることでより大きな価値を生むので、自社の製品やサービスだけで完結しません。そこで重要なのが、オープンイノベーションです。他と繋がり、外の人と共創することで価値を生む視点が重要です。
また、その流れに沿って、外部の人と共創する場のニーズも拡大していると感じます。私がメンターを務める三菱地所とSAP Japanがつくったイノベーション拠点「Inspired.Lab」には、スタートアップはもちろん、大企業の新規事業や出島の活動をしている方々が来て、交流を深める刺激ある空間になっています。そういう場づくりも重要ですね。
大企業がDXを成功させるためには、スタートアップにいるようなエネルギーのある人材の採用もポイントになると思います。新規事業を推進する上で、必要な人材については
どのようにお考えでしょうか。
鎌田:エネルギーを持つ若い人はもちろんですが、経験やキャリアを積んだ人のノウハウも活かせると良いですよね。実際、そのようなスキルも経験もあって前向きな方は、スタートアップはとても欲しい人材です。ただ、一つだけ条件があります。それが、柔軟性です。
知識やノウハウを持ちつつ、新たな道を切り開いていくことに柔軟であること。若いエネルギーが集まる場に積極的に入っていける人がいれば、すごい戦力になるはずです。
大企業から人材を送り込むような会社があったりすると良いですよね。大企業とスタートアップのエコシステムのような。
鎌田:変化の時代に人材の流動性はキーになりますね。資金も人材も、大企業からスタートアップに流れるようなシフトが起きれば、あるいは、大企業がスタートアップ流を社内に導入することで、日本的な新しいイノベーションの起こし方が生まれる気がします。それぞれの人が自分の得意な領域で能力を発揮することで、日本全体のパワーの総和が最大化されると思います。
日本人が大切にしている価値観も、この時代にフィットしていますよね。
共創や、三方よし、SDGsなど。そういう意味でも、日本的なイノベーションが上手く
いけば、新しい成功モデルで世界をリードできる可能性がある。
鎌田:シェアリングのような「無駄を出さない」という今の流れも、日本の価値観と合っていますよね。品質が高くて壊れにくい日本製品は、稼働率を上げて稼ぐシェアリングと相性がよい。日本は今、世界で最も早く人口減少・高齢化社会を迎えているなど課題も多いですが、それを乗り越えられる成功モデルを作ることができれば、次は世界で先頭を走れる可能性が見えているような気がします。