CDO Interview <スピンオフ”特別版”> 前編

TomyK Ltd.  鎌田 富久 氏

2020/01/27 (  月 )

CDO Interview <スピンオフ”特別版”> 前編

  • 始まりつつある、デジタル第二幕。
    「リアル×デジタル」の市場に、日本企業成長のチャンスが!
 

今や、すべての企業にとって重要な課題となったDX(デジタル変革/デジタル・トランスフォーメーション)。
自社の既存ビジネスを最先端のデジタルテクノロジーで刷新・革新することもさることながら、
新たなビジネスモデルや新たな価値創造が期待されています。

ただし、変化と進歩の著しい最先端のテクノロジー領域について、
どうのように役立て方を考え、自社へ活用へと繋げていけば良いのか?

今回、【CDO Interview】のスピンオフ企画として、
東大発を中心に、先端技術のスタートアップを数多く支援されている
起業家兼投資家であり、ACCESS共同創業者でもある、
TomyK代表 鎌田 富久 氏に日本企業のDXについてお話を伺うことが叶いました!

【CDO Interview】”特別版”のインタビューとして、是非、お楽しみください。

 

TomyK Ltd.
代表
鎌田 富久 氏

東京大学大学院 理学系研究科情報科学 博士課程修了。理学博士。
株式会社ACCESSの共同創業者。

東京大学在学中の1984年にソフトウェアのベンチャー企業ACCESS社を荒川 亨氏とともに設立。組み込み向けTCP/IP通信ソフトや、世界初の携帯電話向けウェブブラウザなどを開発。携帯電話向けのコンパクトなHTML仕様「Compact HTML」をW3C(World Wide Web Consortium)に提案するなど、モバイルインターネットの技術革新を牽引した。2001年に東証マザーズに上場し、グローバルに事業を展開。2011年に退任。その後、スタートアップを支援するTomyKを設立し、ロボットベンチャーSCHAFT(米Googleが買収)の起業を支援するなど、ロボット、AI、IoT、人間拡張、宇宙、ゲノム、医療などのテクノロジー・スタートアップを多数立ち上げ中。著書「テクノロジー・スタートアップが未来を創る-テック起業家をめざせ」(東京大学出版会)にて、起業マインドを説く。

http://tomyk.jp/information/

鎌田様は、テクノロジー・スタートアップを支援するスタートアップ・ブースターとして活動しておられますが、現在のデジタル市場についてはどのように見ていますか?

鎌田:伝統的な大企業もスタートアップも、今おこなう決断がまさに今後の明暗を分けるような時期だと感じます。というのも、デジタルにおける第一幕は、GAFAの大勝に終わったと思います。神岡先生の言葉で表すならば、デジタルネイティブ時代はアメリカの圧勝だったわけです。私も、モバイルインターネットで日本発でグローバルに頑張ってやってきたものの、「ネットはアメリカ勢に完敗」という感じがあって。次のデジタル第二幕において、日本の企業が勝ち残っていけるかどうか。私としては、もう一度世界で勝てるような日本の会社をつくるために、特にテクノロジーに強みを持ったスタートアップの支援をしたいと思っています。

次の時代についても後程くわしくお伺いしたいのですが、まずデジタル第一幕の「デジタルネイティブの時代」においては、ご自身が起業したACCESS社でデジタル市場を戦っておられましたよね。

鎌田:そうですね。東京大学在学中の1984年に、アメリカのソフトウェア業界でベンチャーが多く出始めているのを見て、「日本でもできるのでは」と思ったのがきっかけでACCESS社を共同創業しました。当時、アメリカではMicrosoftやAdobeなどが既に出てきていましたが、日本ではまだパソコン向けのソフトウェア産業が展開し始めたばかり。ACCESSが手がけていたのは新しいソフトウェア技術ということで、銀行からの借り入れ交渉が難航することもあり、起業してから10年くらいは苦難の連続でした。

その後、モバイルインターネットの時代が到来し、そのチャンスを見逃さなかったことで、ACCESS社は急成長できました。我々はそのチャンスが来る前にしっかり準備をしていたので、波に乗ることができました。

モバイルインターネットの波に乗れたきっかけは、何でしたか?

鎌田:大きな転機となったのは、1997年にNTTドコモに携帯電話向けのWebブラウザを提案したことでした。ACCESS社では、当時「すべての機器をネットにつなぐ」というビジョンを掲げ、いわゆる家電機器や専用機器に搭載される「組み込みソフト」という形で、ブラウザやメール、インターネット通信に必要なソフトウェアを一式開発していました。携帯電話が世の中に受け入れられ始めた1990年代後半に「インターネットが繋がる機能を携帯電話に搭載しよう」というアイディアの実現に必要な技術を培っていました。その技術をNTTドコモに提供したことで、1999年に「iモード」がサービスを開始。皆さん、ご存知のように、そこから10年程は右肩上がりでモバイルインターネット産業が世界に先がけて発展していきました。

NTTドコモの「iモード」開発の話が来る前から既に準備をしていたことが、チャンスをつかむカギとなっていたのですね。

鎌田:そうですね。チャンスが来てから始めるのでは遅いので、来た時には既に準備ができている状態にしておかなければなりません。我々の場合はモバイルインターネットの波だったけれど、今まさに来ているのはAIやロボット、宇宙やゲノムですよね。そういう世の中の流れを早めに察知して、準備して、タイミングをつかむ。タイミングが早すぎて失敗することも多いと思いますが、その場合は粘ればまだチャンスがあります。遅すぎて失敗するよりは良いと思います。

「iモード」の後、ACCESS社が次のステージになかなか乗れなかった時期は、
どのように突破されましたか?

鎌田:スマートフォンのOSを見据えて仕掛けていきましたが、思惑通りにはいきませんでした。当時の仮想敵は、もう覚えていない方が多いかもしれませんが、イギリスのSymbian(シンビアン)というOSとMicrosoftの携帯向けのOS Windows Mobileです。これらには勝てるように仕込んでいたのですが、iPhoneとAndroidが登場したんですね。実際のところ、ソフトウェアビジネスからするとiPhoneは競合ではあるけれども、我々はAppleのライバルメーカーにライセンスすればよいので、それほど気にしていませんでした。ただ、莫大な投資で無料で広めようとするGoogleのAndroidに対抗するのは難しかったですね。

結果、スマホのOSは断念し、ACCESS社は他の事業を展開する道を選ぶことになります。私個人としては、事業が一段落した時期に、2011年にACCESS社を退任し、新しいベンチャーシーンを始めました。

スタートアップから経営を続け、ある程度成果を出してから起業家を育てる道へ進むのはシリコンバレーではよくあるパターンですが、日本ではあまりないですよね。
なぜスタートアップ支援という道を選んだのでしょうか?

鎌田:次の時代において世界で勝てる日本の会社をつくることが今の目標なのですが、スタートアップに挑戦すること自体、やり甲斐があり、もっと多くの若者にチャレンジしてほしい。そんな未来を創る若者に対して、私のこれまでの経験やノウハウを提供することで、グローバルで勝てるよう支援したいと思いました。

デジタル第一幕は「デジタルネイティブの時代」でしたが、第二幕はどのようにお考えですか?

鎌田:デジタル第二幕は「リアル×デジタル」での戦いになると思います。ハードウェア製品などリアルなモノを作ることは大変ですが、それにデジタル・ネットが加わって、より価値を生むといったような。その市場こそが、日本がもう一度勝つチャンスがある領域だと思います。

実際に鎌田様がご支援されて、デジタル第二幕で成果を上げているベンチャーも
いくつかありますよね。

鎌田:小型人工衛星をつくっている株式会社アクセルスペースは、まさに「リアル×デジタル」の分野です。地球を観測する衛星なのですが、衛星で撮影した画像データを使って農業の収穫時期や災害の被害状況などを把握できます。小型人工衛星を低価格でつくるノウハウがあるので、多数の衛星を打ち上げてデータを収集し、ビジネスに繋げる形です。

他にも、カッコいい電動車椅子を開発しているWHILL(ウィル)株式会社もそうです。車椅子は一見ハードの事業のように見えますが、自動運転技術を導入することで、ハードとAIサービスを組み合わせることができるのです。パーソナル・モビリティのMaaS(Mobility as a Service)へと発展し、羽田空港を含め、世界中の空港で自動運転の実験もしています。

もうひとつ、ハードウェア×医療の東大発ベンチャー・株式会社Lily MedTech、まさに「リアル×デジタル」です。超音波を応用した新しい乳がんの検査機器、女性にやさしい装置を開発しています。

WHILL(ウィル)の開発した電動車いす
WHILL(ウィル)の開発した電動車椅子

デジタル第二幕「リアル×デジタル」の市場は、大企業側からするとDXの領域で、
デジタルネイティブ側からするとリアルへの進出。同じところを攻めているけれども、
企業の立ち位置によって見方が違いますね。

鎌田:まさにそうだと思います。もともとリアルな産業にいる伝統的な大企業、例えば自動車業界がMaaSになったり、不動産業界がシェアリングになったり、エネルギーがオンデマンドで最適化みたいな話になったり、そういうのがDXですよね。一方でGAFAをはじめとするデジタルネイティブ企業も、新興スタートアップも、その領域を狙ってくるので、今まさにデジタル第二幕がスタートした感覚があります。

だからこそ、伝統的な大企業は、DXを絶対にする必要があると感じます。DXは予選を突破するのに最低限必要なことです。DXをしたからといって大勝できるとは限らないけれど、やらなければ確実に負けてしまう。

デジタル第二幕は「リアル×デジタル」と表現しましたが、こういう掛け算のエリアは、今ものすごくチャンスがある領域だと思います。大企業側からすれば、スタートアップに投資したり取り込んだりして、自社でのDXとセットにしてより加速させるような展開方法もアリだと思います。