CDO Interview vol.11

株式会社デンソー デジタルイノベーション室長 成迫 剛志 氏

2018/10/24 (  水 )

CDO Interview vol.11

・スピードを速めるため、スタートアップのようなチームを作る

・ルールにはしないことで、モチベーションの高いプロジェクトが集まる

・企業間で交換留学のようなことをしては

 

 

株式会社デンソー デジタルイノベーション室長
成迫 剛志 氏

 グローバルな自動車部品サプライヤーである株式会社デンソーは、2017年4月にデジタルイノベーション室を新設。自動車のコネクティッド化に対応するため、各事業部と連携してさまざまなデジタル変革に取り組んでいます。今回は、デジタルイノベーション室長であり、データベース、クラウド技術のスペシャリストでもある成迫様への神岡太郎教授によるインタビューです。

成迫様がデンソーに入られた経緯や、どのようなチーム作りをなさっているのかをお聞かせください。

成迫:デンソーに入る前に在籍した会社では、CTO、CIOといった仕事をしていました。たまたま、「自動車業界に興味がありませんか」と誘われて、話を聞けば聞くほど面白いと思ったんです。これからは車がコネクティッドになって、データがサーバーサイドに上がってくる。そのデータをどうやって管理したらいいのか、どう使ったらいいのか。デンソーではそれができていないので、やってほしい。システムや管理体制、組織をどうすべきかも含めて、ゼロから作って欲しいという話でした。

デンソーに入り、社内の部署を回って聞いてみると、実はそれぞれの部署で、そういうことに取り組んでいることが分かりました。しかし、バラバラに取り組んでいることが多いんです。「車の中のことは得意だけれども、車の外はよくわからないのでITベンダーに投げましょう」ということもありました。自動車の世界は、ものすごい大人数で、長い期間をかけてやっていきます。デジタルとはスピード感が全く違います。ですから、早いサイクルに乗せるためには違う文化、違う組織体制が必要だと思いました。シリコンバレーのスタートアップのようにやる必要があるのではないか。いろいろなことにトライできる、いわゆるリーンスタートアップ的なことができるようなチームにしないといけないと考えました。そうして作ったのがデジタルイノベーション室という組織、チームです。

 

具体的に、どのような組織なのでしょうか?

 

成迫:開発だけではなく、マーケティングなども含めてビジネスディベロップメントやサービスデザインをする組織です。それらをやる人たちがいて、早く回せて、走りながら考えることができるようになると、これまでの車作りとはスピード感が変わってきます。数年というサイクルで回っていたものが、全く違う速さで、全く違う文化で回るようになる。かつ、必ずしもテクノロジーオリエンテッドではなくて、ユーザーオリエンテッドなところと融合しながら、トライアンドエラーできるようになります。それを目指して、シリコンバレーのスタートアップのような組織づくりをしているところです。

とはいえ、自動車部品の会社ですので、いろいろな部署があって、いろいろな構想や企画がそれぞれにあります。それらの中で、今まで外に投げていたものを中でできるようにしないと、スピードは上がりません。各部署が考える新しいビジネス、新しいサービス、新しい開発、それらの受け皿的な役割を目指しています。

日本の企業は、デジタルイノベーション室のような部署を作ると、「構想や企画があったら、まず、そこに相談してレビューを受けなさい」とルール化しがちです。しかし、そういうことにはせず、アジャイル開発をできるとか、クラウドを分かっているというチームを作っておいて、駆け込み寺のように相談に来てもらえる形にしています。それがいつの日か頼られる存在になる。外に出してもいいけれども、我々に頼んでくれれば安く早くできて、しかも柔軟に対応できますよと。いろいろな部署が作りたいと思っているものを請け負って、一緒に作る。そういう組織にしています。

組織を動かしていく秘訣はありますか?

 

成迫:そういう組織は本社の中に作っても、なかなかうまくいきません。そもそもかなり大きな会社なので、全体を変えようとしてもできません。長い伝統の中で培ってきたものがあるので、それを変えることはおそらく無理です。そこで、出島のような新しい組織を作ったほうがいいと考えました。

今いるメンバーは、中途採用と、社内公募制度に手を挙げた人、社内公募ではないけれども、どうしても来たいと調整してくれたメンバーです。中途採用のメンバーも、デンソーに入りたいのではなく、デジタルイノベーション室で仕事をしたいという人たちが来てくれました。ですから、みんなモチベーションが高く、効率がいい。組織全体としての力は非常に高いと思います。今、アジャイル開発のチームが7つあり、いろいろな部署のシステムを開発しています。いろいろな部署の人たちが混じって、いろいろな開発をしているので、「あそこはいいことをやっているぞ」という話は本社にも伝わっていきます。

デジタルイノベーション室に相談しなくてはいけないとか、頼まないといけないというルールを社内制度として作っていないので、本当に一緒にやりたい、デジタルイノベーション室に頼みたい、あるいは助けて欲しいといったプロジェクトが集まります。 ですから、プロジェクトの依頼側もモチベーションが非常に高く、「どうしてもこれをやりたい」というものが多いのです。ベストプラクティスな組織と体制、ユーザー部門や委託部門との関係を作ることができていると思います。マネジメント層が任せてくれて、こういう組織を作らせてくれた、作ることを承認してくれたのはすごく大きいと思っています。

もう一つ、秘訣としてあるのは、ちゃんとしたツール、ちゃんとしたメソッドを使うことです。そこはすごく地道にやっています。いわゆるイノベーション組織を作られている方々には、自己流でやってしまう方々もいるような気がしています。我々は、本当に基本に忠実にやっています。アジャイル開発もスクラム開発もそうですし、デザイン思考もどちらかというと基本に忠実にやります。きちんと学んで、きちんと基礎固めをする。やはり、きちんとすることがすごく大切だと思います。いきなり自己流でやったらうまくいきません。シリコンバレーのスタートアップだって、きちんとやっていますよ。

 

CDOに必要な能力や人材について、どのようにお考えでしょうか? また、今のCDOに必要と思うことはありますか?

 

成迫:CDOはブレイクスルーしないといけません。新しいことにチャレンジしないといけません。ですから、チャレンジャーであることが必要だと思います。チャレンジャーになるには、「ここでうまくいかなくても、どこでも食べていける」くらいの楽観的な考えがないと難しいかもしれません。実際、CDO をされている方に、いろいろなところでいろいろな経験をしている方が多いのは、そういうことではないかと思います。

それから、皆さん、日本の企業の中でデジタルトランスフォーメーションやイノベーションをされていますが、交流はあまりないような気がします。もう少し交流をしたほうがいいと思っています。それも単なる情報交換ではなく、交換留学のような感じです。企業どうし、人を入れ替えるぐらいのことをやったほうがいいのかなとすごく思います。変化の激しい時代、日本の企業の足かせになっているものの一つが終身雇用制という気がします。人材の流動化が起きていないのですが、それはすぐに変わるものではありません。ならば、交換留学のように、「お互い、2年間出向をしましょう」みたいなことができたらいいのではないでしょうか。一つの狭い世界に閉じこもらないようにしないと、世界に勝てなくなってくるのではないかと思います。

 

貴重なお話をありがとうございました。

インタビューアーからのコメント

 広い意味でのCDO、つまりデジタルに関して組織をリードするリーダにも、企業全体のデジタルの戦略に関わる立場と、具体的に何かをつくってゆく戦術に関わる立場があると言われています。成迫氏のタイトルは、デジタルイノベーション室長で、後者のCDOということも言えるでしょう。全社戦略がっても、デジタルに対応して、実際に価値を創造できる体制とそのリーダがいなければなりません。

 特に、デジタルを用いて、ユーザ志向でアジャイルに価値創造することは、どこの企業も関心があることだと思います。これを、社外のアウトソーシングも利用するのかという選択肢もありますが、結局、従来のドキュメントベースの開発になり、アジャイルの良さが半減します。成迫氏とのインタビューは、社内で、どのようにデジタルでの価値創造のための体制をつくればよいのかというヒントになります。

 いきなり会社全体を、そのようなデジタルに合った組織に変えることはできないので、まずは出島を飛び地に作って、そこから発信するというボトムアップのスタイルです。最終的には、これがデジタルイノベーション室から、車をつくる文化やスピードまでインパクトを及ぼすことをイメージされていることが、非常に面白いと思いました。 組織的なルールは、あまり作らないで、社員の自律性やアドホック性を重視する。バラバラになるではないかと思われるが、メソッドと基礎にはこだわっているところが味噌でしょう。このメソッドへのこだわりが、新しい文化にどうつながるのか、また、是非お話をうかがいたいと思っています。

一橋大学商学研究科 教授 / CDO Club Japan顧問
神岡太郎

【企画・編集責任者】
ビジネスフォーラム事務局 プロデューサー 進士 淳一