CDO Interview vol.14 前編

株式会社 東芝 執行役常務 最高デジタル責任者 島田 太郎 氏

2019/11/11 (  月 )

CDO Interview vol.14 前編

  • デジタルトランスフォーメーションの定義は、
    『デジタルでビジネスの形を変え、利益を伸ばすこと』
  • 『人類は必ずデジタル化する』この想いの根底にある価値観とは?

東芝は、2018年11月に発表した全社変革に向けた5ヵ年計画「東芝Nextプラン」の中で「世界有数のサイバー・フィジカル・システム(CPS)テクノロジー企業を目指す」ことを打ち出しています。

同社の執行役常務 最高デジタル責任者として、東芝グループを世界有数のCPSテクノロジー企業に進化させていくための大変革を指揮されている島田 太郎 氏に、『変革を担うリーダーの価値観』や、『いかに取り込もうとしているのか』を伺った、神岡太郎教授のインタビューです。

 

株式会社 東芝
執行役常務
最高デジタル責任者
島田 太郎 氏

島田様のこれまでのキャリアや、東芝に来られたきっかけについてお聞かせください。

島田:東芝に入るきっかけは、シーメンス日本法人の専務執行役員を務めていた頃に、経済同友会で日本の産業に対する危機感を問題提起していたところ、東芝の車谷暢昭会長からお声がかかったことでした。その後、個別に話をするうちに、車谷会長から「それで、島田君はいつから東芝に来てくれるの?」と言っていただきました。私自身、今後の10年間ほどは、日本のために貢献する仕事ができればとの想いを胸に秘めていたので、2018年10月に東芝に入ることを決めたのです。

それまでのキャリアとしては、1990年から10年間ほど新明和工業で飛行機の設計に従事し、その後アメリカのPLMの会社に転職。その会社がシーメンスに買収され、その後はドイツ本社駐在も経験し、「インダストリー4.0」を推進してきました。

島田様が考える「日本の産業に対する危機感」とは、どのようなことでしょうか?

島田:私が社会人になった1990年代初頭はバブル崩壊前夜で、日本の会社は光り輝いていました。しかしそこから30年、日本の産業界の景色がまるで変わってしまったのです。
例えば、ドイツと日本を比較して考えてみると、国のサイズや人口、人口構成などの意味においては似通った環境であるのに、なぜドイツは「インダストリー4.0」などの作戦で発展し、日本は現在のようになってしまったのか。それは、ドイツは根本的に社会の構造を変える努力をしてきた一方で、日本では「失われた30年」のようなことを言うばかりで建設的な取り組みをしてこなかったからだと思うのです。

これまでの日本は、理念を持つことなく起こったことに対処するばかりだったと思います。
例えば、「インダストリー4.0」と言われたら「ソサエティ5.0」と言い返すような……。ただし、長期的な歴史を見てみると、日本人が理念や概念を形成することに関して欧米よりも劣っていたとは考えにくいのです。
なぜなら、私は能が好きなのですが、能の「敦盛」という演目は「いかに戦いが無常であるか」という概念を伝えています。その概念を多くの人が共有したからこそ、戦国時代を終了させ、250年の長きに渡って平和を維持することができたわけです。

これは、コンセプチュアルにもスピリチュアルにも、当時の日本が進んでいたからだと思います。
しかし、テクニカルには欧米に負けていた。そのことに強い危機感を抱いた当時の人々が、明治維新を起こしましたよね。明治維新は必要な出来事だったとは思いますが、日本にとっては、このトラウマがあまりにも大きく、外から来るものに対して耐える体質ができてしまったと思います。つまり、自分達の現状を否定して、新たな概念を形成しようとする力がなくなってしまったのです。

シーメンス時代に「インダストリー4.0」を推進されてこられましたが、ドイツがそれに成功した理由については、どのようにお考えでしょうか。

島田:ドイツは、言ってみれば過去300年間、神様を否定することで前に進んできた歴史があります。カントは静かに神の首を切り落とし、ニーチェは「神は死んだ」と言った、と。要するに、口に出しにくい「間違った現状」に対して、それをしっかりと否定して次の段階へ進むアウフヘーベン*(止揚)の世界です。
一方、日本は現状肯定型で、日本人の中にある共通概念を疑ったり否定したりする形はとってきませんでした。

例えば、私がシーメンス時代にドイツの工場のオートメーションを担当していた際の経験談に、思考の違いを感じるエピソードがあります。
ドイツにおける工場の標準化とは、工場で働く人の人権を守るためのものなのですが、当時、日本から視察に訪れた経営層の皆様は、ドイツの標準化された工場を見て「人を機械のように扱っていて温もりがないですね」などと言うわけです。そうやって、外のものを否定することで安心するパターンができてしまっているわけですよね。しかし、私はそれではいけないと思います。一度作った型に日本人が囚われているうちは、次に進めません。常に、外側から自分を見る努力をしなければならないと変化はできないと思っています。

では、東芝に来られてからは、どのような取り組みをされていますか?

島田:まず取り組んだのは、デジタルトランスフォーメーションの定義を伝えることです。テクノロジーの話だと思っている人も少なくないですが、そうではなくデジタルでビジネスモデルを変えることである、と。
テクノロジーを活用してコストを削減するのも大切ではありますが、それ以上にビジネスの形を変えて利益を伸ばすことが、今、とても重要なのです。

一例をあげれば、特に製造業では「ファクトリーIoT」の導入を進めている所も多くあります。このテクノロジーの導入によってもたらす効果を考えてみてください。工場のメンテナンス費用は下がり、補用品の交換も必要なくなるため、当然当社の売上は下がります。もちろん時代の流れですから、当社も推進する必要はありますが、テクノロジーの活用によっては、自分の首を絞める部分もあるわけです。ですから、今後我々が会社として発展するためには、仕事をする範囲を変えなければなりません。自分達の仕事を、再定義する必要がある、今がその重要なタイミングなのです。

テクノロジーを使った効率化の方向で会社自体が縮小してしまわないためには、
どのようなことが重要だと思われますか?

島田:ITの話に終始しないよう、やり方を変える必要があると思います。そのためには、IT畑の人達もエンタープライズアーキテクチャ的な考え方をしなければなりません。ここは大変重要なポイントだと思っているところで、多くの人が「ITとビジネスをつなげる考え方ができる人材が少ない」と言いますが、実はそうではなく、そのような考え方ができるIT人材も既に社内にいるはずなのです。しかし、そういう考え方を実際の製品に組み込む場、挑戦ができる環境がない。ある意味、人材の分断が起こってしまっているのだと感じます。

私は、結局のところ、デジタルでビジネスモデルを変革する時期に重要な点は、人材のマッチングにあると思うのです。であるとしたら、会社自体、組織自体を少し揺するだけで、人材が混ぜ合わさって変革が進むかもしれない。これまでの構造を揺する仕組みが、日本の企業には少し欠けているのではないかと感じます。

新たなデジタルビジネスモデルを構築していくためには、どのようなことがポイントだと考えますか?

島田:私は「人類は皆必ずデジタル化する」とよく言うのですが、人類の歴史を考えるとそのような方向に進んでいると思います。プロセッサ数を増やし、データのコネクションを増やし、アーキテクチャを次から次へと塗り替えていく。そう考えれば、人類がデジタル化することは自然な流れです。さらに、人間はどういうわけか、そのような環境変化にすぐ慣れるようにできています。ほんの10年前までNGとされていたことが、今OKになったりもするわけです。ということは、今まさにOKかOKでないかという曖昧な領域のビジネスモデルを構築していかないと、会社を発展させることは難しいでしょう。
例えば、シーメンスには、きっちりとコミュニケーションをしながら社会を動かしていく考え方がありました。私はシーメンスの考え方に対して尊敬の念を持っているので、東芝においても徐々に人々のコンセプトをリフォームすることに取り組まなければならないと思っています。

<注釈>
*アウフヘーベン(止揚):あるものを、そのものとしては否定しながら、更に高い段階で生かすこと。
矛盾するものを更に高い段階で統一し解決すること。