CFO Interview vol.2 後編

スリーエム ジャパン株式会社 代表取締役 副社長執行役員 昆 政彦 氏

2019/07/12 (  金 )

CFO Interview vol.2 後編

日本企業のグローバル化が加速する昨今、CFOに求められる役割は、単なる財務・経理管理の域にとどまりません。経営者の右腕として、経営にその手腕を発揮することはもちろん、時にはCEOの一面を併せ持ち、企業価値向上の一翼を担っていくことが求められています。

「CFO Interview」と題した本シリーズでは、企業のCFOの方々にご登場いただき、CFOが抱える課題や解決すべき事項、さまざまなトピックなどについてお話しいただきます。また、インタビューを通じてCFOの今後のあるべき姿についても考察していきます。

前回に引き続き、スリーエム ジャパン株式会社 代表取締役 副社長執行役員 昆 政彦氏に登場いただきます。

3Mジャパングループ
スリーエム ジャパン株式会社 代表取締役 副社長 執行役員
昆 政彦 氏

スリーエム ジャパン プロダクツ株式会社 取締役
スリーエム ヘルスケア販売株式会社 取締役
スリーエムフェニックス株式会社 代表取締役社長

学歴
1985年(昭和60年)3月 早稲田大学商学部 卒業、2002年(平成14年)3月 シカゴ大学経営大学院 MBA 修了、2010年(平成22年)3月 早稲田大学大学院 博士(学術)取得。

職歴
2005年(平成17年)9月 GEキャピタルリーシング株式会社 執行役員 最高財務責任者(CFO)、2006年(平成18年)12 月 住友スリーエム株式会社 入社 執行役員、2008年(平成20年)3月 取締役、2013年(平成25年)3月 取締役 兼 常務執行役員、2013年(平成25年)10月 代表取締役 副社長執行役員、2014年(平成26年)9月 スリーエムジャパン株式会社 代表取締役 副社長執行役員(現任)。

資格等
米国公認会計士(イリノイ州)
公益社団法人 経済同友会 幹事

※2014年9月にスリーエム ジャパン株式会社へ社名変更

  • 経理・財務部門に求められる変革。CFOは今、何をするべきか?
  • 経営管理、経理、財務の部門が三本柱となってCFOを支える

AI(人工知能)・RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の台頭により、経理・財務領域を中心としたバックオフィス業務の大半は自動化され、近い将来、データの処理を主軸に置いていた経理・財務の業務体制は根本から覆されることが予想されます。これまで人がこなしてきた仕事はほとんどなくなる時代の到来。まさに今、経理・財務部門は組織そのものを見直し、業務革新に取り組むべき時が来ているのではないでしょうか。絶え間ない業務革新を行う企業で知られるスリーエム ジャパンのCFOでもある昆氏に、変革の現実解や、CFOとして何をすべきなのか、お話を伺いました。

高度経済成長の終焉に伴い、大変革が起こった

――昆様は、長く外資系企業でCFOを務めておられます。以前、「欧米企業では経営管理、経理、財務の部門が三本柱となってCFOを支えていく組織形態が多く見られる」と語っておられますが、今後、日本企業でそのような形態の浸透は進んでいくのでしょうか。

昆:進むと思います。欧米企業の場合、「FP&A」(ファイナンシャルプランニング&アナリシス)の部隊がCFOの下に入っています。3Mでは「ビジネスカウンセル」がこれにあたります。これまで日本の企業において、このような部隊が入っているということは、あまり聞いたことがありません。今後は、社長もしくは事業担当役員が経営執行をしっかり進める上で、このような部隊が戦略を含めて財務的なサポートをする必要性が非常に高まると思います。

欧米、特に米国の場合は、株主資本主義が確立されていて、企業は株主に向き合って結果を出していくことを基軸にしてきました。その基軸から「コントローラー」という部隊ができました。これは、管理会計をする部門と株式市場へ説明する部門を合わせた部隊です。その後、株式市場の圧力がどんどん強まり、コントローラーが経理部とFP&Aの2つに分けられました。そして、その上にCFOを載せるといった動きが1990年くらいから始まり、今の形態につながりました。

実は、日本でも旧通産省が1950年くらいにコントローラー制を提唱したのですが、まったく導入されませんでした。日本は大蔵省主導の間接金融が主体で、企業は銀行のほうに目を向けていたからです。なおかつ、高度経済成長時代でしたので、バランスシートの左側を一生懸命見て売上さえ上げれば、それで十分だったのです。ところが、高度経済成長時代が終わった後、「間接金融ではなく、株式市場を見ろ」という大変革が起こりました。アメリカが50年かけてやってきたことを、日本は10年くらいでやらなければなりません。どういう組織にしなければいけないのか、その答えをみんなが模索しながら進んでいる状態です。そこに日本企業の大変さ、難しさがあります。

欧米企業では経営管理、経理、財務の部門が三本柱となってCFOを支えている

――多くの日本企業では欧米企業と比較し、CFOの定義そのものが不明確であるように見受けられます。昆様はCFOの定義として何が一番重要であるとお考えでしょうか。

昆:昔ながらの経理・財務は、レポートさえ出せばよいといったスタンスがあったと思います。しかし大変革のなか、CFOには結果を出すことにコミットすることが求められています。「アカウンタビリティー」という言葉がありますが、これが日本では、説明責任だけで終わってしまっています。説明責任は、結果が悪かったとしてもなぜ悪かったのかを説明できればいいのですが、英語のアカウンタビリティーには結果責任も含まれます。CFOに求められているのは、後者のアカウンタビリティーです。

結果責任をどうやって果たすのかをCFOが自覚した上で、どういう組織体にするべきなのか、どういうサポートを社長及び事業担当役員にしていくのか、そこをしっかりと理解した上で進めないと、から回りが起きると思います。CFOの「O」はオフィサーですから執行者で、日本でいう取締役という立場ではないオフィサーです。兼務する場合もありますが、やはりCFOはオフィサーですから、執行責任を持っています。「ほかのオフィサーと同じ船に乗って、同じ目的に向かっています」というのが基本です。

――アメリカ企業では、「経営管理、経理、財務部門をCFOが管理し、間に入ることによって、経営者と各部門をつなげるのが主流」と昆様はお話しになっておられます。その体制によるメリットについて昆様のお考えをお聞かせください。また逆にデメリットとしてはどういったことが考えられますか。
日本企業の典型的なパターンとして、経営企画や社長室が戦略設定をサポートしている体制があります。この体制に比べて、ビジネスカウンセルを含めたCFOの体制がなぜよいのでしょうか。

昆:実は予算が持つ機能は、戦略の伝達機能です。戦略を数字に落とし込んだツールが予算なのです。つまり、サポートしている事業部もしくは担当役員と話し合うときに、予算と実績との違いを分析しながら「ちょっとうまくいっていない。どうしたらよいのか」ということを、数字だけではなく、戦略自体がそれでよいのか、よくないのかも併せて説明する必要があります。

部隊を分けてしまうと、経理部は戦略がどうなっているか知らず、予算と実績がずれたときに数字の説明しかできません。逆に、経営企画など戦略設定をした部隊は、「私たちは、実績がどうなったか知りません」ということになります。こんな非効率なサポートはありません。

CFOの体制なら一気通貫でサポートできるのがメリットです。しかし、そういう体制が重要だと突然言われても、これまでの日本では人財やスキルなどを養成してこなかったため、一気に作り上げることはできずに時間がかかります。ここにデメリット、難しさがあります。

CEOと同じスキルセットが要求される

――CFOに求められる役割が経理・財務分野のトップの域を超え、さまざまな領域に広がるに伴い、今後は非経理・財務部門からCFOに就くことも増えてくるかと思います。その際に重要となるCFOとしての資質はどのようなものでしょうか。

昆:これまでの経理・財務はとにかく経理に詳しく、場合によってビジネスは二の次という特殊な職域と見られてきた側面がありますが、今後の動きとしてCFOはほかのオフィサーと大きな違いはないと思います。会社を執行するのは一緒なので、持つべき資質は変わらないはずです。アメリカでは、CFOがそのままCEOに移るのは珍しくないパターンで、必ずしも事業担当役員が社長にならなければいけないことはなく、CFOも同じ土俵に入っています。言い換えれば、他の事業担当役員もCFOと同じスキルセットが要求されるということです。他部門からCFOになることも当然あり得る話です。

――経理・財務部門のトップだけにとどまらないCFOの役割は今後、ますます重要なものになると思います。貴社は次代を担うCFOの育成について、どのようにお考えになり、実際にどのように育成されているのでしょうか。

昆:1つの会社の中で、経理・財務部門だけがまったく違う文化であったり、人財の育成が独自のものということはあり得ません。その会社が持っている人財育成の目指しているところ、求められているところは一緒です。

3Mでは、まず個人の尊厳を尊重しています。これは、イノベーションにおいて非常に重要なことです。相手の言ったことは必ず尊重します。それから、自発性を重視しています。イノベーションで何が新しいことをするときは、人から言われるのではなく、自分から動く必要があるからです。さらに、可能性に対するチャレンジや、誰にでもチャンスを与えることも重視しています。これらが、3Mとして求めるべき人財の行動パターンです。当然、同じことが経理・財務にも求められます。これらをしっかりと共有した上で人財を育てています。

インタビュアーからのコメント

昆様はGEの米国本社に勤務されGE流マネジメントを経験、その後ファーストリテイリングを経て、世界の代表的なイノベーション・カンパニーの1つである3M様に入社され、今から10年前の2009年に弊社主催で開催した『企業会計マネジメントセミナー』セミナーに初めてご講演をいただいて以降、経理・財務の内容はもちろん、最近ではイノベーションをテーマとしたご講演もいただいております。

今回、CFOインタビュー企画のご提案を差し上げたところ、少しでも我々のリクエストに答えられるよう、事前にどういった流れで進んでいくのか、どういった答え方をするとメッセージが伝わるのかなど、積極的な質問をたくさんいただき、当日は終始、和やかな雰囲気でインタビューが進行してまいりました。

昆様はCFOが結果を残すには経理・財務の範囲を超えて経営企画などの戦略設定を一気通貫でサポートできるようになることが重要であり、日本でこのような体制を構築するにはまだ時間がかかるとお話しになっておられます。そういった中で、イノベーションの創出を大事にされる3M様は、個人の尊厳を尊重、自発的に動く社員を重視し、経理・財務部門でもこのような人財の育成に取り組んでおられます。こういった昆様のお言葉の一つ一つにはご経験に裏打ちされた説得力があり、力強いものを感じました。

昆様には本年7月29日(木)と9月4日(水)の二回に分けて、弊社で定期的に開催しております『ビジネス・フォーラム塾』へ登壇をいただきます。テーマは『イノベーション』、となりますが、是非ご参加いただきますようお願いします。

【インタビュアー 兼 企画編集担当】
ビジネス・フォーラム事務局