CMO Interview vol.2

株式会社ファミリーマート シニアオフィサー 植野 大輔 氏

2019/03/22 (  金 )

CMO Interview vol.2

 

・部分最適化ではなくマーケティング全体を束ねる組織が必要

・マーケティング機能立ち上げを支えたコミュニケーション

・リサーチ機能を内製化し、感覚ではなくデータで議論する

株式会社ファミリーマートは、全国約17,000店のリアルな接点を活かし“地域密着”と“オープン主義”をキーワードに、地域の皆さまに寄り添い「いちばん便利なお店」を目指した、デジタル戦略推進に取り組んでいます。今回は、改革推進室の責任者としてマーケティング改革に取り組まれてこられた植野 大輔氏へのインタビューから組織にマーケティング意識を根付かせるヒントを聞きました。

 

株式会社ファミリーマート
シニアオフィサー
経営企画本部 デジタル戦略部長
植野 大輔 氏

部分最適化ではなく組織横断的なマーケティング機能を

――植野様は、現在、デジタル戦略部長のお立場ですが、株式会社ファミリーマートに入社された当初、社長直轄の「改革推進室」で会社の変革を担われていました。具体的には、どのような取り組みをされてきましたか?

改革推進室は、2016年9月に現・社長の澤田貴司が就任してから、会社を変革するために組織されたチームです。緊急度と重要度が高く、組織横断的に行う必要のあるテーマに社長直轄で取り組んでいました。結果的に、店舗オペレーションの改革、マーケティング体制の強化、店舗人手不足への対応、インバウンド強化、アライアンス推進という5つのテーマに取り組みました。

――テーマが多岐にわたりますね。その中の一つであるマーケティングについては、当時どのような課題があったのでしょう?

そもそも、マーケティングの体制を整えることから着手しました。値引きキャンペーンばかりに頼るのではなく、売り場づくりやコミュニケーション方法まで全体観を持ったプランニングができる組織に変えていくように、澤田から指示がありました。
これまでも各担当者や部隊がKPIを背負ってそれぞれにベストを尽くしていましたが、部分最適化に留まらず、全体を束ねる機能が必要だということで、改革推進室でマーケティング改革に取り組みました。

マーケティング本部立ち上げで直面した課題とは

――改革推進室の後は、2018年3月にマーケティング本部を設立されましたが、当時どのような背景があったのでしょうか。

それまで改革推進室で担ってきた機能に関して、改革もある程度進んで、既存組織で推進して行くフェーズになりました。よって、先ほど申し上げた5つのテーマを既存組織に渡し、よりマーケティングを主軸として会社を変革するために、新たにマーケティング本部を立ち上げました。

――立ち上げにあたっての課題や、苦労した点はありますか?

これまで商品部門や営業部門だけで進められてきた工程に「マーケティング本部が参加することの意味」を理解してもらうには、時間がかかりました。いきなり転校生がきたけど、周りもどうすればいいかわからないといった状況で(笑)。

――そこは、どのようにクリアされたのでしょう?

地道にコミュニケーションを取り続けました。商品本部・営業本部・マーケティング本部の三本部での合同会議を毎週2時間以上実施し、上級管理職クラスも入ってもらって、徹底的に討議したり。それに加えて、各本部の本部長や本部長補佐とも毎週のように個別ミーティングの時間を持って、トップレベルで方針の共通認識化をしました。

――かなりの時間、コミュニケーションを重ねる必要があったんですね。

マーケティングプロセスの確立は、マーケティング本部だけでは実現できません。良い商品があって、良い売り場があってこそ、マーケティングが活きてきます。だからこそ、他の本部と議論を重ね、マーケティング本部が本部間の橋渡しとなり、全体でマーケティングを強化していく必要がありました。

――コミュニケーションに時間をかけることは、浸透させるために必要なプロセスだったと。

マーケティングの仕事の半分は、消費者を見ること、そして残り半分は社内調整だと思っています。社内調整と言うとネガティブに聞こえるかもしれませんが、言い方を変えれば、コラボレーション。そのコラボレーションに時間を割けていることは、マーケティングが機能し始めている証拠だと思います。「社内調整に追われる」といった声も聞かれましたが、自分としては、むしろ健全にマーケティング機能を発揮できているなと……(笑)。全体のコミュニケーション量の増加は、マーケティング改革にあたって必要なプロセスでした。

「理想に対して、まだ3合目」ファミマが目指すマーケティングとは

――今振り返って、ご自身の理想に対して、マーケティングの改革はどこまで進みましたか?

まだまだ、三合目あたりでしょうか。ようやく第一ステージをクリアして、第二ステージに入って行こうかと言うところだったと思います。全体としては、マーケティングの改革として3つのテーマを掲げていました。まず、マーケティングのプロセスを組織に入れること。これは、冒頭、お話したように改革推進室時代から取り組んできたことです。そして二つ目が、マーケティング調査機能を強化すること。調査と言うと地味に聞こえるかもしれませんが、私としてはここにかなり時間を使いました。これまでは調査会社に依頼して消費者調査をしていたのですが、リサーチ機能を内製化して、何十本ものマーケティング調査を自分達で実施しました。

――実際には、どのようなリサーチを?

一例を挙げますと、自社だけでなく様々な企業のキャンペーンの認知や評価を、毎月調査しています。当社のキャンペーンがどれぐらいの位置にいるのか、どれぐらいの認知度なのか。調査で得た結果に対して、一つずつキャンペーンを見直しています。定量で判断しないと、好き嫌いで判断することになってしまいがちですからね。

――マーケティングプロセスを組織に入れること、調査機能を内製化すること。そして、三つ目のテーマは何でしょうか。

三つ目は、クリエイティブの刷新です。これは社長の澤田からも大きく期待されていて、新組織ができて会社が変わったことを示す象徴にもなるので、変化の目玉として重要なテーマでした。具体的には、2018年夏から放映している香取慎吾さんを起用したCMです。

――香取慎吾さん起用のCMで、ファミリーマートのイメージが変わった印象があります。

このCMによって、CM調査の小売部門で好感度ランキング1位を獲得することができました。ファミリーマートとしては初めてのことですし、何よりも加盟店が喜んでくれたので、とても良かったと思います。

――加盟店マーケティングとしても、良い結果となったのですね。

そうです。現場に20万人を超えるストアスタッフがいるので、インターナルマーケティングは極めて重要です。マーケティング改革の第二ステージとしては、今まで以上に加盟店ファーストで進めて行くべきと思っています。加盟店がやる気になってくれたら、お客様への接し方を彼ら自身で考えてくれますから。ある種、これがフランチャイズビジネスである当社の強みでもあります。

――インターナルマーケティングに関して、当時から具体的に取り組まれていることはありましたか?

とにかく、早く情報共有をするようにしました。澤田からは、すごく情報共有のスピードにこだわるよう言われました。香取慎吾さんのCMでも、早い段階で「超大型CM準備中、解禁まで少しお待ちください」と役員から現場スタッフまで知らせたところ、「誰だろう?」と盛り上がってくれました。CMも解禁になり次第、真っにお店に情報発信して、喜んでもらえました。

――様々なマーケティングの取り組みをされていますが、ご自身の理想に対してはまだ3合目ということで、これからはどのような取り組みをされていくのでしょうか。

現在、私はマーケティング部門の責任者から、デジタル戦略の責任者に移っています。デジタルの立場からは、データを活用したマーケティングにより、ファミリーマートのマーケティング強化に貢献できると思っています。デジタルを通じて得られるデータを使ってマーケティングを計画することで、より高度なマーケティング機能が発揮されるでしょう。今後も、マーケティングプロセスを確立させるための取り組みを推進し、もっと高みを目指していきたいと思います。

インタビュアーからのコメント

“いかに心を動かし、行動を喚起するか”。マーケティングにおいて重要なこの視点を、植野様は顧客に対してだけでなく、澤田社長と一緒になって、自社内や加盟店に対しても、実践されていました。他部門や現場のスタッフが「やる気」になるために、どのくらいの頻度で、どのようなコミュニケーションを取れば良いかを考えた丁寧なインターナルマーケティングこそが、ファミリーマートのマーケティング改革を推し進めた大きな要因であると感じました。一人ひとりの意識を変え、行動を変えることは、改革の大きな推進力となります。植野様の改革に向けた熱い思いと、それをカタチにする行動力が、ファミリーマートをさらなる躍進へと導くのではないかと感じました。

現在、植野様はデジタル戦略部長として、同社のデジタル戦略を推進しています。マーケティングを含め様々な改革を実現してきた植野様が、今まさにどのような改革に挑んでいるのか?
続きは、デジタル戦略推進の取り組みとともにCDO Interviewにて、紐解いてまいります。

CDO Interviewはこちら

【インタビュアー 兼 企画編集担当】
ビジネス・フォーラム事務局 プロデューサー  
松岡 英美

大学卒業後、産業機械メーカーの営業企画としてマーケティングに携わり、新市場開拓・営業活動を行う。その後、ビジネス・フォーラム事務局に入社。企業のエグゼクティブを対象に、CMO Forum をはじめ、マーケティングやデジタル変革、働き方改革、コーポレートガバナンス等、経営課題に寄り添ったテーマのセミナーを多数企画。イベントプロデューサーとして、企画から運営までを指揮統括している。