CMO Interview vol.3 後編

新日本プロレスリング株式会社 代表取締役社長 兼 CEO ハロルド・ジョージ・メイ氏

2019/08/08 (  木 )

CMO Interview vol.3 後編

  • 最高の営業部隊としての「攻めの広報」でメディア露出を高める
  • 「ヒット商品は他人に丸投げでは生まれない」
    代理店任せにしないマーケティングが重要
  • マーケティングの基礎を学び、想像力を磨き、熱意を持ってアプローチすることがヒット商品につながる

インタビュー前編では、マーケティングの変化と顧客との関係づくりのために持つべき視点についてお話を聞きました。後編では、そのマーケティングの役割を担う組織とマーケティング力を向上させるために必要なことについて、引き続き新日本プロレスリングのハロルド・ジョージ・メイ様にお話を聞きました。

 

新日本プロレスリング株式会社
代表取締役社長 兼 CEO
ハロルド・ジョージ・メイ 氏

1987年1月にハイネケン・ジャパン株式会社(現ハイネケン・キリン株式会社)入社、アシスタント・ジェネラル・マネージャーを務める。1990年4月に日本リーバ株式会社(現ユニリーバ・ジャパン株式会社)入社、アシスタント・ブランド・マネージャーを務め、2000年4月にサンスター株式会社に入社。オーラルケア事業執行役員に就任。2006年9月に日本コカ・コーラ株式会社へ入社し、副社長兼マーケティング本部長へ就任。2008年11月に同社 副社長兼チーフ・カスタマー・オフィサーに就任し、2014年3月に株式会社タカラトミーへ入社。経営顧問を経て、2015年6月に同社代表取締役社長、CEOに就任。2018年6月に新日本プロレスリング株式会社 代表取締役社長兼CEOに就任し、現在に至る。

最高の営業部隊としての「攻めの広報」で能動的に仕掛ける

――メイ様は様々なインタビュー記事の掲載や、貴社の公式サイトで定期的にコラムを連載するなど、メディアにも積極的に出ていらっしゃる印象があります。経営者自身が顧客に語りかけることも、企業ブランドの構築やエモーショナルボンドの形成においてポイントとなりますか?

経営者が前に出てマーケティングをすることは、非常に重要な点です。欧米では多くの経営者が前に出ていますよね。Appleのスティーブ・ジョブズ氏やティム・クック氏など。やはり顧客から愛着を持ってもらうためには、経営者自身が率先してマーケティングを行い、メディア露出などで企業ブランドを築く必要があります。

――メディア露出の点で言えば、新日本プロレスでは「攻めの広報」としてマーケティングと連携した広報にも
注力されていますよね。

限られた広告宣伝費の中で最大限の成果を出すには、企業の広報から攻める行動力も重要です。フリーパブリシティの効果は非常に大きなものがありますが、取材依頼は待っているだけではなかなか来ません。だからこそ、マーケティング部と広報が連動し、新商品のサンプルや企画書を積極的にテレビの制作担当者に送付するなど、日頃の努力が必要です。あるいは、一度お世話になったテレビ局やライターに「次はこんなおもしろい新商品があるから、取材に来てください」「このような切り口の企画にするとおもしろいと思います」と積極的にアプローチすることもできます。

日本企業の多くは、商品開発担当者と広報との横の繋がりが薄いのが問題だと感じます。せっかく商品開発チームがポテンシャルの高い商品をつくっても、広報にブリーフィングしていないことが多いのです。つまり、広報の存在価値を理解しておらず、他の部署が広報をまったく生かせていない。広報は受け身の取材依頼に対応するだけの部署ではなく、能動的に取材依頼を取りに行く最高の営業部隊でもあるので、それを生かさない手はありません。

――広報は「最高の営業部隊」とのことですが、営業と同じく広報もKPIを設定していますか?

受けた取材依頼を広告価値に換算して、広報の貢献度を測っています。例えば掲載された記事が、どれほどの有名度の雑誌に出たのか、どのような形や質で出たのか、など。それらを広告価値に換算した数字を毎月追っています。

「ヒット商品は代理店に丸投げでは生まれない」マーケターの
スキルアップが重要

――最高の営業部隊としての「攻めの広報」にするために、どのような取り組みをされましたか?

私は前職でも新日本プロレスでも、まず広報部を社長直轄の部署にしました。広報の位置づけは組織図の中でも低い位置にある企業が多く、広報部自体も会社から重視されていないイメージを持っていたりするので、「広報は営業と同じくらい大事だ」という意識改革をする意味合いもあります。広報機能が活性化すれば、多くのメディアに取り上げられて会社の知名度も上がりますし、それが全社員のモチベーションにも繋がると思います。

また、多くの日本企業においては、マーケティングは広告代理店に任せる部分が大きいと思いますが、私は代理店任せにせず自分たちで考える必要があると思っています。広告代理店の役割を否定するわけではなく、必要な部分だけ上手に連携するべきです。私はこれまで数々の新商品・ヒット商品を世の中に出してきましたが、そのほとんどは自分でマーケティング方法を考えたものです。ヒット商品は、他人に丸投げでは生まれないのです。

――広告代理店任せにしないためには、マーケター自身の企画力も重要かと思います。企画力を養うには、
どうすれば良いでしょうか。

消費者調査を頼りにするよりも、テストマーケティングで結果を見ながら企画をブラッシュアップしていくのが良いと思います。私は、消費者調査をあまり信じていないんです。これまでに何百回と実施してきましたが、対面で、しかも謝礼を渡すからなのか、あまり本音を聞き出せないんですね。例えば5段階評価をしてもらうとすると、多くの人が「3」をつけます。「どちらとも言えない」しかわからない消費者調査なら、実施する意味がないですよね。その経験から、実施する場合は必ず白黒つくように「3・どちらとも言えない」を削除して4段階評価にします。それでもやはり、本音は聞き出しづらいと感じますが……。

一方でテストマーケティングは、例えば新商品を1店舗だけで展開してみるとか、CMをYouTubeに流して反応を見てみることで、ダイレクトに消費者の反応が見られます。特にインターネットは本音が見えやすい媒体ですから、YouTubeやTwitterでの反応も重要です。ただ、インターネットの場合は最初にコメントする人がどのようなことを言うかによって風向きが変わります。最初の1人が批判すれば他の人も批判する空気が生まれますし、賞賛すれば他の人も「良いよね」と言う。ですから、インターネットのテストマーケティングばかりに頼るのも注意が必要ではあります。

日本企業がマーケティング力を高めるために必要なこと

――日本企業のマーケティング力を高めるためは、何が必要だと感じますでしょうか。

マーケティングについて難しく考えがちですが、実はもっとシンプルでわかりやすく、営業的な要素も大きい泥臭いものだと思います。市場調査やプロモーションを専門家に任せてしまうのではなく、「こういう場所にこの商品を置いてもらえたら、今までとは違うニーズに対応できる」と自分で考え、自分でその場所に熱意を持ってアプローチをすることもマーケティングです。そういう考え方・行動ができなければ、人の気持ちをつかむヒット商品はなかなか作れないでしょう。

一方で、私は常々「マーケティングとはモノを売るサイエンス」だと思っています。マーケティングの基礎的なノウハウやコツといったサイエンスの部分は大学で学べます。ただ、日本ではマーケティングを専攻してしっかり学んでいる人は圧倒的に少ない印象です。学問ですべてを学べるわけではありませんが、せめてサイエンスの部分だけでも学んで下地を作ることも重要だと感じます。加えて、実体験から得られるものや感覚については、サイエンスではなくアートに近いです。アートの部分が先ほどのサイエンスと組み合わさることで、マーケティングの力が高まります。

――マーケティングにおけるアートの部分、つまり感覚などについては、メイ様はどのように磨いてこられましたか?

アートの部分は想像力が重要だと思います。自分でも、私はアイディアマンだと本当に思うんですよね。(笑)
常に「どうしたらこれを解決できるのか」を考えていますから。その想像力を培うひとつの方法として非常に大事にしているのが、心をリセットする時間を持つことです。僕の場合はキャンプなんですよ。最小限の物しか持たずに野宿をして、焚き火を起こし、食べ物もそこで何か調達して、自然にあるもので一晩を過ごす。「水をどうやって確保しよう?」「今日の寝床はどうしよう?」と考えて、解決策を探すことで想像力も磨かれていると思います。日常を忘れて、頭をリセットできているのも大きいでしょう。他にも、例えば土日はちゃんと休むとか、将棋を指すとか、何でもいいと思います。仕事ではない部分でも想像力を培うことが、マーケティング力を高めるのにも役立ちますよ。

インタビュアーからのコメント

メイ様ご自身が体現されている「攻めの広報」というキーワードが非常に印象的でした。マーケティングという概念を海外から輸入した日本企業にとって、経営者が自らマーケティングの役割を担っているケースはあまり多くありません。顧客へ価値を伝える役割は、最前線で顧客と接する営業部隊が担っており、それがこれまでの日本企業の成長を支えてきました。しかし、すでに製品やサービスの質での差別化が難しくなっており、顧客の購買意思決定にブランドイメージが及ぼす影響が大きくなる中で、企業自体がマーケティング力を高めつつ、差別化できるブランド力を構築していく必要性を強く感じました。企業ブランドを高めるためには、マーケティング部隊と広報部隊の連携とともに、経営者や経営層がマーケティングへコミットすることが重要です。

私は、日本企業は、既に上質な商品やサービスという強みをもっていると考えます。だからこそ、日本企業がマーケティング力を兼ね備え、企業ブランドを確立していけば、今後の躍進を支える強力な武器になる。そのことを、まさに新日本プロレスにおいてメイ様が証明していると感じるインタビューでした。

【インタビュアー 兼 企画編集担当】
ビジネス・フォーラム事務局 プロデューサー  
松岡 英美

大学卒業後、産業機械メーカーの営業企画としてマーケティングに携わり、新市場開拓・営業活動を行う。その後、ビジネス・フォーラム事務局に入社。企業のエグゼクティブを対象に、CMO Forum をはじめ、マーケティングやデジタル変革、働き方改革、コーポレートガバナンス等、経営課題に寄り添ったテーマのセミナーを多数企画。イベントプロデューサーとして、企画から運営までを指揮統括している。

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