CMO Interview vol.4 前編

株式会社ヤッホーブルーイング 佐藤 潤 氏

2019/08/21 (  水 )

CMO Interview vol.4 前編

  • ミッションに共感するファンを増やすことで14年連続増収増益
  • ファンイベントのポイントは「学び」「交流」「共創」
  • ブランドに対する熱狂度とNPS(Net Promoter Score)のデータから戦術を立てるのがカギ

「よなよなエール」「水曜日のネコ」など、独自製造のクラフトビールで、競争の激しいビール業界に新たな風を吹き込んだ株式会社ヤッホーブルーイング。独自の製品作りとユニークなプロモーションでファンを増やし続けており、ファンイベントには約5,000人が集うほどです。今回は、同社のファンベースマーケティング部門を率いる佐藤様へお話を伺いました。

 

株式会社ヤッホーブルーイング
よなよなエールFUN×FAN団
(ファンベースマーケティング部門)
団長
佐藤 潤 氏

2000年にカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(CCC)に新卒入社。インターネット事業部にて事業の立ち上げや、インターネット事業部の宣伝責任者などに従事。2012年に株式会社ヤッホーブルーイングに中途入社。2013年通販部門責任者。2017年プロモーション部門責任者。2018年にファンベースマーケティング部門責任者。参加者5,000名を超えるファンイベント「よなよなエールの超宴」や、オンライン飲み会「よなよナイト」など、オンライン・オフライン問わないファンとのコミュニケーション施策の企画や運営に携わる。

ミッションに共感する顧客を増やすファンベースマーケティング

――熱狂的なファンが多いことでも有名な株式会社ヤッホーブルーイングですが、どのような経緯で「ファンベースマーケティング」に取り組まれるようになったのでしょうか。

ヤッホーブルーイングが赤字寸前まで低迷した時に、ファンの方々が支えてくれたことがきっかけです。そこから業績は回復し、ありがたいことに今では14年連続で増収増益を達成できています。ファンの支持があるからこそ、会社も製品も成長できる。その想いから、私の属する「よなよなエールFUN×FAN団」では、好きになってもらって(FUN)、応援してもらう(FAN)ためのファンベースマーケティングに取り組んでいます。今では熱狂的なファンの方々もかなり増えて、2018年にお台場で開催した「超宴」という大規模イベントには約5,000人が参加してくれるほどになりました。

――一言で「ファン」と言っても愛着度によって階層があると思いますが、「ファン」をどのように定義されていますか?

ヤッホーブルーイングでは、お客様が弊社製品を購入する際の気持ちを「トライアル」「弱いリピート」「リピート」「ファン」「熱狂的ファン・伝道師」の5段階で捉えています。

まず買ってもらう「トライアル」の段階は営業部隊やプロモーション部隊が担当しており、私たちファンベースマーケティングの部隊では「弱いリピート」以上のお客様により好きになってもらうためのアプローチをしています。さらにこの5段階を「利用者」と「ファン」で2つに分けるとすると、以下の図のようにミッションへ共感してくれているお客様を「ファン」だと捉えている形です。

さらに、製品のファンにヤッホーブルーイング自体も好きになってもらうことで、非常にロイヤリティの高いファンになると感じています。

――実際には、どのような人が熱狂的なファンになってくださるのでしょうか。

例えば「よなよなエール」に関しては、調査をした結果「ビール好きで、ちょっと内向的だが判断力に自信があり、消費動機は味・品質・クオリティで、自分がいいと思うものを選択する」という特性のある40歳前後の男性が中心でした。これは我々がペルソナ設定をしてターゲティングした結果ではなく、業績が低迷していた時に「応援してくださるファンの方々のことを知りたい」と思って調査して明らかになった傾向です。その調査の結果、ファンの方々が「よなよなエール」に感じてくださっている製品ベネフィットには以下の5つがあるとわかりました。

【よなよなエールの製品ベネフィット】

  • 理想像の実現
  • 癒される
  • 自己確信
  • 共感する
  • 仲間をつくる

ファンがこのような点にベネフィットを感じているわけですから、この製品ベネフィットを多くのお客様に知ってもらうために、イベントなどを通じてアプローチしています。

ファンイベントのポイントは「学び」「交流」「共創」の3つ

――製品ベネフィットを伝えるためのイベントというと、具体的にはどのようなことを?

製品ベネフィットを伝えるためのイベントには、学び・交流・共創の3つの切り口があります。まず「学び」に関しては、お客様の「知りたい」という気持ちにお応えする形で、ストーリーやこだわりを包み隠さずお伝えしています。例えば醸造所見学ツアーを開催し、製法のこだわりの説明や現場の見学、原材料の食べ比べ、クラフトビールの飲み方セミナーなど。一方的に伝える形のイベントですが、知ってもらうことでより製品に親しみを感じてもらえればと思っています。

「交流」については、飲みながら楽しく交流する「宴」というイベントを開催しています。通常は1回100人ほどの規模で、弊社製品のテイスティングをしたり、フリータイムで交流していただいたりしているのですが、やはり同じ製品が好きな人同士を繋げると熱量が増していくと感じます。

――その100人規模の「宴」を拡大したものが、冒頭でおっしゃっていた5,000人規模の「超宴」なんですね。

そうです。これまで通りの1回100人ではキャパシティ的に収まりきらなくなったので、2018年はお台場で5,000人規模の、2019年は5月に北軽井沢で1,000人の「超宴」を開催しました。1,000人分のチケットが10分で完売してしまうほど皆様楽しみにしてくださっているイベントなので、2019年秋には1万人規模で実施する予定です。このようなイベントのチケットを買ってくれるのは熱狂的なファンの方々ですが、そのファンが新しいお客様を連れてきてくれたりもするので、新しい広がりをつくるきっかけにもなっています。

――「共創」に関しては、どのような取り組みをされていますか?

ファンの方々と共に新製品や新サービスをつくっていくことを「共創」としています。もっと言えば、弊社では中期経営計画をファンの方々と一緒に考えているんですよ。「よなよなこれから会議」というイベントを開いて、中期経営戦略の共有と、そこに対する理想と現実の課題を赤裸々にお伝えし、ファンと共に何ができるのかを3時間半ほどみっちり考えます。さすがにこのイベントはノンアルコールで、ビールは2次会までお預けです(笑)。

さらに最近では、ファン自身が「よなよなエールを広めるイベントをやりたい」と言ってくれる事例も出てきて、「宴」から派生した「ファン宴」を開催しました。開催までの1カ月間ほど、企画者であるファンの方々に週1回弊社に来ていただいて企画を進めてきましたが、コンテンツは全部ファン発信で企画し、我々は広報支援や各種サポートを行う程度でした。

共創に関しては、こちらから一方的に「ファンに何かをやってほしい」と言うのではなく、ファン自身が自分事化して考えて、それぞれができる事を活かしてヤッホーブルーイングと共に活動するという点が重要だと考えています。

熱狂度×NPSのデータをもとに経営戦術を立てる

――ファンベースマーケティングはKPI設定が難しいと思いますが、どのように成果を測っていますか?

ヤッホーブルーイングは現在14年連続で増収増益していますが、会社の業績とイベントの動員数には相関があると考えています。よって、イベントの動員数に関してはKPIを設定しています。

あとは、イベントごとに全参加者にアンケートを実施し、イベント自体の満足度に加えてブランドに対する熱狂度・NPS(Net Promoter Score)の2軸は調査しています。例えば通販事業のVIPのお客様は熱狂度・NPS共に高い傾向にあり、この熱狂的なファンの方々がイベントのチケットを買ってくださっていることもデータでわかっています。最近では熱狂度×NPSの数値をもとに売上の予測もできるようになり、データから戦術を立てられるようになりました。

――熱狂的なファンが増えていく一方で、規模感が大きくなるにつれてファンとのコミュニケーションの密度は薄くなってしまうのではないかとも感じるのですが、その辺りはどのようにお考えですか?

先ほど1万人規模のイベント「超宴」を開催しているとお伝えしましたが、ファン1万人に対して弊社のスタッフは100人ほどしかいないので、弊社スタッフだけで対応しようとすると確かに密度を保つのは難しいです。ただ、ファンの方々にもボランティアスタッフとして参加していただくなど、ファンを巻き込むことでコミュニケーションの密度を保ったまま規模を拡大することは可能だと思います。

例えば、もうほとんどヤッホーブルーイングのスタッフのような熱狂的なファン50人とクローズドのコミュニティ「よな活」というのを作っているのですが、その50人と何かを企画すれば、それぞれを通して500人、5,000人のファンと繋がれるはずです。熱量を保ったまま多くのファンとコミュニケーションできるように、熱狂的なファンを積極的に巻き込んでいきたいと思います。

インタビュアーからのコメント

モノが溢れる成熟市場での新規顧客の獲得に厳しさが増す中、既存顧客であるファンに向けたマーケティングの取組みに注目が集まっています。しかしながら、ヤッホーブルーイング様では「新規か、既存か」という二者択一ではなく、ファンに愛してもらうことで、そのファンが同社のミッションやバリューを周りに伝播させ、新たな顧客を連れてきてくれるという関係性を構築しています。さらに今ではそのファン自身がイベントを企画し、実現するというように、ファン自らファンベースマーケティングを自走させているというから、驚きです。短期的にファンに何かを求めるのではなく、ファンができること・やりたいことを共に実現する存在であることが、ファンベースマーケティングに取り組む上で非常に重要だと感じました。

また、このようなファンとの強い絆をつくるためには、社内のチームづくりの取組みが欠かせないと、佐藤様は仰っていました。インタビュー後編では、ヤッホーブルーイングのファンベースマーケティングを支える独自のカルチャーやチームづくりについて、お話を伺います!

【インタビュアー 兼 企画編集担当】
ビジネス・フォーラム事務局 プロデューサー  
松岡 英美

大学卒業後、産業機械メーカーの営業企画としてマーケティングに携わり、新市場開拓・営業活動を行う。その後、ビジネス・フォーラム事務局に入社。企業のエグゼクティブを対象に、CMO Forum をはじめ、マーケティングやデジタル変革、働き方改革、コーポレートガバナンス等、経営課題に寄り添ったテーマのセミナーを多数企画。イベントプロデューサーとして、企画から運営までを指揮統括している。