CDO Interview vol.13 後編

ダイキン工業株式会社 IT推進部 IT戦略専任部長 大西 一彦 氏

2019/07/31 (  水 )

CDO Interview vol.13 後編

  • デジタルトランスフォーメーションに取り組むためのリーダーシップ
  • これからのCIOやIT部門はどうあるべきか?

 

ダイキン工業株式会社
IT推進部 IT戦略専任部長
大西 一彦 氏

中編に続き、ダイキン工業株式会社 IT推進部 IT戦略専任部長 大西 一彦 氏の
インタビューを通じてお聞きしたお取組み・活動の中で神岡教授が興味を持たれた『CIO Lounge』、
そしてCIOやIT部門の今後の貢献について、エッセンスをまとめました。
CDO Interviewの特別版として、お楽しみください。

話題は代わりますが、現在、大西様はNPO法人「CIO Lounge」でも
理事を務めておられます。そちらではどのような活動をされているのでしょうか。

大西:CIO Loungeは、2019年1月にNPO法人としての認可を受け、4月から本格始動したボランティア団体です。現役のCIOと経験者17名がメンバーとして参加し、関西の製造業を中心にノウハウを提供することで、日本の製造業を盛り上げていきたいと思っています。CIO Loungeの理事長を務める農業用機械製造業CIOの矢島孝慶さんや、監事を務める建設業CIOの加藤恭滋さんらCIO仲間と共にスタートさせました。

大きな特徴としては、ITでイノベーションを起こしている第一線企業のCIO経験者が、他社のCEOやCIOの日々の悩みの相談に乗るといったコンサルティングをする点です。NPO法人なのでコンサルティングは無償ですが、ただ単に相談に乗るだけではなく、必要であれば具体的な施策の提案をはじめ、依頼企業の経営会議へ出席して提案までするなど、かなり深くまでサポートしていく予定です。

CIO Lounge発足の動機は「関西の製造業を盛り上げたい」とのことですが、
現状の関西圏における製造業が持つ課題について、どうお感じですか?

大西:関西の製造業のなかには、中小企業も含め、素晴らしいテクノロジーを持っている企業が多くあります。しかし、そのコンピテンシーを活かしビジネスを進めていくための「IT力」が進んでいないのが現状で、ITの力を借りて改革する必要があると感じます。ただ、中小企業の場合は経営者自身もITに対してどのように改革すべきかわからず、足踏みしている場合も。そこで、CIO Loungのメンバーが失敗談も含めて生の情報を共有することで、そのような中小企業の改革をサポートし、製造業全体のITを強化していけるのではないかと考えています。

CIO Loungeのコンサルティングのプロセスについて、具体的にお聞かせください。

大西:コンサルティングのプロセスとしては、クライアントから依頼がきたら、CIO Loungeのメンバーで共有し、衆知を結集してクライアントへフィードバックしています。ほとんどのメンバーは本業がありますので、休日や夜間など自由な時間を利用してバーチャルな環境で知識を集約しています。そのためにクライアント毎に「主治医」を定め、メンバーの「カンファレンス」で進める形態です。そのプロセスを進めるにあたって、コミュニケーションツールとしてはSlack(スラック)を使い、資料共有はStock(ストック)やBOX(ボックス)、ビデオ会議はZoom(ズーム)、タスク管理にはTrello(トレロ)を使って、全員がバーチャルで活動できる環境を作っています。働き方改革の最前線のような新しい組織のあり方だと思います。

また、現役CIOがほとんどなので、CIO Loungeメンバー間や、クライアントとの間で、オープンコラボレーションが実現しているとも感じます。例えば当社でつくった仕組みを共有し、A社の仕組みとして展開、更にB社の仕組みとして展開し、レベルアップしていく。その仕組みをクライアント企業において順番に実現していく。エコシステムに近い形です。個人的には競争優位の源泉はシステムではなく、その中に埋め込まれるコンテンツや活用ノウハウだと考えているので、仕組みに関しては、一社ごとに新しいものをつくるよりも、同じ仕組みを順番につくった方がいいと思っています。

今後、CIO Loungeはどのように活動していかれるのでしょうか?

大西:現在は関西企業を中心に依頼を受けていますが、既に関西圏以外の企業からも相談をいただいていて、1社でも多くの相談を受けられたらと思っています。差し当たり2年間は手弁当での活動を維持できる見込みなので、その間にNPO法人としてクライアントへ価値を提供し続けるためのフレームワークを考えなければなりません。

私自身は既に一昨年ライン責任者を退き、現在の役職についていますが、他のメンバーの多くも今後5年以内に現職を退かれると思います。ただ、CIO Loungeに「何歳まで」といった制約はないので、「パッション」と「経営マインド」「最新のテクノロジー利活用術」さえあれば、ベテランの人達が持つノウハウを他社において活用し続けられる場になるはずです。企業の枠にとらわれず知見を共有していくことで、関西製造業、さらには日本の製造業全体を、ITを使って盛り上げていきたいと思います。

是非一度、https://www.ciolounge.org/をのぞいてみてください。

貴重なお話をありがとうございました。

インタビュアーからのコメント

デジタル・トランスフォーメーション(DX)に取り組むためのリーダシップ体制は、企業によっていろいろな選択肢があります。CDOだけがDXを主導するわけではありません。Harvey Nash & KPMGの2018年のレポートによると、グローバルで24%の組織において、CIOがCDOを兼任しています。従来CIOが戦略的に活躍してきた海外企業では、DXについてもCIOが主導的役割を果たしているようです。CIOの経験はDXに役立つ場面も少なくないと考えられます。

そういう観点から、大西氏の話を興味深くうかがいました。大西氏の話の中には、これからCIOやIT部門がどうあるべきかについて、多くの示唆が含まれています。

DXが意識される時代になり、CIOとIT部門(ダイキン工業ではIT推進部)も本気で変わる時期になったことを、あらためて感じました。CIOとIT部門がイノベーションに関われる体制になるということです。これまでやったことのない価値創造に関わるということです。ダイキン工業の場合、空間データ協創のプラットフォームCRESNECTクレスネクトhttps://www.daikin.co.jp/press/2018/20180730/のプロジェクトは、とてもいい例だと思います。こういう空間の問題の中にこそ、ダイキン工業がこれから創造するべき顕在化されていない価値が潜んでいるはずです。そこにCIOが関わっているということは、これまでのCIOのイメージとは大きく異なります。

大西氏との対談からも読み取れるように、このような改革を進めるには、技術やスキル以上に、より心理的で目に見えないところの改革が求められます。大西氏との対談の中で、「マインドチェンジ」「空気感」「危機感」といった言葉が見られます。今日の環境で、外的要因を過少評価することはできませんが、外圧ではなく内的動機付けは非常に重要だと思います。何かの指示を待って行動するようでは、変化の激しい環境で、組織は生き延びていけません。社員が自発的、自律的に活動することをよしとする価値観を共有する組織文化が必要だと思いました。

また、「全社員SE化」という考え方は面白い考え方です。イノベーションを専門に担当する人だけを隔離して、そこでイノベーションを起こそうとしてもなかなか起こりません。テクノロジーの話だけで終わります。私も、今の企業において、もう少し現場からイノベーションが起こるような仕組や環境を重視するべきではないかと思っています。そうするとCIOやIT部門は、そういうSEを育てることが仕事になるかもしれません。

そして、大西氏を中心に、大阪でCIO Loungeが立ち上がったことも非常に注目するべきことです。それは社会的価値の提供、企業と社会とのつながり、地域の発展にCIOやその経験が貢献することになります。文字ではなかなか伝わらないのですが、対談を通して大西氏が強調していたのは、「パッション」ということだったと思います。パッションは、愛を構成する重要な要素だと言われています。特に、このCIO Leagueについては、自社や地域に対する想いや気持ちを感じました。それは強制されて起こるものではありません。そいうハートと、それを支えるロジックを駆使できる人が、DXやイノベーションを推進するべきなのでしょう。

CDOとCIOで、DXに対してフォーカスしているポイントは異なるところがあります。一方で、両者の問題意識は、今回の大西氏との対談から、似ているとも感じました。実際にDXを、CIO側からどのようにアプローチして実現されていくのか、今後、注目していきたいと思います。

なお、個人的な話で恐縮ですが、今回の対談の内容に関係する話が、近刊『デジタル変革とそのリーダ』(同文館)でいくつも述べています。もしご関心があればお読みいただければと思っております。

一橋大学 経営管理研究科 教授 / CDO Club Japan顧問
神岡太郎

 

【企画・編集責任者】
ビジネス・フォーラム事務局 プロデューサー  
進士 淳一